子犬の少女(2)
獣人とは、ある意味差別されている人を指す。人ではない醜い容姿に、無差別な殺人衝動。そのうえ感染する恐れもあるのだから、なおさらだ。
『冒険者』と呼ばれる人々が感染した前例はない。これは、獣人であるライオネルから聞いた話だ。
だけど『冒険者』である僕はヘビの獣人になってしまった。
自我を失い、仲シオンやハナちゃんを襲ったこともある。
最初は受け入れられなかった。
今だって自分が獣人になったと思いたくない。
――――でも、もしもこの力で誰かを救えるのだとしたら、僕は……。
「『熱』を感じる……ヒナタちゃんはこっちか」
獣人の能力を少しだけ解放し僕はヒナタちゃんの行方を追っていた。
ヘビは目や耳が悪い。僕の視界は夜ということもあってほぼ何も映っていないし、耳に入ってくる音も雑音のようにすべてが濁っていた。
ただ、ヘビという生物は特殊な感覚を持っている。
その一つに熱センサーがある。
熱を探知するこの器官は軍用兵器並みの効力を発揮するんだ。
「僕のほうが速い。これなら追いつきそうだ」
ヒナタちゃんの熱を感知しながら僕は駆ける速度を上げた。
――――ふと。
ヒナタちゃんの行動に疑問を持つ。
獣人となった人間は二種類に分けられる。
一つは、ライオネルたちみたいに自我を持ち、自身の意思で行動する者。
もう一つは、ハナちゃんを襲った僕のように、自我を失い本能のままに暴れる者。
「この二種類に、ヒナタちゃんは当てはまらない……?」
獣人となった彼女は最初に母親を攻撃した。それからずっと逃げているわけだけど、どうにもおかしい。
母親を襲ったのなら僕のような本能のままに暴れる者にあてはまる。
でも、それなら逃走せずに僕を攻撃してくるはずなんだ。
そもそも母親を蹴り飛ばしただけで命まで奪っていない。
獣人はエネルギー消費が激しい。
人や冒険者を襲うのだってエネルギーを補給する目的もある。
――――もしかすると、
「ヒナタちゃんには、まだ意識がある…………?」
暴走する自分が母親を殺しそうになるからその場を離れた。
逃げ回っているのも獣人の心と戦っているから……?
だとすれば、一刻も早く救ってあげなくちゃいけない。
取り返しがつかなくなる前に。
「……ッ、熱が止まった!」
走り回っていたヒナタちゃんがすぐ近くで足を止めたらしい。
僕は足に力をこめ、思いっきり大地を蹴った。
ここは住宅街ではなく、どちらかといえば『冒険者』向けの場所だ。僕たちが宿泊している宿屋もすぐ近くにある。
そんな地域の公園に彼女はいた。
――――ぐったりとした様子で、地面に横たわりながら。
彼女のそばに二人の男女がたたずんでいた。




