バハムートの戦慄
「らっ!」
蝶の羽を狙って炎の斬撃を飛ばす。MPを消費するからあんまり使いたくねえんだが。
「キュイイ!」
直撃する。……だが、切断された鋼が溶けて元の形に再生する。
「ピイイイイ!」
フレイの【エンシェントボルケーノ】が放たれる。
金色の炎を敵の足元から天に向かって放つアビリティ。
……フレイの金色の炎はどんなものでも燃やすらしいから、蝶なんて溶けて終わりだと思うんだが
「……やっぱ、そう簡単にはいかないよな」
溶けたは溶けたんだが、HPが残ってるからか再生する。結構ダメージはあるんだがな。
「……ふぅ」
フレイもかなりダメージを喰らっている。……俺が回復してもあまり効果がない。
「キュイイ!」
蝶が自身の背から鋼の鞭を作り出して攻撃してくる。
「このっ!」
伸ばしてきた鞭を切断する。溶かし斬ったような感じだ。
「キュウイイイ!」
蝶が大きく鳴くが、特に変化はない。
「っ!」
その時、俺の背中を重い衝撃が襲った。そう、例えるなら金属の塊みたいな。
「がはっ!?」
俺は身体を逆くの字に曲げて前に吹っ飛ぶ。……何だよ?
「……っ!」
顔を上げると、俺が斬った鞭の先、溶けたそれが俺を囲むように散らばっていた。
「ヤバい!」
こいつが飛んできたんだったら、という俺の推測から、俺は反射的に転がる。
「っ!」
……思ったとおりか。転がっている瞬間に鋼色の物体が飛ぶのを見た。
「……速いな」
飛んできたのを斬るのは無理そうだ。
「キュイイ!」
また蝶が鳴く。何かの合図かと思い身構えるが、鉄のちっちゃい塊が本体に集合しただけだった。
「……ありがたい」
翻弄されずに済むからな。
「フレイ、一気にいくぞ!」
「ピイイ!」
俺は蝶に突っ込んでいく。
「【怒濤火焔】!」
これは決まった動きをしない。がむしゃらに乱舞するアビリティだ。
【怒濤火焔】で蝶をいくつかに裂いて、俺は反動で動けなくなる。
その間に蝶は再生していき、俺に向かって鋼の斬撃のようなものをいくつも放つ。
「ピイイ!」
それは俺に当たらず、炎を纏ったフレイが防いだ。
「【フレイムレイン】!」
俺は口だけを動かして、フレイに指示する。
炎の雨を降らせて、蝶を怯ませる。
「【マグマブレイズ】!」
俺は蝶の頭から尻までを一閃し、マグマでドロドロに溶かした。
「【フレイムフェザー】!」
フレイに両翼から炎の羽をいくつも飛ばさせて、追撃する。
「キュイイイイイ!!」
怒ったように蝶が鳴いた。
もうHPはレッドゾーンに入っている。
「くっ!」
蝶はここで再び、鞭を作り出した。
「【インフェルノフレア】!」
フレイが持つ最大威力の炎が蝶の下の地面から吹き上がり、蝶を包んだ。
「……」
炎がおさまって、蝶は地面に墜ちる。
「……やったか」
HPも真っ白だ。
「……キュイイ!」
「っ!?」
蝶が、両羽が焼け落ちた体で、一本の鞭を繰って襲ってくる。
「【フレイムウェーブ】」
俺は炎の波を走らせて、蝶にトドメを刺す。
「……ちょっと残ってたみたいだな」
今度こそ力尽き、粒子になって消えゆく蝶を見て言う。
他を見ると、善戦していた。
鉄巨人はあと一撃かそれくらいってとこで、ちっちゃいギガンテスが鉄巨人を足から持ち上げて、ぶん投げた。
……何つう怪力だよ。突然変異とかだろうか。
鉄獅子もレッドゾーンに入っていて、高速の一斉攻撃を喰らって倒れた。
▼△▼△▼△▼△▼△
「……さあ、いくぞ」
俺はクリスタ、リヴァア、フレイ、アルティをモンスターBOXに入れて休ませ、エフィとナーシャに言った。
「……うん。後方支援の誰かに戦況聞いとかないと」
エフィの提案で、リィナの元に行き、戦況を聞くことにした。
「リィナ! 戦況はどうだ?」
俺は魔法を放っているリィナに声をかける。
「お兄ちゃん! そっちは終わったの?」
「ああ。エフィとナーシャが手伝ってくれてな。それより戦況は?」
「……新人半数、『軍』、『狂戦騎士団』、『暗黒魔術師団』五分の一。他には『ナイツ・オブ・マジック』が三人殺られたって」
「っ!」
そんなにかよ!
「トッププレイヤーの被害は!?」
「お兄ちゃんの知ってる人は死んでないけど、危なかった人はいるよ。……さっきアリシャちゃんも前線に出ていったし」
アリシャが!?
「くそっ!」
俺はツインフレア・オブ・チェンジエッジを構えてバハムートに向かって駆ける。
「お兄ちゃん!」
リィナの制止は無視する。
後方支援のプレイヤーの間を縫って走る。
「うわああああああぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴が聞こえ、バハムートの尻尾が振るわれる。それに、反応し遅れた前線のプレイヤーが吹っ飛ばされる。
「なっ!?」
その中には知った顔が何人かいた。
「アリシャ! 姉ちゃん! メア!」
三人は地面に叩きつけられ、HPがごっそり削られる。しかし、レッドゾーンギリギリで止まった。
「……リューヤ?」
「リューヤ、やっと来てくれたのね?」
「……リューヤか。すまない、この様だ」
三者三様の反応を見せる。
「……三人を回復役のところへ連れていってくれ」
ダメージが大きいと骨折するからな。
「……いい」
「良くねえよ!」
「……」
「お前らは前線に出て怖くねえのかよ! 死ぬんだぞ!」
「怖いわよ。――けど、やらなきゃいけないことよ」
姉ちゃんが俺に答える。
「……ふーっ。三人を連れて逃げろ。一人、残らずだ」
「……ダメ。私も戦う」
「エアリア! 三人連れてけ」
「……ああ」
エアリアは忍者仲間に指示して三人を連れていった。
「絶対許さねえ!」
「……リューヤは死ぬのが怖くないの?」
「怖えよ! けど――」
忍者仲間の女性プレイヤーに担がれたアリシャが聞いてきた。
「殺す!!」
俺はバハムートを睨んで言った。
「【紅蓮大帝・鬼神】!」
【紅蓮大帝・鬼神】は、HPを消費していくスキルだ。デスゲームでの危険性を考えると使いづらいが、鬼より強い効果が得られる。
「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
赤黒い炎が俺を包む。俺からは見えないが、眼が紅く光っているハズだ。
「絶対許さねえ!」
俺は奥歯を強く噛んで、バハムートに向かって駆け出す。




