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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第1部【王の目覚め編】 - 第5章 そして彼らは交差する
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白銀の王の目覚め(1)

 オレが目を覚ますと、そこは薄暗い場所だった。


「あれ、オレさっき死んだんじゃ……」


 確かにオレは、従者のみんなに見守られながら転生したはずだ。

 もしかすると、失敗したのか……?

 ……ってあれ?


「転生ってなんだ? っていうか従者のみんなって誰のことだよ」


 目覚めたときにはあったはずの記憶がみるみるうちに消えていく。まるで、完成したパズルのピースが一欠片ひとかけらずつこぼれ落ちていくように。

 そうしてついに。


「……オレは誰だ?」


 ――――記憶を失った。


 けれど不思議なことに、オレは焦らずに冷静でいられた。

 どうしてだろうか?

 なんだか身体が慣れているような……?

 ともかくオレは、今どんな境遇にいるのかを知るため、周りをいろいろ調べ始めた。

 そこはともかく暗い場所だった。

 それにすごく静かだ。

 ……そう思ったとたん、身体がムズムズし始めた。

 心の奥底からあふれだす衝動。

 これがもし、”以前のオレ”の気持ちなのだとしたら……大事にしてやりたい。

 オレは心の赴くままに行動した。

 身にまとっていた王様のような服を脱ぎ捨てて。

 直後。

 オレの頭に電撃が駆け抜ける。


「快っ……感……ッッ!!」


 ”以前のオレ”はどれだけ変態だったんだという疑惑は、この時に限っては生まれてこなかった。のちに、穴があったらいれたい(意味深)……じゃなくて入りたいと思うようなトラウマになるのだが。その話はまあ、部屋のすみっこに置いておくとして。

 繰り返しになってしまうが、この時のオレは本当にどうかしていた。

 全裸でひゃっはーしてるんだからね。

 何を思ったのか、ついにはこんなことまでしてしまう。


「よーし深呼吸うう……からの……ぜんてん! そくてん! ロンダート!!」


 生まれたての姿をした体が華麗に宙を舞う。このとき、ナニがブラブラと揺れていたのには目をつむっていただきたい。

 そしてフィニッシュの――――。


「括目せよ! これが全米が涙した……ばくてんだあああああああああああ!!!」


 クルルルッと見事な円をえがいて、身体が一回転いっかいてんする。何度も言うが、このときナニがブラブラと踊っていたのには、おめめをつむつむしていただきたい。

 ふうっと額から流れる汗をふく仕草をとり、一息いれる。


「よっしゃ、なんかスッキリしたぜ。それにしても、こんなところ誰かに見られていたりでもしたら完璧に死んでたな、オレ」

「……しっかりと拝見させていただきましたよ」

「いやああああああん!?」


 おいおい、言ってるそばからダメだったじゃないか!! ど、どうしよ……?

 ……こ、この人見るからに執事っぽいよな?

 長めの銀髪に、すっと通った鼻。美男子の頂点ともいえるこの人なら、秘密にしていてくれるかも。

 いや、待て。こういう人に限って、自分にメリットがあることにしか動かないんだ。

 つまり、この美男子にとって有益なメリットがなければいうことを聞いてくれない。

 うーん、この執事みたいな人にとって良いことかあ。

 オレの思案顔を見て不思議に思ったのか、執事らしき人は心配そうに見つめてきた。


「どうなされましたか? 何か困った表情をなされているようですが……」

「いや……。ちょっとくけどさ、あんたにとっての喜びってなに?」

「私にとってですか? そうですね……、誰かのお役に立てることでしょうか?」

「誰かの役に立つ、か……」


 こいつは誰かの喜ぶ顔が見たくて行動するタイプだな……?

 ということは、美男子の特徴を生かして、誰かが喜ぶようなことをすればいいわけだ。

 美男子……。

 誰かを喜ばせる……。

 ……はっ!!


「お前、オレと一緒に写真集作らないか!? タイトルは『鬼畜執事と弱虫主人の危ない一夜ひととき』だ!!」

「なにさせようとしてんだよ!! 私はホモじゃない……っ!(ビシイイイッ)」


 オレの提案に、やつはイナズマのごときスピードでツッコミをいれやがった。この速さ、どこぞの中学で異次元サッカーやれるぜ?

 はあ、はあっと涙目になりながら息を荒げる執事っぽい人。だけど、すぐに我に返ったかと思えば、オレの手を握りしめて上目遣いで懇願こんがんしてきた。


「た、大変失礼しました!! わ、私、カッとなるとつい手が出てしまう癖がありまして!」

「い、いやあ……」


 別にいいからさ、その固く固く握っている手を放してくれないかな……? ほんとうにホモだと勘違いしちゃうよ?


「ほ、本当に申し訳ありませんでした! お許しください、王よ!!」

「……?」


 今この人、なんて言った?

 ねえってき返そうとしたとき、ややって後ろから声をかけられる。

 バッと後ろを振りむくと、そこには黒ずくめの衣装を着た男を先頭として、三人のメイドさんらしき人たちが立っていた。


「フフ。ギンはしっかりしているようで、どこか抜けているからな」

「クロ様! いえ、これはその!」

「分かっている、分かっているよ。全裸の男に突然、オレと一緒に写真をとらないかなんて迫られたら、そりゃ誰だってびっくりするさ」

「……」

「たとえそれが、王様であったとしてもだ」

「……っな!」


 こ、この黒ずくめ野郎、今なんて言っ……た?



 ――――あの醜態を見られていた……だと……?



「そんなバカな! あちしもう、お嫁にいけない!」

「いや驚くのそっちかよ!」


 銀髪の執事さんが、華麗にツッコんできましたわ。

 ……いや、深い意味じゃなくてね?



 *



「ええっと、それでなんだって?」

「だから、君がこの世界の王様なんだよ」


 とりあえず落ち着くために、場所を変えることにした。さきほどの暗闇とは対照的で明るい、それこそ王様が住んでいるような部屋に今はいる。

 そこで、話の続きをしていた。

 それにしても驚いた。こんなオレが王様なんてさ。

 でも、記憶がない王様なんかおかしくないか?

 不安になったオレは、自分には記憶がないことを白状した。

 けれど、誰一人として驚く者はいなかった。


「そうだね。ここで一つお話ししておこう」

「何についてさ?」

「この”世界”についてさ」

「世界……?」


 オレは黒装束の男からたくさんのことを聞いた。

 この世界はとある女の子の精神世界で。

 精神の健康を保つために、市民のみんなは働いて。

 その市民を統率するためにこのオレ、王がいて。

 頭が痛くなるような話ばっかりだったが、ギンと呼ばれる執事やメイドさんたちの反応からしても嘘ではないみたいだ。

 それに加えて、王様の制度についても詳しく聞かされた。

 この世界の王様は三十年を周期に『転生』と呼ばれる儀式を行うらしい。なんでもこの精神世界を持つ女の子の、ココロの成長につなげるのだとか。

 いまいちピンとこなかったが、どうやら”前の代の王様”がつい先日”転生”したらしく、オレが生まれたそうな。

 だいたいこれくらいが、黒装束の男、クロさんから聞いたお話だ。

 それにしても気になることがある。

 険しい顔をするオレに気づき、執事のギンが尋ねてきた。


「どうされましたか、王よ」

「いやあね。あそこのメイドさん、何カップのかなって……」

「……は?」


 は? ってかれましても。 いやいや、オレはごくごくまともな質問をしたと思うよ?

 だってあんなの完全に爆弾じゃん。


「ちなみにわたしはEですよ、王さま」

「ちょっとリン、何言ってるの!?」

「E……カッ……プだと……っ!?」


 かはああああああっ!! あっっっぶねえぜ、なんだか鼻からこみあげてきやがった!

 くうううっと鼻を必死におさえるオレをよそに、Eカップの緑髪みどりがみのメイドさん、リンちゃんが赤髪のメイドさんに肩を揺さぶられていた。

 もう一人の青髪のメイドさんは黙り込んで、じっとオレのほうを見つめていた。

 と、思ってたら不意に口を開いて、


「……あたしはFカップ」

「Fだとおおおおおおおおおおっ!?(ブシャアアアアアアアアっ!!)」

「ビイちゃんまで、なにカミングアウトしちゃってるの!?」


 鼻から噴き出す熱情の正体。鼻血だったのか。まるで噴火した火山のようだったよ。吹き出すマグマがとまらないったらありゃしない。

 さっきから突っ込んでばかりいた赤髪のメイドさんが涙目でキッとこちらをにらんできた。

 胸元を隠すように腕をまわして。


「私はぜったい教えないんだからねっ!」

「いや、結構です(キッパリ)」

「な…っ!」


 いやいや、あなたのお胸。どうみても断崖絶壁だんがいぜっぺきじゃないか。

 オレの態度が気に食わなかったのか、ぐぬぬっとほおを膨らませて近づいてくる赤髪のメイドさん。

髪色とそっくりで、顔が真っ赤になっていた。


「なんなのよそれっ! まるで私が胸のない貧乳美少女みたいじゃないっ!」

「いや、自分で美少女って言っちゃうのか」


 オレが胸の内で思ったことを代弁してくれるように、ギンがツッコんでくれた。ナイス、ツッコミ。(グッ)

 赤髪少女はさらに顔を赤くさせて、


「もおおっ! とにかく、私はこれから成長するの! 今がまだAだからって、いつかは絶対ばいんっばいんっになってやるんだからっ!」

「……アールちゃん、自分でAだって告白しちゃってるよ?」

「はっ!」


 思わぬ失態に顔をうつむけ、耳まで真っ赤にさせるアールちゃん。それにしても、どこまで赤くなるんすか。

 場にちょっとした落ち着きが戻ったところで、クロさんがパンッと手のひらを叩いた。


「さて、いったんここでおしまいだ。そろそろ時間だからね」

「時間って、何かあるの?」


 疑問に思って尋ねてみると、クロさんはフードの奥でふふっと笑い、答える。


「君が玉座ぎょくざにつくことを祝う、式典だよ」

「……は?」


 目が点になった。


「おっと、ほんとうに時間がないみたいだ。さあ、行くぞ」

「ど、どうやって?」

「瞬間移動さ」

「……は??」

「じゃあいってくる。君たち、晩餐の(ばんさん)の準備は任せたよ?」

「「「はい、いってらっしゃいませ!」」」

「では」

「お、おい。ちょっーー(シュンッ)」


 オレが言い終える前に、目の前の景色が一転してしまった。

 さっきまでは確かに、三人のメイドさんと執事のギンがいた。

 いたんだよ。



 ――――だけど、次の瞬間。



「わああ~~~~~~~~~~!!!」

「王様~~~~!!」

「きゃああ~~!! 今回の王様、イケメンよ~~!!」

「待ってましたあ~~~~~!!」



 眼下にはたくさんの市民がオレのことを見上げ、会場は大歓喜に包まれていた。暗闇に浸りきっていたオレの身体は、まぶしいばかりの太陽の光と温かい声で目覚めた。

 横にいるクロさんが大きな声を張って、民衆の注目を集める。


「みなのもの、よく集まってくれた!! これより、新しき王の誕生を祝おうではないかッ!!!」

「「「わああああ~~~~~~~~~~~!!!!」」」


 ここから、オレの人生は幕をあけた。

 あとから思いかえすと、オレの人生は。



 悲劇だったんだ。

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