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ラグナロク  作者: 木の棒
第1章 ギャンブル的な!
12/27

第10話 答え

―― 聖樹王暦2000年 1月 11日 22時20分 ――


 そういえば、この軽食屋って閉店何時なんだ?

 かなり遅くまでやってるよな。


 もしかしてゲームの要素の店なのか?

 だから、一般の客がいないとか?

 いつ来ても、僕とミカ様しか客いなかったもんな。


「ぐぅぅ、ど、どうして……ぐああああ!」


「喋るなと命令したぞ。いいのか、喋って? 地獄の苦痛なんだろ」


 クズが僕の前で、苦痛に耐えられず転がり回る。


「ミカ様もう大丈夫です。苦痛は感じませんね?」


「え、ええ……大丈夫よ」


 逆に苦痛から解放されたミカ様。

 それでも、地獄の苦痛の記憶は残るだろう。

 抱きしめて、治癒神力を流し続ける。


「も、もう大丈夫よ」


「いえ、もう少し。あんなに辛い苦痛だったんですから。身体に痛みが残っているでしょう」


 クズの苦しむ様を見ていると、この苦痛に耐えていたミカ様の精神力は本当にすごい。

 僕なら1秒も耐えられないだろう。

 このクズと同じように。


「クズ。奴隷に関して隠していること、もしくはさっき僕達に伝えた中で嘘があれば正直に全てを伝えろ」


「う、嘘はない! 隠していることも……も、もうない!」


「奴隷を持つ天使を奴隷にするという実験は誰が行った?」


「話した兄弟は3人兄弟だったんだ! そいつらが実験した!」


「その3人兄弟はちゃんと奴隷から戻っているのか?」


「戻っている! ちゃんと神力を戻して奴隷から戻っているはずだ!」


「そうか……」


 仲の良い兄弟でよかった。


 クズはこいつだけってことか。


 クズの持っている情報は得たい。

 でも、クズのことを1秒でも見ていたくない。


 クズと同じ空間にいるだけで、ミカ様が穢れる気がする。


 特に他のプレイヤーの情報をより詳細に聞きたい。

 地下世界のこととか気になる。


 でも、このクズから情報を得るのは、なんていうか……嫌だ。

 こんなクズが、きっとクズな方法で得た情報だ。

 そのクズから情報を得る自分もクズに思えてしまう。


 やめよう。

 さっさと消そう。


「クズ。お前の知っている最も危険な悪魔や魔物がでるところはどこだ?」


「せ、聖樹王の大穴だ」


「今すぐ、1人でそこにいけ。ラグナロクが終わるまでその大穴にずっといろ」


「なっ!」


「気を付けてな。神力がマイナスのまま死亡してログアウトしたら……消滅するぞ」


「ま、待ってくれ! お願いだ! 助けてくれ!」


「……さっさと行け」


「お、おねが、ぐあああああ! あああ……ああああああ!」


 苦痛で床を転がり回りながら、クズは店の外に出ていった。

 聖樹王の大穴とやらに向かえば、クズの苦痛は消えるだろう。

 そこで生き残ることができるか知らないけどね。



 クズがいなくなり静寂の個室の中、僕はミカ様を抱きしめて治癒神力を流し続ける。

 ミカ様の胸の感触がすごすぎます。

 もう離したくありません!

 あ、やばい。僕もクズになりそうだ。


「ふぅ……終わりましたね」


 ミカ様に笑顔を向ける。

 ミカ様も安心した表情だ。でもとても疲れているようにみえる。


「ルシラ君……どうして勝てたの?」


「あ~それは……」


 ふとテーブルを見る。

 クズが置いていった「せいやくトランプ」がある。

 苦痛のあまり忘れたのか。

 ま~これ持っていってもしょうがないだろうけど。


「ミカ様、僕と勝負しましょう。それでどうやってあのクズに勝ったか説明しますね。ついでにミカ様に神力をお返しします」


 ミカ様にハートのトランプを渡す。


「最初にあのクズがミカ様から神力を奪ったのは「乗」という計算をカードに与えていたからでした。おそらく「7」のカードに与えていたんだと思います」


「ええ、私もそう思うわ」


「僕との勝負が「せいやく」されていたのは幸いでした。でも僕の神力が少なくてカードに神力を注げなかったです……くぅぅぅ、情けない!」


「ここまできちゃったから聞いちゃうけど、ルシラ君って神力いくつだったの?」


「……1です」


「え?」


「……1でした。僕の神力は1なんですよ」


「ええ!」


 そりゃ~驚くよな。神力1の天使なんていないですよね。


「ど、どうして神力1なの……主神から神力を1しか与えられなかったの? 聞いていいのか分からなくて、ずっと聞かなかったけど、ルシラ君の主神ってだれ?」


「……クロノス様です」


「ええ~~~~~!」


 ミカ様はさらに驚かれた。

 隠居神クロノス。

 我が主神……くそじじぃである。


「ク、ク、クロノス様! 信じられない……あのクロノス様が天使を召されるなんて……」


 最高神ゼウス様から最高神の座を奪おうと、僕を天使にしたなんて口が裂けてもいえないです。

 早く説明に移ろう。


「せ、説明に戻りますね。神力の足りない僕は、勝負を終わらせるか、あのクズに勝負の途中での「せいやく」の追加を1つ認めるかの選択となりました。そしてクズに「せいやく」を1つ追加させたわけです」


「ええ、そこで「乗」のことを自分でばらしたのよね」


「はい。クズは「乗」の使用を禁止しました。乗が使えなければ、ミカ様から奪った神力を含めた自分の全神力を奪われるような大敗はないと考えたのでしょう」


「私もそう思ったわ。だって、乗が使えないなら後は「+」「-」「×」「÷」の4種類よね?」


「はい。僕も最初そう思っていました。この4種類ではどうやったって、20万以上のポイント差をつけて勝つことなんて無理です。

 考えて、考えて、考えても、どうしたらいいのか分かりませんでした。正直、途中から思考ができなくなっていて、ただただミカ様に治癒神力を流すことしか考えられなくなっていました」


 クズの命令にずっと逆らって苦痛を感じていたミカ様。

 僕がすぐに「あれ」に気付けなかったせいで。


「勝負開始のカウントダウンが始まった時です。「せいやく」のログ画面にこう書かれたんですよ。



―― カウントダウン開始! ――



「その文字を見ていた時です。頭を雷に打たれたような衝撃と共に閃いたんです! これだ! そしてその計算はカードに与えられました。でも、絶対に勝てるわけじゃない。そのカードを当てないといけない。絶対にミカ様を救うために、あの計算を与えたカードを当ててみせる! と決意して勝負を始めたんです」


「あの計算?」


「はい。結局、自分でめくって当てられなかったんですけどね。「13」のカードにそれを与えていたので、最後に残ったカードをめくっただけですから。あれ? なんか格好悪いな……」


 残りものには福があると言うけど、できれば自分でめくって当てたかったな。


「僕が「13」のカードに与えていた計算はこれです」


 僕は「せいやく」のログ画面を指さした。



――


 そこで私が考えた「せいやく」が、カードに次の計算を与えることでした!


――



「この文章がどうしたの?」


「クズが一番最初に僕らに伝えたことが、これです」



――


 それでは、「せいやく」の内容をお伝えします

 これから私がミカ様とルシラ君に伝えることは全て真実であり「せいやく」となります

 またミカ様とルシラ君の言葉も「せいやく」となる場合があります

 私に質問をしたり、私の質問に答えた言葉が「せいやく」となります

「せいやく」は全て文字として記録され、いつでも確認することができます

 記録された文字の言葉から得られる理解が「せいやく」の内容となります


――



「クズは、僕達に『記録された文字の言葉から得られる理解が「せいやく」の内容となる』と伝えています。言葉で伝わる曖昧さを排除するためだと最初は思いました。こうしてログ画面で文字として確認できて便利だな~なんて。

 クズも分かっていなかったんです。この意味を。ログ画面に記録された文字……その文字とはこれです」


 僕はそれを指さした。


―― ! ――



「え? ビックリマーク?」


「はい。ビックリマークですね。これを見て下さい」


 僕は土魔法で薄い黒色の土の紙を作る。

 そこに白色の土で文字を書く。


――


 40 - 32 ÷ 2 = 4!


――


「この計算、ぱっと見た時に合っていると思います? 間違っていると思います?」


「え……間違っているんじゃないの? 32÷2が先で16。40-16で、答えは24でしょ?」


「そうです。答えは24です。では4!は?」


「え?……4のビックリマーク……」


「これは4の階乗です」


「階乗?」


「はい。4!と書くことで、1×2×3×4という意味なんです。つまり24。だからこれは合っているんです」


「……」


 ミカ様は目が点だ。

 さすがは頭脳明晰なミカ様だぜ!

 戦うことに関してだけど!


「まあ、そういう計算記号ってことです。「せいやく」のログ画面に「!」の文字が書かれていました。僕はそれを「階乗」と理解してみたんです。そしたらカードに階乗の計算を与えることができました」


「ルシラ君が階乗を与えたのは……」


「13です。13+13は優先されるので、26。

 26の階乗なのか、26の13階乗なのか、実際にどんな計算がされたのか分かりません。

 ただ「せいやく」で『理解できる最も合理的な計算が行われる』とありますので、26の階乗だとは思います。26の13階乗って数学的にはおかしな言葉だと思いますので。

 そして26の階乗がいくつなのか、僕には計算できません。

 ただ10の階乗は計算しました。3,628,800です。

 十分過ぎるポイントです」


 カウントダウン開始! の!マークを見て、階乗と理解できてよかった。

 人間界にいた時に、ネットで見た記事に感謝だな。


「13に!を与えてみてください。勝負を始めましょう。あ、ミカ様は神力がないから、何か「せいやく」を僕が1つ追加すればいいのか。

 そうですね……この勝負はカードを1から13まで順番に並べて行う! これでいいかな」


 1から13まで綺麗に並べられたカード。

 僕は計算もジョーカーも何も与えていない。

 ミカ様も13に!を与えただけだ。


「では、ミカ様からどうぞ」



 ミカ様がカードをめくる。

 1


 僕がカードをめくる。

 2


 ミカ様がカードをめくる。

 3


 僕がカードをめくる。

 4


 ミカ様がカードをめくる。

 5


 僕がカードをめくる。

 6


 ミカ様がカードをめくる。

 7


 僕がカードをめくる。

 8



 ミカ様を、クズの奴隷から取り返せて本当に良かった。



 ミカ様がカードをめくる。

 9


 僕がカードをめくる。

 10


 ミカ様がカードをめくる。

 11


 僕がカードをめくる。

 12



 ミカ様の美しい瞳に綺麗な雫が浮かんでいる。


 怖かったんだろうな。

 苦痛は辛かったんだろうな。


 大天使ミカエルなんて呼ばれても、ミカ様は普通の女の子なんだよな。

 この10日間で、僕はそれを知っている。


 ミカ様の美しい瞳から綺麗な雫がこぼれ、頬を濡らした。

 そして最後のカードをめくった。


 ミカ様は泣きじゃくりながら、僕に抱きついてきた。

 何度も、ありがとう、ありがとう、ありがとうと囁いて抱きしめてくれた。


 ミカ様の首から首輪が消える。

 これにて一件落着と。









 と思ったら、僕の首に首輪が現れた! ぐはっ!


 ミ、ミカ様! 神力返して~~~~!


名前:ルシラ  性別:男  年齢:18歳  神力:▲1

レアアイテム:伝説の木の棒  せいやくトランプ


名前:ミカ   性別:女  年齢:20歳  神力:201,502


楽しんで頂けたでしょうか?


ここおかしいだろ! これ成立してないだろ! この方法でもいけるよ! などなどご感想お待ちしております。


アレイさんの回答


せいやくの最後の文


勝負の間に新たな「せいやく」を伝えたり、追加したり、変更したりすることはありません


上記に「削除しない」の項目がないため、「乗の使用を禁ずる」を削除できる。

さらに、このせいやくを以下のように理解する。


勝負の間に新たな「せいやく」を伝えたりすることはありません


新たなせいやくを伝える必要がない → 伝えなくても「乗の使用を禁ずる」を「削除する」ことができる。


乗を使って逆転可能。


これがアレイさんから頂いた回答でした。

内容を私なりに整理して書いていますので、文章そのままではないです。

「削除」の項目を書いていないのは、私のミスです。

本当に馬鹿です。


さらに、『伝えたりすることはありません』

もう本当に馬鹿です。

実際のせいやく文は間に『追加したり、変更したり』が入っています。

これを飛び越えて? ちゃんと日本語として理解されたアレイさんに脱帽です。


書くべきせいやく内容は以下だったでしょう。


勝負の間に新たな「せいやく」の追加、変更、削除はありません



また、『1つの計算は1回だけ使える』というせいやくも必要でした。

いまのせいやくですと、×を全てのカードに与えることが可能です。


それだけでは逆転不可能ではありますが、書いておかなくてはいけない内容でした。


見事な回答を見つけて頂いたアレイさんには、賞品として木の棒を100本贈らせて頂きます。



ギャンブル的な! は改稿しません。

そのまま原文を残します。

改稿マークがついているのは、聖樹王歴を2001年から2000年に変更しているためです。


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