準決勝
区切りの問題で二話更新したかったので遅れました。
※本日一話目
最強プレイヤー決定戦もいよいよ三回戦まで来ていた。
三回戦第一戦目。
エアリア対ショコラ。
互いに素早さを活かして戦うプレイヤー故、その分野でトップを走るエアリアに軍配が上がると予想されている。
「あっ。戦い始める前に少しだけ話いいにゃ?」
仮面を装着しないあざとい猫口調で、ショコラが挙手をした。
「構わないが……」
「サンキューにゃ。じゃあちょっとお時間を拝借してっと」
戦う気満々だったエアリアが構えを解くと、ショコラはエアリアからは視線を逸らして会場中を見渡す。どうやら全員に向けてなにかするようだ。
「知っての通り、私達『闇夜の黒猫』は良くてトップギルド予備軍ってところにゃ。けど前線で戦うこともにゃい分、本当なら足元にも及ばにゃい」
ショコラが話すのは、少し前の彼らのことだった。トップギルドに加わりそうとは目されていたが、それでも最前線を行くトップギルドには追いつけないというのが大半の見解だ。事実ついこの間まではそうだった。
しかし今回の大会、蓋を開けてみればいい勝負をすることが多かった。有利不利や対戦相手にもよってしまうとはいえ、ショコラはここまで勝ち上がってきている。
「でも、この大会で私達も戦えることはわかってくれたと思うにゃ。だから、その辺りについて一つ話をしておきたいのにゃ」
ショコラは至って真面目に語り始めた。
「……当然、生半可なことじゃトップギルドに追いつくことなんかできにゃい。だから色々と考えて取り組んできたつもりにゃ。それでも及ばないのは仕方がにゃいけど」
実際戦ってほとんどが一回戦落ちしていることを考えると、真に追いつけたとは言えない。そこには仕方のない部分もある。だが戦えるということを見せられただけで充分な成果であった。
「今から約一ヶ月前のこと。この世界からリューヤという偉大なプレイヤーが消失したわ」
ショコラはふざけているような猫口調から普通に変えて真剣な声を発する。
「それは戦力的な意味じゃない。戦力よりも、象徴、アイコン的な存在だったことが大きな損害だと、私達は思ってるわ。トップギルドの皆さんは知らないでしょうけど、彼の死を悼んだのはプレイヤーキャラクターだけじゃないの。一般には意思を持っていないと思われがちなNPCですら死を悼み、傷つくほどだった。今は『ナイツ・オブ・マジック』のジュンヤさんが代わりに象徴として頑張っているけど、その次は? 象徴たる人物がまた死んだら? ……今度こそトップギルド、どころかこのゲーム全体の雰囲気が崩壊しかねない。私達はそう考えて、これ以上攻略から逃げるわけにはいかないと判断したの」
前しか向かない、向かないようにしている攻略最前線と違って、街のNPCの様子をよく窺っている。彼らのギルドの特色も影響しているのかもしれないが、よくNPCからクエストを受注しているのだ。
彼ら『闇夜の黒猫』の行動原理はいつだって人と変わらない様子を見せるNPCだ。
「だから、私達はこれからのゲーム攻略に参戦しようと思う」
彼女の真剣な宣言に会場中がどよめいた。当たり前だ。これまで一切攻略に出てこなかったプレイヤーが参戦すると口にしたのだから。それほどまでに、彼らも彼の死を重く受け止めているということだろう。
「そして、これは私達『闇夜の黒猫』、『銃軍』、『守護騎士団』の総意になるわ」
続く言葉に、どよめきは更に大きくなっていく。
既に彼ら三つのギルド間では話し合いを終えており、全員が一方的に倒されるような展開にならなければ参戦するだけの力はあると考えて参戦を宣言しよう、と決めていた。そしてそれは一番勝ち進んだ者が行うとも。
「……時間を取らせてごめんにゃ。それじゃあ、始めるとするかにゃ?」
「いや、こちらとしても嬉しい申し出だ。その実力、とくと味わわせてもらおう」
ようやく、二人の試合が開始される。
エアリアもショコラも速度を重視した構成になっており、双方かなり高い次元にある。だがアリアに勝利したとはいえ、ショコラはトッププレイヤーではない。現状最速と名高いエアリアの牙城を崩すことはできず、惜しくも敗退するんどあった。
三回戦第二戦目。
タケル対UNKNOWN。
ジュンヤに続き優勝候補センゾーまで下したUNKNOWNが、どこまで勝ち上がるのかにも注目が集まっている。
「武器を出さないのか?」
試合は開始された。だがUNKNOWNが一向に武器を取り出す様子がなかった。
「お前は肉体で戦うだろう? なら俺も拳と脚で戦う。【モンク・スタイル】」
そう告げるとセンゾーと戦った時のように装備を一新する。おそらくこのスキルは、それぞれの特色に合わせて装備を全て変更できるスキルなのだろう。様々な武器を満遍なく使えるプレイヤーにはとても有用なスキルだった。
今回は道着に籠手を装着した姿だった。仮面は鬼の仮面に変わっている。
「正々堂々か。その意気や良し! ならばこそ言葉は不要、思う存分拳で語ろうぞ!!」
真っ向勝負を好むと取るか、相手を嘗めていると取るかは人によって異なるだろう。だがセンゾーやタケルといったその分野で最強と目されているプレイヤーは、モンスター相手でもなければ真っ向勝負に乗ってくれることはない。だからあまりない強いプレイヤーとの真っ向勝負は非常に楽しいのだ。
タケルの今の表情を見た者はわかるだろう。
実際、UNKNOWNの実力は凄まじい。テイムモンスターありきとはいえセンゾーに勝利し、そして今タケルとも互角の戦いを繰り広げている。流石に全てにおいて上回るというのはできないが、スピードではタケルを上回っていた。基本的な武術ではタケルに勝るほどでもないはずなのだが、立ち回りとスキルの使い方が巧いようだ。
テイムモンスターの力を借りることなく、UNKNOWNの勝利に終わった。
接戦に次ぐ接戦。大いに盛り上がる会場だが、次の試合はその前に戦ったベルセルクとツァーリが引き分けに終わってしまったため、メアの不戦勝となった。
三回戦第四戦目。
エフィ対シンヤ。
多くのプレイヤーにとっては鬼門となる、エフィのテイムモンスター軍団。
しかしより強いトッププレイヤーの場合、多対一の状況を切り抜けられることがある。それは能力やスタイルによるところも大きいが、シンヤはそれをやってのけた。
しかしながら、テイムモンスターの中でもレア種の場合レベル百に到達するとステータスがカンストすることがある。リューヤの所持していたモンスター達はこれに該当するモンスターしかいないという異常事態だったのだが、それは兎も角。
エフィもレアなモンスターを多く所持しているが、カンストに至っているモンスターは一部である。ステータスに開きがあっても倒せることには倒せるのだが、それこそボス戦並みである。当然、大群を相手に取れる手段ではない。
つまりそういったモンスターを所持しているテイマーに勝つ手は大体一つに絞られる。
テイマーを直接攻撃して倒す、だ。
テイマーはテイムモンスターを戦わせる都合上、プレイヤー単体で見ればあまり強くない。攻撃得意のトッププレイヤーであれば必殺の一撃を叩き込むことで、簡単に沈めることができるだろう。
ただ当然のことながらテイマーもそれをわかっているため護衛役のモンスターを傍に置いている。
プレイヤー同士の戦いとしては非常に厄介な相手となるのだ。
だがシンヤも相当に強いプレイヤーである。彼の構成上、多対一と格上相手になればなるほど強化され、迫ることができる。プレイヤーの能力という点で言えば、彼が最もテイマーやサモナーに有利な構成になっているのだ。
それが彼が持っている《英雄》に関連する最終職《心火の英雄》の効力でもあった。
シンヤはエフィが誇る最強の二体、ベヒーモスとダークドラゴンの内ダークドラゴンを退けてみせた。ベヒーモスは倒さず直接エフィを狙って成功したため、彼の勝利となったのだ。
これにより、準決勝の対戦相手が決定する。
エアリア対UNKNOWN。
メア対シンヤ。
最強プレイヤー決定戦のベスト4が確定したのだ。
まず出てきたのは、エアリアとUNKNOWN。
ただこれまで順調に勝ち進んでいるエアリアだったが、流石にセンゾーには勝てないと思われているため逆に彼がどこまでUNKNOWNに食らいついていけるか、というのが注目され始めていた。
そんな評価であってもエアリアのやることは変わらない。ただ全力で勝ちに行くだけだ。
しかし、このUNKNOWNと呼ばれているプレイヤー。果たして仮面の下の素顔は誰なのだろうかと思ってしまう。戦いの前に考えることではない気もするが、ここまで強いと一体どんなプレイヤーなのかと気になるのは自然なことだ。
色々な武器を使えて、且つそのどれもが高水準。ジュンヤにセンゾーにタケルといったスペシャリストすら敗北に追いやられている。
(……そこまで考えると、もうあいつを連想してしまうな)
それだけはあり得ないとわかってはいても、どうしても重ねてしまう。背丈は同じくらいだと思うが、正確にはわからない。髪色、瞳の色は仮面とフードで隠れていてわからない。できる限りプレイヤーを特定させないようにしているようだ。
「カイ、いけるな」
「当たり前やろ。ま、言うてもあの狼抑えるだけで精いっぱいや」
「わかった。なら、そっちが来たら任せる」
エアリアは早速カイを呼び出して待機させる。相手がフェンリルを呼び出してきた時のために取っておくようだ。だが、カイが出てきてすぐにフェンリルが飛び出してきた。カイの参戦を万が一にも防ぐためだろうか。
「仕方ない。そっちは任せる」
「グル」
勝手に出てきたフェンリルの頭を一撫でしてカイの方を任せると、エアリアに向き直った。
「また、俺に合わせて装備を変えるのか?」
「いや、丁度いいスタイルがないからな。このままだ」
そう告げると彼は『ウェポン・チェンジ』で武器を持ち替える。
左手が骨のような白い刃を持つ片手剣。右手がリボルバー式の銃だった。
「そうか。なら、始めるとしよう」
エアリアが告げた直後、全速力でフィールドを駆け回る。同時にカイとフェンリルも動きを開始した。フィールドを駆け巡る三つの影とは裏腹に、UNKNOWNは一歩も動かなかった。当然のことながら、彼らの動きについていけないのだろう。
しかし対峙しているエアリアにはわかっていた。
(完全に捕捉されている、か)
彼の意識が常にエアリアを向いているのがわかる。身体はついていかなくとも、見失うことはないだろう。そして動きが捕捉できているなら、攻撃を受けることも可能だ。
エアリアが単純に腕で敵わないと思っているのは、UNKNOWNが倒した二人。センゾーとタケルである。この二人は元の腕前が高いため、高速で接近しても直前で反応されてしまう。特にセンゾー。
その点この仮面の男は、武術と言うよりスキルの使い方がいい。もちろん武術にもある程度心得があるとは思うのだが、それよりもIAOの戦い方に慣れている。適応しているというべきか。
つまり長い間このゲームで戦い続けたプレイヤーということである。『格闘国家』モルネのように別の場所でずっと過ごしていたならわかるが、どうもしっくり来ない。大体この終盤まで同じ場所に留まり続けていたと考えるのは少し難しいだろう。ゲームとしても面白くない。
そう考えると元々地力があった上に全力でIAOに挑んだプレイヤーしか考えられないのだが。
(挑み続けているのに攻略に参加しないというのは矛盾だ。だからこそ、トッププレイヤー若しくはトッププレイヤーだった者でなければ考えにくい)
それに加えて各分野の最強を倒す異常なまでの強さ。ここまで考えてリューヤを連想しないのは無理があった。
(だがリューヤはもういない。だとすれば、ゲームの中ということを考えてあいつのアバターを使っている別人か? 女王の手先が本当に死んでいるかは実際のところわからない。代わりにアバターを使わせているというのも否定できない)
しかし、それなら仮面を被る意味がわからない。リューヤのフリをして登場して、ぬか喜びさせた方がプレイヤーに絶望を与えやすいだろう。
(リューヤの可能性はないだろうが、なぜ仮面をしているのかは別で考える必要があるのか)
「戦闘中に考え事とは余裕だな」
エアリアが思考を回していると、相手からそう告げられた。エアリアはあまり表情の読まれないタイプなので、純粋に驚いてしまう。
(心を読むスキルか? いや、そうではない。表情を読み取られたのか)
スキルであればもっと正確に読み取れるはずだ。表情から察せられるのは、それこそ『SASUKE』のメンバーぐらいだろう。戦闘中他のことを考えているかどうかまでわかるのはアリアぐらいだろうか。
故人を含めるならおそらくもう一人。だがそこまで考えてまた自分の中で否定する。
(……俺も随分と未練がましいモノだな)
内心で苦笑してから、雑念を振り払う。
「参るッ!」
考え事を誤魔化すために、エアリアは攻めに転じた。高速で動きながら影分身を増やして二人になり接近する。
相手は正確にエアリアを向いて銃弾を放った。本体と影分身どちらも銃口を見て回避したはずだったのだが、避けたはずの影分身が銃弾の進む先に戻って直撃する。
「ッ……!?」
影分身が自ら銃弾に当たりにいったわけではなく、そのままの体勢で銃弾の軌道上に移動したというのが正しい。つまり影分身の意思は反映されていない。
回避したはずが直撃した、それに似た現象をエアリアは知っていた。
「あれは武器の固有能力ではなかったのか!?」
「いいや、固有能力では間違っていない。だがあの鎌やこの銃に共通した『トリックスター』というスキルの効果というだけだ」
驚愕しつつ印を切って『忍術』を発動するが、冷静に剣で打ち払われてしまう。
『トリックスター』。当然ながら聞き覚えのないスキルではあるが、おそらく効果内容は簡単な因果律の操作といったところだろう。防御された攻撃を直撃させる、回避された攻撃を直撃させる。ただ自分に不都合があった場面を見ていないため、相手に作用する能力なのだろう。
そして『トリックスター』というのはロキの代名詞でもある。フェンリルに引き続き、ロキの遣いという説が濃厚になるのだった。
実際、彼の使っている武器はロキシリーズというアリシャにも認知されていない未知の武器である。
なぜ彼がそんな武器を持っているかは置いておいて、エアリアにとって問題なのは銃という遠距離攻撃武器にそういった効果がついていることだ。彼の持ち味である速度を潰せてしまう。
「【忍刀・鎌鼬】!!」
相棒の名を冠したその技は、疾走と同時に両手の忍刀で切り刻む。だが高速で迫ったエアリアに対して、相手は左手の剣一本で対応してみせた。予め軌道をわかっていたかのような迷いない太刀筋だ。確かにアビリティを使う都合上、センゾーのようなオリジナル剣術を使わない場合はモーションが決定している。だから読もうと思えば読めなくはない仕様だ。
とはいえ、アビリティのモーションを一つ一つ覚えていくのは記憶力の関係で難しく、しかもエアリアが主力として使っているアビリティはかなり上位のモノだ。自分で使えていなければモーションを覚えておくことなどできやしないだろう。
「【忍刀・桜吹雪】!!」
続けて同等の技を放つ。刀の一振りで桜吹雪が如く無数の斬撃を放つのだが、
「【防げ、斬骸】」
白い剣を前に突き出したかと思うと、剣から骨が生えて盾を形成して防いだ。強度も高いようで、斬撃を受けても切り傷がつくだけで済んでいる。
「……自由に形を変える剣か」
「いや、少し違う」
命令によって姿形を変化させるのかと思ったが、その推測は否定される。もちろん正直に答えているとは限らないが。
盾になっていた部分ががしゃりと地面に落ちて、元の剣へと戻った。しかし落ちた骨は消滅しなかった。
「【撃て、斬骸】」
また一つ呟くと、剣が大砲の形へと変化する。砲撃で骨が丸く固められたような球体が飛来するが、エアリアの速さなら容易に避けられる。骨の砲弾は地面などに激突するとバラバラに砕け散り、その場に残った。
(確かに足場は悪くなるが、それだけの能力とは思えん。落ちた骨すら操れると思った方がいいか)
冷静に分析しながら合間に手裏剣やクナイで応戦する。だが銃で撃ち落とされるか、避けられるかしてしまう。『忍術』での遠距離も試しているが、有効打にはならなかった。
「【騒げ、斬骸】」
様子を見ていると、骨の剣を手放して切っ先から地面に突き立てた。次の瞬間、地面に散らばっていた骨の破片が剣の形となって一斉にエアリアを追い始めた。
「この数で、追尾機能か!」
エアリアは即座に退避を選択したが、彼の動きに合わせて軌道を変えている。再度砕けば減るようだが、百本以上ある剣を全て迎撃するのは難しい。エアリアの速度であっても完全回避は難しく、徐々にHPが削られていってしまう。
遂に直撃したか、という瞬間。ぼふんという音と共にエアリアの姿が丸太へと変わった。
「【変わり身の術】」
予め発動しておくことで代わりに攻撃を受けさせ、自分は任意の場所にワープすることができる。エアリアが選んだのは相手の頭上だった。
更に影分身を使用、エアリアが十人になる。そのまま落下と同時に攻撃するつもりだ。
当然、UNKNOWNであれば落下中に攻撃をして十人全員を倒すことができるだろう。だが、それをさせないための案はあった。
彼が頭上のエアリア達に銃口を向けると、引き鉄を引いていく。だが三発目が放たれた時には行動を始めていた。
空中で身動きの取れるスキルを、エアリアは持っていない。だが影分身がいれば動くことができる。空中で身を翻して他の分身と両脚の裏を合わせた。そして、同時に蹴り出すことで下にいた本体が勢いよく迫る。剣を構える隙も与えない速度と距離。
だがエアリア渾身の一閃は相手の左腕を切り飛ばすだけに終わった。間違いなく首を狙ったのだが、直前で身体を傾けられた結果だ。
だがまだ影分身が六人も残っている。その内一人は本体との連携で若干浮いていた。このまま攻撃しても時間差攻撃となり対処しづらいはずだが、
「【星天蹴撃】」
前方宙返りに近い形で蹴りを放った。片腕がなくなったことで身体のバランスが悪くなるのだが、そんなズレを一切感じさせずアビリティを発動。上からの攻撃と着地している本体、どちらも攻撃してみせた。その上で着地の直後に最後の分身を撃ち抜き、エアリアが怯んでいる内に距離を取って落ちていた骨の剣を右手で拾い上げる。
そのまま回復魔法で腕を修復して、軽く調子を確かめる――その所作がかつての友人を重なって見えた。
(……まさかとは思っていたが、そんなことがあり得るのか?)
口調や戦闘スタイル、使用スキルなどは異なるがなぜだかこの人物の正体が彼であるという予感がした。
考えないようにしていた。だがここまでゲームの世界に慣れた様子と、様々な戦い方において高みにあるというプレイスタイル。主体となる剣を左手に持つ利き手の違い。
なにより実際に戦って感じる強者特有の気配。
「……ふっ。どういう因果か知らないが、大したヤツだ」
「……」
仄かに笑うエアリアに対して、彼はなにも言わなかった。その正体に当たりをつけたとはいえ、なぜ正体を隠す必要があるのかという理由については見当もつかない。
明かさないなら、今がその時ではないということだろう。エアリアはそう思うことにした。
「全力で挑ませてもらう!」
楽し気に宣言すると影分身を九人出してそれぞれで襲いかかる。自動で『忍術』や手裏剣などを駆使するようにすれば、単純にエアリアが十人いる状態となる。ただそれでも乗り越えるのが、最強プレイヤーに近い所以であった。
フェンリルとカイは互角の戦いを繰り広げていたのだが、エアリアがUNKNOWNに敗れたことでカイも敗退する。
「……次は、腹を割って話したいものだな」
「ああ」
エアリアはそう告げて、フィールドから退場する。
これによりUNKNOWNの決勝進出が決定した。
試合が終わり、フェンリルが褒めて欲しそうに尻尾を振って彼に近寄っていく。頭を撫でられて気持ち良さそうにする様は、とてもラグナロクに登場する敵とは思えないのだった。
準決勝第二戦目。
メア対シンヤ。
一時期は同じギルドに入っていたこともあるが、メアはプレイスタイルを変えているためスキルなど知らないことも多いだろう。逆にシンヤのプレイスタイルは今も昔も変わらないので、戦い方がわかってしまっている。
若干メアの有利だが、両者の戦いは熾烈を極めた。
それはおそらく、メアがシンヤにとって「格上の相手」だったからだろう。友人でもあり、同時に未来のお義兄さんでもある。
そして彼は仲間達がいなければ自分はなにもできないと思っているので、ソロプレイをしているメアのことを尊敬していた。
しかしメアとしては、真っ直ぐすぎるが故にシンヤのことを良く思っていなかった。嫌なヤツであれば問答無用で斬り捨てて終わりだが、そうではないからこそ苛立ちが募る。
そんな二人の激突は、それでもメアの勝利に終わった。
「まだ、お前にカナを任せるわけにはいかないな」
最後にそう告げたメアだったが、試合終了後本人から
「……別にお兄ちゃんの許可取る必要ないから」
と告げられてしまったらしい。それはそれでショックだったのだが、エアリアから次の対戦相手について聞いたことで決勝戦への士気が高まったようだ。
最強プレイヤー決定戦も最後の一戦、決勝戦を残すのみとなった。
謎のプレイヤーと知名度が高くなったソロプレイヤー。両者の戦いがプレイヤーのこれからにどのような影響を齎すのかは、未だ見通せないままである。




