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Infinite Abilities Online   作者: 星長晶人
煮えたぎる溶岩編

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アルティの日常

寝落ちしました


次回からアルティの冒険となります

 アルティの朝は早い。


 ほとんど夜明けと同時に目を覚ますのだ。目を覚ました場所はアルティが留守番している最中はほとんど一緒にいる女将のアリーンが経営する宿屋の一室、そのベッドの上。


 ベッドの上にアルティが一人で寝ている訳ではなく、部屋を借りているアルティの主人、白髪の少年リューヤがアルティを抱き抱えながら寝転んでいるのだった。


 アルティは主人に抱き締められながらキュッと自分から抱き着いてスリスリと頬擦りして、温もりを味わう。


 温もりを味わった後はいつも通りアルティお気に入りの場所であるリューヤのTシャツの中にモゾモゾと入っていき、ひょこっと襟から顔を出して四肢を投げ出し中にシャツを着ないリューヤの服を布団にして二度寝する。


 しばらく二度寝した後、リューヤより先にアルティは起床する。今度は二度寝するためではなく、起きて朝ご飯を食べ、リューヤを見送るためである。


「……キュウッ!」


 リューヤの服から出たアルティはぺちっとリューヤの頬を小さな手で叩く。


「……ん」


 リューヤは文字通りアルティに叩き起こされて、目を擦りながら上体を起こす。


「……キュウッ!」


 アルティはリューヤの頬をぺちぺちと叩き、朝の目覚めを促進させる。


「……分かった分かった。起きるから」


 リューヤはまだ眠そうではあったが、アルティに催促されて目覚める。アルティを抱えてベッドから出ると靴を履き、部屋を出た。


「おはよう、今日も早いね」


 そう言いながらも自分は完璧に起床して料理を運んでいるエプロン姿の美女が、微笑んで言った。


「……キュウッ!」


 アルティはリューヤに抱えられながら胸を張って腰に手を当てる。


「……そうかい。またアルティが起こしてくれたんだね」


 女将のアリーンはそれだけで状況を察し、温かく微笑んだ。


「……とりあえず、今日も定食二つで」


 まだ眠いらしくボーッとしたような様子のリューヤが言って、受付から近い位置にある椅子に座る。


 いつもと同じ席だった。


 この後リューヤにご飯を食べさせてもらって構ってもらうのも、いつもと同じ。


 そしてこの後リューヤを見送ってアルティだけ置いていかれるのも、いつもと同じだった。


「……キュウ」


 アルティは「キュッキュー!」と手をいっぱい振ってリューヤを見送った後、しょんぼりして肩を落とす。


「……よしよし」


 そんなアルティを慰めるのは、いつも女将アリーンの仕事だった。


「……アルティちゃんがいるのはここかーっ!」


「……抜け駆けはさせないわよ!」


 そんな声が聞こえて宿屋のドアが勢いよく開け放たれ、数少ないハズの女性プレイヤーが大量になだれ込んでくる。いや、よく見るとプレイヤーだけでなく、NPCも混じっている。


「……キュッ!?」


 驚くアルティだが、そこはトップクラスのモンスターであるレオンウルフの突然変異。リューヤと座っていた席から受付のカウンターまで一っ跳びで逃げた。


「……今日もいっぱいお客さんが入ったね。アルティにも頑張ってもらわないと」


 アリーンはそう言ってアルティの頭を撫で、「ただ冷やかしに来たっていうならアルティに触らせないよ!」と集まった女性達に告げて、ちゃっかり稼ぎを作っていた。


 ……というのも、実はこのなだれ込み自体がアリーンの作った現象である。スレ用の掲示板に『アルティの日常』というスレでアリーンが立てたのを中心としてアルティファンクラブが形成されているのと同時、スレに「アルティ落ち込み中。誰か慰めに来てやって」と画像を添付して書き込むことで、これ程の人数が宿屋になだれ込んでくるのだった。


 何故NPCも来るかというと、スレ自体はNPCも立てられて、未だ引き籠もり中の初心者プレイヤーが少しでも戦えるようにと、戦闘指南を行うスレを立てているからだった。それはもちろん運営側が画策したことなのだが、下手なプレイヤーよりも記述が上手く、実際に戦っているプレイヤーでも役に立った、と言われる程である。


「……キュッキュ!」


 アルティはアリーン一人には到底捌き切れない数の客が訪れたことにより、気持ちを切り替えていつも通り仕事に参加する。


 アルティは子供であるがステータスが高いため、やろうと思えば料理も出来る。……ただ道具が人用なため、上手く作れないが。


 高いステータスを活かした迅速かつ正確な料理運びは、密かにこの宿の名物となっている程だった。


 ちょこちょこと料理の載ったお盆を背中に載せて歩くだけでなく、そこから机の上まで跳躍して運ぶのだ。スープもあって零さないのは、驚異の一言だろう。


「……キュウ」


 料理運びを手伝ってカウンターの上でくったりするアルティだが、今日はまだ始まったばかり。昼食と夕食の二回がまだ残っているのだった。


「……よく頑張ったね、アルティ。この調子で午後も頼むよ」


 アリーンはそんなアルティを労ってやり、頭を撫でる。


 そんな忙しい時間が三回続き、ぐったりした様子だがまだ風呂にも入っておらず、部屋にも行こうとしない。


「……ふぅ、ただいま」


 時刻は真夜中。子供のアルティは眠くなる時間帯で、疲れたこともあってうとうとしかけていた。それでも待っていたのは、この時のため。


「……アルティ、今日も頑張ってたんだな。一緒に風呂入るか?」


 優しく微笑みかけてくる主の少年。


「キュウ!」


 アルティは元気よく返事をした。


 これが大まかなアルティの最近の日常であり、悩みは最近リューヤといる時間が減ったことであった。

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