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71.牙をむく学園

 前回、話数を間違えていたので修正しました。


 ついに、生贄と言う名の調査隊が出陣します。


 これまでは後方支援で厳しい状況になかったからなあなあで済んでいた問題が、実戦を前に噴出する!

 牙をむかれるのは、ユリエルだけではありません。冒険者ギルドも、学園の冒険者たちも、そして当のミエハリスも……。

 だって学園を支配するのは、インボウズだもの。仕方ないさ。

 三日後、学園から虫けらのダンジョンに向けて調査隊が出発した。

 編成は十数人の冒険者とミエハリス、そして冒険科の魔物学の教師だ。さらに回復役として、数名の神官がつく。

「まあ、先生もいらっしゃるのですか。

 とても心強いですわ!」

「ああ、今回はダンジョンに異質な魔物がいないかの調査だからね。

 ユリエルが邪神の力を借りているなら、ダンジョンに愛憎のダンジョン由来の魔獣系がいる可能性が高い。

 どこかから支援を受けている魔の勢力には、支援元の面影が混じるもんだ」

 魔物学の教師は、得意げに言った。

「そうでなくとも、魔物の性質をよく知っていれば倒すのは容易い。

 虫けらのダンジョンにいる魔物の対策は、しっかりしてきたよ。これであの生意気な魔女の鼻を明かしてやろうじゃないか!」

「期待しておりますわ!」

 ミエハリスの黄色い声に、魔物学の教師は眼鏡をクイッと上げた。

 その胸中は、ウザい生徒の鼻っ柱を折れる喜びに満ちていた。

(ハァ~これでようやく、ユリエルに私の正しさを教えてやれるわい!

 ユリエルめ、物覚えはいいんだが、私の出す問題と解答にケチをつけやがって。

 なーにが周りの状況と生態系に照らして最適解じゃない、だ。魔物の倒し方はこの私の方がずっとよく知ってんだよ!)

 魔物学の教師は、スラスラと正解を出しながらテストの裏にちまちまと指摘して来るユリエルが嫌いだった。

 自分の担当は魔物学で、テストも魔物学を測るものなんだから、素直に魔物だけを見て答えればいいものをと。

 現実に合わないと言われたって、現実に戦うのも魔物じゃないか。

 だったら魔物学に従って対処するのが正解のはずだ。

 魔物学の教師は、いつかユリエルをギャフンと言わせてやりたかった。

 インボウズ理事長からは、ユリエルの点数を下げていいと言われたが……答えがはっきりしている問題しかない魔物学ではやりづらい。

 こちらは聖癒科と違い、平等で正当な評価が求められるのだ。

 もし同じ答えなのに点数が違うとバレたら、こちらが信用を失ってしまう。

 閉鎖的で教えへの忠誠や信仰や態度で点を削れる聖癒科と違い、冒険科は事実に基づいた実力で評価せねばならない。

 その評価基準とユリエルの優秀さに阻まれ、叩きたくても叩けない屈辱を味わい続けていたのだ。

 それを、堂々と晴らせる日がやって来た。

「ふふん、所詮種族ごとの弱点を変えられぬ魔物の大将。

 その選択肢がどれだけ愚かか、先生がよーく教えてあげよう!」

「ええ、それがよろしゅうございますわ!」

 魔物学の先生とミエハリスは、軽く遊んでやるつもりで楽しそうに笑った。

 所詮孤児院上がりの小娘が令嬢に、生徒が教師に敵う訳がない。二人とも、そう信じて疑わなかった。

 いや、これはそもそも勝つ必要のない戦なのだ。

 虫けらのダンジョンでできるだけ情報を集めて、邪神が関わっていそうかは上が判断することだ。

 自分たちは一つだが、ダンジョン外に転移できる魔道具を持たされている。危なくなったら、それで撤退すればいい。

 卑劣なのぞき魔のように大事なところを見てやるぞと、魔物学の教師はほくそ笑んだ。


 だがそこに、水を差すような声がかかった。

「おやおやミエハリス君、君のような才媛がこんなこそこそした任務とは」

 長い髪を一部団子のように結わえた、やや小柄な彫の浅い顔の男。タイトなズボンに、豪華な竜の刺繍が入った悪趣味なスーツを身にまとっている。

 その姿に、ミエハリスはぎくりと身をこわばらせた。

 そんな反応を気にすることなく、男はつかつかとミエハリスに近づく。

「ネズミのように嗅ぎまわる任務など、美しく誇りある君にふさわしい仕事じゃない。その野暮ったい男もね。

 君は、もっと上を目指すべきだ。

 こんな任務より、僕と一緒に次の討伐戦に参加しないか?それまで僕と一緒に、その戦いの作戦を練るのを手伝っておくれよ」

 男は無遠慮に、ミエハリスの顎に手を伸ばす。

 ミエハリスはそれを阻むように、教会の紋章のペンダントを掲げた。

「カッツ先生……わたくしは、理事長の命を受けてここにおります。

 それに、情報を持ち帰る者がおらねば、ご自慢の作戦も立てられませんわ。わたくしは、先生のお役に立ちたいんですの。

 そのうえで討伐に参加するかは……また、理事長がお決めになるでしょう」

 汚されざる聖女の立場を前面に出しつつ、カッツのことも立てる丁寧な先延ばしである。

 カッツ先生は少しムッとしたが、多くの人目があるので大人しく引き下がった。

「……では、討伐にもぜひ立候補したまえよ。

 そうしたら、僕の兵法を特等席で教えてやる!」

「ええ、また次の機会に」

 ミエハリスは、どこか固い笑みで一礼し、カッツ先生に背を向けた。


 出陣する一行を、他の生徒や教師たちもじっと見送っている。

 これに参加しなかった者たちも、内心は考えているのだ。これから先虫けらのダンジョンとの戦いで、どれだけ手柄を立てられそうかを。

 今回は調査だが、その後に討伐が控えているのは火を見るより明らかだ。

 ユリエルが邪神の力を借りていたとしても、邪神本家を相手取るよりはユリエルを叩く方が楽だ。

 ユリエルが邪神の力を借りておらず聖呪で死んでも、その後にユリエルからマスターを継いだ者との戦いになる。

 そしてインボウズが学園を動員する方針に切り替えた以上、他の生徒や教師たちも駆り出されるだろう。

 皆が、戦いの予感に胸をざわめかせていた。

 行くか、行かざるか。手柄か、死か。

 この調査隊が持ち帰る情報によって、それを判断するのだ。

 もっとも、中にはカッツ先生のように既により大きな金星を狙って、次の戦いに備えている者もいるが。

 かつて同じ教室で机を並べた学園の仲間だった者たちは、もはやユリエルのことを踏み台になるかでしか考えていなかった。


 学園都市の門で、調査隊は冒険者ギルドの助っ人と合流した。

 小学生と見紛う体格だが実はミエハリスの同級生、忍者マリオン。そして、二度虫けらのダンジョンに潜っているギルドの鑑定官。

「よお先生、久しぶり。

 例のモン、たんまり持ってきたぞ!」

 マリオンが、マジックバッグを振って迎えてくれる。

 真っ先に動いてくれた可愛い生徒に、魔物学の教師は顔をほころばせた。

「おおーマリオンちゃん、ありがとうよ。

 三日以内にアレをマジックバッグ一杯走って取りに行って来いなんて、やってくれるのは君くらいなものだよ」

「ま、世話になった恩師の頼みだからな。

 支払いは理事長がしてくれるし、こんくらい軽いもんだ!」

 親しげに話す教師とマリオンに、ミエハリスは眉をひそめた。

 そして、上品に押さえつけるように言い放った。

「あらあら、相変わらず子供みたいに礼儀を知らない方。聖女でない道でうまくやっているようで、何よりですわ。

 ねえ、子猿のゴザルちゃん?」

 瞬間、マリオンの眉間にピキッと筋が立った。

 マリオンは学園に来た当初、祖国のなまりが抜けずしばらくゴザル口調だった。当時は、それを令嬢方に盛大になじられたものだ。

 マリオンは、それが嫌で高い学費を払っても冒険科に移った経緯がある。

 それでも冒険者仲間に馬鹿にされるのが嫌で一生懸命直して、今ではほとんど口に出ることはなくなった。

 しかしミエハリスは、そのトラウマをぐさりと突いた。

「目上の方には、ふさわしい言い方があるのではなくて?あなたはあくまで、仕事をもらっている身なのよ。

 いつも野人みたいに素直に接していればいいなんて、それじゃ野人の中でしか生きていけませんわ。

 ユリエルを見ていて、気づきませんこと?」

 さらに、友を失ったトラウマまでためらいなく抉りにいく。

 その態度に、魔物学の教師がさすがに止めに入った。

「ちょっとミエハリスちゃん!?言い過ぎだって!

 この子はもう聖女候補でも神官でもないんだよ。冒険者として実力あるし欠かせない人材なんだから、仲良くすればいいじゃないか」

 その言い方に、ミエハリスはさらに不愉快になった。

「あら、わたくしは彼女のこれからのために言っているのですわ!

 教会の下で仕事をする以上、秩序には忠実でいていただきませんと。特に、あのユリエルと同じ兆候のある方にはねえ」

 その言い方に、魔物学の教師は怯んだ。

 彼だって、生徒のくせに対等ぶって難癖をつけてきたユリエルが気に食わない。マリオンもこれからそうなるかもと言われたら……。

「……ごめんね、マリオンちゃん。

 でも、敬うことを態度で示すことは大事なんだ。

 私が優しすぎて、君が、その……ユリエルみたいにこじらせたら嫌だからさ。これから、上下関係はちゃんとしよっかー」

 にわかに威圧的な顔になって態度を変えた先生に、マリオンは一応丁寧に謝った。しかし、この一言でマリオンと先生の関係は落ちた。

 それを薄々感じとりながらも、ミエハリスはつんとすまし顔で胸を張っていた。



 気まずい空気の中、一行は虫けらのダンジョンへの道を進む。

 ミエハリスは道の半分くらいのところで疲れたと言い出し、今は屈強な冒険者の一人におぶさっている。

「おいおい先生、こいつ大丈夫か?

 虫けらのダンジョンがどれだけ難路か、俺らの資料で知ってるだろ」

 鑑定官が、魔物学の教師にこそっとささやく。

 魔物学の教師は、気まずい顔でささやき返した。

「しょうがないだろ、こっちも人手不足なんだ。

 現場を経験してる令嬢は少ないし、これでもアイツは魔道具の補助なしで聖女の条件を満たした実力派だ。

 守る必要はあるが魔法は攻守両面で優秀、守りゃあしっかり働けるんだよ」

「……なるほどな、出せる精一杯があれか」

 鑑定官は、気の毒そうにぼやいた。

 今は、リストリアの戦力全体が不足している。だからこんなのでも、世の中をなめた立候補が通ってしまう。

 ……それでも、他の手柄目当てですら現場に出ない令嬢よりはましなのだ。

 魔物学の教師は、クイクイと眼鏡をいじりながらぼやく。

「優秀な騎士や冒険者の仕事に、お偉いさんの子息のレベル上げ手伝いがあるんだが……あれよりひどい奴などいくらでもいる。

 だが、そういうのを相手にする能力と振る舞いを身に着ければ、ぶっとい就職先を見つけられるんだよ。

 私だってその口だし、冒険科にはそれを目指す奴が少なくない」

「……ああ、そっちの実習も兼ねてるのか」

 鑑定官は、ため息をつきながら納得した。

 貴族家や高位聖職者の家では、実戦に出ないながらも万が一に備えてと最低限の力を身に着けさせるために、子息や子女の過保護なレベリングが行われる。

 学園にいる令嬢の聖女たちだって、地力を上げた方が聖女認定を突破しやすくなるし、後方で人を癒すだけの仕事で名を上げられる。

 そんなボンボンのために彼らを守りながら魔物と戦う役目が、要るのだ。

 今ミエハリスをおぶっているのは、そちらで就職を目指す冒険者だ。そのためには、この程度で文句を言ったらやっていられない。

 弱らせて拘束した魔物を街で待つだけのティエンヌより、よっぽど向上心がある。

 だが……その保護するという役目が要らなければ、冒険者や騎士がもっと力を発揮できるのは事実だ。

「仕方ないさ。守ればそれを補うくらい働く奴が来ただけでもありがたい。

 それに、難路と言っても虫の魔物による部分も大きいんだろう?その対策はたっぷり用意してきたさ。

 最初の難路さえ抜けて平地になれば、後は大丈夫さ」

 魔物学の教師はそう言った後、恨めしそうに鑑定官を見た。

「……にしても、君が深く潜ってくれるなら、私が出る必要はなかったんだがね」

「仕方ないだろ。冒険者ギルドはそっちよりずっと人手不足なんだ。

 俺やマリオンを失う訳にゃ、いかないんだ!」

 鑑定官は、ぶっきらぼうに答えた。

 学園にいる冒険者たちも気づいているが、今リストリアの冒険者ギルドは人手不足で手が回らなくなっている。

 ユリエル討伐の失敗で地元の冒険者を多数失い、さらに死肉祭で地方から呼び寄せた冒険者も甚大な被害を受けたせいだ。

 しかもその後の教会の対応が信用できず、生き残った者も多くが郷里に帰った。

 今はギルドマスターが教会の補助を受けて、各地の冒険者ギルドに金をまいて人を集めようとしているが、それも時間がかかる。

「そういう訳だからな、俺らは5階層の湿地まであんたら送ったら失礼するぜ。

 こっちも仕事が山積みなんでね!」

 鑑定官は、突き放すように言った。

 冒険者ギルドの人手不足は、インボウズも無視できないレベルに達している。インボウズとて、便利な何でも屋を潰す訳にはいかない。

 だから、冒険者ギルドから借りたマリオンと鑑定官は5階層までだ。

 それに別の懸念もある。マリオンはユリエルと仲が良かったうえに暗殺や工作を得意とするため、肝心な場面で何をするか分からない。

 なので、あまり深く同行させない方がいいと判断された。

 それでもマリオン以外に適任がいないのが、ギルドの現状である。

「こんなんで、次にあるだろう戦いは大丈夫なのかねえ」

「邪神が介入してないことを祈るしかない。

 もし邪神とつながっていたら……我々ではどうしようもないことくらい、理事長も分かるだろう」

 お互いの愚痴を吐き合い、苦労を労わりながら、魔物学の教師と鑑定官はそれぞれの明日を思った。


 ……が、ダンジョンの前まで来た途端、またしても出鼻をくじかれた。

「おい……15階層だとよ!」

 死肉祭の前まではたった7階層だった虫けらのダンジョンが、倍以上の深さに成長しているではないか。

 鑑定官の鑑定結果に、全員が絶句した。

 ここは、7階層の雑魚ダンジョンじゃなかったのか。それが5階層まで分かっているからあと少しと思ったのに、話が違う。

「え……ど……どういうことですの?

 成長できないように、人が入らないようにしたんですわよね?」

 ミエハリスがやっとのことで、目を白黒させながら言う。

 魔物学の教師も。だらだらと汗を流して言った。

「ああ、理事長の命令で封鎖したとは聞いているよ。それから今まで、特に何かあったとは聞いていない。

 衛兵諸君は、何か知っているかね?」

 虫けらのダンジョン入口を見張っていた衛兵も、真っ青になってぶるぶると首を横に振るばかりだ。

 なら、どうしてこんな事になってしまったのか。

 ダンジョンは侵入者の命を糧に成長するものだとは、世の常識である。だが、その餌がないのにどうやって。

「まさか、これが邪神の力……!」

 冒険者の一人が、呟いた。

 その言葉に、一行は全身に冷水を浴びせられた気分だった。

 餌を奪ったはずのダンジョンがこんなに成長してることが、邪神に力を与えられている証ではないか。

 となると、虫けらのダンジョンは……。

「いや、まだそうと決まった訳じゃねえ!」

 そこに、マリオンが声を上げた。

「ただ他の魔族に支援されただけの可能性もあ……ります。

 ユリエルは、魔王軍に協力を求めたん……ですよね?なら、それに応えて力を与えられ……ていても、おかしくありません。

 これだけをもって邪神に守られている……と判断するのは……早計、かと思われます」

 マリオンは、よそよそしいほど丁寧に進言した。

 それに、魔物学の教師もうなずいた。

「そうだな、その可能性はある。

 魔族の間での支援の形は本当に様々で、ダンジョン強化に関するものもあると聞いている。

 このダンジョンはリストリアに最も近い、要衝だ。魔王軍がここを重視して、簡単に落ちないように支援することは十分考えられる。

 すると、聖呪が発動しないのも、それでユリエルが強くなりすぎたか……」

「ますます話がややこしくなってきたじゃないの!」

 ミエハリスが、悲鳴に近い金切り声を上げた。

 原因をはっきりさせるためにここに来たのに、入る前にさらに別の可能性が出て来てしまった。

 そのうえ、ダンジョンは思っていたのの倍以上深くなっている。

 自分たちは当然のように、7階層分くらいの準備しかしてきていないのに。これで十分な調査ができるのか。

「うーん……ちょっとオニデス大司教につないで、指示を仰いでみる。

 こいつは出直しになるかもしれんな」

 どうかそうなってくれと心のどこかで祈りながら、一行は通信の魔道具に話す魔物学の教師を見守った。


「……予定通り、行ける所まで行ってこいとよ」

 しばらく後、魔物学の教師は苦い顔で通信を切った。

「別の可能性まで出て来たのに、調べない訳にはいかん。急成長しているならそれこそ時間との勝負だから、出直す暇などないと。

 撤退の手段はあるのだから。せめて削れば聖呪が効くのかそうでないのかだけでも調べて来いとよ」

 残酷にも、出直すという選択肢はなくなった。

 冒険者たちは息を飲み、ミエハリスはそわそわと不安そうにし始めた。

 それでも、インボウズの命令に背く訳にはいかない。厳しい任務だが、オニデスの懸念は間違っていないのだ。

 早いうちに対処方法を探らないと、もっと大変なことになる。

(そ、そんな……簡単な任務のはずだったのに、何て貧乏くじ!

 わたくしが……甘く見たというの!?)

 突然跳ね上がった難易度に、ミエハリスはしり込みした。だが、もう遅い。今さら逃げ帰ることはできない。

 ミエハリスの脳裏に、ユノの警告がよぎった。

 だがミエハリスは、貴族のプライドでそれを押し込めた。

(な、何よ……世の正邪も分からない野生児ごときに!

 ちょっと大きくなったって、所詮ちっぽけで群れるしか能のない虫頼みのダンジョン。それ特攻の対策をしてきたわたくしたちの、敵じゃありませんわ!)

 世の理と正邪は決まっているのだから、着実にそれに従って戦えば勝てるはず。

 忌々しいユノの警告を跳ね返し、分からず屋のユリエルを分からせるために、ミエハリスは虫の魔窟に足を踏み入れた。

 虫けらのダンジョンの成長は、インボウズから見ると一気に倍以上になったように見えます。インボウズたちリストリア勢が、死肉祭中に鑑定に来なかったからです。

 唯一途中の成長に気づいた、ブリブリアント配下の聖騎士パーティーは、その情報を誰にも伝えられませんでした。


 途中で鑑定官だけでも派遣すれば良かったのですが、人手不足でそれも難しくなっています。

 ブリブリアント配下の聖騎士と一緒にいた高位鑑定官はここでフランケン仙女に沈み、代わりに潜った若い鑑定官は聖者落としのダンジョンに沈み……地味に目が奪われています。

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