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ライス・ライフ〜女の子に食べられた僕は獣に目覚めました〜  作者: 空超未来一
第2部【白い王宮編】 - 第5章 王宮へ触れていく
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実験場(2)

 あわれ。今更気づくナツミの指先は、すでにボタンを押し込んでいた。

 ゴゴゴっと、不気味な音を立てて機械が動き出す。

 緑色の液体中に気泡が生じ始めた。


「ちょっ! どうしよリュウっ!?」

「……俺に聞かれてもも分からねえよッ! 赤髪は何か知らねえのか!? お前、この王宮のメイドなんだろ!?」

「知らないわよッ! あと私の名前はアールだからッ! ちゃんと名前で呼びなさいよッ!?」

「……こんな時に自己紹介してんじゃねぇぇぇぇぇぇえええええええッ!!」


 そうこうしている間にも、リコを入れた機械の動きに激しさが増していく。

 シュゴゴゴゴッ!!と洗濯機のように振動する。


 シュゴゴゴゴゴ……ンンゴゴオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!


 カプセルの動きが、絶頂を迎えた。


「「「もうダメだァァァァァァァァァァ……ッッ!!!!!」」」


 リュウたちが頭をかかえ、ひざから倒れ伏したその直後……ッ!!


 ――シュコっ……


 …………ウイーン……ザバァァァァアアアアアアッ……


 ……コポっ…………


 ………………。


「……へ?」


 間抜けな音をたて停止したカプセルの前方部分がドアのように長方形に開いた。滝のように流れ出た液体の残りが岩から湧き出る山水のようにチョロチョロとこぼれている。

 予想だにしなかった状況に、その場の三人は顔を見合わせた。

 ドッ!と一気に笑いが込み上げる。


「……なんだよ今の! ははっ! マヌケにも程があるぞっ!」

「あはははっ! ”シュコっ”って! ”シュコっ”って……!!」

「こんなに笑ったのは久しぶりだわっ! 王様が消えて以来かもしれないっ!!」


 お腹を抱えて笑い声をあげる三人の目には涙さえも浮かんでいた。


 ――――と。


 ドチャアっ


「「リコ(ちゃん)っ!?」」


 液体の浮力を失ったリコが機械の中から水たまりへと倒れた。

 我に返ったリュウとナツミが血相を変えて意識を失っているリコの肩を抱く。


「しっかりしてリコちゃんっ! ねぇ、リコちゃんってばっ!」

「……くそっ、全然目覚めねえじゃねえかよ」


 リュウは『怪盗』の黒いマントで裸のリコを包んでやった。

 濡れた前髪がおでこにピタリと張り付いている。

 眠る彼女の顔色は青ざめいていた。

 とはいえ、呼吸のリズムは安定している。

 命に別状はなさそうだ。

 これからどうしようかと考えだす二人の背中に不意に声がかかった。


「ねぇ、あんたたちって『冒険者』よね?」

「……それがなんだよ」


 ぶっきらぼうに答えるリュウ。

 しかし、赤髪のメイド・アールは構わずに続ける。


「でも、その子は違うわよね? 私たちと同じ、この世界の住人」

「……そうだな。リコはこの世界で言う『案内人』、だけど俺たちの『仲間』だ」


 リュウは力強いまっすぐな瞳でアールと目を合わせる。

 二人が視線を外すことは無かった。

 しばらくの沈黙があって、アールが口を開く。


「いいわ。あんたたち、私についてきなさい。その子が目覚めるまで、かくまってあげる」

「……何のつもりだ?」

「どういうつもりもないわよ。ただその子のことが気になるから、そうするだけ」


 リュウたちに話しかけながらアールがこの部屋の扉へと戻っていく。それから人体実験室たるこの部屋を眺めまわして、


「それにこの部屋のことも気になるし。あんたたちから色々な話も聞きたいしね!」

「…………」


 黙り込むリュウたちに、アールはパチリと無邪気なウインクを飛ばした。


「ど、どうするリュウ? 私はあの人なら信じられる気もするけど……」


 ナツミの言葉を耳にしながらリュウはすっと目を閉じた。

 今後の算段を考慮したうえで、決断を下す。


「……いくか。リコをこのままにしておくこともできないし、少しばかり態勢も整えたいからな」

「さっすが、リュウ! 男らしい決断だね~!」

「……ちょっ、叩くなって!」


 ナツミの冗談にもリュウは顔を赤くして照れる。妙なところでピュアなハートが反応してしまうのであった。

 二人の様子を眺めていたアールが一言。


「あんたたち、もしかして夫婦だったりする?」

「「んなワケあるかぁぁぁぁぁぁあああああッ!!」


 とにもかくにも。

 連れ去られたリコを取り返したリュウたちは、この王宮に仕えるメイド・アールにかくまってもらうことになった。


 キイ……っ


 重々しい扉を開きアールに連れられて王宮の内部へと足を踏み入れていく。

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