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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第2部【白い王宮編】 - 第10章 たどり着いた庭で
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はじめての王宮(4)


 ドッッッ!!!


 耳を覆いふさぎたくなるほどの轟音が炸裂し大地が揺れて体勢が崩れた。


「きゃっ!」

「ヒナタちゃん!?」


後ろ にいたヒナタちゃんが倒れそうになりあわてて身体を支えてやる。


「よかった。怪我はしてないね」

「ありがとうおにいちゃん……っ」


 不安そうな瞳をむけるヒナタちゃんに大丈夫だよと笑顔を浮かべる。他の皆の様子もうかがったけど、よろついているだけで大したことはなさそうだ。

 それにしても……。

 衝撃波の中心にいるシオンの姿を見てごくりと唾を呑み込んだ。

 黒いエネルギー波のようなものが四本、彼の背中から噴出している。それはまるで闇に落ちた堕天使の翼のように見え、アシダカグモみたいに生きているようにも見える。ともすれば、四匹のオオムカデが僕たちを獲物として狙っているようでもいた。

 薄めた墨の滲んだような紙の様に髪がくすんだ灰色に変わっている。

 瞳に関しては相変わらず死んでいた。

 僕はこのシオンの状態に一度だけ遭遇したことがある。


「(…………)」


 シオンが自身の過去の話をしてくれるきっかけとなったあの日のことを昨日のように思い出す。

 確かあの時は、初めてクロたちと交戦して赤鬼の桃太郎と戦った後のことで。その時にライオネルたちとも離れ離れになったんだっけ。

 クロの一言を耳にしたシオンがまるで地獄行きが決定した罪人の様に突然震え出した。僕たちは桃太郎と戦うことに必死だったから一旦女の子たちに任せたんだけど……。

 勝利を手にして隠れ家に帰ったら、シオンがこんな風に禍々しい黒い翼を噴き出した。


「シオン……」


 ハナちゃんが言うには精神状態が危うい時に発現するらしい。例えば前回はクロの一言で何らかのトラウマを思い出し狂気に満ちてしまったわけだ。

 でも今のシオンからはそれを感じられない。

 感情が死んでいるというか、そもそもいつものシオンじゃないみたいだ。


「王よッ! いったいどうされたのですかッ!?」


 隣にいるギンがシオンに向かって言の葉を届けようと声を高らかにする。

 シオンの眉がピクリと動いた気がした。

 長い時間ずっと一緒にいたギンなら、もしかして――――

 そう期待した直後、


 ブワ……ァッ!!!


 呼吸をするようにくねくねとうねっていた四本の翼がギンのほうへと集中した。先端を鋭利な刃物の様にとがらせて、四方向から串刺しにせんと襲いかかる。

 ギンの表情は変わらなかった。瞳は黒翼をうつしているが、心はそれを見ていない。

 まずい……ッ!

 僕はとっさに動き出していた。

 瞬時に印を組んで、術を繰り出す。


四氷牙しひょうがの術ッ!」


 パキパキパキと音をたて僕の尾てい骨あたりから四本の氷の尻尾が生成された。

 シオンと対をなすようにそれを振るって一本一本を翼とぶつけ合う。


 バギィ……ッ!!


 不利な体勢で防いだものだから四本のうち二本の尻尾の半分から先が砕けて消える。問題はない。この術は氷でできているため何度でも修復可能だ。

 失った先端を作り直しつつギンのそばに駆け寄る。

 後ろからはヒナタちゃんも追いかけてきた。


「大丈夫、ギン?」

「あ……ありがとうございますウシオさん。おかげで助かりました」


 ギンは今の今まで我を失い思考が止まっていたようだ。

 無理もないと思う。シオンが攻撃してくるなんて思いもしなかったのだろうから。

 ギロリとまなこを横に流し、シオンをにらみつける。


 ――――目が合った。それはもう、僕の知っているアイツの目なんかじゃなかった。


「……一発だ。一発で勘弁してやる」


 首をかしげるシオン。

 代弁するように隣に立つクロが腕を組みながら僕を指さした。


「何が一発なのだ? 意味が分からないぞ」

「そうか。なら教えてやる」


 拳を固く握りしめ、僕はこう言ってやった。


「一発殴って一緒に帰ろう。そう言ったんだよ」


 竜の力の具現化した氷の鎧を身に纏い、僕は勢いよくシオンに向かってはじけ跳んだ。

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