裏口での幕開け(3)
「…………作戦を実行する」
「……来いッ!!」
リコを奪い返されたシャバーニが戦闘モードへと切り替えた。
ザッと大地を蹴ることで砂塵が舞う。
正面からぶつかることは避けたいとリュウは思った。シャバーニの力には到底かなう自信がないからだ。それに戦いとはパワーで決まるものではない。
知だって、立派な武器になる。
「…………ふんぬっ!!」
「……っ!?」
しかし、相手の知のほうが一つ上だったようだ。
シャバーニがリュウに攻撃を与えることは無かった。数メートル手前で地面に向けて己の拳を叩きつける。
ビシビシッ!! と亀裂が走り、それはリュウの足元にも影響をもたらした。
空中へと放り出されてしまったリュウは恰好の的だ。
「…………あっけないな」
期待外れだといわんばかりにシャバーニが肩を落とした。
トドメの一撃を浴びせようと彼は駆け出す。
そんなことはさせまいと先にナツミが動いた。
「『鋼天使の門』っ!」
左手の甲に右手の平を重ねて狙いをシャバーニに定める。すると身動きのとれないリュウとの間に鋼鉄製の門が現れた。
行く手を阻む門がシャバーニに立ちふさがる。
――――が。
「…………素晴らしいが、まだ青いな」
バギイィィィイイイイッ!!
右腕をゴリラのように変化させたシャバーニはその拳一つで門を破壊する。まるで夏夜にあらわれる蚊を手で払うような、何げない動作。
やはりシャバーニという男は底知れないとリュウとナツミは恐怖した。
ヤバイ。
時が止まってしまったかのように感じたナツミはただ、ひたすらにそう思う。
「…………終わりだ、青年」
いまだ身動きのとれぬまま空中に放り出されているリュウに彼はそう宣告する。
その光景を傍観していたメイドたちの顔が青ざめる。
ナツミにいたっては顔を手で覆い隠していた。
シャバーニが力のこもった右腕を、弓矢の弦のようにひく。
――――ただし、最後の最後までリュウが表情を崩すことは無かった。
むしろ。
ニタリと、意地の悪い笑顔を浮かべる。
「……『油断は禁物』なんだぜ、おっさん」
「…………ッ!?」
シャバーニが拳をはなったときにはすでに遅かった。
リュウとシャバーニの間に突如――――炎に燃えさかる、壊されたはずの門が出現する。




