第17話 聖女マリア
―― 聖樹王暦2000年 1月 14日 8時 ――
ミニゴブルン召喚!
「ゴブッ!」
今日はバナナ食べていなかった。
ゴブルンに魔力の使い方をレクチャーした。
理解したような、していないような。
とりあえず「ゴブッ!」と返事だけは元気だった。
金剛石から作ってあげる武器はメイスでいいか?と聞くと喜んでいた。
父親のゴブルンと同じ武器で嬉しいのだろう。
上手く聖位ナールと繋がったら、ミニゴブルンのメイスも作ってもらおう。
いつもの軽食屋でミカ様と朝食。
そして午前中は稽古依頼を受けた。
軽食屋でお昼ご飯を食べて、王城バッキンガムに向かう。
文無しは仕事中だろうけど、マリア様が手紙を読んでいて、誰か使いの者を待たせているかもしれない。
王城10階に到着。
文無しは今日も「天使の巫女」の仮面を被って頑張っていた。
僕達が文無しの近くに寄った時だ。
「ルシラ様でしょうか?」
振り向くと……時を奪われるほど可愛くて綺麗な女性が立っていた。
白の神聖な印象を与える法衣に身を包んだ女性。
艶々の黒髪は肩まで美しく伸び、どこか幼い印象を与える童顔の可愛らしい顔立ち。
雪のような真っ白な美しい肌は大人の魅力に溢れている。
そしてものすごいスタイルだ。
な、なんて胸の大きさ!
でかい! でかすぎる!
研修用ビデオにでてくる女神達クラスだろ! H? いや……その上のIか?!
纏う雰囲気は優しくて慈愛に満ちている。
天使だ。
人間なのに天使がここにいる。
「……?」
名前を呼ばれたのに、ぼ~っとその女性を見てしまった。
一瞬、人違い? の顔をされてしまったのだ。
「は、はい。ルシラです。え、えっと貴方様は?」
「申し遅れました。私はマリアと申します」
「「え」」
ミカ様と同時に驚きの声。
使いの者どころか、ご本人様登場です。
―― 木の間 ――
マリア様は僕とミカ様を、王城バッキンガムの85階に連れてきた。
王城バッキンガムは100階建てらしい。
90階以上は王宮。つまり女王の領域となる。
この85階はマリア様の第1魔法士団の階なんだそうだ。
木の間と書かれた部屋に案内された。
中は名前通り、木で作られた部屋だった。
「改めて自己紹介させて頂きます。ルーン王国第1魔法士団団長を務めておりますマリアです。ルシラ様のお手紙を拝見させて頂き、すぐにでもお会いしたいと思いお待ちしておりました」
「ル、ルシラです。もんな……ガブリエルさ……んと同じギリシア王国から来た冒険者です」
「ミカです。私もギリシア王国から来ました」
「ガブリエルちゃんの癒しの力によって、多くの民が救われました。彼女はあんなに小さな女の子なのに本当に働き者で……私が彼女と出会ったのも、たった1人で危ない森の中を彷徨っている時でした。
あの奇跡の力を持つ彼女を救えたのは、きっと聖樹王の導きでしょう」
文無しめ。
完全に猫被っているな。
「ガブリエルもマリア様に出会えたことを神に感謝していると思います」
ミカ様が真面目な顔で言った。
間違いない。真実だろう。
「え、えっと……手紙読んで下さったのですよね。あの……」
「はい。聖樹の祝福について話したいことがあると……それだけ読めば悪戯としか思えない言葉ですが、ガブリエルちゃんからお2人が親友と聞いております」
文無し。僕達はいつ親友になった。
「あの奇跡の力を持つガブリエルちゃんの親友の方が「聖樹の祝福」という言葉を書かれたとあれば……これはもうお会いして話をしなければいけないと感じました」
「あ、ありがとうございます」
文無し。僕達は親友だ。
そして、すんげ~期待している。
マリア様の目が期待で輝いている!
「ご、ごほん。じ、実はですね……マリア様に見て頂きたいものがございます」
「はい。何でしょう」
「これです」
僕は立ち上がると、椅子の後ろのスペースを確認する。
うん、十分な広さだ。
アイテムボックスからそれを取り出した。
「こ、これは……!」
「1000年前の神々の戦争ラグナロク。その時、聖樹王に仕えた伝説のゴブリンの話はご存知ですね?」
「……もちろんです。その話を知らない者などおりません」
「そのゴブリンが持っていたメイスをご存知ですか?」
「はい……金剛メイス」
「これはその「金剛」です。そしてこの鉱石を良く見てください。何かに見えませんか?」
「……ゴブリンですね」
「はい。この金剛石は、1000年前に聖樹王に仕えた伝説のゴブリンです」
「……」
マリア様は驚愕のあまり言葉を失っている。
ふらふらと金剛石に近づいていく。
掴みはOKだ。
後戻りはもうできない。
やるぞ、やってみせるぞ!
「ふ、触れても?」
「どうぞ」
マリア様が金剛石に触れる。
その感触を確かめるように。
「金剛石……間違いなく本物だわ」
本物と分かるのか。
やはり王城には金剛石が存在しているのか?
「そしてこの金剛石が、伝説のゴブリン……」
「僕達は聖壁の外の森で、伝説のゴブリンと出会いました。名はゴブルン。ゴブルンはその身を僕に捧げてくれました。自らは金剛石となり……そしてゴブルンの心臓はこれになったのです」
ここで最高純度神石を取り出す。
光り輝くクリスタル。
マリア様の目が最高純度神石に向けられる。
もう言葉どころか、意識を保っているのがやっとの状態だな。
「こ、こ、これは……なんという輝き……そして大きさ」
「最高純度神石です……そして中には聖純度神石があります」
「……ど、どうして伝説のゴブリンは、その身をルシラさんに捧げたのですか?!」
マリア様が混乱状態で僕に詰め寄る。
ある程度は予想、想像、推測していたけど、遥かにそれらを超える結果だ。
いま目の前にあるものは、マリア様にとって、この世界の人達にとって信じ難いものなのだろう。
でもまだ終わりませんよ?
トドメの一言を僕は発した。
「それは、僕が聖樹の祝福を授ける者だからです」
勝利である。
完全にマリア様の心を掴んだ。
マリア様は僕を神聖な存在……そう、まるで神として扱うようになった。
あの後、さらに治癒神力も見せた。
土魔法で自らの腕を傷つけて、その傷を一瞬で癒してみせたのだ。
これでもうマリア様はノックアウトです。
マリア様は混乱状態から落ち着くまで1時間以上かかった。
部下を呼ぶと、女王ティア様の予定を確認していた。
すぐにでも僕達をティア様に会わせようとしていたのだ。
しかし、ティア様の予定は空いていなかった。
マリア様は「最優先事項だと伝えたのですか?!」とちょっと怒っていた。
怒られた部下はビクビクしながら「け、賢老会の方と面会中です」と答えていた。
賢老会とはなんだろう?
マリア様もその言葉を聞いたら「そう……分かったわ」と引き下がった。
そんなわけで、マリア様から今夜はぜひうちに泊まって下さいと申し出があった。
いきなりのお招きですね!
マリア様の豪邸にお泊りできる!
文無しの本性を暴いてやるか?
それも面白いな。
いやいや待て。
天界に戻ったら文無しは大天使……じゃなくなるのか。
文無しは下手したらラグナロク終わったら最下級天使の可能性があるな。
ミカ様と一緒にマリア様の豪邸に泊まることにした。
マリア様は午後の業務を全てキャンセルして、僕達を豪邸に連れていってくれた。
もちろん文無しは最後まで仕事である。
―― マリアの豪邸 15時 ――
マリア様の豪邸は王城からすぐ近くにあった。
文無しが言っていた通り……とんでもない豪邸だった。
先に使いの者を館に向かわせていたらしく、僕達が到着すると館の人達全員での出迎えとなった。
もちろん僕のことは秘密である。
最上級の客人としてもてなす様に伝えているのであろう。
案内された部屋も、これまたメチャメチャ豪華だった。
ここに1人で寝るの?
10人ぐらい寝れるんじゃね? と思えた。
男性と女性の客人が泊まる館は分けられていた。
本館の右にある別館が男性用。
逆に左にある別館が女性用だ。
客人は僕達以外には文無ししかいない。
つまり、男性用の別館に泊まるのは僕一人なのである。
夕食の時まで別館でお寛ぎ下さいと言われた。
部屋にはもちろん豪華なお風呂場があるのだが、1階の奥には温泉とプールがあるらしい。
ってことは、ミカ様も温泉とプールに?!
ミカ様の水着姿……くぅぅぅぅ! 見たい!
しかし覗きはまずい。
見つかって好感度が下がったら大変だ。
ここは大人しく夕食まで部屋でごろごろしているか。
そう思っていた時だ。
僕の部屋のドアがノックされた。
そして部屋に入ってきたのは……マリア様だった。
―― その頃、女性別館 ――
ミカは温泉があることを聞くと、すぐに温泉に向かいゆっくりと温泉を楽しんでいたのであった。
―― 男性別館 ルシラの部屋 ――
「ルシラ様、お寛ぎのところ申し訳ございません」
「い、いえ。大丈夫です」
僕は慌ててソファーに座り直した。
ふかふかのソファーでだらけていたのだ。
マリア様は聖女の微笑みを浮かべながら、僕の隣に座った。
聖女マリア。マリア様の呼び名らしい。
くっ……さきほどまでの神聖法衣から着替えたマリア様は、黒のロングドレスを着られている。
ス、スリットが深い!
そして胸元が大胆に開いている!
ミカ様のユリ鎧と同じベアトップになっている!
マリア様が入ってきた後、メイドの人達はマリア様の分のお茶をテーブルに置くと部屋を出ていってしまった。
部屋には僕とマリア様だけ。
あ、あれ……この展開って……もしかしてもしかする?
マリア様の目は完全に僕を崇拝している。
神を見る目だ。
たぶん僕の言うことなんでも聞いちゃうんじゃないかな?
こ、こんな素敵な女性が僕の言うことなんでも聞いちゃうの?!
や、やばい……理性がぶっ飛びそうだ、
「ルシラ様の聖樹の祝福のお力……感動いたしました。ルシラ様こそ聖樹様の生まれ変わりです」
「聖樹様って……どんな人だったのですか?」
ち、近いよ! マリア様近いよ! 胸当たってるよ!
「分かりません。神々の戦争ラグナロクの時に、伝説のゴブリンと3人の女神に聖樹の祝福を与えて導いた方と記録にあるだけです。一説には聖樹王そのものであるとも言われております」
「聖樹王そのもの……」
「はい。ラグナロクにて神々を失い、私達は聖樹の祝福を失いました。今でこそティア様の発明によって神石の恵みを授かりこうして豊かに暮らしていますが、私が小さかった頃はこんなに豊かな暮らしではありませんでした」
ぬぉぉぉぉぉぉ! もう完全にマリア様の胸が僕の腕を咥えちゃってます!
「ギリシア王国からの冒険者達が神石……特に高純度神石を集めているとか……このことを知っているのは極一部の者だけです。ガブリエルちゃんにこのことを聞いても、なぜか話す言葉が理解できない言葉となってしまうのです。ルシラ様もきっとそうなのでしょう。ギリシア王国の秘密に関することは、喋れないような魔法がかけられていると、私は思っています」
ほぼ正解です。そして胸の柔らかさがすごいです。
「ルシラ様ぁ~」
うひゃぁぁ! 耳元で囁かないで! 息がかかります!
「私達に聖樹の祝福を与えてくださるのですよね? ルシラ様が再びルーン王国に聖樹の祝福を与えてくださるのでしたら、ギリシア王国が神石を必要としていることに、全面的に協力することもできますわ」
う、そ、それはちょっと勘違い。ギリシア王国が必要としているんじゃなくて、プレイヤー達が勝手に集めているだけなんだよね。
「聖樹の祝福を与えて下さるのでしたら……伝説のゴブリンがしたように……私もこの身をルシラ様に捧げても構いませんわ」
くぅぅぅぅぅぅぅぅ! マリア様の身を捧げちゃう?! 僕にですか?!
そ、それって……!
マリア様の官能的な脚がスリットから現れると、僕の脚に絡まっていく。
「ティア様より先になんて本当はいけないことですけど……私に聖樹の祝福を与えてくださいませんか?」
与えちゃいます! もうびんびんに与えちゃいます!
し、しかし! 聖樹の祝福を与えるって……ミカ様の白花の時と同じようにしたらいいのか?
この世界の人達に聖樹の祝福を与えたことなんてない!
ミニゴブルンはゴブリンなわけで……。
でもやるしかない! ここでできませんなんて言ったら殺されるかもしれない!
「わ、わかりました。や、やってみましょうか。ただし、必ず聖樹の祝福を与えられるわけではないのです。私と心が通じ合っていないとダメなのです」
防御線を張っておく。
「心が……」
「はい。こ、これを両手で握って祈ってもらえますか?」
伝説の木の棒を出す。
そしてマリア様の前に棒を出すと、マリア様は棒を両手で優しく包み込むように持ち目をつぶり祈りを捧げる。
くっ! お願いだ! 聖樹の祝福よ! マリア様に聖樹の祝福を与えたまえ!
僕は神力に想いを込めてマリア様に力を流してみた。
その時だ。
マリア様の頭の上に文字が浮かんできた。
こ、これは!!!!!
♦♦♦
名前:マリア 性別:女 年齢:30歳
種族:人間 身長:160 3サイズ:98(I)/58/89
祝福:
♦♦♦
ステータス画面?!
なんでステータス画面が?!
マリア様の頭の上にステータス画面が見えてきた。
僕達とはちょっと違う。
神力やレベルはない。
代わりにものすごい情報が表示されている。
そして技能ではなく「祝福」となっている。
これはいったい……。
「祝福」と念じてみる。
そこには僕達の「技能」と同じ一覧があった。
いやまったく同じではないか? なんかちょっと違うな。
聖樹の祝福とは、この世界の人達に「技能」を授けることなのか?
どうやって授けるんだ? 技能ポイントみたいな祝福ポイントは表示されていない。
試しに魔法の「光魔法」の祝福を取得してみようとした。
祝福:(真)光魔法
できた……できちゃったよ。
これでマリア様に光魔法の祝福を与えられたのか?
でも(真)ってなんだ?
そして祝福に与えるために何が必要なのかも分かった。
それが僕の身体から抜けていくのが分かった。
神力だ。
自分のステータス画面を見る。
神力:1402
減っている。1502あったはずの神力が1402になっている。100消費したのか。
祝福に表示されている光魔法にレベルはない。
祝福一覧からも光魔法は消えている。
つまり取得は1回だけってことか。
僕が祝福をあれこれ考えていた時だ。
「ルシラ様……」
「あ、は、はい!」
マリア様が涙を流しながら目を開けた。
そして上目使いで僕を見つめながら、いきなり抱きついてきた。
「ありがとうございます……ぐ、ぐすん……ルシラ様の聖樹の祝福を感じました! 私の中で何か大きな力が溢れてきます」
マリア様はその巨大な胸に手を当てて精神を集中していく。
そして輝く光がマリア様を包み込んでいく。
光魔法……なのか?
なんかミカ様の光魔法より全然強いんだけど。
ものすごい光なんだけど!
「これは……光魔法……まさか……真なる光魔法!」
真なる光魔法?
僕に抱きついて離れないマリア様。
どうにかこうにか落ち着かせた。
僕の棒は落ち着かないけど。
真なる光魔法とは何なのか。
聖樹の祝福が失われる前と後で、魔法の性質が変化していたのだ。
聖樹の祝福が失われた時、同時に魔法も失われた。
魔法のある世界から魔法が失われる。
それは人が生きていく上で大きな力を失うことだ。
しかし魔力が失われたわけではなかった。
人々は魔力の研究に乗り出す。
そうして創られたのが現在の魔法なんだそうだ。
長年の研究の結果、聖魔法以外の全ての魔法を復活させた。
しかし新しい魔法は、古代の魔法に比べてとても弱かった。
聖樹の祝福を受けて使っていた古代の魔法を真なる魔法と呼び、その後に人の手によって創られた魔法を単なる魔法と呼んだ。
魔法は魔力を研究した結果、魔力を様々な性質に変化させたものだ。
真なる魔法とは、その性質を支配する魔法といわれていた。
つまり、今マリア様に与えた光魔法が真なる光魔法とすれば、マリア様は光を支配したことになる。
それならあの光の強さも納得だ。
そしてレベルが存在しないことも。
その性質を支配するのだから、レベルも何もない。
マリア様は嬉しそうに光を何度も出している。
「祝福を与えて頂いたばかりで、まだ上手く使えないようです。これから鍛錬に励み、ルシラ様より頂いた真なる光魔法を極めてみせます!」
まだ強くなるの? こんなにすごいのに?
いや、マリア様だから初めからここまですごい真なる光魔法を使えたのだろう。
マリア様はルーン王国最強の魔法士と聞いている。
普通の人ではこうはいかないだろう。
マリア様はその後、夕食までずっと僕にべったりだった。




