決戦、開始
メリークリスマス
という訳で書き上がってるのをいくつか更新します
久し振りにストックが溜まったので土日辺りでもう一回更新します
リューヤと出会い黒い塔に行けば全てが解決出来るかもしれないと教えられた『戦乙女』と『ナイツ・オブ・マジック』のギルド同盟は黒い塔を真っ直ぐに目指した。
モンスターの群れは尽きることなく襲いかかってくるが、それでも確実に黒い塔に近付いていた。
「……皆、止まってくれ」
一応同盟のリーダーを務めるジュンヤが黒い塔付近で仲間達を制止する。
「……リューヤの言っていた『黒の兵団』だ。モンスターはいないようだがかなり数がいる。それに、“黒騎士”とかいうヤツも五人いる。十人しかいない強者らしいが、数は計五百ってとこだな。連絡によれば『SASUKE』もこっちに向かってるそうだから、一気に突っ込んで倒すぞ!」
ジュンヤは岩陰に隠れて敵を確認すると、指示を出して自らが真っ先に突っ込んでいく。
ジュンヤに同盟メンバーが続き、黒い塔を守るようにいる『黒の兵団』との戦闘が開始される。
黒いローブの一団はギルド同盟を見つけると応戦し始める。近接の兵士が魔法で攻撃され倒されていくのを見ると後方に控えていた魔術師の集団が一斉に魔法を放って牽制してくる。
数は圧倒的に相手が有利で、しかし兵士一人一人の強さは同盟プレイヤーの平均よりも低い。回復が充実していれば勝てないこともなかった。
だが相手には五人の“黒騎士”がいる。強さで言えば何人か相手に出来るプレイヤーはいるが、魔法とや生産となどの両立が多いため正面から相手に出来るプレイヤーがギリギリである。
ジュンヤ、フィオナ、リーフィア、千代が一人で“黒騎士”を相手に出来るプレイヤーだ。残る一体は数人がかりで相手にし、残る全員で兵士と魔術師が“黒騎士”と戦っているプレイヤーの邪魔をしないように応戦している。
メナティアは“黒騎士”を遠距離攻撃しながらプレイヤーを補助し、“黒騎士”と戦うプレイヤー達を援護している。
リィナは“黒騎士”を相手にするより広範囲魔法で『黒の兵団』の数を次々と減らしていく。魔法攻撃力、魔法防御力が高いため弓矢にさえ気をつければ無双状態を保てるのだ。
『ふはははははっ!!!』
だがそこに、大陸中に響き渡るような高笑いが聞こえた。どこからかとプレイヤー達が辺りを見渡す中、一人が上空を指差して叫ぶ。
それに釣られて上空を見上げたプレイヤー達は、唖然とする。
上半身剥き出しの男が、黒い塔から降ってきたからだ。
『ふんっ! どうやら俺の計画を崩そうと動いている者達がいるようだが、人間界の者が人間である俺の邪魔をするというのか?』
男は確かに筋肉隆々ではあったが、最終ボスというにはあまりにも弱すぎる。ボスというのはHPバーが何本かあることが多いのだが、その男のHPバーは一本で、何か特別な能力があるようにも見えない。何か特別な武器を装備している訳でもない。
「……悪いが、ここはモンスターの世界だ。人間が荒らすのは、よくないと思うぞ!」
ジュンヤが代表して言い、“黒騎士”を押し返す。
『はっ! モンスター如きを庇うとは人としてどうにかしていると思うが?』
ジュンヤの言葉に男は嘲笑して言い返す。
「……それは、聞き捨てならないわね」
「モンスターだって仲間なんだよ!」
それに異論を唱えたのは『双子のエルフ』両マスター、ナーシャとエフィだ。もちろんギルドメンバーを率いての参戦となる。
「いくよ、皆!」
「モンスターを如きするようなヤツには、負けないわよ!」
「「「はい!」」」
エルフかダークエルフのサモナー系かテイマー系の職業だけで構成された『双子のエルフ』メンバー全員が、一斉にモンスターBOXから仲間達を呼び出す。
「全くや! 俺んことバカしおって! ぶっ殺したる!」
「……まあ、異論はないな」
『双子のエルフ』に続いて人語を話せるモンスターの代表、カイと無口忍者エアリア率いる『SASUKE』の忍者軍団が到着した。
次々と到着するプレイヤー達に、『黒の兵団』は押され最終ボスらしき男にも刃が向けられる。
魔法の数も増え、男はあっという間にHPが半分を切った。
『くっ! やはりこの人数が相手では苦しいか! 仕方がない、暗黒魔導装置、起動!』
男は呻き右手を自分の心臓に突き立てる。何が起こるかと警戒していたプレイヤーはギョッとし、男が暗黒の球体に包まれると各々武器を構えた。
『ふははははっ! 力が、力が溢れてくるぞ! 『黒の兵団』よ、我が身体に集まれ! ふははははっ!』
男は高笑いして幻想世界全土から、暗黒の魂のような物体を集めていく。黒い魂のような物体は黒い球体に包まれた男の中に取り込まれていく。すると幻想世界の空が黒く染まった。
暗黒の魂を体内に吸収していく男の身体は黒く染まり、どんどん大きく変化していく。頭には六本の角が生え、筋肉も異様なまでに盛り上がり、体毛が濃くなり獣じみていく。
「……どうやらここからが本番のようだな。皆、気を引き締めてかかれよ!」
男の変化を見たジュンヤが全員に警戒を促す。
『クッ、フハハハハッ!! いいぞ、力が溢れてくる! さすがは『黒の兵団』。俺が直々に作っただけはあるな。心臓と入れ替えた装置も正常に作動しているようだし、幻想世界のモンスターでは俺に敵うヤツなどいない! あとは貴様らをミンチすればこの世界は俺のモノだ!』
巨大化した黒い球体から解き放たれた元男は高笑いすると右腕を無造作に薙ぎ払う。禍々しい暗黒のオーラを纏っていて、元が人間とは思えない姿だった。
「「「っ!」」」
その一振りでプレイヤー全員が強烈な突風に襲われ屈み込む。
「……何てパワーだ……! 迂闊に跳び込むなよ! 防御の高いプレイヤーは優先的に前に出てくれ!」
ジュンヤは顔を顰めて指示しつつ、ジュンヤ自ら名前がタローから魔獣人テアロスに変わっている敵に向かって突進する。テアロスのHPバーはタローだった時とは違って七本もある。
「援護するわ!」
ジュンヤは回避率が高い訳ではないのでテアロスに向かう途中も攻撃を真正面から受けなければならない。それを援護し軽減するのが後衛の役目であり、敵の注意を僅かだけ引くという芸当をやってのけるのがメナティアである。引きつけすぎると敵が一直線に後衛の下に行ってしまうが、ちょっと小突く程度の攻撃を見極めて実行するのがメナティアであった。
「助かる!」
ジュンヤはメナティアの援護を頼もしく思いながら駆けてテアロスに向かっていく。ジュンヤは駆けながら斬撃を飛ばすアビリティで自分にも注意を向けさせる。……二人の攻撃も、ほぼ全くと言っていい程ダメージはないのだが。
「……HP一本一本の数値が高いみたいだな。全体攻撃に気をつけろ!」
ジュンヤは経験則から来るアドバイスをしつつ、テアロスの下に辿り着く。テアロスはニヤニヤとした笑みを浮かべながら、ジュンヤが自分の前に来るのを待っていた。攻撃はまるで無視である。
「……?」
注意を引こうとやっている攻撃が、まるで無視されていることを不思議に思いつつもテアロスの前に立ち塞がるジュンヤ。
『ハッ! 矮小な身体だな!』
だがジュンヤは盾で防御したにも関わらず、テアロスの左腕の一振りをまともに受け、一気に後方まで吹き飛ばされる。
「なっ!?」
それには吹き飛ばされたジュンヤ自身もジュンヤの実力を知るプレイヤー達も、つまり全員が驚いていた。
『フハッ! 矮小な人間の分際で俺の攻撃を受け止めようなどとは片腹痛いわ!』
テアロスは呆然とするプレイヤー達を見て嘲笑する。
そこに、
「はっ! 何か強そうなのがいんじゃねえかよ!」
「……今のを見ててよくそんなセリフが言えるわね」
テアロスを見て嬉しそうに戦闘狂の笑みを浮かべるベルセルクと、そんなベルセルクを見て呆れるツァーリ率いる『狂戦騎士団』と『暗黒魔術師団』の誰もが予想外だったギルド同盟である。
『フン! また矮小な人間が増えたか。虫ケラが何匹増えようが同じこと!』
だがテアロスは敵が増えたにも関わらず余裕そうな態度を崩さない。『双子のエルフ』の仲間であるモンスター達も騎士達も、テアロスに向かっていき後衛も容赦なく魔法や矢などを放つがどこの吹く風である。
「……人を虫ケラ呼ばわりとは、許せる言葉じゃないな」
白ずくめに金髪をしたイケメン、シンヤ率いる小数精鋭ハーレムギルド『一夫多妻』の面々が到着した。
これで到着していないトップギルドは『軍』ただ一つ。それもすぐに来るだろうと予想されている。
『ハッ! かかってこいよ、虫ケラ共が! まとめて相手をしてやる!』
「……虫ケラか。随分と酷い言い草だが背後に気を配る必要があるようだな」
噂をすれば何とやら。密かにテアロスの背後から忍び寄っていたメッシュ率いる『軍』が軍勢で待機していた。
『ハッ! いくら人数は増えたところで俺に勝てる訳がねえだろうが!』
次第に乱暴な口調になっていくテアロス対、勢揃いしたIAOが誇るトップギルドの戦いが本格的に始まった。




