イベントと占拠
活動報告にて各作品のこれからなどを記載しています。興味のある方はご確認ください。
小屋と火箱と名づけるような簡易的室内焚き火を作成させた俺は、雨が止んでからトッププレイヤー達に進捗を聞こうかと草原地帯の方へ向かった。
話を聞く相手はリィナのいる『戦乙女』にしようかと思っていたが、残念ながら不在だった。以前テントのあった場所に向かったが人影はない。やはり最前線で戦っているのか。
妹を心配しつつも、リィナは弱いわけではないし仲間達も強いことは知っているので、心配しすぎないようにと思いながら。
俺はギルドの野営地を記載した地図を見て知り合いのギルドを当たるのだった。
エアリア率いる『SASUKE』は平気そうだった。自衛隊だという話なので、サバイバル技術でも学んでいたのかもしれない。普段と変わらず、むしろ活き活きとして過ごしているようだった。もしかしたらまたメンバーが増えるかもしれないな。もうすぐプレイヤー同士の戦闘が解放されてしまうので、あまり急な新規プレイヤーは迎えたくないだろうが。イベントの最中互いに歩み寄らない程度の距離感で協力し合い、イベント終了後信頼に値すると見れば加入を認める。それくらいでやるかもしれない。
エアリアやアリアは俺も一緒にどうかと誘ってくれるが、楽しそうなところを邪魔したくはなかった。俺は満遍なく鍛えているせいでエアリア達ほど移動速度や潜伏能力に長けていないというのもある。彼らのようなロールプレイギルドに一人異物が混じると予想外の事態に見舞われる可能性も出てくるだろう。俺のせいで窮地を迎える、なんてことはさせたくない。
となると、残るは『ナイツ・オブ・マジック』、『一夫多妻』くらいは協力してくれそうだが。後者は居心地が非常に悪く、『ナイツ・オブ・マジック』は頻繁に『戦乙女』と共闘しているため彼女らがいなければ同じように出発している可能性が高い。
一応それらのギルドがいた場所も回ってみたが、誰一人としていなかった。『軍』ほどの規模になると交代で行動するのだろうが、どうやら大半のギルドは全員で攻略しに行っているらしい。
いないとはわかっているが、こんな時にアリシャがいてくれれば新しい情報をどこからか仕入れて共有してくれただろうに、と思ってしまう。
他人に頼ってばかりではいけないと思っているが、久し振りに自分の足で情報収集をしていると苦労するモノだ。
とはいえ攻略の進捗状況などは聞きたかったので、結局最初に『戦乙女』が帰還するまでは中小ギルドの面々などに余った食材を配って過ごしていた。
「あっ、お兄ちゃん」
日も暮れて遠くが見えづらくなった頃、ようやく『戦乙女』が帰ってきた。
先頭はギルドマスターであるリーフィアだったが、俺の姿を認めたリィナが駆け足で近寄ってくる。
『戦乙女』は以前からメンバーを増やしていない。
マスターのリーフィア、副マスターの千代、俺の妹であるリィナ、生産担当のセリー、回復のミュリア、遠距離攻撃のカリニャ。この六人でずっと活動してきている。俺がログイン初日に会ったのは四人だったが、その頃既に六人のギルドとして設立していたはずだ。βテストの時からずっと一緒だろうから、余程のことがない限り新メンバーを迎え入れることはないのだろう。
「お疲れ様。ちょっと攻略状況でも聞こうかと思ってな。エアリア達は無人島で生き抜くことを重点に置いてるみたいだし、実際に前線で戦ってるギルドに聞きたかったんだ」
俺はリィナ達を労いつつ、早速話に入る。
「そうなんだ。基本的には洞窟内に入るとストーリーが始まって、奥に進んでいくと進展があってボスを倒すとクリア、っていう感じだったよ。所々謎の単語が出てきたし、多分私達がやっただけのストーリーじゃあ全クリとまではいかないと思うけど。前編ストーリーみたいな感じだったよね。ただ周辺を探し回ってもヒントとか続編ストーリー開始とか全然なかったから、多分日数経過で解放されるんじゃないかなーとは思ってるけど。とりあえず今のところは推奨レベル六十程度の難易度だったよ」
リィナが一通り、ストーリーのネタバレに配慮するような形で説明してくれた。
推奨レベル六十なら、中規模のギルドでも攻略可能だろう。残る不確定要素は数日経過で解放されると予想した続編ストーリーの方か。今のところダンジョン開放に必要なイベントとはいえ難易度が今の最前線と合わない。報酬の経験値が美味しいと一部では話題になったそうだが、正直なところ何日もかけて一レベルしか上がらないのでは効率が悪い。無限迷宮の最前線で引き籠もっていた方が断然いいだろう。無論いい武器が揃っていて、かつソロで戦い抜ける場合のみの話だが。
「そうか、情報ありがとな。俺も今度洞窟行ってストーリー進めとくか」
「うん、それがいいよ。数日経過で解放っていうのも私達の予想でしかないから。どこかに続編ストーリーへのフラグがあるかもしれないと思って、明日からは島全体を何回かに分けて探索してくつもり」
「なら良かった。折角だから地図を活用してやってくれ。ついでに間違いがあれば共有してくれると嬉しい」
「うん、そうするね。あとそのお礼っていうわけじゃないんだけど、私達がマッピングした洞窟内の地図を渡しとくね。あとお姉ちゃんから渡されたのもあげる」
「助かる」
リィナから渡されたのは青い半透明な塊だ。水晶のようでもあり実体がないようにも見えるデザインだが、ダンジョン内の通路を『マッピング』などのスキルで取得したデータになる。これを持っているとダンジョン内のミニマップが表示されるようになり、何度も攻略する時に一々道順を覚えていなくても良くなる。またデータを取得すればこうして他プレイヤーと情報交換のやり取りができるのだ。
マッピング・フラグメントと呼称されるそのデータアイテムを二つ受け取ると、融合しデータとして記録される。これで俺が洞窟内に行っても問題なくマップが表示されることだろう。
今ここにいない姉ちゃんにも感謝しつつ、今日のところは一旦小屋に帰った……のだが。
「……誰だ、あいつら」
俺は拠点に戻ってきて、呆然とした。
男五人のプレイヤーが、小屋の前でバーベキューをしていたのだ。バーベキューと言っても俺がしていた肉の丸焼き程度のモノで、現実でやるような洒落た雰囲気はあまりない。焼いた肉をそれぞれで食べながら談笑しているようだが。
なぜ俺の造った小屋を我が物顔で使っているのか。例えばこれが、考えにくい話ではあるがエアリア達だったなら百歩譲って良しとしよう。というか人を呼ぶならもっと大きな建物にしている。俺の拠点として建てたのだから当たり前なのだが。
つまり俺の許可なく勝手に占拠しているということだ。敵対行動にも通じるので問答無用で攻撃されても文句は言えない――のだがまだプレイヤー同士の戦闘が禁止された状態だ。力ずくで追い出すことはできないかもしれないな。
「おい」
だが勝手されたままというのは嫌だ。意を決して近づき、五人に声をかける。
「なんだよ、あんた。なんか用か?」
内一人が応えたが、口元にはにやにやと嫌らしい笑みを浮かべている。……なんだこいつら。まさか俺の拠点だと知って占拠してるんじゃないだろうな。
まだ確信は持てないが、こちらとしては知らないからといって許してやる気にもなれない。
「ここは俺の拠点だ。悪いが出て行ってくれるか」
知らなかったなら話せばわかってくれる可能性はあるが。
「なに言ってんだよ。ここは俺達が見つけたんだぜ? 後から来て奪おうなんて酷いな」
どの口が、と思いたくなるがまだ我慢だ。本当にそう思っている可能性も捨て切れない。
「お前達もプレイヤーなら『鑑定』くらい持ってるだろ? 見れば俺が造った小屋だってすぐにわかるはずなんだがな」
「そんなこと書いてないよな、お前ら?」
俺の発言に応えた者が促すと、他四人が頷いた。……確信犯かこいつら。『鑑定』スキルを持ってるならスキルレベルに関係なくプレイヤーメイドのモノは全て製作者の名前が記載される。だが俺以外に証人がいない以上、口裏を合わせられれば否定し切れない、か。NPCが造ったモノなら表示されないからな。それだと言い張ればわからない。
「造った本人に対してその態度か。プレイヤー同士の戦闘が禁止されてるからってやりすぎだぞ」
「言いがかりつけんなよ。文句あんなら戦闘解禁されてから来れば?」
「生産職が俺らに敵うはずねぇだろうけどな」
言って、ぎゃははと笑いが起こる。……そういや、こいつらの顔は見たことないな。地図を渡して回った時も。俺が誰で何者なのかわかってないのか。製作者としてプレイヤーネームを控えられてるし、アルティとシルヴァも連れている。俺も顔と名前が売れてると思ってたんだが、どうやら思い違いだったようだ。
「そうか。なら仕方ないな」
沸き上がる怒りを抑えつけて言い、小屋の方に歩く。
「なにする気だ?」
聞かれる声を無視して、小屋に左手で触れる。ウインドウが立ち上がり選択肢が表示された。こんなヤツらのためにやるのは嫌だが、戦って追い出すこともできない今は仕方がない。また拠点にいい場所を探して立て直してやるとしよう。
俺は表示された質問に「YES」と答える。すると小屋が青白い透明へと変わり、そして消え去った。小屋の入り口に腰かけていたヤツが尻餅を着いている。
「な、なにしてんだてめえ!」
「なにってお前らにやるくらいならと思って破棄しただけだ。戦闘が解禁されてないんだからな、大人しく見てろ」
「ふざけんな、ここは俺の拠点だって言ってんだろ!」
俺は怒鳴る声も無視して小屋が破棄されたことで地面に転がった火箱を回収し、道具袋に仕舞い込む。肉が焼き途中の枝組みにも触れて仕舞い込んだ。『料理』が中断されて肉が地面に落ちる。
「おい、いい加減にしろよ!」
「いい加減にして欲しいのは俺の方なんだが。人が造ったモノを我が物顔で使いやがって。悪いがお前らにくれてやるつもりはないんでな」
「ふざけんなよ、おい!」
俺からしたらなぜキレられているのかわからない。一人が俺に掴みかかろうとするが、直前でシステムによって築かれた壁に阻まれる。
「戦闘できなくてもお前らを死に追いやるぐらいいくらでも手はあるが、今回は見逃してやる。次は容赦しないからな」
「……こっちのセリフだ。後悔しても知らねぇからな」
今は手出しできないと見て、相手は手を引っ込めた。だが五人共俺に恨みを持ってしまったようだ。問題ないとは思うが、頭の片隅には置いておこう。
死に追いやる手、に関してはいくつかあると言ったが基本的には同じ結果だ。モンスターを使って襲わせる、ということだけ。もちろんテイム、サモンしたモンスターであってもプレイヤーの仲間と考えられるので戦闘できないのだが。狩りの効率を良くするためにモンスターを誘き寄せる撒き餌などを使えば簡単にできることではある。今回はモンスターの湧くペースが速い無限迷宮ではないため、最悪洞窟でそれを使ってレベリングしようかと思っていたところだった。なので余った素材で作成してはいるのだが。あまりそういった用途でアイテムは使いたくない。
脅しとしても効いていないみたいだからな、無駄だったかもしれない。
とはいえあいつらの近くで過ごすわけにもいかない。俺は仕方なく、二体を連れて洞窟の方へ向かうのだった。新しい拠点を造るにも、明るい方が見やすいからな。一応スキルで夜でも視界良好ではあるのだが。景色がいいかとかその辺を判断するなら断然昼だ。
リィナの言っていた無人島でのストーリーというのを、体験してみるとしよう。




