聳え立つ山
それは数十分前のこと。
「……どこにあるんだよ、天を突く巨大な山ってのは!」
俺は自棄気味に叫んだ。
「……キュウ」
アルティが俺を宥めるように頭を撫でてくる。……ふむ。
「……でもこの辺に山なんてないしな」
アルティのおかげで少し落ち着いた。
俺は今三蛇との相談の上、天を突く巨大な山にあるというバハムートの祠を探しに来た訳だが、一向に見つからない。太古の洞窟――ベヒーモスの祠がある場所は見当がついているので、先によく分からない山を探しに来たんだが。
「……キュウ!」
高い山が連なる山脈に来てみたが、山が見当たらない。上空は霧なのか雲なのかが濃くて視界が悪い。もうちょっと先に行ってみようかと思いフレイにそう指示しようとしたその時、アルティがビシッと指を差した。……そこには細長い山が一つ。
……いや、どう考えてもこんな山、モンスターしかないだろ。
俺がそう思って嬉々として自分の見つけた山を指差すアルティに言おうかと思った時、眼前にエリアボス出現の警報が出た。……そして真っ二つに開くその山。
「キュッ!?」
山が山じゃないと分かって驚くアルティ。
「……人数が俺だけじゃないな。下に誰かいるのかもしれない。フレイ、降りるぞ」
俺はアルティの頭を指で撫でて慰めつつ、フレイに頼んで急降下してもらう。
だんだんと見えてくるその人達は、『ナイツ・オブ・マジック』と『戦乙女』だった。……姉ちゃんとリィナがいるギルドだ。どうやら同盟を組んで幻想世界に乗り込んできたらしい。
両ギルドの精鋭達は、度重なる戦闘故か疲弊していて、岩のモンスターに苦戦していた。……面倒だし、さっさと終わらせるか。
俺は逸早く四つの祠を見つけたいこともあり、急いで戦闘に向かっていく。フレイの急降下する先にはロックゴーレムが数体いるのも構わず、突っ込む。
「……戻れ、フレイ」
急降下して地面にぶつかる直前、フレイをモンスターBOXに戻す。フレイは戻る前にロックゴーレムを自身の金色の炎で焼き尽くし、俺達を守ってくれる。
そこからとりあえず山に化けていたボスを叩きに加勢し、無事死者を一名も出すことなくエリアボス対戦を乗り切った。
「……おかげで助かった、リューヤ」
お疲れの様子のジュンヤが俺に礼を言ってくる。
「……いいって。それよりこの辺で一番高い山ってどっかにないか?」
俺は少し苦笑して言い、ジュンヤ達に聞いてみる。
「それならリューヤ、あれじゃない?」
話を聞いていた姉ちゃんが斜め上を指差し、俺はそれを目で追う。
「……あれか」
姉ちゃんが指差したのは、上の方は雲に覆われていて見えないが、確かに聳え立つという言葉に当てはまるような、巨大な山だった。……ふむ。富士山よりでかいんじゃないだろうか。
これも全貌が見えないため確証はないが、そう思える大きさだった。
「……お兄ちゃん、もう行っちゃうの?」
リィナが何かを察したのか心配そうな顔で聞いてきた。……俺としては、一緒にいて二人を守りたいんだが。
「……ああ。ちょっと、やることがあってな」
俺は真剣な表情をしてリィナに頷く。
「……お兄ちゃん」
リィナはギュッと拳を握るが、止める気はないようだ。何も言わなかった。
「……んじゃ、あの黒い塔んとこに行くから、そこでまた会おうぜ。じゃあな。――フレイ」
俺は皆に手を振り、フレイをモンスターBOXから出現させてそこに飛び乗る。
向かうは遠くにありながら絶大な存在感を持つ巨大な山だ。
「ピイイイイィィィィィ!」
フレイが綺麗な鳴き声を上げ、大空へと羽ばたく。
「……さて、アルティ。あの山めっちゃ強いモンスターいそうだから、いっちょいくぜ」
「キュウッ!」
俺が声をかけるとアルティは元気良く返事をする。
「……と、その前に邪魔なヤツを片付けるか」
「……キュウ」
俺が俺達の行く手を遮るように現れたモンスターの群れを睨みつけると、アルティも目を鋭く細めた。
「……ギャアァァオ!」
蜥蜴の前脚が翼になったような姿をしたワイバーン。ラヴァワイバーンというモンスターだ。黒い鱗を持ち鱗と鱗の間に赤い光がある。……マグマで出来たとかそんな感じなんだろう。
「……マグマにおいては水を蒸発させる上に炎と土を吸収する、か。厄介だな。――アルティ」
「キュウッ!」
マグマの特性を思い出し、面倒だと思いながらアルティに指示する。
影の刃がアルティの影から溢れ出すと、ラヴァワイバーンの群れへと伸びていき、切り裂いてダメージを重ねていく。
「ギャアアァァァァ!」
だが一方的に蹂躙されて黙っているハズもない。ラヴァワイバーン達は突っ込んでくる俺達を叩き落そうと四方八方から突っ込んだりマグマを口から吐いたりしてくる。
「……フレイ」
俺はフレイに指示し、金色の炎でマグマを弾き突進を滑空してかわしていく。そこにアルティが攻撃を加え、連携が取れている。
「……シルヴァ」
俺は空中戦ならシルヴァも必要かと思い、銀色のバハムートを呼び出す。
「……」
シルヴァはいきなり空中に呼び出されたのにも関わらず、相変わらず落ち着いた様子で翼を羽ばたかせる。
「ッ!?」
シルヴァに戦うよう指示しようとすると、何故かラヴァワイバーンの残っているヤツらが驚いたように慌てて去っていった。……何だ?
「……?」
シルヴァも不思議とばかりに首を傾げている。
「……ま、戦わず平和に行けるならいっか」
何故かは分からないが、無駄に戦わずMPの消費を抑えられるならそれに越したことはないかと思い、俺はそのままフレイに乗ってアルティを肩に乗せ、シルヴァを伴って巨大な山へと向かっていった。




