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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第1部【王の目覚め編】 - 第5章 そして彼らは交差する
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白銀の王の目覚め(4)

「だれか助けてください!」

「待ってろリコ、いますぐ助けてやるからなッ!」


 悲鳴が聞こえた場所へと駆けつけたオレの視界に飛び込んできたのは、信じられないものだった。金髪の少年が、二つくくりの金髪少女を助けようとしている。

 どんなやつから助けようとしてるかって? それが信じられないんだよ。


「……なんだ、アイツ……ッ!!」

「ブブブブブブブブブッ」


 奇妙な鳴き声(……?)をあげるのは、ハチの姿をした男だった。

 ……これでは表現があいまいかもしれない。ありのまま、見たものを話そう。

 肌はやわらかなものではなく、昆虫の外殻のように固く、黄色と黒が混ざった、まさに”ハチ”のような見た目だ。腕から太い針のようなものが生えており、まるでランスのようだ。

 極めつけは顔。昆虫独特の複眼をしていて、口はハサミのようになっている。

”ハチ人間”といっても過言ではないだろう。


「ブブブブブブッ」

「うぅ……ッ!」


 そんなやつに非力で小さな女の子がつかまっている。

 今すぐ助けてやりたいが、恐怖心が上回ってしまって足が動かない。


「テメェ!!」

「ライ、来ちゃダメ!!」


 女の子の言葉に関わらず、男の子は勇敢にも立ち向かっていった。


「この! このッ! このヤロウッ!」

「ブブブブブブッ?」

「くっそぉぉぉぉ、固ってぇな!」


 木の棒を相手に打ちつけるが、ハチ男はピクリともしない。

 それどころか、首をかしげている。


「ブブッ!」

「ぐあっ!?」

「ライッ!!」


 ブンッとハチ男が少し腕をふっただけで男の子は吹き飛ばされてしまった。

 あいつ、本物のバケモンだ……。オレが行ったところで、何の役にも立たないかもしれない……。

 倒れた男の子は小刻みに震えている。

 オレと同じで、きっと怖いんだ。

 ……けれど。


「テ、テメェ…………。リコ、を……かえしや、がれ……ッ!!」

「――――――ッ」


 男の子はヒザをガクガクさせながらも、立ち上がり、立ち向かう。


「ブブブッ!!」

「ライッ!! 逃げてッ!!」

「……にげねぇ、よ」


 とどめをさそうとハチ男がとびかかるが、彼は逃げない。

 ……。


「ブブブブッ!!」

「きゃあああッ!!」


 バケモノの腕のランスが金髪の男の子を貫こうとした。

 ――その直前で。


 ガキンッ!!


「……カッコいいね。きっと君のほうがこの国の”王様”にふさわしいよ」

「……ッ」


 オレの手が、ハチ男のランスを受け止めた。


「オラッ!!」

「ブブッ!?」

「た、助かった……!」


 オレが腹に一発お見舞いしてやると、ハチ男は女の子をから手を放した。

 女の子がバッと離れたところで、


「ふっっっっとべェェェェェェェェ!!」

「ブブブッ!?」


 ランスをにぎったままハチ男を振り回し、ふっとばしてやった。

 オレは二人の子供のほうにむき直し、怪我はないかと尋ねたが、特にそんなものはなかったようで、安心した。

 視界の隅で、ハチ男が立ち上がる姿がうつる。


「ほらっ、二人とも逃げて!」

「で、でもお兄さんはどーするんです?」

「オレは大丈夫だから。ほら、はやくっ!」

「あ、ありがとうですっ!」


 二人はきびすを返して、ここから去ろうとした。

 その直前に、男の子ほうがこちらを見て、


「あの、お名前を聞いてもいいですか?」


 オレは、と言いかけたところで大事なことに気がついた。

 いや、これはマジでやばいことだ。

 ――オレ、……なんて名前なんだろ……?

 いやさ、みんな”王”って呼んでくるから気にしなかったけど!

 オレの名前っていったい何なのよ!!?


「……どうしよ」

「……シオン?」

「ん?」


 あっ、もしかして。『どうしよ』が『シオン』っていうふうに聞こえたのか?

 ……なんかカッコいい名前だし、それでいいか。


「おう、オレの名前はシオンだ!」

「……シオンさん、か。ありがとうございました、この恩は必ずお返しします」

「いやいやっ! 気をつけてね!」

「シオンさん、ご無事でいてください。それでは」

「ありがとうです、銀髪のお兄さん!」


 そう言って二人の子供は去っていった。

 ……さて、ここからが問題だ。

 オレは目の前の敵を見据えて考える。

 ヒトの形をしたハチのバケモノ。いや、ハチの形をしたヒトのバケモノか?

 どちらにしろ、バケモノに違いない。

 感覚的に言うと、アール特製”ドリンク”の効果は、もう少し続きそうだ。長くはもたないが、ある程度なら戦える。


「ブブブッ!」

「そう上手いこと待っててくれないよね!」


 ハチ男がこちらに攻撃を仕掛けてきた。猛スピードで近づかれ、両腕のランスで次々に突いてくる。


「ブブブッ」

「くっ!?」


 ヒュヒュヒュッと空気の裂ける音が連続する。懸命になってよけているが、一つ間違えればオレの身体は風穴だらけになるだろう。


 ヒュヒュヒュッ!


 ハチ男の猛攻は収まる気配がない。

 どんなスタミナしてんだよ! こっちはもうバテバテだぜ!? 隙を見つけて、反撃するしかないな。

 何とか回避しつつ、オレはハチ男の隙をうかがう。


 ヒュヒュヒュッ。ヒュヒュヒュッ……ここだ!!


 ガッとありったけの力を込めたこぶしを叩きつける。


「ブフッ!?」

「もう一発おまけだァ!!」


 バキィッとハチ男の腹部を覆っていた外殻が砕け散る。これは効果があったようで、オレから離れるようにハチ男は距離をとった。

 ……少しの静寂があった。


「ブブブッ!!」

「おい、待てッ! 逃げるんじゃないッ!」


 やつはオレに背をむけ、走り出した。くっそ、逃がしはしないからな!

 逃がすまいとオレも全力で走り出した。

 相手の足が遅いのか、それとも”ドリンク”の力でオレの足が速くなっているのか。

 オレとハチ男との距離はすぐに縮まっていった。

 よっし、もらったぜッ!!

 あと一歩で攻撃ができる。


 ――そう思った瞬間。


 ぐるんっ

 グサッ


「………………は?」

「……ブブブブ」


 急に足を止め、振り返ったハチ男が。



 ――オレの心臓を、貫いた。



 ……うそだ、ろ……?

 お、い……。

 口がパクパクと動くだけで、声が出ない。全身から力の抜けていく感覚がする。


 ドサッ


 自分自身の体重にすら耐えきれず、オレは膝から崩れ落ちた。ぽっかり穴の開いた胸のあたりから、大切なものが零れ落ちていく。


「……ブブブブブブッ」

「――――」


 かすんでいく視界に、オレを見下ろすバケモノの姿がうつっていた。

 目の前が真っ暗になっていく……いく……く……。………………。





 …………あれ? オレは死んだのか?

 でも、なんで意識があるんだろう?


 もしかしてこれが天国ってやつなのかな?

 ……だとしたら、”地獄”じゃないか。


 …………あのあと、あのバケモノはどうなったのだろうか?

 誰かが退治してくれただろうか?


 それともまだ暴れまわっているのだろうか?

 オレみたいに、みんな死んでいるのだろうか……?


 ダメだ………アタマのなかがグルグルグルグルアレッレレレレ???

 ……あぁ、???????????????で頭がいっぱい、だろうか?????????????


 …………。


 ――――「王よ、外は危険です!」

 あのとき、ギンの忠告を聞いていればこんなことにはならなかったのか?

 ……いや、それじゃあ街の人たちの笑顔が見られなかった。


 ――――「あんたになにかあったらわたしたちが……こ、困るのっ!」

 あのとき、アールの言う通りにしていればこんなことにはならなかったのか?

 ……いや、それじゃあの金髪の女の子の命は失われていたのかもしれない。



 ――そうだ、オレがしたことに後悔なんてない。

 ……じゃあ、このままボーッとしていようかな………。


 …………。


 …………あれ?


 それじゃあアールたちはいったいどうなるんだ?


 そうだよ。

 あのバケモノが生きている限り、こんなところでゆっくりできはしない。


 ――――後悔はないけど、やり残したことがある。



 ――――オレはまだ、死ねない。



「――――っ」



 手や足の感覚はない。

 けれど、立ち上がることができる。

 みんなの笑顔を、オレガ守るんだ。

 …………アイツヲ、コロス。

 ユラっと立ち上がる。

 胸に穴なんて、なかった。


「――――」


 心臓のあたりから、ドス黒い力がみるみる溢れてくる。

 それは真っ白なオレを、髪の毛先まで真っ黒に染めていく。

 視線をあげた。

 オレに背を向け、どこかへ行こうとしているヤツがいる。

 逃げるなよ、オレガコロシテヤルから、サ。

 にやァと口の端をつりあげる。

 ブワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッと、オレの内から真っ黒なオーラが溢れ出た。


「ッ!!?」


 慌ててこちらにふり返るアイツ。


「アハッ……。そんな怖い顔するナよ。――――イマすぐコロシテヤル、ネ?」

「ブブブブッッッ!!!?」


 笑顔で話かけテやったのに、無視しやがっタ。

 アイツは背中の羽ヲ動かし、空を飛んで逃げようトする。さっきみたいに足を使った方法ではなく、安全に、確実にオレから逃げるために。


「キレイなおハネだネ。――――モギリとろっか?」


 ビリイイイイイイイイイイイイイッ!


 オレが宙で羽をもぎる素振りをすると、離れて飛んでいるアイツのハネが、不自然にとれた。

 アァ、コレきもちいいカモ。


「モウいちマイ、それチョウダイ?」

「ブブブブブッブッ!!」


 ビリイイイイイイイイイイイイイッ!


 両方の羽を失ったアイツは、無様にも空カラ落ちた。

 オレはゆっくりと歩み寄る。


「こーん、ニーチ……はッ! アハハハッ、まるで死にかけのセミみたいダネ」

「ブブブブッ……ダ、ズケ……デ」


 あれ、コイツ喋れるんジャン。

 いいこと知ったカモ。

 チョットオハナシしてみようカシラ。


「ブブブッ!」

「アッ、ヤッパリ殺ソ」


 ドゴンッッッ!!


 ハチの腹部を貫通して、地面にまでメリ込んじゃっタ。

 ウワア、地面のヒビ割れがスゴーイ。

 アレ?

 力を込めて殴っタラ、動かナクなったヨ。

 あー、キモチヨカッタ……。


 パアアアアア


「ン? ナニコレ?」


 死ンダコイツが、光のツブツブにナッテル。

 キレイダナァ。


「あれ、消エチャッタ」


 ハチダッタヤツは跡形も無くナッタ。


「ンー、ソレニシテモいい気分ダナァ」


 ナンデモイイカラ、ブッコワシタイキブン。


「……アハッ」


 バクハツシタイ。


「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」


 ブワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!


 オレノ中カラ、トマラナイヨオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 アハハハハハハハハハハハハハツ!!


「コワシタイブッコワシタイセカイガユガムハハハハサイコーッ!!!」


 オレはアフレダス多大ナ”闇”をフリカザシタ。

 建物がこわれれれれれててててて!!!!


「ミンナ死ンデヨオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「――――面倒なことになっているな」

「……ダァレ?」


 ドスッ


「……………?」

「小僧、貴様はそのまま眠れ」


 アレェ? ナンデこのヒトハオレノウシロにイルのかしら?

 ――あっ、視界がシロく……。


 …………………。


 ―――――――。


 オレの意識はそこで途切れた。


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