こんばんは、メイドさん(1)
赤髪のアールに連れられ、メイドたちの暮らす部屋へとリュウたちはやってきた。
しかしそこでウシオ達と行動しているはずのハナと出会う。
「なんでここにいるんですの!?」
「それはこっちのセリフだよ、ハナ! ウシオくんたちはどうしたの!?」
「ありえませんありえませんわ! 二人がここにいるなんて! それにリコちゃんまで!! わたくし疲れてるんですわね!?」
「……ここにいることはもちろんなんだが、なんでメイド服まで着てるんだ……?」
「わたくし、みなさんとはもう会わないって決めましたのに! あの決意はいずこへと……っ!」
パニック状態の彼らに互いのことを気にするキャパシティなんて微塵もない。これじゃまさに十数年来に開かれた同窓会のようだ。
慌てふためく彼らに救いの手が差し伸べられる。
手段は別として。
ビュオオオオオオオォォォォォォォォ!!!
「……うおッ!!? なんだ!!?」
「いきなり吹雪が吹いて――へっくちっ!」
「ここは室内ですわ!? なのに……――くちゅんっ!」
中世ヨーロッパのような城内は一瞬にして吹雪と化した。
張り付く雪が彼らの体温を奪っていく。
ガチガチと歯を躍らせていると吹雪はすぐにやんだ。
「……い、今のは……なんだったんだ?」
「わたしの能力ですわ、『怪盗』の青年」
その場の視線を集めたのは抹茶のように優しい緑の髪色をしたメイドさんだった。長くもふわりとした髪質やその立ち振る舞いから一流のメイドであることが分かる。
彼女はその場を取り締まる代表として、こう提案した。
「とにもかくにも、まずはその子をベッドに寝かしてあげるべきではありませんか?」
指で示されたのは苦しそうに眠るリコだった。
その姿を見た三人の頭は急激に冷えリュウはすぐさま動き出す。
「…………すまねえな」
「いえいえ。では、こちらをお使いくださいな」
案内されたベッドにリコを寝かせ優しく布団をかけてやる。心なしか、リコの血流がよくなっていく気がした。
一旦落ち着いたところで、その場の全員が部屋の中心にあるテーブルを囲みソファに腰を下ろした。
お茶を用意するために席をはずしたアールが戻ったところで話が切り出される。
「お話の前にまずはわたしたちの自己紹介をさせていただきますわ」
緑髪のメイドが立ち上がり、手をお腹に添えて丁寧にお辞儀する。
「わたしはリンと申します。この王宮のメイド長を務めさせていただいていますわ。とはいっても、メイドはここにいる三人だけですが」
「ちなみに、さっきの吹雪はリンの能力よ!」
自分の事のように赤髪のアールが胸を張った。彼女にとってリンは尊敬できる上司であり、同時に『姉』のような存在でもあるのだ。
アールの言葉を聞いてリュウが能力について詳しく尋ねる。もしかすると敵に回る彼女の手の内を知っておきたかったからだ。
そんな思惑に対しリンは率直に答えた。
「わたしの能力は『幻想』です。相手に幻覚を見せるようなものだとお考えください」
「ということは、さっきの吹雪は幻覚だったの?」
「はい。その通りですわ」
「うっひゃ~! モノホンかと思っちゃったよ~」
ついさきほどの出来事を思い出しナツミは身体を縮こまらせる。凍ってしまうほどに寒かったのだ。
「リンの能力って王宮一なのよ! すごいでしょ!」
「だね~! 私もうコリゴリだよ~!」
「……氷だけに、こおりごり…………」
ヒュウ……っ
不意に青髪のメイドがそう口にし、再び吹雪が訪れた思いだった。
小柄ながらも豊満な胸を持つ青髪のメイドは構わずに口を開く。
「……ちなみにあたしはFカップ」
「誰も聞いてないからね、ビイちゃん……ッ!!?」
薄っぺらい胸を腕で隠しながらアールがすかさずにツッコんだ。怒りのせいか、はたまた羞恥のせいか、顔が真っ赤になっている。
シャイボーイなリュウの顔も当然真っ赤っかだった。
苦笑いを浮かべながら緑髪のリンが補足する。
「このマイペースな子がビイですわ。何を考えているかわからないところがチャームポイントだったりします」
「……むふぅ」
リンの紹介に、ビイは鼻息を荒くしどこか勝ち誇った表情を浮かべていた。
悔しそうに唇をかみしめているアールが強引に話を次へと移す。
「ねえリン! さっきからずっと気になってたんだけど、その子はいったい誰なのよ!? ひょっとして新人さん!?」
ビシイッと指さしたのはメイド服に身を包んだハナのことだった。
何か言いたげなハナを止めリンが説明する。
「新人ではありませんわ。この子はね、もともとここに仕えていたの」
「えっ……? それってどういうこと!?」
リンの言葉にアールは思わず身を乗り出す。
当のハナはリュウたちから目をそらすように顔をうつむけていた。
リンが口を開く。
「この子の名前は、ハナ。昔この王宮を飛び出した、わたしの妹ですわ」




