チート武器
お久し振りになってしまい申し訳ありません。
次に完結するとしたらこの作品だと思いますので、更新していこうと思います。
幻想世界側の無人島で、トッププレイヤー達とレイドボス・ゼネスとの戦闘が始まっていた。
ボスのステータスを持っているらしく、プレイヤーではあるようだがゼネスはなかなかに強い。トッププレイヤーが集まっても、全員が全員参加しているわけではない今回のイベントでは、かなり攻略は厳しくなるだろうと予想された。
しかも知能もプレイヤーがそのままボスになっているため通常のAIより高いかもしれない。……まぁAIとプレイヤーどちらが頭いいかは、正直微妙なところだと思っている。アルティやシルヴァ達と接しているからか余計にそう思うのだが。
「オラオラオラァ!! 俺サマに勝てるかよぉ!?」
ゼネスはボス故の強大なステータスを頼りに強引な立ち回りをしている。どうやら防御よりも攻撃による相殺の方が効果的らしく、攻撃役が受け切れなくなったら壁役が前に出るという立ち回りをしている。
こういう場面を見ると毎回思ってしまうのだが、あまり協調性のなさそうなメッシュが戦闘の連携時には多大な貢献をしているのが意外だ。心情的な面であまり人と合わせるのが得意でないのかもしれない。
とはいえ彼も《軍》を率いるギルドマスターだ。俺への当たりはあまり良くないが、大人数を率いるだけの力は持っているのだろう。
「セイント・リフレクション!!」
そのメッシュがアビリティを発動して聖なる光の障壁を顕現させる。防御中心のプレイヤーでは最高峰と噂される彼のアビリティだったからか、ゼネスは見事に攻撃を跳ね返されていた。リフレクションの名の通り、おそらく受ける予定だったダメージを相手に反射する効果もあるのだろう。こういう高性能なアビリティは総じて効果時間が短かったりタイミングがシビアだったりするのだが、見事な手際だった。
それからもステータス任せに戦ってくれるならそちらの方が有り難い、とばかりにトッププレイヤー達はゼネスを着実に追い詰めていた。流石にボス戦慣れしているプレイヤー達だけはあって手際がいい。
ゼネスのHPを三分の一ほど削ったところで相手が跳躍して距離を取った。
「流石流石。俺の予想より早い削り方だ。真面目にこのゲームをクリアしようとしてるだけはある。褒めてやるよ」
ゼネスは余裕ぶった態度で告げてくる。このままいけば割りと簡単に倒せるのではないかとすら思わせるだけの安定感があったのだが、やはりなにか隠していると思うべきか。まぁ普通に考えてゲームとして終盤に差しかかっている中のボスが変化しないわけがないだろう。
「システムコール=サモン・グラム!!」
ゼネスが奇妙な言葉を唱えた。呪文とも違う、プレイヤーにとっては馴染みがあるようで馴染みのない言葉。
天に掲げた右手に、ポリゴン体が集まってきてやがて黒い剣を形取る。見たこともない武器だが、おそらく魔剣だろう。
「……竜殺しの魔剣!!」
後方からアリシャの声が聞こえてくる。
「正解だぁ。狙うはてめえ一人ッ!!」
にたりと笑ったゼネスは俺と目が合った直後に呼び出した魔剣を投擲してきた。……なるほど、竜殺しの魔剣の効力があればドラゴンチックになった今の俺に大ダメージが与えられる、と。
だが結局は当たらなければその効果が発揮されない。投擲された魔剣を剣で弾き返した。
「おーおー、やるねぇ。ならこれでどうだ? システムコール=サモン・ウェポン!!」
ゼネスは未だ余裕を崩さず、今度は周囲に無数の武具を呼び出し始める。先端部分をこちらに向けて空中に固定している。
「一回、こういうのやってみたかったんだよなぁ。そぉら、足掻いてみせろよ!!」
ゼネスは少し浮かれた表情で言うと、呼び出した武具を全て射出してきた。全てが弾丸のような速度で飛来してきている。
「屈め! 盾を構えろ!」
ジュンヤが咄嗟に指示を出し、壁役が盾を構えて踏ん張りその後ろに他のプレイヤー達が隠れるようになる。後衛にまで飛んでいるのでそれは魔法やアビリティの障壁を形成して防ごうとしているが、
「無駄無駄ぁ! 俺が召喚してる武器は全部、高レア武器なんだよ! てめえらのへなちょこ障壁で防げると思うな!!」
ゼネスの言う通り、障壁はすぐにヒビが入ってしまう。壁役もあまりの勢いに押されていた。
「ほら、もっと追加してやるよ! システムコール=サモン・ウェポン/ループ」
第一陣はなんとか凌いだが、今度はずっと武具が射出され続けるようにしてくる。アビリティを駆使しても庇い切れなくなり、一気に劣勢へと陥ってしまった。なんとか攻勢に出る機会を作ろうと後衛攻撃職がゼネスへ攻撃しているが、あまり効果はないようだ。少しずつしかHPが減っていかない。攻撃の手が減っているのだから当然と言えば当然だが。
「リューヤ! なんとかできないか!? 例えばほら、飛んできた武器を掴んで投げ返すとか!」
「なんだよそのピンポイントな対処法は」
前方のジュンヤから声が飛んできた。要は攻撃の手を増やして形勢を変えたいのだろう、とは思うのだが。やるだけはやってみるとしよう。やらなければ全滅する可能性もある。今はまだ回復が間に合っているがそれでも時間の問題だ。余裕のある内に賭けに出るのは悪くない選択肢とも言える。
ただ所々竜殺しの由来を持つ武具が飛んできているので、このまま飛び出すのは万が一失敗した場合が危険すぎる。素早く動けて今の状態と同等かそれ以上って言うと……。
「アルティ! 力を貸してくれ! シルヴァは援護を頼む」
本当はもう少し後まで秘密にしておくつもりだったが、勿体ぶって死んでしまっては元も子もない。
「【【影神狼双牙士・シャドウレオンウルフ】」
俺が持つ最強スキルの一つ、『UUU』。テイムモンスターと心を通わせることで、そのモンスターが持つ力を自分の力に加算して扱うことができる。恰好もモンスターを模した姿になり武器もそれぞれに違うため、俺みたいに広く武器を使えるようにアビリティを取得していないと難しいのかもしれない。
白い髪が黒く染まっていくが、前髪の一房だけは白のままだった。頬に黒い爪のような紋様が左右三つずつ描かれ、首には艶やかな毛並みをした黒いファーが巻かれている。黒ずくめの上に黒い軽鎧を身につけており、ほぼ全身黒ずくめなのだが軽鎧の淵は赤が使われていた。アルティの毛並みを意識した腰巻きもある。両手には革の手袋を嵌めていて、牙を思わせる漆黒の双剣を握っていた。
格段にステータスが上昇しているので、普段無茶な動きすら可能になる。これならジュンヤの言っていたことも実現できるかもしれない。右手の剣を腰の鞘に納めて片手を自由にする。
「やれるもんならやってみろよぉ!!」
ゼネスは『UUU』の能力もアルティの種族も知っているためある程度予測しているのだろうが、実現できるステータスを持ったことと、実際に実現できるかどうかはまた別の話だとでも思っているのかもしれない。
俺は大きく跳躍する。助走なしに、人を軽く跳び越えるだけの跳躍力を発揮した。そして飛んできていた剣の一本を空中で掴み取ると、ゼネスに向かって投げ返した。かなりの速度で飛んできていたが、そこはステータスに物を言わせて無理矢理に解決する。だが不安定な体勢だったからかゼネスの横を抜けていった。
「ん、コントロールが甘いな」
着地した腕の調子を確かめる。流石に一発目で命中、とまではいかなかった。不意を打てるからできれば最初から成功したかったのだが。
「……ふざけてやがる。どんなチート使ってやがんだよ」
「心外だな。俺は今のところ、IAOのシステムに則ってプレイしてるよ」
「チッ! そう聞いてるから余計癪に障るんだよ!」
ゼネスは苛立ちを隠そうともせず舌打ちした。
「リューヤ! その調子で攻め込んでくれないか!?」
「わかった、ちょっとやってみる」
今相手に近づくのは複数の銃口に囲まれた場所に行くようなモノだ。とはいえ、状況を変えるためには動かなければならない。
今度は勢いをつけて跳躍。軽々と前にいたプレイヤーを跳び越えていく。 武具が飛来してきているので当たりそうなヤツは左手の剣で弾きながら。だがプレイヤーが固まって攻撃をやり過ごしている以上、次の足場がない。
「エアリア!」
「了解した」
俺は丁度着地しそうな位置にいた忍者のエアリアに声をかける。彼はすぐに察すると飛んでくる武具の軌道を見て問題ないことを確認してから、バレーのアンダートスのような構えで俺の着地点に立った。
「いってこい」
「ああ」
俺は足からエアリアの構えた腕に着地し、エアリアは俺の体重を受け止めた上で勢いよく上へ投げてくれた。タイミングを合わせて跳躍すれば再度跳び上がることができる。
「恰好の的だろうがよ!!」
ゼネスは接近してきた俺に対して武具の矛先を向けてくる。空を飛ぶことができない状態なので、空中では身動きができないと思ってのことだろう。だが、俺にはもう一人仲間がいる。
「はっ!?」
空中を蹴って射出された武具の軌道から逃れる――もちろん虚空を蹴ってもどうすることもできないが、シルヴァがいいタイミングで足場を作ってくれたのだ。
「くそっ! 予想外が過ぎんだろ!!」
「影牙絶刃」
もう一つの足場を利用して一気に肉薄する。その際、アビリティを使用して更に速度を上げた。武具が射出されるよりも速くゼネスの下へと辿り着き、擦れ違い様に牙のような四撃を叩き込んだ。
「……くそったれ野郎が」
「ボスのHPなんだ。これで終わりじゃないだろ」
「当たり前だろうがっ!!」
俺とゼネスは振り返り様に互いの攻撃をぶつけ合い相殺する。思惑と反して武器の射出は止まらなかったが、それでも誰かが接近できたというのは大きい。
「チィッ! これだけは使いたくなかったが、仕方ねぇ。てめえだけは必ず殺してやるよ!!」
ゼネスは言うと武具の射出を停止させた。代わりに右手へとポリゴン体を集めていく。なにをする気かは知らないが待つ必要はない。接近して斬りかかるが見えない壁に刃が阻まれてしまう。
「無駄だ。特別に、こいつを使う前だけは俺を不可侵オブジェクトとして認定するようにしてある。安心しろ、このシステム使って一方的にとかはしないでおいてやるよ!」
不可侵オブジェクト、つまり破壊や改変のできないモノという扱いになっているのか。システム上勝てない仕様にだけはしないようだが、台無しにするようなつまらないこともさせないということだろう。
「システムコール=クリエイト・ワンショットウェポン!!!」
今度はサモンではなくクリエイト、つまり創造だ。呼び出しているのではなく一から創っているから時間がかかっているのかもしれない。
しかしワンショットウェポンというのは……。
「完成だ!! 死ねぇ!!!」
考えている間に歪んだ短剣が出来上がる。即座に斬りかかってきた。冷静に対処しよう、と思って刃で受けようとするが敵の短剣がこちらの武器を擦り抜けた。
「っ!?」
寸でのところで身を捩ったので当たることはなかったが、厄介な武器が出てきてしまった。
「チッ、上手いこと避けやがったか。だが、てめえ以外ならどうだろうなぁ!!」
ゼネスはにたりと笑って、俺ではなく他のプレイヤーの方へと駆けていった。アルティの力と融合している今速度で負けるとは思っていないが、それでも敵はボスだ。ステータスが高いために追いつくことはできない。
「そらよぉ!」
ゼネスが無造作に壁役の一人に斬りかかった。壁役は咄嗟に盾で防御するのだが、先程俺の武器を擦り抜けたのと同じように盾を擦り抜け、分厚い鎧も擦り抜けて本体を斬りつけていた。しかも斬られたプレイヤーのHPが消滅する。通常攻撃を受けた時のHPの減り方は、減少となる。一撃で相手を倒したとしてもゼロまで減少してHPがゼロになるのだが、今の減り方は違った。七割近くあったHPが一瞬でゼロになったのだ。
「ぁ……」
そのプレイヤーは愕然とHPバーが映っている方を見つめて、散っていった。
「……う、うわああぁぁぁぁぁ!!!」
しんと静まり返ったのは一瞬で、最初に誰か、壁役の一人が悲鳴を上げて逃げ出した。防御不可能と理解して、重装備故に真っ先に殺されることを悟ってしまったのだろう。そして恐怖は伝播し壁役のほとんどが逃げ出して――
「背を向けて逃げ出してるんじゃないわよ、この臆病豚がっ!!」
剣呑な女性の声が聞こえたかと思って振り向くと、後衛として魔法を放ち続けていたツァーリが最初に逃げ出したプレイヤーを杖で殴打していた。
「ボスの特殊能力でなにかの職業が役に立たないなんてよくあることでしょ? 壁役にもなれないんだったら後衛で戦ってるプレイヤーにアイテム渡すぐらいするでしょ!?」
呆然とするそのプレイヤーを、げしげしと蹴りつけるツァーリ。余程気に食わなかったらしい。……おぉ、怖。
「……ここまで来ておいて、自分の保身だけで逃げ出せるヤツがいるなんて思ってなかったわ」
最後に少し悲しそうな、しかし侮蔑した眼差しを向けて告げた。そのプレイヤーも、他に逃げ出そうとしていたプレイヤー達も足を止めて俯いている。
確かに、このデスゲームを終盤まで頑張ってきたプレイヤー達はいつ誰が死んでもおかしくないと思いながら攻略に挑む覚悟を決めている。それも常に前線を張る壁役プレイヤー達は神経を擦り減らしながら踏み留まっている。そういうところは、ツァーリでも後ろからよく見えていたのだろう。
「ご高説どうも。じゃあてめえから死ねや!」
そんなツァーリに、ゼネスが迫っていた。しかしその凶刃が彼女に届くことはない。
「……死ぬのは、てめえだ!」
背後からゼネスの衣服を掴んだ者がいたからだ。巧みに投げてゼネスとツァーリの距離を空けさせる。
「あら、助けてくれるの? 珍しくお優しいことね」
「はっ。てめえに物理で殴るのが最強だって認めさせるまでは、死んでもらうわけにはいかねぇんだよ」
「私、不老不死じゃないんだけど?」
「あぁ!?」
ツァーリの「一生認める気はない宣言」に突っかかるベルセルク。……こんな状況だってのにあいつらは。
「てめえら、ふざけてんのか!?」
「はぁ? てめえこそなに言ってやがる。ゲームでチート持ち出すことの方がふざけてんだろうが。ゲーマーの風上にも置けねぇな」
「ええ、全くね。ズルはいけない、って小学校の頃に習わなかったのかしら」
「……っっ!!」
他でもないゼネスがツッコみ、しかし二人に揃って言われ眉をぴくぴくさせていた。
「……上等だ、てめえら全員皆殺しにしてやるよぉ!!」
「「チートを実力で上回るって楽しいんだよなぁ(楽しいのよね)」」
ゼネスが咆哮する中、狂戦士と魔術師は不敵な笑みを浮かべていた。
ホント、気が合うんだか合わないんだか。




