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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第2部【白い王宮編】 - 第6章 白い街で子犬を拾う
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白い街の夜(1)

「……うぅ……今日の夜は冷え込んでるなぁ」


 星々が輝く夜空に向かって、はぁっと白い息を吹きかけてみる。

 寝つきが悪かった僕は宿屋を抜け出して一人、白い街の夜を散歩していた。

 日の沈んだ街は死んだように静かで少し不気味に思える。日中のにぎやかさを知っている分、そう感じてしまうのかもしれない。

 それにしても…………。


「ギンが女の子だったとはなぁ……」


 女装してもイケるでしょとは思っていたんだけど、まさかモノホンだったとは想像もつかなかった。……っていうか、近頃は突然の出来事が多すぎるよね。

 誰もいない商店街を歩きながら、数日前の夜を思い出す。


「ハナちゃん……。結局、君は…………」


 ゾンビとはいえど獣人を皆殺しにしていたのは間違いなくハナちゃんだった。血に染まったドレスは既視感を覚えるほど似合っていて。

 それにいつもの口調でもなかった。

 もしかしたら、ギンと同じように何か秘密があるのかも。


「……なんていっても、むやみに詮索するのは野暮だもんねぇ……」


 秘密ごとをされるのは少し寂しい気もするがここはハナちゃんから言い出すのを待つしかないか。というより、まずは会うことからだよね。

 メビウスの輪ように繰り返される思考にいったん終止符を打ち僕は別のことを考えることにした。


「そういえばアミちゃんの探し人って、リュウなんだよね……?」


 ずいぶんと前にアミちゃんと会ったときの会話を思い出す。あの時はたしか僕とシオンが変化の術で女体になって女湯に侵入したんだっけ。

 僕のパイオツに興味を持ったアミちゃんに声をかけられて……何を言ってるんだろう、僕は。

 と、とにかく……っ!

 アミちゃんにリュウって人を知りませんかって聞かれて、話をはぐらかしたんだよなぁ。


「リュウにはナツミちゃんがいるからねぇ……」


 あのコンビはもう間違いなくできてるもん。恋愛マスターの僕がいうんだから絶対だ。っていうか、誰の目から見ても夫婦だよ、うん。

 そんな二人の間にアミちゃんが入ってくるんだとしたら……ドロ沼、昼ドラ避けられない。その前に、アミちゃんはなんでリュウを探してるんだろ? 過去に何かあったとか……だよね?


「リュウのやつ…………何やったのかな……?」


 前髪で片目をかくした憎々しい顔を思い出して僕はついつい噴き出してしまう。

 それがきっかけとなって押さえていた想いが溢れ出した。


「みんなに早く会いたいなぁ……今頃どこで何やってるんだろう」


 イッちゃんはいつ何時でも僕のそばにいてくれているし。

 リュウやナツミちゃん、それにシオンは超強そうな大男と戦ってただろうし。

 連れ去られたリコちゃんは無事なのかな。

 王宮に一人でむかったハナちゃんのことも気にかかる。


「…………あっ、またおんなじこと考えてるじゃん」


 今の自分をふと客観的にとらえて少しばかりバカらしくなる。

 結局僕はいつもの日常を取り戻したいだけらしい。

 そのために。


「いち早く王宮に向かって、みんなと合流する」


 それから、革命軍を野望を阻止するんだ。

 そうしてようやく、僕たちの日常が戻ってくる。


 ――ピキっ


「痛っ。あぁ、またぱっくりいっちゃったか……」


 商店街を抜け住宅街らしき場所にやってきたところで左腕に痛みを覚えた。そっと見てみると、手首のところが肌割れしている。最近では日常となった、いつものアレだ。


「寒いから肌が乾燥してるのかなぁ…………それとも――――」


 深く考えそうになったところで僕は頭を振った。

 ふところからこれまた慣れた手つきでローションを取り出す。


「イッちゃんからもらったコレなしじゃあ、やってられませんなぁっ」


 陽気な調子でローションをひび割れした部分に塗る。

 すると不思議なことにみるみる治っていくのだ。


「これがまた、か・い・か・ん・☆」


 ヒュウ……っ


「…………ふぅ」


 冷たい夜風が僕の頭を冷やす。

 空を見上げると月がてっぺんを通り過ぎていた。

 もう日付が変わったらしい。


「さて、そろそろ帰るかなぁ」


 もう一回温泉に入ってから寝るとするか。

 そう決めてきびすを返したとき、


「ん? なんの音だろ?」


 ビラビラと紙が揺らされている音が聞こえてきた。

 こっちのほうかな。

 そうやって視線をやってみると。


「…………っ」


 その異様な光景に息を呑んだ。

 一軒の、何の変哲もない大理石でできた家。

 ごくごく普通の、家であるはずが。


 ――――呪いのお札を貼り付けられたように、数千もの紙で覆われていた。


 夜風がビラビラと無数の紙をたなびかせる。


「なんだよ。なんだよなんだよこれ……っ!」


 どうやら家の中に人はいないらしい。

 僕はその紙の一枚をはがしとって、目を通してみた。




 『近寄るな』       『感染者だ』

        『怖い怖い』           『出て行けよ出て行け』

『いかないで』                                『やめろ』

       『獣人だ』     『このバケモノめ』      『呪われてる』



 パキ……っ


 頬の部分が、割れた気がした。

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