一回戦終了
遅れました。
理由は前話のトーナメント出場者数が一名足りなくて迷っていたからです。大変申し訳ありません。
最強プレイヤー決定戦、決勝トーナメントも一回戦の半分を終えた。
波乱もあったが、コロシアムは大いに盛り上がっていた。
後半も白熱した戦いが繰り広げられている。
第九戦目。
メア対『ナイツ・オブ・マジック』のヴァイロ。
両者共に、第三回グランドクエストで活躍したプレイヤーだ。
メアは言わずもがな、MVPを獲得した。
ヴァイロは敵勢力の一柱であるスルトと激戦を繰り広げていた。
ヴァイロは『ナイツ・オブ・マジック』の一員らしく魔法剣士だ。特に炎の魔法を得意としている。
ただ、スルトも炎を纏った姿だったため得意の炎魔法が一切通用しなかった。それでも敵の炎を防ぐという点でフォローし前線に立ち続けたことがスルトに認められ、倒れる直前にヴァイロへと炎系最強武器の一角、レーヴァテインを受け取っていたのだ。
対スルト戦に限らず神々との戦いでは隠しミッションが設定されており、完全なる運ではあるがヴァイロはそれを成し遂げたのだ。
だがメアは現在最強とも目されるプレイヤーである。互いに第三回グランドクエストで手にした武器を携えてぶつかり合ったが、順当にメアが勝利することになった。
第十戦目。
『銃軍』ギルドマスターのバルトレット対『ナイツ・オブ・マジック』副ギルドマスターのメナティア。
『銃軍』とは文字通り、銃を主力武器として扱うプレイヤーの集まりである。扱う銃は人それぞれだが、ギルドマスターたるバルトレットが使うのはひとつ。双銃と名づけられた二挺にして一つの銃である。
IAO内の銃は当てやすく一撃死が狙いやすいことから他の武器よりも基礎威力が低めになっている。その中でも連射、速射の性能がいい双銃は更に威力が低めだった。代わりに避けづらいという特性がある。
黒のゴーグルで目元を覆い灰色のコートに身を包んだ男性だ。翻るコートの裏には手榴弾を含む無数のアイテムが装着されていた。
対するメナティアも銃を扱うプレイヤーだ。ただ実際の銃とは別、魔法の銃となっている。
引き鉄を引くと銃弾ではなく火や氷が放たれる。他の銃より弾速は遅いが、その分広範囲にできたり威力を高めたりと応用が利く銃だった。
両者は、フィールドの中央を挟んで銃の間合いで対峙している。
双方共に二挺の銃を構えて待機した。
試合開始の合図と同時、
「【ソイルウォール】」
「【グランドウォール・バレット】」
真っ先に攻撃するのではなく、場を整えることから始める。
互いに銃を扱うプレイヤーのため、銃を使っていて対処しにくいことをするのが定石だ。
即ち、遮蔽物の設置である。
魔法と武器攻撃の両立を重視する『ナイツ・オブ・マジック』の副マスターと銃の扱いを重視する『銃軍』のマスターでは設置できる壁の大きさが違った。
使える魔法の差で、バルトレットが屈んで身体を隠せるサイズの土の壁。逆にメナティアは立っていても身体を覆い隠せるほど大きな土の壁だった。メナティアは魔女風の服装を好むため、被っているとんがり帽子も一種のトレードマークになっている。その帽子も見事に隠れていた。
メナティアが相手の位置を『索敵』で把握しつつ壁の脇から少し顔を出して確認しようとする。だが顔を出す直前で先に出たとんがり帽子のつばが銃弾に撃ち抜かれた。慌てて顔を引っ込める。どうやらこちらの壁が大きいことを受けて顔を出すのを待ち構えていたらしい。だが集中しすぎたせいか帽子が出た時点で引き鉄を引かれたのは助かった。もしかしたら今の一撃で試合が終わっていたかもしれない。
相手が使うのは多少ファンタジックな能力を持っていても、正当な銃だ。特殊な銃でない場合、銃弾は真っ直ぐに飛んでくる。つまり壁に姿を隠していれば攻撃が当たることはない、はず。
少なくとも通常の銃弾は真っ直ぐ飛んでくることが確認できたので、アビリティを使用しないで曲がる銃弾が来る可能性は減った。
「【アイシクルレイン・ショット】」
代わりに、メナティアの銃弾は魔法を媒体としているのでモノによって軌道が変わる。右手の銃を空に向けて引き金を引けば、氷の弾丸の雨が発射されて上空で折れ曲がった。いくら壁に隠れていてもバルトレットの築いた壁は小さいので角度が上になると当たる可能性が高くなる。
当たらないようにするには、ほぼ座るような形で壁に隠れなければならない。そしておそらく、壁に背をつけることになるだろう。
「【グランドニードル・チェンジショット】!!」
メナティアはそれが狙いであった。『索敵』のおかげで相手の位置はわかるが、やはり確実に攻撃を当てるためには壁から出して攻撃したい。先程の上からの攻撃も隠れさせることはできるがダメージ自体はなかっただろう。
土のトゲを放つ銃弾、とはまた効果の違う弾丸だ。効果は、発射した弾が当たった箇所一定範囲の土からトゲが出てくるというモノである。
「ッ――!!」
土の壁に身を隠していたバルトレットとしては最悪の手である。壁全体に生えてきたトゲに背中から貫かれてしまう。HPが大きく減ったと確信できる手だった。だが運が良かったのか、倒れるには至っていない。
「……【デュアルペネトレート・バレット】」
バルトレットはすぐに体勢を立て直し、攻撃するために出てきているであろうメナティアに狙いを定めた。
当然、メナティアは壁に隠れる。だがバルトレットはお構いなしに壁に向かって二挺の引き鉄を引いた。二挺から放たれた弾丸は、二つで回転する軌道を描きながら壁に直撃して、そのまま隠れていたメナティアの肩を貫く。
直後、バルトレットは更なる行動を開始した。
壁に隠れていては自分が不利と考えたのか、壁を放たれて大きく回り込むように猛然と駆け出す。相手が『索敵』を所持していることを考慮し、『索敵』に引っかからなくなる『隠形』のスキルを使用した状態だ。姿の見える撃ち合いなら、銃弾が速く動き慣れている自分の方に分があると考えたのだろう。
一方メナティアは、撃たれた直後に自分の失敗を悟った。相手に貫通力のある技があると予想していれば、壁で敵の姿が見えなくなるようにすべきではなかった。そしてアビリティ名で察しをつけるか知っていれば対処できたはずだ。
ともあれ反省は後回しにする。『索敵』で把握していた敵の反応が突如なくなったからだ。そのスキルの存在は知っていて、『隠形』と言う。『隠形』は『索敵』に引っかからなくなり、敵に見つかりにくくなる。だが土剥き出しのこのフィールドなら見つからないということはないだろう。それに、不意を突くためなら隠れる目的ではなく――。
「【ディヴィジョン・バレット】」
頭を回している内に右側から声が聞こえた。目を向ければ二挺を構えたバルトレットが立っている。二挺から放たれる弾丸が分裂して襲いかかってきた。迎撃が間に合わないタイミングだ。
そこでメナティアは、身を翻して逃げ出した。銃弾の雨に背を向けて走るなど愚の骨頂だ。実際逃げ出したはいいが銃弾の大半が届いてしまった。……のだが、魔女らしく身に纏っているローブが金属音を響かせて銃弾を弾いたのだ。
これにはバルトレットもゴーグルの奥で瞳を瞬かせるしかなかった。
メナティアが発動したのは『材質付加』というスキルで、触れているモノの材質を一時的に付加させることができる。今のはローブに金属の材質を付加させて、硬さと重さを増幅させたのだ。動きが遅くなってしまうのが難点だが、一時的とはいえ防御性能を引き上げることができる。
銃撃を防いでから解除してさっさとバルトレットの作った土の壁に身を隠した。
「【デュアルエクスプロージョン・バレット】」
すかさず高火力の攻撃に移る。二挺から放たれた銃弾が壁に着弾した時、轟音と共に爆発が巻き起こって壁を吹っ飛ばした。バルトレットは油断せずに黒煙が晴れるまで『チャージ』のスキルで次の攻撃威力を高めていく。
黒煙が晴れそうになって薄っすらと魔女のとんがり帽子が見えた瞬間、バルトレットは躊躇なく引き鉄を引いた。一発目はとんがり帽子の下を狙って、二発目はとんがり帽子から左斜め下を狙う。帽子を囮に使った可能性を考慮しての二発目だったが、黒煙の中を素通りしていった。一発目は見事帽子を貫いたが、撃ち抜かれた衝撃がふわりと舞う。つまり被っていたわけではない。
それを瞬時に悟ったバルトレットは、即座に行動を始めた。
「【デュアルジャイロ・バレット】」
二挺の引き鉄を同時に引いて、銃弾と共に旋風を巻き起こす。旋風が黒煙を散らすが、そこにメナティアの姿はなかった。
もしやと思ってはいたが、その方法がわからないため可能性は低いと思っていたのが仇となったか。周囲を警戒するバルトレットの上空に、メナティアはいた。彼がそれに気づいたのは自分を覆った影だった。
「【ジェット・ショット】!」
メナティアはそのまま上に向けた銃の引き鉄を絞って加速する。防御のために腕を交差して掲げたバルトレットを踏み台にした。敵の背面を取るように跳んで背中へ二挺の銃口を向ける。
「【バースト・ショット】!!」
銃口から放たれた二つの波動がバルトレットの身体を呑み込み、残りHPを全損させた。
メナティアは副ギルドマスターにしてジュンヤの妻だ。常にジュンヤのサポートに徹しているところは、自他共に認めている。
だが『ナイツ・オブ・マジック』のメンバーは全員が知っていた。
彼女こそが、ギルドの最大戦力であると。
第十一戦目。
『狂戦騎士団』ギルドマスターのベルセルク対『戦乙女』リーフィア。
戦闘狂だけはあって、ベルセルクは近接戦闘最強を目されるプレイヤーの一人である。
リーフィアも短剣を手にすばしっこく前線を支えるトッププレイヤーではあるのだが、我先にと死地に飛び込んで生還し続けているのは伊達ではない。
大方の予想した通り、ベルセルクが勝ち上がった。
第十二戦目。
『暗黒魔術師団』ギルドマスターのツァーリ対『一夫多妻』イルネア。
両者共に遠距離からの魔法攻撃を主体とするプレイヤーだ。
イルネアも善戦したが、残念ながら敗北してしまった。
ツァーリと真正面から魔法の撃ち合いをして勝機があるのは、トッププレイヤーの中でも『戦乙女』のリィナだけとされている。だがリィナは今回の大会に参加しておらず、観客席でアルティを抱えて皆の戦いを見守っていた。
ともあれ、こうして二回戦でベルセルクとツァーリが正面から激突する時が来ることが確定するのだった。
第十三戦目。
『双子のエルフ』ギルドマスターのエフィ対『守護騎士団』副マスターのヴェロニカ。
なぜ、『守護騎士団』のギルドマスターがいないかと言われれば答えは簡単である。
ギルドマスターは完全防御極振りであり、攻撃手段をほとんど持っていないのである。生き残ることならできても勝ち上がることはできないので、今回は辞退していた。
代わりに、副マスターを務める金髪と吊り目がトレードマークのヴェロニカは防御を主体としながらもVR故に難易度が上がっているとされるカウンター系スキルを駆使して攻撃を与えることができる。
基本プレイスタイルが同じ者の集まりである『守護騎士団』の中でも最大の攻撃力を持つプレイヤーなのだ。
ただ、今回は相手が悪かったと言っていいだろう。
エフィは全プレイヤー内最大のテイムモンスター所持数を誇るプレイヤーにして、おそらく最強のテイマー。
一対一の戦いでありながら数の力を行使できるプレイヤーだ。ヴェロニカもモンスターの群れに囲まれた状態であっても生き残る自信はあったが、相手はテイマーという司令塔を持つ集団。冷静に一体ずつカウンターを決めて徐々に自分の有利を作っていこうとしたが、力及ばず倒れることとなった。
第十四戦目。
『双子のエルフ』ギルドマスターのナーシャ対『一夫多妻』のアローネ。
エフィと並ぶ『双子のエルフ』のギルドマスター。IAO内最強のサモナーとされる彼女と戦うのは、『一夫多妻』の一員であるアローネだ。アローネは装備品の一種である呪詛を受けて身体能力を大幅に引き上げ戦うプレイヤー。モンスターの群れとも見た目上は素手で渡り合う豪快なプレイヤーだが、流石に分が悪かった。
ダークドラゴンを倒して会場を沸かせたところで力尽きてしまう。
これで、『双子のエルフ』両ギルドマスターが戦うことが決定した。
第十五戦目。
『格闘国家』副マスターのモルネ対『戦乙女』の千代。
両者共に近接を主体とするプレイヤーだけはあって、白熱した戦いが繰り広げられた。
勝敗を分けたのは、『戦乙女』所属の三人の内二人が敗退してしまっていることから全員が一回戦で敗退することはしまいと意地を発揮したことだろう。
どちらが勝ってもおかしくない接戦だったが、最後は意地を見せた千代が勝利を掴み取った。
戦いの後、二人が互いの実力を認めて友情を育んだのはまた別の話である。
第十六戦目。
魔法少女のように戦うリーファン対『一夫多妻』ギルドマスターのシンヤ。
表立ってハーレムを名乗る彼のギルドは、特に彼自身が戦う時男性からの嫉妬が飛び交うことが多い。
よって彼の実力について、高いのはわかっているのだが低く噂されがちだった。
曰く、周りの女性プレイヤーがいなければそこまで強くない。
だが、それは誤りである。
彼は実際に、メアと同等に戦えるほどの強さを持ったプレイヤーだった。
リーファンが弱いわけではもちろんないが、結果だけを見れば相手にならなかったというのが正直な感想だろう。
それだけ圧倒的な強さを見せつけたのだった。
十六回に及ぶ一回戦が終わり、二回戦に進出するプレイヤーが決定した。
二回戦の対戦相手は以下の通り。
『SASUKE』エアリア対『ナイツ・オブ・マジック』フィオナ。
『SASUKE』アリア対『月夜の黒猫』ショコラ。
『格闘国家』タケル対『一夫多妻』ラウネ。
センゾー対UNKNOWN。
メア対『ナイツ・オブ・マジック』メナティア。
『狂戦騎士団』ベルセルク対『暗黒魔術師団』ツァーリ。
『双子のエルフ』エフィ対『双子のエルフ』ナーシャ。
『戦乙女』千代対『一夫多妻』シンヤ。
注目の戦いが多い中、更に苛烈になっていく試合を楽しんでいくのだった。




