アルティの窮地
何とか間に合いました
英やりは来週までに書き上げます、すみません
「……アルティがいなくなった?」
無限迷宮の最奥に潜っていた俺に届いたのは、俺が泊まっている宿屋の女将であるアリーンからの通信だった。しかも、かなり悪い情報が届いた。
『……カイとクドラと別れてから、途中で小路に呼ばれて入っていったのを見たプレイヤーがいて、スレ立ててるあたしのところに情報が届いたんだよ』
アリーンの声音はいつになく真剣で、少し自責の念が読み取れた。……誰かがアルティを誘拐したってことか? でも街中なら戦闘行為は禁止だからすぐに殺されるなんてことはないハズ。
……アルティが、殺される……?
ゾワリと背中に嫌なモノが這い回った。
「……カイとクドラと別れた時間か、その小路に入ってったのを見た時間は?』
『……大体三十分くらい前だね。今まで、アルティの目撃情報はないから小路を使ってまだ街中にいると思うよ。出入口と転移ゲートは見張ってもらってるから、通ったら分かるハズさ』
アリーンは俺の質問に答え、大体の居場所を割り出してくれる。……三十分前で、まだ街を出てないなら、無事か。だが一刻も早く助け出してやらないと。何をされるか分かったもんじゃない。
「……今ボス階層にいるから、終わったらすぐに出る」
『分かった。悪いね、あたしが目を離さなきゃこんなことには……』
「……いいって。俺もあいつらだけで出かけるのを許可したからな」
『……そうかい。じゃああたしの方でも探しとくから、何か分かったらまた連絡するよ』
「……ああ」
俺は頷き、アリーンとの通信を切る。
無限迷宮の最前線とは、最終ダンジョンであるデルニエ・ラトゥールがまだトッププレイヤーのレベルに追いついてないため、いわば現時点で存在する中で、最もレベルが高く強力なダンジョンと言える。
そんな危険な場所で通信するなど自殺行為にも等しいが、無限迷宮に潜っていることを知っているアリーンが俺に通信してきたということは余程の緊急事態だと分かり、しかもホントに緊急事態だった。
「……ガァ!」
ドラゴンニュートというドラゴンを模したモンスターが俺の前に立ち塞がる。二本足で立つドラゴン人間っぽいモンスターで、鎧や武器を手にしている。俺の前にいるヤツは曲刀の二刀流をしていて、それなりにいい金属鎧を着込んでいた。
「……そこを、退けっ!」
だが俺には一刻を争う事態が発生しており、隙を見て攻撃するなどという余裕はなかった。
「……おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
俺は気合いのために咆哮し、手にしている天叢剣を構えて突っ込んだ。HPが削られるのも厭わないし、MPの消費を気にすることもない。途中転移が出来ない無限迷宮にいるなら、最速で突破するしかない。よりにもよってボスのいる階層だったが、ボス部屋の前で回復すればいい。
時間を気にしてる時間も、惜しい。
俺はがむしゃらになって、無限迷宮最前線を駆け抜けた。
ただ一度のミスがあれば命を落としかねないような場面もあったが、無事にボス部屋の前に辿り着いた。
「……」
俺は回復アイテムを使ってHPとMPを回復させると、呼吸を少し整えてから、ボス部屋に続く扉を押し開けて中に入る。
そこで待っていたのは、ドラゴンだった。
ポイズンオーシャン・ドラゴン。つまり毒海竜ということだろう。水属性を主体に毒攻撃まで使ってくるのかもしれない。かなり厄介な相手だ。しかもドラゴンなら、ソロでは厳しいかもしれない。
「……俺の邪魔を、するんじゃねえよ!」
俺は焦燥がミスを生むと頭では理解出来ていながら、心が言うことを聞かなかった。アルティを助けたい一心で、俺は新たな愛剣となった天叢剣を手に、ポイズンオーシャン・ドラゴンに突っ込んだ。
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「……キュ?」
アルティは目を覚ます。薄暗く、日当たりの少ない場所だった。
「……チッ。もう目覚めちまったか」
男の声が聞こえた。アルティがそちらを見やると、そこには見知らぬ男達が七人いる。その内六人には見覚えがあった。見覚えのない一人も、匂いには覚えがあった。リューヤだった者と同じ匂いなのだ。
「まあいいじゃねえか。どうせ逃げられないんだからよ」
一人が舌打ちした男を宥めるように言う。
アルティは言われて気付いた。自分が鳥籠のようなモノに囚われていることに。とりあえず爪で引っ掻いてみるが、壊れない。ステータスではかなり高いアルティが壊せないとなると、破壊不能なのだろうか。
「……言葉が分かるかは知らねえが、無駄だぜ。それはお前みたいな強力なモンスターを閉じ込めるための檻だ。壊せないようになってんだよ」
一人がニヤニヤとしながらアルティに告げる。「言葉が分かるか分からない」、それは普段のアルティを知る者なら絶対に言わないことだった。アルティは日々アリーンの宿屋で働いており、言葉が分からなければ働くことなど出来ない。
「……ッ」
アルティが目を見開いて怯えると、ニヤニヤ笑いを深める。
「……チッ。AIの癖に何人間みたいな反応してんだよ」
だが別の男はもっともらしい反応するアルティを見て、苛立ったように舌打ちした。
「まあ落ち着けよ。そろそろ例のアイテムが届く頃だからな、もうすぐこいつの毛皮が剥ぎ取れる」
男の一人が言った。毛皮を剥ぎ取る。つまりアルティが何のモンスターであるかをある程度知っているということだ。しかも狙った、ということはその毛皮が主の恨みを買ってでも売りたい程高値であることも知っている。
「……しっかしマジで強いんだな。あんだけの量を使ったってのに滅茶苦茶早く起きちまったじゃねえか。普通ならこのまま剥ぎ取りまで寝てるんだけどな」
男の一人が感心したような声音で言う。同意の声が後に続いた。
アルティは怯えながらも周囲を確認する。ここはどうやら倉庫らしく、シャッターも下りている。見渡すと、見つけてしまった。
何かのモンスターの骨。
綺麗に肉を剥がれて白骨となったモンスターの死骸だった。アルティは自分もああなるのではないかという恐怖に駆られ、ブルリと身体を震わせる。
その時、シャッターがガラガラとゆっくり上がり始めた。
「……おっ。来た来たっ」
一人が嬉しそうに言って、二人分の足が見えてきたシャッターに近付く。だがそのシャッターが二人の下半身を見せるところまで上がると、後ろから蹴飛ばされたかのように二人が吹っ飛び、近付いた男共々無様に転がった。
シャッターが抉じ開けられ、二人を蹴飛ばした人物が姿を現す。
「……」
普段人には滅多なことがない限り見せない、冷徹な瞳をした黒衣にマフラーをした少年。
リューヤだった。




