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Infinite Abilities Online   作者: 星長晶人
煮えたぎる溶岩編

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138/165

イベント最終戦

遅くなってしまって申し訳ないです。

少しずつ完結に向かう、予定です。

 風を切る。大地を蹴って木々の間を縫うように駆ける。


「いやぁ、これは簡単だな」

「……速い」


 黒い毛並みの大きな狼に跨る俺と、俺の後ろにしがみつくアリシャ。シルヴァは俺の前で毛並みに埋もれて眠っている。


 島中を歩くとなると丸一日かかる。しかもどうやら見つけるとランダムで居場所が転移するらしく、また一から探さないといけない。そんな面倒なことを歩いてやるのは面倒だという結論に至ったのだが。


 そこで思いついたのが、大人アルティに乗った高速移動である。


 大人のアルティなら超高速であちこちを探し回せる。しかも鼻が利くので近くを通ったら調整してくれるのだ。これなら俺は騎乗しているだけでいいという楽さもある。あと歩き回るとモンスターに遭遇してしまうが、アルティの速さなら容易に振り切れた。

 画期的な方法(自分が楽できるという点で)により、俺とアリシャのパーティが一番発見回数を多くクリアに導いた。まぁギルド単位とかで考えると『軍』が一番だったんだけどな。そこは人海戦術の方が強いし仕方がない。それに一人につき一回カウントで、五人で見つければ五回分ということもあり、合計数値で上回れるのは仕方がないだろう。


『ゼネスが1000回発見されました。イベントレイドを開始します』


 そんなアナウンスが聞こえたかと思うと、島の中央から突風が島全体に駆け巡っていった。


「っ……? なんだ?」

「……多分レイドボスとしてゼネスが出現した」

「わかった。じゃあ早速行ってみるとするか」


 言って、アルティに乗ったまま島の中央へと向かっていった。


「おらおらぁ! かかってこいよ真っ当に強くなったプレイヤー共!」


 既に戦闘は始まっているようだ。『軍』に『SASUKE』、『戦乙女』や『ナイツ・オブ・マジック』も合流している。『狂戦騎士団』のギルマスターベルセルクと、『暗黒魔術師団』のギルドマスターツァーリもいた。このイベントに参加しているトッププレイヤーは全員集合したんじゃないかと思う。


 だがそれらを相手にしているゼネスは相当強いようだ。黒銀の大剣をぶん回してプレイヤー達を薙ぎ払っている。『ナイツ・オブ・マジック』のマスタージュンヤと『軍』のマスターメッシュが壁役最高峰のはずだが、それでも大きく後退させられるほどだ。


「じゃあ参戦といこうか」


 俺も戦力はトッププレイヤーなので、参戦しなければならない。ボスバトルなら尚更だ。メッシュ辺りはいい顔しないかもしれないが、プライドや好き嫌いより攻略を優先するべきだろう。

 生死がかかってはいるんだからな。


「アルティ、このまま突っ込んでくれ。アリシャ、しっかり掴まってろよ」

「……ん」


 俺はアルティに指示を出しつつ腰の剣二本を抜き放つ。アリシャは俺にしがみつくような恰好から腹部に手を回してがっしりと掴まってきた。アルティはアリシャがしっかり掴まってから速度を上げてゼネスに突っ込んでいく。


「クロススラッシュ!」


 高速で突っ込む勢いのまま前方に交差する斬撃を放ちながら激突する。


「はっ! いくら強いっつったって無駄に決まってんだろ!」


 しかしゼネスは俺が放った斬撃を大剣で相殺し、返す刃でアルティを捉えた。ただアルティも本気の速度ではなかったようで刃を回避してそのまま離れていく。


「チッ。流石にレオンウルフの亜種だけはあんな」


 どうやらアルティの種族にも見当がついているようだ。システム的に明かされてしまったのか、ただ単に予想なのかはわからないが。


「リューヤ!」

「お兄ちゃん!」

「チッ……!」


 姉ちゃん、リィナ、メッシュの順だ。参戦に喜んでくれる顔が多いのは有り難いことだが、どうやらメッシュには好かれていないらしい。まぁ、俺も誰も彼もに好かれようとは思ってないので構わないのだが。というかあまり気が合わないので当然の結果なのかもしれない。


「アルティとシルヴァはこのままアリシャと一緒に援護へ回ってくれ」


 敵が小さいと俺の仲間達では直接攻撃がしにくくなってしまうと考えて、そう指示を出す。あと周りの邪魔になってしまうからな。


「……リューヤは?」

「俺は前線に出てくる」

「…………わかった」


 アリシャに答えてアルティの背から飛び降りた。ボスのステータスに加えてあのバカでかい大剣。どちらも相当な攻撃力を持っていそうだが、なかなか厄介だ。例えば敵が巨大なモンスターだった場合、何人もの壁役が並んで一撃を受けることでダメージを分散、耐え切ることができるのだが。今回のように敵が小さいと一人で一撃を受けなければならず、ステータス差で吹っ飛ばされてしまう。


 俺も全力中の全力でなければ太刀打ちできないだろう。あまり防御に振っていないので一撃くらったらHPの半分以上を削られても不思議じゃない。なら強化を盛って攻撃を相殺するしかないということになる。回避ももちろん有効だが、全て避け切れるなどと慢心はしない。


 今回は標準装備にしている聖竜剣・ホーリードラゴンと闇竜剣・ダークドラゴンがあるので『DDD』の方をまずは使おうと思う。『UUU』は武器に縛られない上に小さい敵に対して強力な力を駆使できるのでこういう場面にいいのかもしれないが。


「『ドラゴンフォース』」


 まずは竜の力を持った剣を手にしている間にのみ使えるスキルを発動。

 白と黒が混じり合ったオーラを発し、髪が逆立って左目が白色になる。背に純白の左翼と漆黒の右翼が生えた。白いトゲのついた黒い尾も生えてきている。


「『闇竜紋』」


 闇竜剣を手にしてからずっと左手の甲に刻まれている紋章から黒く光り、俺の全身を黒い筋のようなモノが這っていく。左頬に竜のような紋章が描かれていることだろう。

 更に本来なら紋章で出来た翼が生えるのだが、先に『ドラゴンフォース』を使っていることによって飛行補助の状態となり、両翼の下に二回り小さく生えていた。


「『ドラゴン・ドラグーン・ドラグオン』」


 通称『DDD』。人前で使うのは初めてだったか? まぁあまり秘匿し続ける意味も、『UUU』を会得してしまった今では薄れていると思うのでいいだろう。

 全身の所々に竜の鱗が生え、着ている服や両手に握っている剣すらも侵食されていった。


 これで俺が通常使える竜系アビリティの全てが発動した状態となる。

 これらの強化効果は装備品を考慮しない素のステータスにバフがかかった状態になることが多いので、レベルが高くても強いアビリティとなっている。もちろん倍率の問題があるのだが、当時破格の効果だったため今でも現役のスキルだ。因みに『DDD』だけは装備や他のアビリティを使用して出た部分を侵食していることからもわかる通り、装備品や強化効果などをした状態の最終ステータスが割合で増幅する。装備が良ければその分強くなるというとんでもアビリティである。唯一の欠点は武器が竜系装備に限定されてしまうという点くらいか。


「……オイオイ化け物かよ。そんな竜アビ盛り合わせなんて頼んでねぇっつうの」

「心外だな。ボスステータスのヤツには言われたくないんだが」


 この中で最もステータスが高いのは間違いなくボスであるゼネスだ。


「いやいやプレイヤー目線で言ってんだって。てめえそういや『UUU』持ってんだよな? で、シャドウレオンウルフだとかその他の強モンスターいるってのにそりゃチートってもんだぜ」

「だとしたら九十パーセントの運と十パーセントの努力の結果だと思ってくれ」


 もう少し努力の割合が高くてもいいかもしれないが、努力ではなんともならない部分も存在する。運が特に重要だった場面も多くあったと思う。偶々巡り合わせが良かっただけのこともある。


「はっ! 無限迷宮最高記録保持者がよく言いやがる。それにな、ゲームの都合上強いモンスターほどレベルが上がりにくい仕様になってんだよ。それを他のプレイヤーより上にするとかどんだけアホなんだって話だろうが!」


 そう言われてみると確かに。アルティとかかなり苦労してる気がするし。後半の跳ね上がり方がえぐいんだよなぁ、ホント。


「だからこそ、てめえはここでぶっ殺す! 【ブレイドレイン】」


 システムの知識があることもあってか俺を目の敵にしているらしい。ヤツが手に持っている大剣と全く同じモノが上空に出現する。それも無数に。名前の通り雨のように降らせてきた。ボス用に強化されているのか効果が広範囲に及んでいる。壁役や支援役が障壁を上に展開し、一塊になってやり過ごすらしい。俺は残念ながら防御性能低めなので、ごり押しでやるしかない。


「【ドラゴンブースト】!」


 俺は雨が落ちてくる前に、翼からジェットのように噴射して高速移動を行いゼネスへと接近した。


「バカげてんな!」


 迫る俺へ向けて大剣を振り下ろしてくる。両手の剣を交差して受け止めつつ飛翔を続けるが全く押せなかった。流石に押し切れはしないか。


「いや、むしろ互角な方がおかしいだろうがよ!」


 俺の心を読んだかのように言って、ゼネスは強引に剣を逸らす。飛んでいると細かな回避ができなくなるので、一旦地に足をつけて刃をかわす。


「心が読めるのか?」

「違ぇよ! 顔見りゃわかんだって!」


 そんなに顔に出やすい方だったかな、俺って。

 と思いながらも【ブレイドレイン】の範囲は使用者を巻き込まないようになっているため、その範囲から出ないようにゼネスの攻撃をやり過ごした。直撃を受ければ一気にHPがレッドゾーンまで持っていかれる可能性まであるので、直撃は受けないように攻撃をいなす。二足歩行のモンスターだとある程決まった動きをするので何度か戦えば動きを読むのが楽だし、獣だとランダム性が強くてなかなか難しい。人だと視線やなんかで動きを読める代わりに、フェイントなども駆使してくるため相手による、という感じの印象だ。

 もちろん高度なAIを積まれた難易度の高いボスやなんかはフェイントを駆使してくるし、こちらの動きを読んだ上で攻撃をしてくる。俺が今最前線で挑んでいる無限迷宮の最深部やなんかはそんなヤツばっかりで嫌になるくらいだ。


「チッ! PvPもいける性質かよ!」


 だから、相手がプレイヤーである今回のボス戦では、高度なAIを積んだボス戦の経験が役に立つ。


「正確には無限迷宮深部のボスが、頭いいってだけだけどな」


 言いながら隙あらば容赦なく攻撃を仕かけてみるが、なかなかHPが削れない。レイドボス仕様のステータスだけはあって、戦えてはいるが高い防御力とHPによって削りが遅かった。


「……あぁ、そういや深けりゃ深いほど厄介になるんだっけなぁ!」


 ゼネスが言って巨大な斬撃を放ってくる。それを剣を交差して受けていると、


「【アイシクル・スパイル】!」

「【グラウンド・エッジ】!」

「【影牙】」


 リィナが頭上から氷のドリルを降らせ、姉ちゃんが岩で出来た刃をいくつも放つ。エアリアが敵の影から牙のようなトゲを出現させて襲った。ついでとばかりに銀の弾丸が隙間からゼネスを狙う。シルヴァの仕業だろう。


「小癪だってんだよぉ!」


 俺への攻撃を一時中断し大剣を振り回して一掃する。ステータスが高いからか多少強引な手を使って脱することができるようだ。


「リューヤ! 正面は俺とメッシュで受け持つ! 遊撃に回ってくれ!」

「勝手に決めるな!」


 ジュンヤが言って盾を構えてゼネスに突撃する。メッシュは苛立ちを隠そうともしなかったが異論はないようでゼネスの正面に立ち塞がった。


「てめえばっか出しゃばってんじゃねぇ!」


 かと思ったらベルセルクが突っ込んできて、強引にゼネスの身体を跳ね飛ばした。


「【アンサイクン・デス】」


 黒い鋼の剣が足元に描かれた魔方陣から突き出してゼネスを襲った。……ベルセルクが突っ込んでいてあわや巻き添えを食いかけていたのはわざとだろうか。


「おい、ツァーリ! 危ねぇじゃねぇか!」

「あら。当たらなかったんだからいいじゃない」


 ベルセルクは敵から距離を取って怒鳴るが、当の本人は澄まし顔だ。それにベルセルクは更に青筋を立てるのだが。

 相変わらず仲は悪いようだ。なんだかんだ両思い的な雰囲気を感じるのは俺だけなのだろうか。


「お兄ちゃんを殺すなんて、絶対させないんだから」

「そういうこと。大人しく倒されて頂戴」


 頼りになる妹と姉がゼネスへと宣言する。トッププレイヤーに囲まれながら、しかしゼネスは嗤った。


「はっ! 今のてめえらじゃ、俺サマには勝てねぇよ!!」


 根拠がない自信なのか、なにかシステム的な都合があるのか、彼ははったりではなく言っているようだった。HPはちゃんと削れているし、ステータスは他のボスと同じように脅威だが、裏を返せばその程度でしかない。

 こいつには、まだなにか隠していることがあるんだろうか?

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