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ラグナロク  作者: 木の棒
第3章 文無し的な!
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第14話 バッキンガム

―― 聖樹王暦2000年 1月 12日 11時 ――


 整備された道を歩いて王都テラの中央にそびえたつ王城を目指す。


 王城と呼ぶけど、まったく城の形はしてない。

 いや、それは僕の知識の中での城ってことだけど。


 天に届きそうなほど高い円柱の建物。

 これが王城バッキンガム。

 何階建てですか?


 入口の門まで来ると、意外に人が大勢いた。

 まるで観光名所だな。


 っと思っていたら観光名所だった。

 なんと1階から10階までは一般開放されているのだ。


 入場料100G取られました。


 1階は巨大なロビーとなっている。

 そして壁画や銅像が飾られている。


 この国、そして世界の歴史や偉人達を紹介しているのか。


 2階は、おみやげコーナーだった。

 ミカ様に後で何か買って帰ろう。


 3階は資料館。様々な書物が保管されているようだ。


 4階から7階まで、いろんなお店が入っていた。

 宮廷お抱え職人達のお店だった。


 8階はレストラン。


 9階は展望台や軽食屋さん。


 そして10階は、騎士や魔法士達との触れ合いの場?

 小さな子供が騎士や魔法士を輝く目で見ている。


 本物の武器防具に、本物の魔法を披露したりしている。


 ん? なんだあそこ。やけに人が多いな。


 行ってみると、小さな女の子が魔法を披露していた。

 そして小さな女の子を囲んでいるのは、じいちゃん婆ちゃんの老人達ばかりだった。

 なんだこれ?


「ありがたや~。ありがたや~」


「おお……長年苦しんでいた腰痛が嘘のように治りましたじゃ!」


 腰痛が治った?

 見ると女の子が、じいちゃん婆ちゃん達を治療していた。


 女の子の指先が光る。

 すると、治療を受けていたじいちゃんの身体がみるみる生気に溢れていく。


 え? これって……治癒魔法?

 治癒魔法とか回復魔法とかないんじゃないの?

 それって失われた聖魔法なんじゃないの?


「ありがとうございます~。天使の巫女様」


 天使の巫女様? 天使?


 ちょっと移動して治療する女の子斜め横から見てみた。

 その女の子の背中から、小さな白い羽が生えていた。


 プレイヤーだ!

 この女の子はプレイヤーで、キャラメイクの時に種族「ハーフエンジェル」を選んだんだ。

 間違いない。


 この治癒魔法のようなものは、特典アイテムの能力か?

 それとも「ハーフエンジェル」は神力を使うことができるとか?!


 あ、あり得る……だってハーフエンジェルだし。

 半分天使だし!


 自分だけ特別に神力が使える! わけではなかったのか。


 ミカ様に報告だな。

 それにしても、こんな小さな女の子の天使なんていたっけ?


 何歳だ……10歳ぐらいじゃないか?

 そ、それなのに、なんて胸だよ。

 僕のスカウターによるとFはあるな。


 ちなみに、ミカ様はGと見ている。


 この女の子、胸もそうだけど、茶色の綺麗な髪。

 雪のような真っ白な美しい肌。

 綺麗に整った顔立ち。


アンバランスだ。

 大人の女性がそのまま小さくなったような感じだぞ。


 しかし、囲むじいちゃん婆ちゃん達には、思いっきり子供スマイル炸裂させている。

 愛嬌振りまいてるよ!


 あんまりじろじろ見て気付かれてはいけない。

 プレイヤーがこんな場所で何しているのか気になるけど。


 ん? 待てよ、待て。

 この女の子……王城側なのか?

 だからここで働いている?


 え? 王城に就職しちゃったプレイヤー!

 そんなのアリなのかよ!


 い、いや、別にダメってルールないもんな。

 権力の中枢にいることは悪いことじゃないし。


 でもそれで神力を得られるのか?


 はっ! そうか! 聖純度神石か!

 王城に潜り込んで、聖純度神石を奪おうとしているのか?!


 小さな女の子は愛嬌でみんなを騙しているんだな!


 お、恐ろしい。

 なんて恐ろしい子!



 僕はその場を離れて7階に向かった。


 7階は武器防具それに魔道具関連のお店だ。

 宮廷鍛冶師達の逸品が並んでいる。


 値段も馬鹿高い。


 売ることを目的にしていないな。

 宮廷鍛冶師とは、こんなにすごいんです! というのを見せるためだろう。

 小さな子供が将来目指す目標を見せているのだ。


 後はマニア向けか。

 鍛冶師らしき者と、何やらあれこれ語っている者達がいる。


 さて、剣の店はどこだ?

 剣は剣でも、片手剣。

 それにサーベルの形状がいいな。

 ミカ様はサーベルがお好きなようだ。


 剣のお店が並ぶ一角に、サーベルを展示しているお店があった。


 お値段1,000万G。


 これでも中位の鍛冶師の作品らしい。

 最上位ともなれば、最低でも億超えだとさ。


 聖位の作品は聞いていた通り、お金で買えるものではなかった。

 買えなくてもいいから、見ることってできないかな。


「すみません。聖位の方が作られた剣を見ることってできないですか?」


「申し訳ありません。それはちょっとできないですね」


 だめか。仕方ない。


 ちなみに、正規の手続きで宮廷鍛冶師に依頼する場合、ここに来て依頼するそうだ。

 紹介状や、事前に根回しがない場合は、やはり半年以上かかるとのこと。



 防具屋も見て回った。

 革の上着は買ったけど、いつまでも最初の布の服ってのもね。

 動きやすいのがいいから、布系の服がいい。


 防具に関しては、布、革、鉄などの種類よりも、どんな素材なのかが重要だ。


 その素材がどれだけ闘気の力と融合して高い効果を発揮するかで、防御力は決まるのだ。

 もちろん鉄や鋼となれば、それだけで防御力もそこそこあるんだけどね。


 上位の裁縫士が作った布の服が展示されていた。


 デザインもシンプルなのにかっこいい。


 お値段500万G。


 10万Gぐらいの布系の服ありますか? と聞いたところ、数着持ってきてくれた。

 その中に黒色の布の服があった。


「こちらは黒蚕の糸で作られた絹の服です。糸のとる段階から闇魔力を練り込んでおりますので、闇魔法を得意とされる方と相性が良いでしょう。作ったのも中位の裁縫士ですので、お買い得かと思いますよ」


「中位でも10万Gで買えるんですね」


「数が多いのも、安い理由となっております」


「多いんですか?」


「はい。女王ティア様が闇魔法を得意としております。そのため特に布系の服では、黒を基調としたものが多く作られます」


 ほ~。女王様は闇魔法が得意なんだ。

 お買い得ね……買っちゃうか!


「ありがとうございます。すぐに着られますか?」


 試着室で着替えさせてもらった。


「お客様も闇魔法を使われるとのことですが、他にも使われる魔法はございますか?」


「土ですね」


「では、こちらの土蚕の糸で作られた手袋はいかがですか? 土魔法と相性が良いですよ。お値段は5万Gです。こちらは下位の者が作っております」


 商売上手だな!

 う~ん、確かに手袋欲しいね。

 5万Gか。買えちゃうんだよな。


 ミカ様の剣は、この金額でのやりとりではない。

 そもそも、金剛石を対価にしようとしているんだ。


 買ってしまおう!


「ありがとうございます」


 店員にニコニコ顔で見送られた。



 6階に降りる。

 ここは戦闘系ではなく、通常の生活で着るための服のお店、その他にも生活用品関連のお店も入っていた。


 ふむ、このバッキンガムの1階から10階って完全に「デパート」みたいだな。

 いったい誰がこんな形にすることを思いついたんだろうか。


 6階をぶらぶらと見て回る。

 最初に着ていた下着は洗濯不要だ。

 いつだって清潔なのだ。


 しかし、この世界で買ったものは洗濯が必要となる。

 ミカ様は下着を買われていたから、洗濯しているって言ってたな。


 バル王国が研究している「機械」を、いまの女王が取り入れたことで、生活の質がかなり向上したらしい。

 中でもお風呂とトイレに関しては、女王が情熱を注いでものすごい発展をとげたとか。


 でもまだまだ発展していない部分もある。


 洗濯機はない。

 手洗いだ。


 ミカ様もちょっと大変だと言っていた。


 下着だけではなく、肌着やその他の服も、この世界で買ったものは汚れる。


 その事実に気付いて、初日に売ってしまった布の靴を慌てて買い戻しにいった。

 500Gで売った布の靴を1,000Gで買う羽目に。


 布の靴はいつでも清潔なので、部屋の中でスリッパ代わりにしている。

 ま~部屋も常に清潔だから、別にいらないけど、気分的にね!


 そういえば、生活系技能の中に「洗濯」ってあったな。

 あれを取得したら、洗濯が上手になるのか?

 それとも、何か特別な効果で洗濯が楽になるとか?


 む~貴重な技能ポイントを使ってまで取る効果があるのか……。


 そんなことを考えながら歩いていると、1つのお店に目が止まった。



 こ、これは!!!!!!!!!!!!



 聖樹王暦2000年 1月 12日 14時



 ちょっと遅めのお昼ご飯を、いつもの軽食屋で食べている。

 あれから急いで戻ってきた。


 ミカ様もちょうど軽食屋で休憩していたところだったので合流できた。

 僕を見たミカ様の顔がすごく嬉しそうな顔で、これはもう好感度上がりまくりであること間違いなしである。


 ミカ様はお昼を食べられていたので、僕だけ注文して食べているところだ。


 僕がお昼を食べるのを、ニコニコ笑顔で見つめてくるミカ様。

 そんなに見られると照れて食べられないです!


 食べ終えてから、王城バッキンガムでのことを伝えた。


 まず伝えたのは、あの女の子。

 背中ら羽を生やした「ハーフエンジェル」と思われる女の子だ。


「ハーフエンジェルをキャラメイクで選択したなんて信じられない。神力消費5万だったはずよ」


 あれ? そんなにしたっけ?

 神力ない僕はすぐにキャラメイク終えちゃったからな。


「でもそんなに小さな女の子の天使なんて私も知らないわ。ハーフエンジェルを選択できたってことは、神力5万以上の天使ってことよね。上級天使にそんな女の子いたかしら……」


 天使の階級は以下となっております。


 神力1~99      最下級天使

 神力100~999      下級天使

 神力1,000~9,999   中級天使

 神力10,000~99,999  上級天使

 神力100,000~     大天使


 クズから神力を得たことで、僕は中級天使の神力となったのだ!


 ただし、神力が高ければすぐに階級が上がるわけではない。

 神力は最低条件だけど、最終的には神に認められる必要がある。

 その階級に見合う天使かどうか、内面も見られるのだ。


 上級天使までは仕える主神が認めればなれる。

 大天使はゼウス様を筆頭とする12神の承認を受けなくてはいけない。


 実際には神力10万以上の天使は、みんな大天使になっているらしいけどね。


「ミカ様ってこう考えると、天使の最高位なんですよね。新人天使の僕に優しく接してくれて……もう感激です!」


「くすくす♪ ……でも私は天使の最高位じゃないわ」


「え?」


「本当はね……大天使の上があるの」


「え?! そうなんですか?!」


「うん。たった1人だけ……その天使の位を受けることを許された御方がいたわ」


「だ、誰ですか?」


「……」


 ミカ様は答えなかった。

 遠い……とても遠い目をして、何かを思い出しているようだった。



「ご、ごめんなさい。えっと、そのハーフエンジェルは治癒魔法、もしくは治癒神力を使っていたのよね?」


「はい。おそらく特典アイテムの能力か、ハーフエンジェルの種族を選んだ場合には神力を使えるのか。どちらだと思います」


「種族によって能力に差があってもおかしくないもんね。もし神力を使えているなら、ハーフエンジェルには要注意だわ」


 そしてミカ様の剣作成に関して。

 金剛石が伝説の鉱石であること。

 最高純度神石も、とんでもなく貴重なものであったこと。

 さらにはこの中に、聖純度神石があるかもしれないこと。


 最高純度神石を扱えるのは「聖位」の鍛冶師だけだし、聖純度神石があれば聖位の中でも「ナール」という鍛冶師でなければいけないこと。


 最高純度神石も貴重だけど、金剛石は伝説の鉱石なので、これを対価にどうにかしてナールにミカ様の剣を作ってもらえないか考えていること。


「なるほど……私のためにありがとう。なんだかルシラ君に甘えてばかりだわ」


「いいんです! ミカ様のためなら!」


「くすくす♪ ありがとう♪」


 どうやってナールに接触するか、良い案は浮かんでこない。

 とりあえず剣作成はまた考えるとして、本題の……。


「と、ところで、王城の7階にある防具屋でこれ買ったんですよ」


「良さそうね。とっても似合ってるわ」


「ミカ様も手袋を買いにいきませんか? 他にも普段着とかいろいろ売っていますよ」


 女性は買い物好き。

 ミカ様もきっと好きなはずだ。


「そうね……見に行きたいわ」


 きた!


「そ、それなら午後は一緒に王城バッキンガムに行きませんか?」


「ルシラ君行ってきたばかりで疲れているでしょ? 明日でもいいわよ」


「いえ、全然大丈夫です!」


 僕はまったく疲れていないと元気をアピールした。

 ミカ様を上手くあそこに誘導するのだ!



―― 王城バッキンガム前 ――



 きました。

 王城にきました。


 まずは7階に行く。

 そこで、ミカ様の手袋を買いにいった。


 白ユリの鎧が成長すれば、いずれ手袋も白ユリでカバーできるかもしれない。

 そんなに高いものでなく、剣と盾を握るのに手と指を保護できればいい。


 僕の手袋を買ったお店に行ってみた。


 店員が持ってきたのは淡いピンク色の手袋だった。

 ミカ様が光魔法と火魔法を使い、剣で戦うと伝えたところ、どちらにも相性の良い手袋を持ってきた。

 白と赤が混ざって淡いピンク色になったのか。


 お値段8万G。


 僕のより高いけど、ミカ様が色合いとデザインを気に入ったので、そのまま購入した。


 その後、剣のお店を一緒に見て回る。

 展示されている1,000万Gのサーベルを見て嬉しそうだった。


 良い剣を見るだけでミカ様は幸せなのだろう。



 魔道具のお店も見に行った。

 魔道具で最も効果なのは、この世界の「アイテムボックス」である。


 僕達はそれ以上のアイテムボックスを持っているので買う必要はない。


 魔道具のお店の中で他に目を引いたのは「銃」


 銃のお店があったのだ!

 弾は魔力だけど。


 魔力を弾丸にして撃つ銃は魔道具に分類されているようだ。

 聞くと、女王ティア様がバル王国と協力して作り上げたらしい。


 女王ティアって天才なんだろうな。

 ルーン王国で「日本」にあった技術に近い発明ができるなんて。



 魔導具のお店の後に、いよいよ6階に降りた。


 6階の服のお店を見て回る。

 普段着のお店を見て回りながら、自然と「そのお店」に近づいていく。

 自然に……どこまでも自然に。


 そしてミカ様の視線が「そのお店」を捉えた!


「あっ……え、えっと……あっちに行きましょう!」


 ミカ様は方向転換して、「そのお店」から遠ざかる。


 失敗……ではない。

 きっと成功した。

 そこにあると分かったのだから。


 僕が一緒にいると買い難いだろう。


「ミカ様。ちょっとお手洗いに行ってきますね」


「え? ええ、わ、分かったわ。え~っと、私ちょっとぶらぶら見て回るから、ルシラ君も適当にね。もし迷って会えなくなったら、ここに戻ってきましょう」


「分かりました」


 僕はお手洗いに向かう。

 角を曲がり、ミカ様から僕が見えなくなったところで、僕は立ち止まる。


 本当にお手洗いにいくわけじゃない。


 そ~っと、壁からミカ様を見てみた。


 ミカ様が慌てた様子で「そのお店」に向かっているのが見える。

 成功だ。



 ミカ様は「ランジェリー店」へと入っていったのであった。



―― 30分後 ――



 僕は迷って会えなくなったら戻ってくることになっている場所で、ずっと待っていた。

 お手洗いにも本当に行ったけどね。


 ミカ様が戻ってきたのは30分後だった。


 ずっとランジェリー店にいたんだろうな。

 他を見て回っていたわけではないだろう。


「ちょっといろいろ見て回っていたの。ごめんね」


「いえいえ、僕もいろいろ見て回っていましたから」


 いったいどんな素敵ランジェリーを買われたのだろうか。


 白ユリ鎧になった時に見える肩紐が楽しみだ。

 あ~ネグリジェとかもあったのかな?

 それは見ることできないけど、妄想して楽しむことはできる!



 目的も果たしたし帰るか。


「待って。10階に行ってみましょう。ハーフエンジェルの女の子がまだいるかもしれないわ」


 そうだった。すっかり忘れていた。


 10階に上がる。

 女の子がじいちゃん婆ちゃんを治療していた場所に向かう。


 じいちゃん婆ちゃん達の列は続いていた。


 そっと中を見ると、あの女の子が治療を続けていた。

 ずっとここで働いているのか。


「ミカ様。間違いありません。あの女の子です」


 ミカ様もそっと中を見る。

 女の子がお婆ちゃんの治療をしているところだ。


 指に光が宿る。

 その光がお婆ちゃんを照らすと、お婆ちゃんの顔は生気に満ち溢れていく。


 間違いない。治癒魔法か治癒神力か。

 どっちだ?


 ミカ様もその様子をじっと見ていた。

 じっと見て……じっと見て……じっと見て呟いた。



「ガブリエル?」


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