忍者と影の衝突(1)
今僕の目の前にいるシオンにかつての意思はない。逆を言えば他の意思もやどっていないということになる。
現状のシオンは魂の抜かれた操り人形のような状態だ。
今ならまだ彼の意思を取り戻すことができるかもしれない。
「一発なぐってやる。そうしたら一緒に帰ろう」
僕は竜の力を具現化した氷の鎧に身を包んだ。
氷でできた三本指の足に力を込めてゴムのような弾力で一気に飛び出す。
クロの手のうちからシオンを奪還する。
まずはそれからだ。
シオンの襟元に手を伸ばす。
冷気を帯びた鎧の手が触れそうになる。
「届けぇ……ッ!!」
指先までまっすぐに伸ばし、シオンにつかみかかろうとする。
だが、そう簡単にいくわけもなかった。
「させんよ」
隣のクロがいち早くシオンの肩に触れ、
ヒュッ、
瞬間、そこから姿を消した。伸ばし切った腕が宙をつかむ。
だけど、本番はまだまだこれから。
僕はすぐに体勢を立て直し周りを見渡した。
どうやらここから左方十メートル先に瞬間移動したようだ。右足のみに力を込めさながら発射された弾丸のように距離を詰める。
「(……いけるか!?)」
クロが気づくことはなく瞬間移動は行われなかった。
代わりに、僕のことを認知したシオンが自身の防衛に移る。
四本の黒い翼が爪を立てた指のように形作られる。
対する僕は、
「四氷牙の術……ッ」
四本の氷の尻尾を生成し、同じように爪を立てた獣の手のように操った。
黒翼と氷の尾がそれぞれに衝突し合う。
脳を揺さぶるような轟音がさく裂した。
前のように氷の尾が折れることはなかった。氷竜鎧の影響を受け、氷に関する術の効力が上昇しているからだ。
盾代わりだった黒翼を抑え込み、シオンの身はがら空きとなる。
冷静な判断を下した僕はすばやく彼の懐へともぐりこんだ。
腰をひねって、みぞうちにブローを叩きこもうとする。
「————————ッ」
シオンの目だけは確実に僕の動きを捉えている。さすが僕と同じ『忍者』なだけはある。
だがしかし、身体は動かせないようだった。
もらったと確信を得る。
————いや、得てしまった。
「……今油断したよなァ、お前?」
ズクリと心臓が凍るのを感じた。




