《ラザーク・ナディア》
大変遅くなり申し訳ありません。
新年明けて最初の更新になりますね。あけましておめでとうございます(遅い)。
更新速度は相変わらずですが、今年も拙作にお付き合いいただければ幸いです。
「……なんでここ?」
結局、俺は困った時ここに来る。
アリシャの運営する、プレイヤー鍛冶店・knight。ゲームをよく知らない俺に色々と教えてくれた。そのためか、基本的にわからないことがあったらとりあえずここに来る癖が出来ていた。
「まぁ、なんとなくだな」
人気鍛冶店なのになぜか来る人が少ないこともあって、静かだから落ち着いて考えることができるというのもあるが。
「……そう」
新情報だったり新武器だったりはないので、あまり興味ない様子だ。
「あのさ、アリシャ」
外部のストーカー候補に心当たりはないか。
そう尋ねる前に、
「今回の件、私は手助けできない」
先んじてアリシャが言った。思わず詰め寄ろうと一歩踏み出して、アリシャの無感情な瞳と目が合い心を落ち着ける。
「……なんでだ?」
それでも聞かずにはいられずに、肩の力を抜いて聞いた。
「……私個人の問題」
アリシャは簡潔に答える。少し待ってみるが、続きはないようだ。これ以上俺に言えることはないとばかりに口を閉ざしてしまう。
「そっか」
「……ん」
普段から付き合いはあるが、特にアリシャ自身について知っていることが多いわけではない。踏み込んで欲しくないのなら踏み込まない。言いたくないことを無理に聞いても関係が拗れるだけだからな。
「……それとは別に、一個だけ」
奇妙な沈黙が降りた店内に、ぽつりとアリシャに声が響く。
「……《ラザーク・ナディア》に気をつけて」
こちらを真っ直ぐ見据え、忠告してくれる。……意味は全くわからないが。
「……《ラザーク・ナディア》。プレイヤーキル専門のギルドで、最近活発に動き始めた。集団で少数のプレイヤーを、暗がりで襲う卑劣な連中」
簡単な説明だったが、流石は長い付き合いなだけある。俺が頭に?マークを浮かべているのを察して、《ラザーク・ナディア》がなんなのか教えてくれた。
「この辺に出るのか?」
プレイヤーキルできるほどの集団なら、あまりレベルの高くないプレイヤーを狙うのではないか、と推測してみた。
「……ん」
しかしアリシャはふるふると首を横に振った。
「……高難易度のとこ。トッププレイヤーが帰還する途中に襲ったり、中級プレイヤーのパーティをさらに多い集団で襲ったり」
俺の予想に反し、初心者ばかりを襲う連中ではないらしい。
「……聞くとそこのボスは強いプレイヤーを蹂躙したがってるとか」
なんて傍迷惑なヤツだろうか。『狂戦騎士団』のベルセルクも戦闘狂だが、意外と仲間想いで話してみるといいヤツだったりするからな。しかもあいつは一対一でどっちが強いか試したい傾向にある。多人数でリンチなんてしない。
「だから最初の気をつけて、ってことになるのか」
納得した。
「……ん。私から言えるのは、これだけ」
アリシャはもう言うことがないとばかりに店内奥の工房へ消えていった。
アリシャの様子も気になるが、今は姉ちゃんのストーカーだ。
懸念材料も多いが、情報収集に動くとしよう。
それから俺は、『ナイツ・オブ・マジック』の信頼できて事情を知る者達に怪しい者達を聞いて回った。ついでに見かけた知り合いに『ラザーク・ナディア』について聞いてみたのだが。
「……なにがしたいんだろうな」
心から漏れた言葉だった。
比較的強いプレイヤーを狙って襲っていることからも、このゲームの攻略を遅くする原因になりかねない。かと言ってそいつらが攻略に参加することはないそうだ。
ただ今そいつらがしたいことをやっている、と言えば聞こえはいいのだが。好き好んで人殺しをするような連中だ。現在ゲーム内だから、などとPKが許される状況ではない。
……なんて、俺が偉そうに言えることじゃないんだけどな。
少し自嘲気味な笑みを浮かべてしまう。もしも俺が殺したあいつらが今の俺の思考を読み取ったなら、「どの口が」と憤ることだろう。
俺は頭を振って気分を切り換える。今は俺のことより姉ちゃんのことだ。
《ラザーク・ナディア》についてはエアリア達忍者軍団が調査してくれるとのことだった。アリアはストーカーについて調査してくれると言ってくれたし、本当に頼りになるヤツらだった。
だが周囲の助けばかり借りていられない。
あの日決意した通りに、俺が姉ちゃんとリィナを守る。
それだけはいつだって変わらない。
「……さて。次はどこに行こうかな」
わざわざ口にしてから、次の目的地を考える。
トップギルドに属しているプレイヤー達は相変わらずゲーム攻略に勤しんでいる。姉ちゃんやリィナもそれは変わらない。最前線から簡単に退けられるほど、二人は弱くなかった。確かな戦力として今も戦っている。
アラーナが挙げた者達も攻略に参加する必要がある実力者達となる。
リィナが近くにいればひとまずは安心だろう。妹は自分への感情には疎い部分があるが、姉ちゃんへの感情には気遣ってくれている。怪しいヤツがいたら近づけないぐらいのことはしてくれるはずだ。
なら俺は、他の候補を洗うとしよう。
単独行動のできる俺がしやすい調査を優先して行った方が、効率がいい。
ストーカーの正体には見当もついていない状態だが、焦ってはいけない。焦らず機を見て尻尾を逃さず捕まえる。
そのための準備も、併行して進めていかないとな。




