飛翔しゆく鷹(4)
「……『奪盗』が使えなくとも、俺は人の能力を真似できるんだよ」
十数メートル先の大木にたたきつけてやったイーグルにそう言い聞かせてやる。
『奪盗』は相手の能力をコピーする上に、威力を高めることが出来る。しかしその分、エネルギーを消費してしまうのだ。
精神エネルギーが残り少ない今、リュウに残された選択肢は一つしかない。それこそ、『囚人』であった頃の初期能力、相手の能力を真似ることだ。
もちろんオリジナルの能力よりは劣るが、応用が利く。
「……お前のその目」
蒼い瞳をしたイーグルがリュウのことを睨みつける。
彼と同じ色をしたリュウの瞳を、だ。
「……これか? これはお前の瞳だよ」
「僕の能力を『コピー』したってことか……」
「……まぁな」
大木に体重を預けているイーグルに一歩また一歩と近づいていく。まるでシカの子供をみつけたトラのように。逃がさないぞとばかりに、慎重に歩み寄る。
ザッ、ザッ、ザッ、
砂利を踏みにじる音だけが空間を支配する。
二人の聴覚に、周りの音は聞こえなかった。
緊張の糸が張る。触れれば弾かれてしまいそうな張りつめた世界。
ザッ、ザッ、ザッ、
――――攻撃圏内に入った。
イーグルを見下ろすリュウが冷淡な声で宣告する。
「……チェックメイトだ」
炎竜鎧の炎から一つの炎剣が生成される。
切っ先をイーグルの喉仏に当てた。焦げた肉の匂いが微かに鼻につく。
「……じゃあな、イーグル……ッ!!」
『仲間』という意識に後ろ髪が引かれるが、振り返っている余裕はない。
前を見据えなければ、未来へは進めないから。
腕を引き、一思いに突き刺そうと試みる。
せめて、楽に殺してやりたい。
「――――」
イーグルが静かに目を閉じた。
だが、一度上がった幕が簡単に閉じることは無かった。
「させるかよォオオオオオッ!!」
闘牛のごとく唐突にリュウの横から何者かが突進してきたのだ。構えていなかったリュウはあっけなく吹き飛ばされてしまう。
「……ぐっ!?」
すぐさま体勢を整え直したリュウはその人物を目にした。
ユウと共に『堕天使』の獣人と化したルンと戦っているはずの、ライオネルだった。




