裏口での幕開け(4)
ニタリとリュウが意地の悪い笑顔をみせたその直後、シャバーニが拳をふりかざした先に炎に燃えさかる鋼鉄の門が出現した。
勢いよく放った攻撃をシャバーニは止めることが出来ない。
ゴリラのように太く大きい毛むくじゃらな右腕がジュウっと音をたてて焼ける。
「…………ッ!」
「……いい表情するじゃねえか、テメエ」
表情を変えることのないシャバーニが少しばかり苦痛の色を浮かべた。
一矢報いてやったとリュウは口を歪める。
拳を受け止めた炎をまとう鋼鉄の門はシャバーニの攻撃に耐えた。衝撃はカウンターのようにシャバーニのダメージとなって蓄積される。
大地に足裏を踏みしめたリュウは即座にシャバーニから距離をとった。
同様に、彼も後方へと下がる。
「リュウ~っ! 私、もうだめかとおもったよぉ~!」
「……バーカ。俺はそんなことで死なねえよ」
半泣きになってべそをかくナツミが駆け寄ってくる。
リュウは冗談まじりに慰めてやった。
「…………どういうことだ」
「……あん?」
「…………貴様が他人の技を真似して使えることは既に知っている。しかし劣化するはずだ」
シャバーニのいうとおりリュウは人の技を『模写して体現する』ことができる。
ただし、絶対にオリジナルを超えることはできない。
それは美術品を複写することに似ている。細部まで表現できたとしてもオリジナルにしかない魅力を与えることはできないのだ。
シャバーニは続ける。
「…………だが、先ほどの『門』はオリジナルの硬度を超えていた。それに炎までもが付与されていたのだ。いったいなぜ」
彼の言葉を最後まで聞き入れそしてリュウは唐突に笑い出した。
目じりに浮かべた涙をふき取りながら彼は言う。
「……バカじゃねえの。敵にのうのうと私の能力は何なんです、なんて言うはずねぇじゃねえか」
「…………」
もっともな意見にシャバーニは黙り込んだ。
軍人にはあるまじき行為だったと自身の失態を反省する。
「ただ――――」とリュウは言葉を紡いだ。
「……俺はもうとらわれの『囚人』じゃねえんだよ。人様の物を盗む『怪盗』だ」
彼は横にずらしている顔なしのマスクを指でなじりながらそう言った。
そして、冷ややかな笑顔を共に、こう宣告する。
「……テメエから『勝利』を盗む、『怪盗』だ」
――――白いマスクで、顔を覆った。




