第24話 チャンス!
―― 聖樹王暦2000年 2月 2日 2時 ――
寝た?
マリア様寝た?
寝たよね?
ふぅぅぅぅ……すごかった。
いや、何がすごかったって?
ちょ、ちょっとそれは話せないです。
話せないけど、話さないといけないことがある。
だって話が前に進まないから。
ある状態になると僕から強制的に神力が放出されてしまった。
そしてその神力は、僕の知るどの性質の神力とも違った。
まったく新しい性質の神力。
この神力を僕は……「ピンク神力」と呼ぶことにした。
なぜそう呼ぶのかはみなさんで想像して欲しい。
何度もピンク神力を放出することになったけど、僕はずっと元気なままだった。
萎えたり、痛くなったり、疲れたりしないのだ。
なぜなのか分からない。
きっとピンク神力のおかげだろう。
ちなみに行為の最中どんな感じだったのか。
僕を包み込む「水」のようなものが震えたのだ。
この震えが振動となり僕の身体に伝わってくる。
そしてマリア様に擦られると、水の震動によって身体全身が擦られていく。
さらには、何故かその水のようなものがマリア様の手にとなって僕の身体を擦っていくのだ。
水のようなものの感触は、間違いなくマリア様の手の感触そのものに変化していた。
口と胸の時も、僕を包む水はマリア様の口と胸になった。あ、舌もね。
さて、重要なのは神力が外に出たってことだ。
どんなに頑張っても神力を外に出すことなんてできなかったのに。
ぐっすりと眠っているマリア様。
僕は治癒神力を作り、マリア様に流してみる。
流れる。
マリア様に治癒神力が流れている。
どうやら僕は、マリア様によって神力を外に出せるようになったようだ。
ありがたいやら、気持ちいいやら、嬉しいやらで大変だったけどね。
とりあえず一歩全身だ。
神力を外に出せるようになれば、みんなに気付いてもらえる。
木の棒から力が出ている。
何かある! と。
朝5時半。
マリア様は短い睡眠で起きると、すぐに僕を部屋に返しにいった。
僕の手に木の棒を握らせる時に「私の匂いがこれでルシラ様に」とか呟いていた。
僕の手に握らせてくれたのは好都合だ。
僕は自分の身体に神力を流してみた。
くっ!……僕の精神……魂を……身体に戻すんだ!
ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
スポン!
お? おおおおおお!
「やった」
ベッドから起き上がる僕。
身体に戻った!
人間に戻れたよ!
はっ!
待てよ……これってもしかして……逆もあり?
僕は木の棒に精神、魂を移そうと神力を使ってみる。
ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ!
スポン!
……できちゃった。
木の棒に移ったよ!
こ、これは面白い!
どっちにもなれるのか!
こ、これは最高の展開じゃないか。
マリア様は木の棒を「聖樹様」と呼んでいた。
なんか僕と同じように崇拝していた。
僕 = 神
棒 = 聖樹様
こうなってしまったのだろう。
ピンク神力で完全にマリア様欲情しちゃったしな。
毎晩、木の棒をマリア様に洗ってもらうってどうだ?
その時に精神を木の棒に移せば。
でも夜に何かあった時にすぐに動けないな。
それって不自然だろ。
例えば、マリア様に木の棒を持っていってもらう。この段階で僕は精神を移している。
僕の身体は動けない。
そこにミカ様、文無し、サリエル様が何かしらの理由で相談とか話し合いに訪れる。
僕動かない。また昏睡状態と騒がれる。
これが続く。疑われる。
まずいな。
何か良い方法はないか。
そもそもどうして僕は木の棒に精神が入るようになったんだ?
あの少女が持っていた木の棒。
あれを見た時、僕の中の何かが壊れたような気がした。
あの木の棒はなんだ?
まるで僕の持つ「伝説の木の棒」と同じように見えた。
聖樹王の穴に入った時から僕はおかしかった。
息苦しくて、頭痛までしてきた。
父ゴブルンは、この木の棒は「聖樹王から創られた」と言っていた。
ゲームの要素で用意された特典アイテム。
ならそういう設定でゼウス様が創ったんだろうぐらいにしか思っていなかったけど。
この木の棒を持っていたから苦しくなったり頭痛がしたのか?
それとも……僕と聖樹王には何かあるのか?
父ゴブルンは僕のことを「聖樹様」と呼んだ。
それはこの木の棒を持つ者だから「聖樹様」と呼んだのか?
それとも木の棒を持っていなくても、僕のことを「聖樹様」と呼んだのか?
う~~ん……おっといけない。
今はもっと重要なことを考えないと。
マリア様に木の棒を持っていってもらう……僕のアリバイ。
そんなに難しく考える必要はないか?
たまに夜に昏睡状態になる。
そういう体質になってしまったでどうだろうか?
ミカ様達にちょっと心配されるかもしれないけど、必ず目覚めるので大丈夫と伝えておけば。
マリア様にも木の棒は必ず僕の手に握らせて返して下さいねと伝えればいいし。
マリア様からしたら、僕がいつも昏睡状態に見えるのか。
あ~これはまずいな。
たまにではダメか。
もっと良い考えを……ああっ!
昏睡状態になりそうだって分かる。
これでどうだ?
今夜は昏睡状態になりそうです。
だから、僕の代わりに木の棒を洗って持っていてくれませんか?
そして次の日の朝に必ず僕の手に握らせて返して下さい。
ちょ、ちょっと強引かな?
でも悪くない気がする。
ああっ!!!!!!!!!!!!!!!
ざわ……ざわざわ……ざわざわ!
ま、待てよ。
待てよルシラ!
何言ってるんだよ!
馬鹿か僕は!
ちょっと良いアイデアが浮かんだからって、それに目がいって周りが見えない!
そんなんじゃだめだ!
もっと全体を見るんだよ!
目先を追うな! チャンスを失うぞ! 自分の中で最後を描けないのなら、そこからこぼれ落ちてしまう「何か」があるんだぞ!
……自分を偽るな。
僕はしょせん狼だ。どんなに羊の振りをしても!
男はみんな狼なんだ!
ミカ様にも木の棒を洗ってもらいたい♡
そうだよ、こんなに素晴らしい能力に目覚めたんだ。
ミカ様にも木の棒を洗ってもらおう。
文無しは……美人だけど性格がな。良い人なんだけど。
サリエル様は……犯罪になるか?
問題はこの能力をどう説明するかだな。
木の棒に精神が移せることは秘密だ。
さっきの説明でミカ様とマリア様に、交互に洗ってもらう?
う~~ん、マリア様はそれでいいかもしれない。
僕のことを神だと思ってくれているから。
問題はミカ様だな。
なんて言おう。
はっ! 待てよ……ミカ様に普段から木の棒を持ってもらう。
闘剣として使ってもらう!
あ、いやダメだ。
神聖剣白雪姫を作ったばかりなのに。
ミカ様って二刀流とかしないのかな?
あ~左手にはサクラ盾か。
……サクラ盾って持つ必要あるの?
好きに形状変えられるんだよな。
手で持つんじゃなくて腕に固定されるような感じにはできないのかな。
それなら右手に白雪姫。左手に木の棒の闘剣。そして左腕にサクラ盾。
闘剣は短剣のような短いものにするか。
ふむ、悪くないな。
問題はミカ様が二刀流ありかなしか。
まとめよう。
共通。
聖樹王の穴に行った時に、僕の中で何かが起こってしまい、突然眠ってしまう体質となる。
眠りに落ちそうになると、それが分かる。
眠りに落ちても何も心配ない。一定時間経過した後に木の棒を握ると戻ってこれる。
ミカ様。
眠っている間、木の棒を使わないのは勿体ないので、ミカ様に使って欲しい。
※二刀流ありかなしか重要
文無しの稽古の時に使わせてもいいと伝えておこう。
あ、サリエル様ってどうなるんだ?
もし仲間になってもらえるなら、サリエル様にも使ってもらってOK。
木の棒はゲームの要素でいつも清潔だけど、気持ちの問題でいつも洗っていた(嘘)
ミカ様が使われた時には、お風呂場とかで洗ってあげて欲しい。
早朝には必ず僕の手に木の棒を返して欲しい。
騎士団魔法士団の特訓にも有効活用できるので、マリア様に貸す場合もあると伝えておく。
マリア様。
内容はミカ様と同じ。
ゲームの要素とは言わず(言っても声は届かないけど)木の棒は毎日洗っていたので、使った日はお風呂場とかで洗ってあげて下さいと伝えればOKだろう。
マリア様なら後は勝手にどこまでも突き進んでくれそうだ。
よし!
これでいこう!
僕は男だ! 狼なんだ! 自分の欲望に忠実に生きよう!
朝8時。
ミカ様が僕の部屋に来られた。
僕が目覚めているのを見て泣いていた。
本当に心配してくれていたようだ。
ぐっ! こんな優しいミカ様に僕は……なんてことを考えていたんだ!
でも作戦は遂行します♡
次々と集まってくるみんな。
文無し、サリエル様、そしてマリア様。
みんな僕が目覚めたことを喜んでくれた。
サリエル様とはお互い自己紹介。
「サリエルです……初めまして……ルーにぃ様」
ルーにぃを飛び越えて、ルーにぃ様になっていた。
文無しが笑っていた。
昨日のうちに何を吹き込んで洗脳しやがった!
ナイスだぞ!
サリエル様は僕達と一緒に行動することになったそうだ。
サリエル様は死を司る大天使。
それは罪を犯した天使を裁くことでもあった。
そのため、天使達からも恐れられていて友達がほとんどいないらしい。
同じ大天使であるミカ様と文無しぐらいだそうだ。同じ女性だし。
大天使になる前はラファエル様の部下だったそうで、ラファエル様には頭が上がらないとか。
みんなに恐れられるサリエル様が恐れるラファエル様。
めちゃめちゃ厳しい方だって聞くけど、どんだけ恐ろしいんだろう。
サリエル様は名前を「サラ」と登録したそうだ。
その響きが可愛いからと言っていた。
年齢はサバ読みなしの15歳だった。
朝食を取った後、さっそくサラ様に祝福を与えた。
♦♦♦
名前:サラ 性別:女 年齢:15歳 神力:未公開 レベル:55
種族:人間 身長:155 3サイズ:86(E)/56/84
闘気魔力:55
技能
武器:槍術10 体術6 (真)風雷槍技10
魔法:(真)風雷魔法3 (真)闇魔法1
補助:闘気強化10 闘気量上昇5 闘気消費減5 闘気回復上昇5
カード:飛竜
装備:鉄鎌 月の服
レアアイテム:月眼
♦♦♦
サラ様のレベルは高かった。
さすがは穴の中でずっと1人で戦っているだけある。
サラ様から貴重な情報がもたらされた。
各技能の最大レベルは10。
サラ様の槍術は10なんだけど、これ以上はレベルを上げられないようだ。
サラ様の技能の取り方は接近戦に偏っているけど、絶対に悪い取り方ではないだろう。
魔法は風と闇。僕の祝福で風の上位雷を取得でき、すんげ~喜んでいた。
さらにレアアイテムの月眼。
月の力を宿した目なんだそうだ。
サラ様の目は月の色をしていたんだな。
祝福を受ける前は、月眼から闘気と魔力供給を自分だけが受けられたそうだ。
それで長時間1人で穴の中で戦うことが可能なのか。
ただし無限ではない。
回復するには月の光を浴びて、月の力を貯める必要がある。
僕からの祝福を受けてどう変わったのか。
サラ様が月眼使ってみた。
「……すごい」
お? きちゃいました?
「ルーにぃ様の祝福で、私の月眼に貯められる力が倍以上に増えています。それに……こうかな?」
サラ様の月眼が光ると、サラ様の身体を覆う力……満月だ。
満月がサラ様を覆っている。
「月の結界……サラの得意技の1つね」
ミカ様が言う。
サリエル様の名前登録がサラとなっているので、みんなサラと呼ぶようになった。
ミカ様がサラ様に向かって光弾を放つ。
キィィン!
月の結界がミカ様の光弾を防ぐ。
「月の結界だけではなく、月の光が身体に流れてきて……まるで神力による肉体強化ができているようです」
おっと、僕の肉体強化神力と同じ効果もでるのか。
無限に月の力が使えないにしても、かなりの強化だろう。
む? 待てよ……木の棒から月の力って供給される?
「サラ様、この木の棒を持って月の力が供給されるか試してみてください」
「……」
サラ様は動かない。
そ、そうだった……まったくなんてこった。
「サ……サラちゃん。この木の棒を持ってね」
「うん♪」
「くくくくくっ」
文無しが笑っていやがる!
サラちゃんを洗脳しおって!
でもナイスだぞ!
ミカ様もマリア様も笑っている。
サラちゃんが僕を「ルーにぃ様」と呼び、甘えることを微笑ましく思っているようだ。
それならいっか。
木の棒からサラちゃんの月の力が供給できるかと思ったけど、それは無理だった。
残念。
サラちゃんの召喚カードは「飛竜」。
かっこいい!
召喚カードを持っているってことは、サラちゃんも神力を消費しているのだろう。
神力値などに関しては秘密だそうだ。
文無しと同じような無駄使いはしていないだろう。




