第21話 悪魔?
―― 聖樹王暦2001年 2月 1日 9時 ――
聖樹王の穴へレッツGO!
というわけで、久しぶりのトール街です。
ゴブルンの森はトール1番地区だけど、聖樹王に行くならトール12番地区が一番近い。
門を出た風景は、1番地区と大差なかった。
のどかな風景だ。
ミカ様の目がハートになってしまう、可愛い小動物達がいっぱいだ。
しかし、30分も進めばガラリと風景は変わる。
すぐに道はなくなり森の中を、闘気を纏って走り抜けている。
そして既に戦闘は始まっているのだ。
「はぁぁぁ!」
ミカ様の白雪姫が眩い閃光を放つ。
襲いくる魔物を一撃で斬り捨てていく。
「よっと! ほっと! そりゃ!」
文無しが華麗に2丁拳銃ルーレットで魔力弾をぶっ放している。
が、しかし、ミカ様のように一撃とはいかない。
「光矢!」
文無しが倒し損ねた魔物をマリア様がフォローしていく。
「マリア様ありがとうございます♪」
「いいのよ、ガブリエルちゃん」
「ルーちゃんのせいで……まったく」
「本当に僕のせいなんですかね?」
「だってそれしか考えられないもん」
僕がルーレットなんて名前をつけたからか、文無しの2丁拳銃に変な性能が付加されてしまったのだ。
魔力銃はその名の通り、銃に魔力を込めて魔力弾を撃つ。
その魔力弾は使用者がどんな魔力を込めたかで変わってくる。
文無しなら水か氷か光だ。
さて問題の性能とは、文無しが水魔力100を込めて撃ったとする。
普通なら100の水魔力弾が放たれるのだが……。
なぜか1の水魔力弾だったり、50の水魔力弾だったりと変わってしまう。
さらには100しか込めていないはずなのに、150や300の水魔力弾になることもある。
ルーレットの中で何が起こっているのか。
おそらくカジノのルーレットのギャンブルが行われているのだろう。
2丁拳銃にこんな性能が付加されているなら、超大型ライフルの丁半に付加されてしまったであろう性能も予想がつくので怖い。
僕はみんなのフォローに回っている。
土魔法と木魔法で、魔物の行動妨害をしたり、ミカ様達が飛んだ時の空中の足場を作ったり。
得意の闇霧で魔物の視界を奪ったり。
マリア様に稽古をつけてもらって、ちょっとは強くなったと思うんだけど……この3人との実戦の差は埋まらないか。
ミカ様それに文無しだって天界では大天使として、僕には想像もできない時間を戦ってこられた方だ。
マリア様も、魔法士となられてからずっと悪魔との戦いに身を置いている。
伝説の木の棒のチート肉体強化神力でなんとかついていけているけど、これがなかったら僕はお荷物だな。
ミカ様はラグナロク開始初期の低レベルの頃とは違う。
闘気魔力の使える総量が増え、さらには己の未熟さを補うための細かい闘気魔力の操作技術を磨いたことで、戦闘能力がものすごいことになっている。
全力闘気で駆け抜けると僅か2時間で聖樹王が見えてきた。
ミカ様達が闘気魔力切れしたら、もちろん木の棒から補充した。
そして聖樹王が見えてきた……見えてきたという表現はおかしいんだけどね。
どこからでも基本的に聖樹王は見えているのだから。
この世界の中心で、遥か空高く天にまで昇る大樹。
目に魔力を宿しても、頂上を見ることはできない。
この世界のことを知らない人が、遠くからそれを見ても、それが大樹であるとは絶対に思えないだろう。
地下世界の悪魔がやってくる穴は3つにランク分けされている。
「小穴」「中穴」「大穴」の3つである。
出てくる悪魔の強さもそれに比例している。
小穴は弱い悪魔、大穴が強い悪魔である。
今回向かっているのは「中穴」だ。
たった4人で中穴に向かうなんて、騎士団や魔法士団からすると自殺行為だと言うだろう。
しかし、マリア様の助言で、僕達4人なら十分に通用すると。
最強の魔法士様が大丈夫と言うのだから、とりあえず行ってみよう! となった。
危なくなったら文無しの瞬間転移である。
本人は貴重な瞬間転移を使いたくない! とぼやいていたけど。
聖樹王の中穴が見えてきた。
「それでは穴に入りましょう。聖樹王の穴の中は、木が自然発光しているためある程度視界は確保されています。それでも先頭のミカさんは光魔法で明かりの確保をお願いします」
「了解」
中穴の中に入っていく。
まさにダンジョンといった感じだな。
穴の中の構造は基本的に下に降りていく感じである。
地下世界と繋がっているのだから。
しかし地下世界に辿り着いた者はいない。
小穴の先は、穴が小さくなり過ぎて人間が通ることはできない。
聖樹王の木は傷一つつけることができないほど硬い。
穴を広げて、小穴から地下世界に行くことは不可能だ。
中穴なら人間が通れる穴だと推測されている。
あくまで推測だ。
辿り着いた者がいないのだから。
奥に進めば進むほど、悪魔がうじゃうじゃと出てくる。
そして「境界線」と呼ばれる場所がある。
ここにとんでもなく強い悪魔がいるのだ。
小穴には境界線はない。
この境界線を守る悪魔、決して地上に出てくることはない。
境界線を守るためだけにずっとその場にいる。
この話を聞いた時、すぐに分かった。
ゲームの要素だと。
おそらくゼウス様が配置したボス悪魔か、もしくは地下世界に行かせないための討伐不可能な悪魔か。
ボス悪魔なら力を合わせて倒そう! な展開も期待できるけど、そもそも倒すことが不可能、例えば不死属性とか、あらゆる攻撃が効かないとか、そんな仕様の悪魔なら無理だ。
しかし地下世界に行ったプレイヤーがいるとクズが言っていた。
方法は分からないと。
もし中穴の境界線を守る悪魔を倒して地下世界に行ったのなら、僕達にも可能性はある!
ちなみに、大穴は境界線にすら辿り着いたことがないので、同じような境界線を守る悪魔がいるか不明なんだそうだ。
ミカ様が前衛、中衛に僕と文無し、後衛がマリア様。
「ブヒィィィィ!」
さっそく豚野郎のお出ましだ。
「はぁぁぁ!」
ミカ様が斬りかかる。
僕も長く伸ばした棒で後ろから突いたり叩いたり。
文無しが気持ちよさそうに魔力弾をぶっ放している。
魔力弾はもちろん仲間にも当たる。
ミカ様は背中に目があるのか、文無しが遠慮なしにぶっ放した魔力弾を華麗に避けていた。
魔力感知か?
マリア様は最後尾から全体を見て、最も効果的な魔法を使ってくれる。
マジでありがたい。
全属性使えるマリア様素敵すぎます!
聖樹王の穴の中のどこに神石があるのか。
聖樹王の木を掘ることなんて無理だ。
どれだけやっても傷一つつかないのだから。
しかし木の根の壁の中に光るクリスタルが見えることがある。
それが運良く表面に出ていると上手く取りだすことができる。
木の根が絡まりついていて取り出せず、泣く泣く諦めることもあるとか。
穴に入って1時間ほど経った時に、神石があった。
「これです」
木の壁の中に光るクリスタルが見える。
小さな穴があいていて、そこから光が漏れている。
取り出すには小さすぎる穴だ。
「これは……無理ってことですよね?」
「はい。取り出すのは難しいでしょう」
残念。仕方ない。
穴の奥へとさらに進んでいく。
「ふぅ……」
「ルーちゃん大丈夫? なんか顔色が悪いよ」
「え? ああ、大丈夫です」
「ルシラ君本当に? ルシラ君は実戦経験が少ないから無理しちゃだめよ」
「そうですルシラ様。お疲れなら休みましょう」
みんなに心配されてしまう。
これは疲れなのだろうか。でもおかしい。
伝説の木の棒のチート神力で、こんなに簡単に疲れるわけない。
稽古を1日中やっていても、疲れて動けなくなることはない。
それともミカ様が言っていた通り、これが実戦で感じる疲労なのか?
この聖樹王の穴に入ってから……いや、もっと正確にいうと、聖樹王に近づくほど僕の気持ちは悪くなっていった。
なんて表現したらいいのか分からない。
とにかく気持ちが悪い。そして頭痛もしてきた。
頭の中をかき回される、とはこんな感覚ではないだろうか。
頭痛を押さえながら進む。
すると、道が分かれた。
「これは?」
「道が二手……いえ、他の地上の穴からここに繋がっているのかもしれません。聖樹王の穴の中では、新しい穴が次々と生まれています。別の穴とたまたま繋がることも過去に例があります」
なるほど、穴と穴同士が中で繋がるのか。
確かに片方の道は下に降るより、上に登っていく感じだ。
下に降る方の道を進む。
30分ほど進んだ。
「おかしいわね」
「ええ。悪魔とまったく遭遇しなくなったわね」
「さきほどの別の道から誰か先行しているのかもしれません」
悪魔は倒されると、聖樹王の中に吸収されて消えていく。
死体は残らない。
悪魔の素材を欲しがる人はいないので、悪魔は倒したら放置である。
死体は10分ほどで吸収されるそうだ。
さらに進んでいくと、吸収されていない悪魔の死体が転がるようになった。
間違いない。僕達の前を進んでいる者達がいる。
おそらくプレイヤーだ。
ルーン王国の騎士魔法士達は誰も穴の中に入っていないはずだ。
ギルドに登録している一般の冒険者の可能性もあるけど、中穴に挑むような一般の冒険者は皆無らしい。
奥に進む。
くそっ! 頭痛が激しくなってきた。
息も荒い。
いったい何なんだ。
目眩までしてきた……。
これはちょっとやばい、耐えられない。
もう無理。
弱音を吐こうとした時だ。
「なっ! なに?!」
ミカ様の驚愕の声。文無しとマリア様も同じ思いだろう。
そして頭痛と目眩で倒れそうな僕も分かった。
信じられない魔力の高まり。
マリア様を遥かに超える魔力の高まりが近づいてくる。
こ、これなんかやばいんじゃないか。
「くっ……」
「ルーちゃん?!」
「ガ、ガブリエル様……最悪の時は瞬間転移を……くっ!」
僕はゴブルンをなんとか召喚する。
「ゴブッ! ゴ……ゴブ?!」
「ゴブルン……頼む……」
金剛メイスをアイテムボックスから取り出してゴブルンに渡す。
もうだめだ……動けない。
「ルシラ様!」
マリア様が僕の肩を抱えてくれる。
文無しが太陽の光を注いでくれる。
ミカ様は近づいてくる何かに備えている。
ゴブルンは僕の前に立っている。
圧倒的な魔力が近づいてくる。
やがて見えてきたのは……。
「くっ! 化物め!」
少女? なんだ……鎌? 大鎌を持った少女だ。
その少女を見た瞬間、ミカ様と文無しが口を揃えて叫んだ。
「「サリエル!!」」
なんとか意識を保つ僕に聞こえてきた名前。
サリエル
ミカ様と同じ大天使。
アルテミス様に仕えていたはずだ。
この少女が……死を司る大天使。
「ミカエル様?!」
ミカ様を見たサリエル様は、それが大天使ミカエルであると一瞬で分かった。
しかし文無しがガブリエル様だとは分からないだろう。
「逃げて下さい!」
サリエル様の大声が響く。
逃げる……サリエル様は「化物め!」と叫んでいたはずだ。
つまりサリエル様も逃げている。その化物から。
サリエル様の言葉通りに僕達は来た道を全力で戻る。
僕はマリア様に抱きかかえられてしまった。
もう自分では歩くことすら難しい。
「はぁはぁ……サリエル。どんな悪魔と戦っていたの?!」
「わ、分かりません! あれが悪魔なのか人間なのか! とにかく危険です!」
ミカ様の問いにはっきりと答えられないサリエル様。
道が二手に分かれる。
さっきの場所だ。
「はぁはぁ……はぁはぁ……大丈夫かしら?」
「魔力は感じなくなりましたね。でも相手が魔力を隠したんだと思います。」
「そう思います。あれほどの魔力の高まりが一瞬で消えました」
文無しがサリエル様を太陽の光で回復する。
僕はとても治癒神力を出せる状態じゃない。
「サリエル、貴方の身体……これは凍傷?」
「え? は、はい。相手は冷気の魔力を……貴方は……」
「あっ! 私よ。ガブリエルよ」
「ええ?!」
「説明は後でするわ。それにしても酷い凍傷ね」
「相手は氷魔法を使ってきたのですか?」
マリア様が冷静な声でサリエル様に聞く。
「氷魔法……私もそう思うのですけど、何かが違うというか……魔力そのものが冷気なんです」
「魔力が冷気?」
「この道の先にいた悪魔の死体は貴方が1人で倒したのよね?」
「はい。1人で穴に潜ってずっと戦っていましたので」
1人で穴に潜ってずっと戦っていた? なんて無謀な。
「そしたら……突然、私と同じぐらいの少女が現れたんです」
「少女?」
「はい。黒髪黒目の可愛らしい少女です。でもいきなり襲ってきて」
「悪魔が少女の姿に化けているのかしら?」
ミカ様のその言葉の後に、突然その声は聞こえた。
「悪魔は貴方達でしょ。聖樹様を傷つける悪魔!」
魔力を隠していた少女が姿を現した。
黒髪黒目の少女。
蒼い法衣を着ている。
笑えばきっと笑顔が可愛い少女だ。
「絶対零度」
しかし少女は険しい表情で呟いた。
少女の言葉と共に一気に高まる魔力。
あり得ない……あり得ない魔力だ。
勝てるわけがない。
感じるのは死の鼓動だけ。
逃げないと。
逃げないと。
逃げないと。
顔を上げれば、そこには絶望しかなかった。
二手に分かれる道のどちらも、氷で塞がれていた。
この少女と同じ魔力の氷だ。
砕けるとは思えない。
瞬間転移しかない。
サリエル様をいれて5人。
ガブリエル様も一瞬でその判断になった。
しかしこの少女はその一瞬すら与えてくれる相手ではない。
その一瞬を与えてくれたのは、ゴブルンだった。
「ゴブォォォォォ!」
少女に向かって金剛メイスを打ち込もうと突進した。
ガブリエル様が瞬間転移のカードを出す。
すまないゴブルン。ありがとう。
余計な恐怖を感じる必要はない。
金剛メイスは回収できないけど、仕方がない。
僕はゴブルンの召喚を取り消そうとした。
その時だ。
「え?……ゴブルンさん?!」
少女の口からゴブルンの名前が聞こえた。
軽くゴブルンの一撃を避けた少女。
ガブリエル様の瞬間転移のカードが光る。
同時にゴブルンも召喚取り消しで、光りとなって消えていこうとする。
少女はゴブルンに見せるように、手に持っている木の棒を前に出す……木の棒?
「待って! ゴブルンさん! 私です! ニニです!」
ぐああああああああああああああああああ!
その木の棒を見た瞬間、僕の中の何かが壊れた。
薄れゆく意識の中、最後に聞こえたのは少女の名前と、落ちた金剛メイスの音。
ニニ




