バハムートの住まう山
「「「……」」」
山に辿り着き、モンスターと遭遇したはいいが、シルヴァを見た途端に逃げ出すので、正直言って拍子抜けした。
なのですぐに山頂へ到達する。……何故シルヴァに怯えているかは分からないが、楽で助かった。
シルヴァは避けられてちょっと困っているようだったが。
「……なるほどな」
山頂に着いた俺は、寒くて白い息が出るそこで何故シルヴァに怯えていたかを理解した。
「……」
シルヴァは丸まって悠々と眠っているそいつをじっと見つめる。シルヴァは冷静沈着で表情を表に出さないし無口だが、色々な感情が渦巻いているのは他人である俺にも分かる。
エアーズロックをさらに巨大化したような山だったらしく、高い標高で視界も悪いがかなり山頂が平らででかいんだろう。
俺達が戦ったバハムートより一回りも大きいバハムートが寝ていた。
頭を腕の上に乗せ翼を折り畳んで丸くなり眠っているバハムートの前に、長方形の中にバハムートを象ったシンボルが祀られている祠がある。
俺、アルティ、フレイ、シルヴァはその祠に近付いていき、合掌して頭を下げる。
『……ん?』
祈りを捧げたのが分かったのか、声に顔を上げるとバハムートが目を覚ましていた。
『……ああ、お前らか。意外と早かったな』
バハムートは俺達の姿を認めると、のそりと頭を持ち上げて大きく欠伸をする。
「……ああ。ってか、あんたは祠の近くにいるんだな」
リヴァイアサンは深海から来たようだしジズはあそこにいなかった。バハムートだけが祠の近くにいる。
『……まあな。ジズとは会ってねえみたいだが、リヴァイアサンとは会っただろ? 俺達だって住処はある。俺の場合あいつらとは違って他のモンスターに見つからないような場所に隠れたりはしてないがな。むしろ統治してるぐらいんだぜ?』
バハムートは苦笑したような雰囲気で言う。
「……なるほどな。だからここにいるモンスターがシルヴァを見て逃げ出したのか」
バハムートの子供に喧嘩売ったらバハムートの怒りを買うとか思っていたんだろうか。
『何だ、あいつらお前見て逃げ出したのか? ったく、俺が恐怖政治敷いてると思われたらどうすんだよ、なあ、シルヴァ?』
バハムートは俺の言葉に嘆息しながらシルヴァに聞いた。
「……」
だがシルヴァはじっとバハムートを見上げるだけで何も答えない。
『……ったく。ま、お前との会話はその祠の近くで寝てくれりゃあ出来るからいいんだけどよ。――ところで、この山目指してるヤツらがいやがるんだが』
バハムートは頭を掻いているような雰囲気で言い、俺を見据えて言った。……『黒の兵団』か。
「……どこにいるか、詳しい話を聞かせてくれれば俺達でいくさ」
俺はバハムートの言いたいことが分かって肩を竦め言った。
『……ま、頼むわ。俺達は親子二人っきりでの会話が――って、シルヴァ?』
バハムートが軽い口調で言うが、シルヴァは祠の近くから離れていた。……?
「……」
シルヴァはバハムートではなく俺をじっと見上げてくる。
『……ほう? シルヴァお前、俺との会話よりもそいつらと戦うことを選ぶってのか?』
バハムートは面白いという風に笑って言う。……ああ、ヤバい。怒ってるぞ、これは。
俺がこれ以上幻想世界を統治する最強のモンスターを怒らせないでくれるかなぁ、と思っているとシルヴァがこくん、と頷いた。
『……お前なぁ……!』
バハムートの笑顔に怒りマークが浮かんでいた。
『そいつは人間だし、お前の母親ぶっ倒して一番喜んでたんだぜ?』
バハムートは怒っているのかそれともこっちが本性なのか、一番気さくに話しかけてきた時とは大違いに厳しい、というか冷たい。
「……ッ」
その瞬間、シルヴァが銀を溢れさせ、目の前のバハムートよりも巨大なバハムートを形成した。
『……おい、どういうつもりだ?』
「……」
シルヴァはバハムートを睨みつけると、巨大な銀のバハムートが口を大きく開いて銀色の光を集束し始めた。……シルヴァのヤツ、こんな力を持ってるのか。
「……リューヤを侮辱するのは、許しません」
凛とした透き通るような綺麗な女の声が聞こえた。……へ?
『……俺に勝てると思ってんのかよ?』
今にもブチ切れて襲いかかってきそうなバハムートは笑みを引っ込めて聞く。
「……はい。私は一人ではありませんので」
凛としたまま言って、巨大な銀のバハムートが光線を放つ。
『……けっ』
バハムートは吐き捨てて、ただの鱗でそれを弾く。……嘘だろ? 多分シルヴァの母親ならあれでダメージ受けてたぞ? 何でこいつは平気なんだ? レベルが違いすぎるのか? こいつはレベル百だとか。
……有り得そうで怖い。
『……分かったよ、ったく。だが黒いの蹴散らしたらちゃんと話はするからな』
ついに決意の固そうな娘に親父が折れた。
「……」
シルヴァは無言で頷く。
『……そいつらはてめえの登ってきた反対側、つまりは俺の後ろ側から登ってきてる。早く蹴散らしてこい』
バハムートの俺への対応が雑になってきていた。……そんなに娘との対談が大事なのか。俺にはまだ分からないけどな。
「……分かった」
俺はバハムートに頷き、アルティ、シルヴァ、フレイを伴って山の裏側へ回った。




