65.共鳴と誤解、非モテゆえに
引き続き魃姫のお城で、いろんなことを学ぶユリエル。
今回は、魃姫の過去が明らかになります。
魃姫はどんな人物で、なぜユリエルに目をかけているのか。
しかし、同じように見える非モテでも、全てを分かり合えるとは限らない。
特に、非モテの敵といえる奴が絡むと……魔王軍の集会でちょろっと出て来ていた誘惑専用種族は、どのような立ち位置にいるのでしょうか。
それからしばらく、ユリエルは魃姫の城で魔族とダンジョンについて学んでいた。
「良いか、ダンジョンの性質はマスターと地形に影響を受ける。次に、大まかなダンジョン作成方針じゃな。
それらがダンジョンを長い時間かけて染めていき、ダンジョンそのものの性質となる。
それを変えるには、同じように長い時間がかかるうえ効率が悪い。ゆえに、奪ったダンジョンの性質に合わせるそなたの育成方針は正解じゃ」
魃姫は、かれこれ数百年もダンジョンマスターをやっている大先輩だ。
他のダンジョンを潰してきた経験もあり、現魔王に一度攻略されてからは油断なく防備を見直した、勉強家であり努力家である。
その魃姫が、己の知識と経験をできる限り伝えてユリエルを育てようというのだ。
当然のように、その講義はかなり密度が高く、長時間にわたる。
それでもユリエルは、貪欲にかじりついた。
ダンジョンとはつまり、自分の城。それを守るための知識にして裏返せば攻略法にも通じるものを、こんなに丁寧に教えてもらえる機会はそうそうない。
いつ後輩が敵になるか分からないため、傘下を持ってもそういうことをしないマスターの方が多いのだ。
それでも惜しみなく教えるのは、魃姫の自信の表れでもある。
ユリエルはそれに心から感謝し、もらえるものは全力でもらおうと勉強に没頭していた。
「……ふう、少し休憩にするか。
何事も、過ぎたるは及ばざるがごとしじゃ。
しかしそなた、だいぶ集中力が続くのう。教え甲斐があるぞ」
一息入れながら魃姫にほめられて、ユリエルは遠い目をして答えた。
「いやぁ、これまでも勉強は頑張ってきたもので。孤児院から聖女候補で推薦されて学園に入ったので、成績上位保ってないと学費免除されなかったんです。
それと、今思えば……多分、私を聖女じゃなくそうとして、インボウズが教師に手を回してたっぽいんですよ。
だから私、冒険科の科目まで取って、そっちの高得点で平均点上げてました」
「……苦学であったのう」
魃姫は、気の毒そうに呟いた。
ユリエルは元々勉強が得意だが、その環境は苦難の連続であった。
親を失って孤児院に入り、その時すでに学力の基礎ができていたため、学力と癒しの力を見込まれてリストリアに送られた。
そこで金持ちのお嬢様に馴染めず、金銭的に付き合うこともできず、代わりに勉強と実戦に力を入れて実力で地位を得ようとした。
……が、インボウズの陰謀が襲い掛かってきた。
聖癒科の学科の点数が、なぜかテストの得点の割に下がってきたのだ。わざと出席を取ってくれなかったり、自分より明らかに稚拙な論文に高得点をつける教師もいた。
だがユリエルは、あくまで実力で抗おうとした。冒険科の単位まで手を広げて、そちらの高得点で補って聖女になれる順位を維持した。
その結果、インボウズの癪に障って、もっと強引な手段で排除されてしまったけれど。
ユリエルが愚痴ると、魃姫は同情してくれた。
「それは何とも……無念であったのう」
「そうですよ!
しかも、私は男とも付き合わずそういう遊びもせず、教会が尊ぶ勤勉と貞淑を貫いてきたのに……よりにもよって邪淫で破門だなんて!」
「うむ、人のやる事ではないのう。
それでは、純潔の証明にこだわるのも無理からぬことじゃ」
魃姫は、遠い目をしてぽつりと言った。
「そなたの苦しみ、よく分かる。
実はわらわも昔、似たような目に遭ってのう……それで人間をやめて魔道に堕ちたところも同じじゃな」
「えっ……姫様も元人間なのですか!?」
「現四天王はわらわに限らず皆そうじゃ。
だが……人間として生まれて、わらわほどの苦難を味わった者は同僚にもおるまいよ。
ともかく、わらわが味わった苦難に一番近いのはそなたじゃ。ゆえに、そなたのことは他人とは思えんでのう」
魃姫はそう言って、己の過去をぽつぽつと語り始めた。
魃姫は数百年前、東の大帝国の皇女であった。しかも、皇帝の正妻が生んだ第一皇女である。
しかし、魃姫の扱いは悪かった。
なぜなら、魃姫の顔がひどく醜かったから。
皇帝には正妻の他にも何百人も側室がおり、美しい娘が他にもたくさんいた。降嫁させて政略に使う娘には事欠かなかったのだ。
一方、魃姫は……このころはこの字ではないバツ姫は、皇帝にとってただのお荷物だった。
正妻の子ゆえいい加減な身分の相手に押し付ける訳にいかず、しかし醜いので高貴な相手に押し付けて関係を悪くする訳にもいかない。
バツ姫は、あまり人目に触れないように、宮廷の奥深くに押し込められて育ってきた。
自分より遥かに母の身分が低い、それでも自分より何不自由ない異母妹たちから、いつも蔑まれ馬鹿にされてきた。
せめて才を身に着け世の役に立つ人間になろうと勉学に励んでも、それが報われることはなかった。
「ああ、惜しいことじゃ。
男に生まれれば、朕のように姿かたちで劣れど、地位と権力で挽回できるものを。
だが、男が女に求めるのはそうではないのだ。せめて頭でっかちの厄介な女と思われぬよう、大人しくしておれ」
気の毒そうに、そして面倒くさそうに言った父の顔は、忘れられない。
だが、それが紛れもない男女の現実だった。
美しく男が気に入る女でなければ、政略に使う価値がない。男が強く出ていいようにできない身分が高すぎる女は、さらに需要がない。
美しく気楽な妹たちはどんどん結婚して祝福されるのに、バツ姫には縁談の一つもない。バツ姫は完全に皇室の負債と化した。
この頃になると、バツ姫は使用人にすらぞんざいに扱われるようになっていた。
ただ普通の幸せに憧れ、己の生まれてきた意味を問うて涙する日々。
しかし、そんなバツ姫にもようやく縁談が舞い込んだ。相手は、有力な貴族の下の方の庶子。父が金と権力をかなり大盤振る舞いして結んだらしい。
自分が愛された訳ではないが、バツ姫は希望を持った。
一緒になれる人ができたのだから、これからは誠を尽くして愛を育んでいこうと。
……よもや、その心意気すら裏目に出るとは。
夫は、醜いバツ姫が笑顔で寄り添うほどに嫌がった。バツ姫が懸命に愛するほど、苛々して機嫌が悪くなった。
そしてとうとう、バツ姫は夫に殺されてしまった。ありもしない、不義密通の罪で。
……だが、それでは終わらなかった。
夫は皇帝の面子を立ててしばらくバレないように、バツ姫を弔いもしなかったのだ。結果、元々魔力が高く強い恨みを抱いたバツ姫は、キョンシーとなった。
棺から出て夫の様子を見に行ったバツ姫は、唖然とした。
夫はバツ姫の持参金で何人もの美しい女を囲い、この世の春を謳歌していたのだ。
「ハハハッ女一人殺すだけでこんないい暮らしができるとは!
皇帝とて何も言うまい。どうにも処理できず困っていた廃物を、この俺が引き取って処分までしてやったのだから」
夫は始めから、バツ姫を愛する気などなかったのだ。
バツ姫は、憎くて恨めしくて仕方なかった。
夫が、父が。自分を差し置いて美しいだけでいい思いをしている女たちが。そんな女にばかり尻尾を振る世の男どもが。
それからバツ姫は、初めは静かに少しずつ、力をつけるにつれ派手に復讐に走った。
不実な夫の家族と使用人を食い殺し、父の後宮に戻って父を骨抜きにしている美女たちを惨殺した。
父が名誉と、これからも美女を集めるために事件を隠そうとしたのが、バツ姫に味方した。皇帝の後宮は、部外者が原則入れないのだ。
皇帝がさすがに焦って外から道士を呼ぶ頃には、バツ姫は滑らかに身体を動かし、空を飛び、人を金縛りにするほどに力をつけていた。
バツ姫は討伐隊から逃れ、国中を転々としてさらに力をつけた。
やがて旱魃という魔物に変化し、国中で日照りと熱波を起こし、普通に幸せにしていた人々を大勢殺した。
人々は、男日照りの末に全てを干し殺すようになったとバツ姫を恐れ、魃姫と呼ぶようになった。
魃姫自身も、少しでも自分の苦しみを知ってもらえるならと、それを受け入れた。
それから、魃姫は何十年も暴れ回った。
自分を討伐しに来た人間の勇士を殺し、仙人も殺し、時には堕として仲間に加え、広大な東方の地を荒廃させた。
だが、いくらなんでもやりすぎた。
東方で原始から崇められる大地の夫婦神が出て来て、苦しむ人間たちの信仰を糧に魃姫を打倒したのだ。
魃姫の境遇を知った夫婦神は同情し、魃姫を殺しはしなかった。
だが罪なき人々を守るため、魃姫は西方の広大な砂漠に追いやられた。
そうして流れ着いた砂漠でダンジョンを手に入れ、ゆったり暮らしていたところを現魔王にスカウトされ、今に至る。
「そ、そんなことが……!」
ユリエルは、食い入るようにその話を聞いていた。
魃姫は、醜くてモテなくて苦しみ抜いたあげく信じた人に陥れられて、恨みと憎しみに暴れ狂った女だった。
魃姫はユリエルと似ていると言ったが、魃姫の方が数倍ひどい。
むしろ下手に感情移入すると、ユリエルの方が泣き崩れてしまいそうだ。
「姫様……ひどい目に、遭われましたね!」
ユリエルが涙をこらえて慰めると、魃姫は悲しそうにはにかんだ。
「なんの、もしダンジョンを乗っ取れず野垂れ死んでおったら、そなたも同じ。
それに、分かってもらえるだけで御の字じゃ」
この苦しみが分かるのは、男に言い寄ってもらえず貞操に触れられもせず踏み潰された者だけだ。
この稀有な共通点があったから、魃姫はユリエルの経緯を知った時から同志と感じ、目をかけていたのだ。
「全く、洋の東西を問わず人のやる事は変わらぬのう。
わらわは、せっかくこれほどの力を得たのだから、外見を崇め男の気を引くことばかり重視されるこんな世の中を変えたいと思うた。
もっとも、元の国では訳も分からぬ無辜の民を多く殺してしもうたが……。
今、ユリエルを虐げる奴らはわらわにとっても許せぬ!あのような奴らを砕き真実を照らすなら、故郷の夫婦神も許してくれよう」
魃姫はユリエルの苦しみに共鳴し、共に戦うことを約束してくれた。
……が、一方通行ではなかった。
魃姫は、ユリエルの耳元に口を寄せ、低い声でささやく。
「ゆえにわらわは、そなたに力を貸す。
代わりに、そなたもわらわに力を貸せ!
わらわは、美しさと媚びに任せて他者の財と心を吸い上げて弄ぶ、美王が許せぬ!魔王様からも、共闘の依頼を受けておる。
そなたも、奴は気に食わぬであろう?共に奴をすり潰そうではないか!」
ユリエルにとっては、願ってもない申し出だった。
「はい、ぜひ共に征かせてくださいませ!!
私も、あいつ大嫌いです!!」
ユリエルは、据わった目をしてがっちりと魃姫の手を取った。
ここに、非モテを虐げる奴は滅殺同盟が爆誕した。
男にモテるかどうかで女の価値を決め、貞操を貶める奴は許さない。モテることに驕って、他者を弄んで傷つける奴は許さない。
ユリエルと魃姫は、ここを本音で語り合える同志を見つけて感無量だった。
それから数日後、魃姫は反美王陣営の重要人物をユリエルに会わせてくれた。
だが、その姿を見たユリエルはぎょっとした。
「サキュバス……!!」
艶やかな髪と肉感的な唇、豊満で女らしさにあふれた体をいやらしいカットの水着のような布で巻いている。
色香で男を惑わし、交わって精を搾り取る女淫魔だ。
男を惹きつける能力ばかり揃え、本来子孫を残すべき同じ種族の女を忘れさせ奪い取る、女の敵だ。
その姿を見た途端、ユリエルは聖衣の下に隠した短剣に手をかけていた。
漏れ出る殺気に気づいたのか、サキュバスは優し気に微笑んで言う。
「ああ、そんな怖い顔しないで!
あたしはあなたたちの敵じゃないわ。美王打倒で女の平和を取り戻すために、仲間として会いに来たの!」
だがユリエルは、心を許さなかった。
こいつらの甘い言葉に、他者を骨抜きにする以外の意味などない。
人間でもこいつらのせいで男女が破局したなんてよく聞く話だし、魔王が弱体化しているのもこいつらのせいじゃないのか。
前の集会で、魔王はサキュバスにまとわりつかれて美王を咎めることもしなかった。もしろ魔王軍の健全化のために、取り除くべきはこいつらじゃないか。
「ねえ、まずは話を聞いて。あたしたちは……!」
「ホーリーバリア!」
なおもすり寄ってくるサキュバスに、ユリエルは反射的に防御結界を張った。これで、魅了などの精神攻撃に抵抗できる。
それに驚いたのは、魃姫だ。
「やめよ、失礼であろうが!魔王様を守っておられる者なのだぞ!?
こやつらがおらねば、魔王様は美王に抵抗できておらぬ!」
その言葉の意味を、ユリエルは考えた。
とある者に魅了されている者には、別の者の魅了が効きにくいという。つまり魔王は、こいつらに魅了されることで、美王の魅了に抵抗しているということか。
「毒を以て毒を制す……ということですか?」
「ああそうじゃ、だからこやつらと手を取り合い……」
「でも、毒は毒ですよね!?
だってこの方々も、男を誑かすのが生業ですよ!あの卑劣な美王たちと、何が違うって言うんですか!?」
ユリエルは、たまらず言い放った。
外見の美しさで男を虜にする美王たちとサキュバスたち、やる事が変わらない同類だ。要は獲物を取り合っているだけで、どっちが勝っても地獄は変わらない。
魃姫だって美女に男を片っ端から取られて苦労していたのに、なぜそれが分からないのか。
「ユリエルよ、一旦落ち着け。冷静に話を……」
それでもなだめようとする魃姫に、ユリエルは覚悟を決めた。
「失礼いたします……キュアチャーム!マインドクリア!」
ユリエルは、無礼を承知で魃姫に魅了解除と精神集中の魔法をかけた。
だって、魃姫ほどの同志がこんな奴をかばう訳がない。魅了は気づかずかかることも多いというし、これが通ればきっと……。
「気は済んだかえ?わらわは元々正気じゃぞ」
「え、な……何で……!
私の力じゃ、無理だった……?」
それでも抗おうとするユリエルに、魃姫の眉間に筋が立った。
「そなた、わらわの強さは思い知ったな。そしてわらわの過去も聞いたうえで、手を取り合うと決めた。
そのわらわを、そんなに信用できぬのかえ?」
魃姫の声が、一段低くなった。
分かり合ったはずなのに信じてもらえず、機嫌を損ねている。
しかし、ユリエルにとってこれは退けぬ戦いだった。だってサキュバスなんて非モテの敵に、大事な同志や魔王まで取られてたまるか。
ユリエルは全身に針を突きつけられるような圧を感じ、鳥肌と冷や汗だらけになっても、平伏して訴えた。
「お力を疑ったことは謝ります。
しかし、正気なればこそ、考え直していただきたいのです!
だって、サキュバスですよ!?女の敵ですよ!?こういう女が男を惑わすから、男が私たちのような者の中身を見てくれないんじゃないですか!!
魃姫様ともあろうお方が、こんなふしだらな種族に頼るなどと……!」
だって、どう考えてもおかしいじゃないか。
魃姫はあんなひどい思いをしたんだから、外見と能力で男を惑わすモテ搾取女なんかを許すわけがない。
だからこんな事を言わされているなら、同志として心を引き戻して……。
しかし、必死に訴えるユリエルの髪を、魃姫が乱暴に掴み上げた。
「黙れと、言っておる」
その一言と眼差しだけで、ユリエルは金縛りに遭い動けなくなった。体中の魔力を総動員しても、かすれた息を漏らすのが精いっぱいだ。
目をむいて息も絶え絶えのユリエルに、魃姫は言い放った。
「何も知らぬくせに、ようまあ偏見で言いたい放題を!
このサキュバスたちこそ、わらわと魔王様たちの生命線だというのに!!」
魃姫は、見た目からは想像もつかない怪力でユリエルを吊り上げる。
「やることを、見た目で判断すればふしだらかもしれん。しかしこやつらは、生きるために食っておるだけじゃぞ。
命を繋ぐために必要な食事が、ふしだらか?卑劣か?
生きるためでもないのに男を食いつぶす美王共と同じだなどと、いい加減にせいよ!」
ひとしきり叱りつけると、魃姫はユリエルを床に叩きつけた。
「サキュバスたちは、わらわと魔王様の味方じゃ。わらわが自らの頭で、心で、そう判断した。
ユリエルよ、そなたにわらわの苦しみが分かるか?わらわはその苦しみを刻まれた心で、それでも納得した。
……今から、わらわの素顔を見せてやる。
それで、わらわが性悪女ごときに屈するか、よく考えるがいい!!」
魃姫は、近くの水差しから水を出して宙に浮く水球を作った。そしてそれを自らの顔に当て、激しく震わせた。
みるみるうちに、水球に赤や白の化粧が溶けていく。
すっかり不透明になった水球が外れると、ユリエルは息を飲んだ。
魃姫の顔は、いつもの化粧からは想像もできない醜く野暮ったいものだった。
エラが張ったうえにやつれたような輪郭、厚ぼったいまぶたの小さい目、低く潰れたような鼻、薄いのにボコボコと荒れた唇……。
これでは、皇女なのに縁に恵まれなかったのも納得だ。
そして、この顔がもたらす苦しみはどう考えても自分の百倍は重いだろうと、ユリエルを説き伏せた。
ユリエルの表情の変化を見て、魃姫は何ともみじめな顔をした。
「……分かってもらえて何よりじゃ。
そしてそんな顔をするということは、この顔ならこれだけ苦しんで当然と思うておる。ええい憎らしい!!」
魃姫は、転がったままのユリエルの顔めがけて足を引き上げた。
「貴様とて、その顔で男の下心にあやかった事くらいあるのではないかえ?実際に与える訳でもないのに期待させて受け取って、それこそ美王と何が違う!!
生きるためでもないのに、男うけを考えて己を飾ったことはあるか?己の使い方を無意識に分かっておる、それでようサキュバスのことを言えたものじゃ!!
わらわの同志でありたくば、その見栄をまず捨てよ!!」
魃姫の足が、ユリエルを踏みつけることはなかった。魃姫はユリエルの顔をまたいで、サキュバスと共に部屋から出ていった。
「化粧を直してくるゆえ、その間に頭を冷やすが良い。
まあ、それでも分からず裏切るなら……手加減はせぬ」
魃姫は、吐き捨てるように言って姿を消した。
ユリエルは、呆然として床に転がっていた。
非モテの同志として共に美王と戦うと誓っても、事はそう単純ではない。ユリエルと魃姫の間には、未だ深い溝が横たわっていた。
ユリエルは、非モテなうえにそれをいじられて居場所すら奪われたため、モテそうな女にアレルギーを起こしています。
本来なら魃姫も、同じ反応をするのが自然ですが……。
そして魃姫の京劇風の厚化粧は、醜い顔を隠すためのものでした。今の状況も、「モテなさすぎた結果がこれだよ!」という。
素顔まで晒してユリエルに分からせようとする魃姫ですが、どうなってしまうのか……。




