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Infinite Abilities Online   作者: 星長晶人
最終章

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156/165

死後の真相

 最強プレイヤー決定戦は、想定以上の成果を齎してくれた。


 一ヶ月前のトッププレイヤー二人の脱落から、トップ以外のプレイヤーは本当にクリアできるのだろうかと不安に思うところもあった。

 だがトッププレイヤーといい勝負をしてみせた三つのギルドの代表者と、それら三つの攻略参戦情報。


 極めつけは死んだと思われていたリューヤの復活。


 九十階層の攻略から考えれば大幅な戦力アップである。だからと言って簡単に進めるわけではないだろうが、それでも希望を抱かせるには充分だった。


 いつまでも鳴りやまない歓声の中、


「キューッ!!」


 一際聞き取りやすい鳴き声が聞こえたかと思うと、観客席にいたリィナの腕から抜け出してアルティがフィールドに降りてきた。


 ててっ、と軽やかに地面を駆けてリューヤへと飛びつく時にぼふんっと。


「リューヤ!!」


 それまでの姿から人の姿へと変化した。これにはリューヤも驚きを隠せず目を丸くして、戸惑いながらもしっかりと受け止める。


「ふふ~っ、リューヤ、リューヤ~」


 飛びついたままの姿勢が嬉しそうに頬擦りしてくる様は、確かにアルティのようだった。名前もアルティの表示そのままだ。


「アルティ……そんなスキル持ってなかったと思うんだが」


 声をかけると少し顔を離してくれたが、事情説明よりも再会を喜びたいのか頬擦りを再開した。そんな様子に苦笑して、後で他のヤツに事情を聞こうと思い今はアルティの頭を撫でるのだった。

 戦闘用の衣装を着込み、特徴と言えばモンスター時と同じ黒髪と赤目。後は頭に生えた獣耳と尻に生えた尻尾だろうか。余程嬉しいのか尻尾もぶんぶん振っている。


 システムメッセージにより、離脱状態だったアルティが改めてリューヤのテイムモンスターとなった。


 そうして微笑ましい様子は一旦置いておいて、表彰式に移る。


 この最強プレイヤー決定戦は、文字通り単体最高戦力を露わにする大会でもあった。そのため、相応しい景品をアリシャの方で用意していたのだ。


「……おめでとう、リューヤ。後でじっくり話は聞かせてもらう」

「お手柔らかに頼むな」


 優勝に水を差すようなアリシャに、苦笑して応えた。


 その後、大人数で打ち上げ兼親睦会を行うことになった。大半はそちらに出席するのだが、一部のプレイヤーはリューヤから事情を聞き出すべく集まることにした。


「さて、リューヤ。早速ですまないが、この一ヶ月君がなにをしていたのか教えてもらえるか?」


 ジュンヤが話を切り出す。その様子を見て、一ヶ月前よりも覇気が強くなったというか、どっしり構えているなと彼の変化を実感した。戦っていた時ももちろん感じていたが、こうした戦闘外でも貫禄が出てきたように感じる。


「わかった。……一ヶ月前、俺はメッシュとの勝負に負けて、確かに死んだはずだった。それは間違いない」


 本人が「負けた」と表現する辺り、あの時の悔しさが窺えた。軽々しく他の者が「あれは負けじゃない」とか口にできない重々しさが見え隠れしている。


「俺も聞いた話だから本当かどうかはわからないが、俺のテイムモンスターだったフレイが蘇生スキルを持っていた、らしい」


 ゴールデンフェニックスとなったレアモンスター・フレイ。リューヤとは長い付き合いであり、唯一レアモンスターでなかったところから進化したテイムモンスターだ。他よりも弱いという事実に挑んだ結果、かなりのレアモンスターに進化したという経歴があるためかリューヤとしても思い入れのあるモンスターだった。


 確かにフェニックスと言えば不死鳥――生き返ることに関連したスキルを持っていてもおかしくはないはずだが、デスゲームにおける蘇生スキルという存在が良くなかった。


「とはいえ、誰彼構わず蘇生できるわけじゃない。……フレイも、もういないしな」


 つけ加える彼の言葉には寂しさが浮かんでいた。リューヤとの再会を喜んでいたアルティは獣の姿で膝の上に寝転んでいるが、しょんぼりと尻尾を垂らしている。大事な仲間が欠けていることに気づいたのだろう。


「リューヤのフレイは……確かフェニックスだったか。フェニックスをテイムしているプレイヤーは少ないが、そんな話は聞いたことがないな。蘇生したと言うより死ぬ直前でどこか別の場所に転移していたと言われた方がまだ納得できる」


 エアリアが考えを述べる。大半も似たような印象だった。蘇生スキルの存在は驚きだが、信じられないというのが正直な感想だ。


「まぁ、その可能性もある。フレイは俺が死ぬ直前、自らの不死性を犠牲にして生き返らせた。俺が確認していた限りではそんなスキルはなかったし、突然スキルを習得するなんてあり得る話じゃない」


 信憑性のなさは自覚しているのか、リューヤ自身も苦笑している。例えばフェニックスを持っているテイマーに「死んで身代わりになってくれるか試してくれ」なんて頼めるわけでもなし。検証のしようがないので自分が納得できそうな推論を立てるしかない。


「話を戻すか。フレイのおかげで辛うじて生き永らえた俺だが、ケースが特異すぎて正常に死に戻りが作用しなかったんだ。本来、ただのゲームとしてのIAOなら死んだ場合蘇生ポイントに復活するだろ? ただ、デスゲームになった今ではそのシステムが封鎖されてしまっている」

「なるほど、死ななかったのはいいが復活ポイントがなかったわけか」


 リューヤの話をジュンヤが簡潔にまとめる。


「ああ。復活ポイントがないから、通常の蘇生はできない。その時点で俺は一生意識のないまま電脳世界を彷徨うことになっていてもおかしくない状態だったらしい」


 死にはしないが復活もできない。そんな宙ぶらりんな状態のアバターがどうなるかは運営も想定していないだろう。現状では“乗っ取り女王(ハッキング・クイーン)”が主導権を握りつつ運営がシステムを作動させているため、運営が対処するか女王が利用するかのどちらかがなければ一生そのままだろう。


「そこで、俺を拾って疑似的な復活を果たさせてくれたヤツがいる。――ロキだ」


 リューヤの口にした名前に、またも驚きが走った。


「有名な神だし、それに第三回グランドクエストだったか。そこで登場する予想をしてたプレイヤーも多いだろうから、皆知ってるみたいだな。まぁそのロキってヤツは名前通りって言うのかな。元になった神と同じように、ロキに備わったAIもトリックスターとしての素質を開花させたみたいだ。言ってしまえば、AIに自由意思が芽生えたのかな。ただでさえIAOは高度なAIを搭載している。けど、そんな高度なAIの中から更に進化・変化したAIが存在する……らしい。その一人がロキだ」


 特にIAOは今運営の手が一般のゲームよりも離れた状態にある。だからこそAIが進化しやすい状況なのかもしれない、とは本人の言だ。


「だからロキは本来持っていた第三回グランドクエストを引っ掻き回すという役割をボイコットした。土台があって繋がりがある電脳空間――IAOの初期に使われていたテストサーバを根城にしたんだと。意識がないまま漂っていた俺のアバターを拾い上げて匿ってくれた。尤も、今まだ存在してるかは微妙なところだ。……俺を送り出したから女王に見つかっただろうしな」


 状況が特異すぎるため連絡手段はない。だがロキもリューヤもある程度の勝算があって今の状況にしている。即ち、女王はロキを潰さない。潰すこともしなくていいぐらい力の差があるというのももちろんだが、彼女の目的を知っているリューヤとしては女王はロキを自由にさせるんじゃないかと思っていた。

 ただ他のプレイヤーに興味を持たせないために、リューヤはもういなくなってしまっているかのような言い方をした。推測なので間違っていても責められる言われはないだろう。


「で、そのロキが自ら創り直したのが俺がテイムしている状態のフェンリル、ヨルムンガンド、ヘルだ。元々神話でロキの子供だったことから目をつけて、自分側に引き入れたらしい」


 AIが創った自由意思を持つAI。そんなことが可能なのかと言われればリューヤに詳しい話がわからないため仮説を立てることも不可能だ。だがAIがどうしたら自由意思を持つのかという仮説がロキの中にあれば創ることが可能なのかもしれない。それにやることもないだろうから、試行錯誤もし放題だ。


「そんなわけで、ロキに拾われた俺はロキの条件をクリアするために頑張っていたってわけだ。第一段階のクリアに一ヶ月もかかったのは流石に参ったけどな」

「そのロキが出した条件というのは?」

「一つ目は簡単だ。フェンリル、ヨルムンガンド、ヘル、ロキをそれぞれ単独で倒すこと」

「簡単……いや、話が単純って意味か。すまない」


 神話級の怪物共を相手に楽勝だと言っているのかと思ってしまい、ジュンヤが頭を振って訂正する。本人は言い方が悪かったかなと苦笑していた。


「二つ目が、さっきまでやっていた仮面をつけてプレイヤー名とかを隠したままそれまでに使ってきた俺だとわかる戦い方、スキルを使用せずにこの大会に出場して誰かに名前を呼んでもらうことだったんだ」

「それでずっと正体を明かさないまま戦っていたわけか」


 二つ目を聞いて納得の色が広がる中、頭を抱えて落ち込む者が一人。エアリアである。


「……すまない、リューヤ。戦った時には既に気づいていたのだが……」

「いいって。メアが言わなくても、いつか誰かは気づいてただろうしな。多分だけど、ロキの思惑として俺に『HHH』を使わせるってのが俺と戦うプレイヤー達への一つの課題だったんじゃないかな。あれを使うと恰好が変わるからほぼバレるだろうしな」


 確かに『HHH』はプレイヤー達へのヒントになった。ロキもそれはわかっていたと思うので、相手プレイヤーがなにかしらの最強スキルを使用しなければならなかったのだろう。


「一ヶ月間お前がやっていたことを思い出して鍛えていた俺がギリギリ、だったんだがな」

「特殊条件の多いスキルばっかりだからな。運が良くないと取れないんだよ」


 メアの苦笑に、リューヤも苦笑で応える。


「あ、そうだ。その話でメアに渡そうと思ってたんだ。準優勝祝いだと思って受け取ってくれ」


 思い出したかのように言ってウインドウを操作する。メアの目の前に出てきたウインドウには、「プレイヤー:リューヤが武器:アルファ・ディ・ベルガリエを譲渡しようとしています」と表示されていた。


「っ……! いいのか? 確かにこれがあれば俺はもっと強くなれるが」

「ああ。“アルファ”ってついてたからシリーズ武器なのかとは思ってたんだが、結局他の武器はメアが持ってるしな。意地張って俺が持ってるよりメアに渡した方がいい」


 念を押すメアに、リューヤはそう答えた。まるで自分にはまだまだ手札があるから、と言っているかのように感じてまだ最強は遠いなと再認識するメアであった。


「最強スキルか……。整理すると俺が受け継いだ『神聖七星剣』、またの名を『セイクリッド・セブンスター・ソード』の『SSS』。メアが手にした『エンシェント・アルカディア・アルカンシエル』の『AAA』。リューヤの持つ『ドラゴン・ドラグーン・ドラグオン』の『DDD』。『ユニオン・ユニバース・ユニゾン』の『UUU』。例外の『ヘル・ヘルヘイム・ハーデス』の『HHH』か」

「まだ四つしか確認されていないのか。残る一つについては、アリシャもわからないんだな?」

「……ん。詳細情報も名前ですらアクセスできない状態にされてるから」


 ジュンヤ、メア、アリシャがスキルについて発言する。その流れを見るに、自分がいない時の攻略組はこうして話し合っていたのかと妙な気分が湧いてきた。


「ああ、それなんだが。ロキの話が本当なら、獲得に近いプレイヤーが二人いるらしい」


 そんな議論もリューヤの発言によって一気に注目が持っていかれる。


「なに? それが誰かまでわかっているのか?」

「いや、そこまでは聞いてない。というより、ロキから聞いた情報を話せば皆も誰かわかると思う」


 ジュンヤの質問にそう返して、集まった面々を見渡した後に口を開く。


「スキル名は『マジック・メンタル・メイジ』。通称『MMM』。スキル名からわかる通り、魔法系最強スキルだ」


 名前とそれから予想される特徴を聞いて、全員が彼が言っていたことを理解した。


 獲得に近いプレイヤーが二人いる。

 そして誰かは聞かなくても容易に予想ができる。


「俺はリィナとツァーリ。この二人が『MMM』獲得に一番近いプレイヤーの二人だと思っている」


 リューヤは二人――特に妹であるリィナを見つめて告げた。そして、他のプレイヤーも同じ予想を立てている。


 九十一階層から上のデルニエ・ラトゥール攻略には、それら強いスキルが必要不可欠だ。だからこそ判明しているのであれば、獲得してできる限りの準備を整えてから攻略に向かいたいというのが本音である。


 視線を受けたツァーリは冷静そうだったが、リィナは兄と目が合ってしかし逸らしてしまうのだった。

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