48.パーティーといえばお相手探し
話がまとまったユリエルは、魔王軍に来たもう一つの目的を果たそうと他の魔族に話しかけます。
非モテガール・ミーツ・非モテボーイ!
しかし、求める愛の形は男女で決定的に違っていて……。
オークはファンタジーにおける代表的好色種族ですが、強い奴がメスを独占するとその数だけあぶれて非モテに苦しむ奴が出ると思う。
でも、感想にも書かれましたが、女には自分以外の子を産んでほしくなくても、自分はたくさん女がほしいのが男なんだよなぁ。
「ムグッムグッ……美味しいわねこれ。
いくらでも食べられると思えば、この薬そんなに悪くないかも」
話が終わってパーティーが始まると、ユリエルはものすごい勢いでごちそうを食べていた。
腕には注射器が刺さり、今も点滴のように吊り下げた瓶の中に血が抜かれている。それを補うために、食べまくらねばならない。
そのため、ユリエルは自分に食べられそうな料理のある机を回ることにした。
オリヒメとシャーマンは気を聞かせて料理を持ってこようとしたが、ユリエルは自ら出向くことにした。
「いいよいいよ、ここでできるだけ人脈作っときたいし。
今なら、ご飯くださいで誰にでも話しかけられるじゃん、死肉祭のためだから、身分とかで追い払われることもないし。
てゆーかオリヒメちゃん、他の人に声かけられるの?」
「うう……それは怖い。
でも、お皿に糸をこっそりつけてもらうなら……」
「むしろその方が怒られるって」
そんな理由で、ユリエルたちは他の魔族たちのテーブルで食物を乞うことにした。
「ああーっ!お肉と野菜たっぷりの美味しそうな鍋があるじゃーん。パンとかおせんべいみたいなのも!
ちょっとこれ食べていいですかー!」
ユリエルが真っ先に飛びついたのは、豚と人の中間のような魔物、オークの上位種たちの机だ。
オークは雑食であり人と食性が似ているため、知能の高いオーク系の食卓は人間の食卓と大差ない。
オークたちの方も、物珍しそうにユリエルたちの方を見た。
「おお、さっきの血を捧げるとかいう元聖女か!」
「いいブー!いっぱい食べるブヒ!」
オークたちは、ユリエルが飯を貪るのを嬉しそうに眺めている。
「あら?私が気になります?
そう言や……ガフッ……オークって、人間でも孕ませるんでしたっけ。モグッ……今はダメですよ、教会に分からせるまで……ングングッ……処女でいるんですから」
オークといえば、豚やイノシシのように繁殖力が強く性欲旺盛で有名である。野生のオークが村娘や女の冒険者を犯して孕ませるのは、よくある話だ。
もちろんユリエルも、そういう雑魚オークを討伐したことはある。
……実は、少しでもモテる気分を感じたい時にだ。
オークは女好きだ。人間の中で男に避けられ気味のユリエルにも、女だというだけで鼻息を荒くして襲い掛かってくる。
ユリエルにとってそれは、自分が女だと確認できる救いでもあった。
そして今、ユリエルは盛大に非モテのトラウマを抉られて傷ついていた。さっき、絶世の美女に笑いながらモテないと言われて。
だから少しでも男の視線が欲しくて、オークのところに来てしまったのだ。
そんなユリエルの期待通り、一人の上位オークがユリエルの側に来てじろじろと見てくる。
「ブヒヒ、処女の聖女をこんな近くで見れて嗅げるのは幸せだブー。しかも命の危険がなくて、嫌がってもいないブー」
「そりゃ……ガフッ……今は味方ですし、もう聖女じゃないですからねー」
普段どんな状況で他種族の女と関わっているか、よく分かる会話である。
基本的にオーク系は味方以外の女を見ると凌辱して孕ませるため、女にとってオークは命懸けで抵抗する敵でしかないのだ。
そんなものにそういう目で見てほしくて近づくユリエルも、ユリエルである。
が、それくらい人間の中では非モテで、魅力的と言ってもらうことに飢えていたのだ。このうえ魔族にも非モテだったらどうしようかと、怖くなった。
「そういう目で見るなら、私の魅力を言ってみてください」
すると、上位オークはホクホク顔で語り始めた。
「かわいいブー!もうちょっと太った方がいいけど、見た目の割にでっかい仔を産めそうな臭いがするブー!
それに、食べるのが好きな娘は大歓迎だブー。でっかい仔を育てる栄養をしっかり取れる、子だくさんの素質がある雌だブー。
たまに孕ませた娘がもう食べるの嫌とか言って弱い仔を早産して死ぬと、すごく悲しいブー」
やはりと言うか、オークらしく、丈夫な子を産めそうかでしか判断していない。
そしてオークの言うかわいいは、子を産める雌の9割にかける言葉である。
さらに孕まされた娘が食べるのを嫌がるのは、大半が言葉通りの意味ではないだろう。もう産みたくないとか、生きていたくないとか、本音はそっちだ。
人間としてまともに考えたら、突っ込みどころしかない。
しかしユリエルは癒しを求めて、会話を続ける。
「人間の特に上流社会では、女が人前でいっぱい食べるのは下品なんですよ。私も、何回か注意されました。
でも、いっぱい食べる子が好きって人は、人間にもそれなりにいますよー。
生命力が強い相手が欲しいのは、同じなんですかねー」
「それは全生物の基本だと思うブー。
人間のそうじゃない奴らが歪んでるんだブー」
「ですよね……ゴクッゴクッ……あ、空になっちゃった」
ユリエルが鍋をぺろっと食べ尽くしてしまうと、その上位オークはそれはそれは嬉しそうに拍手をした。
そして、今度は何かの炒め物の大皿を取ってくれた。
その間にヒュドレアが音もなくやって来て、一杯になった採血瓶を交換していく。向けられたいやらしい目に睨み返し、そいつの足を俊足で踏みつけて。
多分、オークに対する反応はこっちが普通なのだろう。
「どうぞブー、栄養あるブー」
「ありがとう……これ、イモムシの炒め物ね」
なんと差し出されたのは、丸々と太ったイモムシの炒め物である。並の感性の女性なら、多少生き汚くても食べたくなくなる代物だ。
それに気づいた年配のオークが、慌てて止めようとした。
だがユリエルは、ためらいなく口に運んだ。
「おい、アイツ食ったぞ!!」
途端に、オークだけでなく他のテーブルの魔族たちまでもがどよめいた。
それほどに、聖女の衣をまとった娘が虫料理を貪る光景は魔族たちにも衝撃的だった。
聖女とは魔族たちにとって、憎き敵であると同時に、ある種憧れの対象である。強い力を持ちながら、清らかで慎み深くどこか儚い。
飼うのが大変だが自慢できる、高級ペットのような認識だ。
一般的な聖女には、確かにそういう奴が多い。そんな聖女を捕えてゲテモノ責めにして嫌がり泣き叫ぶのを見るのは、魔族たちの娯楽だ。
……が、その夢が打ち砕かれた。
たった今までユリエルをそういう愉悦を込めて見ていたいくらかの視線が、キモいものを見る目に変わり、そらされる。
「あいつ……普通の聖女じゃねえ!」
「ああ、うん……楽しめる聖女と違ったわ」
周りから、そんな男の声が漏れてくる。
ユリエルは一つため息をつき、振り切るようにイモムシの炒め物をかきこんだ。
(ハァ……魔族なら人間と違うと思ったのにな。人間と違うことしても、その方がモテると思ったんだけどな。
あてが外れたなぁ……。
ま、襲われて処女じゃなくなるよりはマシか)
結局、ユリエルは人間に対するGショックインパクトのようなことを、魔族に対してもやってしまったのだ。
きっとこれで、処女でい続ける必要がなくなった後も、手籠めにしようと襲ってくる男はがくんと減るだろう。
ユリエルとしては、その日が来ることを夢見て、その時自分と結ばれて守ってくれる男がいたらなぁと思っていたのだが……。
襲われるより、逆の心配をしなくてはならなくなってしまった。
(あーあ、状況に応じて正しい事したと思ったのにな。
どこに行っても、変わんないのかな)
魔王軍と聞いて、内心素敵な男性がいないかと心躍ったのに。
どうせここまでやった以上、もう人間社会での結婚は無理だろうから、せめて種族が違っても自分を愛してくれる人をと、勇気を出して飛び込んだのに。
虚しくて、涙が出そうだった。
そんなユリエルを、上位オークは目をむいて震えながら見ていた。
「お、おまえ……それ食えるブー!?」
「ええ、残念ながら……可愛くなくてごめんなさいね」
だが、沈んだ顔で皿を置いたユリエルの手を、固くゴツゴツした手が掴んだ。びっくりして振り向くと、感動に目を潤ませる上位オークの姿があった。
「こ、こんなにオデたちに合わせてくれる人間は、初めてだブー!!
オデ、いっぱい助けるから……処女じゃなくて良くなったら、結婚してくださいブー!!」
「はいいぃ!?」
いきなり結婚を申し込まれて、ユリエルは一転、湯気が出そうなほど真っ赤になった。
「うおおぉい!?何かすごい事になってるぞ!!」
周りのやじ馬からも、悲鳴と歓声が混ざって上がった。
ユリエルのイモムシ食いインパクトに加え、それで多くの魔族が敬遠した女にオークが求婚し、元聖女が嬉しそうに顔を赤らめているのだ。
人間より遥かに長生きの魔族たちでも見たことがない、珍事である。
「ええええ!?いいの、ユリエル!オークだよ!!」
他のオークの好色な視線に怯んでいたオリヒメも、それどころではなくなった。
だがユリエルは、ほのかにイッた目で上位オークの手を握り返した。
「こんな私のありのままを、ここまで好いてくれるんだ……。
どうしよう、すごく嬉しい……私、本当にここに来て良かったぁ!本当にずっと私を好きでいてくれるなら、真剣に考えてみようかな……」
「ブフォオオォ!!本気ブー!!」
ユリエルの反応に、今度は上位オークが茹で上がる。
「こ、こんなに喜ばれたのは……初めてだブー!」
上位オークははっとユリエルの手を離し、懸命にかっこつけて名乗った。
「オ、オデは、オークジェネラルのオデンだブー!
暴食のダンジョンマスターの、弟だブー。もし兄貴に何かあったら、オデが次のマスターでオークキングになれるブー。
……で、でも、おまえが望むなら、そっちのダンジョンに行ってもいいブー!
でもっておまえの敵を、この力で殴り殺してやるブー!!」
「まあ、たくましい方!」
ユリエルもオデンも、完全に脳内で快感が暴走している。
ユリエルだけでなく、オデンもオーク以外の女にほぼ喜ばれたことがない非モテなのだ。それがお互いの好きに当てられて、すっかりその気になっている。
非モテは、いいなと思った相手に優しくされるととことん弱いのだ。
二人が完全に甘い妄想に囚われ、とんでもない一線を越えそうになったところで……。
「おい弟よ、やめておけ!その女は地雷だぞ!!」
ひときわ大きく身なりのいい上位オークが、水を差すように声をかけてきた。
オデンの兄……オークキングは、ユリエルを険しい目で見て言う。
「フン……まあ、見た目と生命力の強さは及第点だろう。普通に孕ませるならば、都合のいい女かもしれん。
だがそれを差し引いても、危険だ!
男として満たされたい生を送りたいなら、手を出すんじゃない!!」
いきなり危険物扱いされて、ユリエルは思わず言い返した。
「ちょっと、何ですかその言い方!
オデンさんが私を大切にしてくださるなら、私、きちんと頑張って尽くしますよ。浮気とか絶対しませんし!」
だがそれを聞くと、オークキングはますます嫌な顔をした。
「ほら見ろ……これは重い女だぞ。処女には時々こういうのがいるんだ!」
オデンも、ブーッと荒い鼻息を立てて言い返す。
「うるさいブー!いっぱい愛してくれて浮気もしない女の、何が悪いんだブー!
あ、もしかして嫉妬ブー?この女のところに行けば、オデはもう兄貴の下僕じゃなくなるブー。
美人のクモ女とワークロコダイルの可愛い子ちゃんに囲まれて、皆で幸せになるブー!」
「ああ゛?」
その途端、ユリエルの目が吊り上がった。
それを待っていたように、オークキングはユリエルに問う。
「娘よ、おまえは浮気をしないと言ったが……オデンが他の女に手を付けたらどうする?」
「許す訳ないじゃないですか」
ユリエルは、怒りをあらわに即答した。
「だって、それは私との契りを裏切るってことですよね。心に決めたと言っておきながらそれを反故にする男など、信用できませんね」
「ブヒッ!?」
その剣幕に震え上がるオデンを、オークキングは諭す。
「聞いたか……この女は、自分が愛する代わりにおまえを自分だけに縛る気だ。誠実と言えば聞こえはいいが、おまえにもそれを押し付けてくるぞ。
つまりこの女を選んでしまったら……おまえに、ハーレムの未来はない!」
「ブヒイイィ!!?」
オデンは、雷に打たれたようなショックを受けた。
人間の男でもそういう傾向はあるが、魔族……特に獣系の男にとって、己の強さで多くの女をなびかせてハーレムを作るのは一番の生き甲斐である。
皆そのために命を懸けるし、それを得て見せつけるのは何よりの愉悦だ。
この価値観が、ユリエルの求める誠実な愛に真っ向から反しているのだ。
いや、オデンは皆きちんと愛せば問題ないと思っていたが……ユリエルはせっかく得た一人が他の女に向くことを許さない。
「え……お、おまえと仲いい女でもダメかブー?
おまえのダンジョン外の女は諦めるから、そこのクモちゃんやワニ娘たちと一緒に家族になるなら……」
オデンが食い下がると、ユリエルはちょっと考えた。
「んー……どうしてもあなたが好きって子が現れたら、その子にも幸せになってもらいたいけど……その場合、私は身を引くわ。
そしてあなたがその子を責任もって愛せるか、しっかり見てるから。
ちなみに、オリヒメちゃんとシャーマンさんはどう思います?」
ユリエルに問われて、二人は嫌そうに答えた。
「あたしは……ちょっとお断りかな。
こいつ、都合が良ければいくらでも欲しがる下種冒険者共と同じ感じがするよ。もうあの手の男はこりごりだねぇ」
「あたしゃ、一族のためなら身を捧げる覚悟があるが……その一族の娘を、目移りしてはかぶりつくばかりの男にゃやれない。
……ん、あたしかい?
残念だが、あたしゃもう年だ。卵は産めないよ!」
愕然とするオデンに、オークキングはうんざりした顔で言った。
「ほら見ろ、おまえが向こうのダンジョンに行った時点で、おまえにはあの元聖女しか選択肢がなくなるのだ。
それに、あの娘は腐ってもダンジョンマスターだぞ。
おまえが結婚して引き換えに配下にされたら、おまえは一生あの娘に逆らうことができなくなる。
ダンジョンそのものの力で、尻に敷かれるのだ!」
聞いていた年配のオークが、さもおぞましそうに呟いた。
「古よりの諺にもありますブヒ……麦のふすまが桶一杯あるなら、婿入りだけはするなと。
それは地獄の入口だと、先人たちも思い知ってきた道ブヒ」
それを指摘されると、オデンは血の気が引いてだらだらと冷や汗を流し始めた。
目の前の女の子に気を取られて気づかなかったが、別のダンジョンマスターに婿入りするとはそういうことだ。
オデンが配下になれば、ユリエルはマスター命令と権能で本当にオデンを支配し、一から十まで監視できてしまう。
ユリエルは、それを分かったうえで言っているのだ。
しかも、ユリエルのダンジョンにオデンの味方はいない。
下種な男をどこまでも毛嫌いするオリヒメが常に目を光らせており、さらにタフクロコダイルガイの母が姑のようにしごいてくる。
少しでも浮気心を起こそうものなら、鉄の処女に放り込まれるも同じ。
ここは、主なきハーレムに見せかけた地獄だ。
「ブ……ブヒィ……そこまでは、さすがに嫌だブー」
ユリエルとの幸せは、オデンにとってオークの生き甲斐そのものを潰されるに等しい恐ろしい落とし穴だった。
しかしそれでも、オデンの足は後ずさることができない。
それを見たユリエルは、愛憎半ばする半笑いで言い放った。
「……でも、そうすれば私だけは手に入りますよ。
届くか分からないハーレムと確実な一人と、どちらをお選びになりますか?」
「ブグウゥ!!」
オデンが、心臓を撃ち抜かれたように膝をついた。
ユリエルにだって分かる。どんなに理想があったって、誰も寄ってこなければ結局何も始まらないのだ。
そんな中寄って来てくれる一人が、どんなに重いか。ありがたいか。
多少条件があっても好みとズレていても、自分を許容してくれるというただ一点が、非モテにはとてつもなく眩しい。
そしてその一人を逃したら、もう次の相手が来るか分からない。
だからこれだけ不利でも、オデンはユリエルを諦められないし、ユリエルはオーク相手でも食らいつく。
腹の底の底まで飢えていると、たとえ爆発物だと分かっていても口に放り込む衝動に抗えないものだ。
だが、オークキングがそれに反論した。
「フン、それならおまえこそ、自分以外への愛を許せば結ばれることができるものを!
たった一人の愛の独占にこだわって全てに拒絶されるなど、滑稽でしかないわ!おまえから男を遠ざけているのは、その独り善がりな性根だ!
それさえ分かれば、俺のハーレムに加えてもいいものを。
全く……不出来な弟にふさわしい、残念な娘だ!!」
「なっ……!!」
ユリエルは、それ以上言い返す言葉が見つからなかった。
ユリエルだって、本当は分かっていた。
男は……特に富や権力を持っている男は、一人の女に縛られることを嫌う。だから、自分を縛りそうな女を敬遠する。
ゆえに、聖女として寿退職作戦を仕掛けられていた頃は、それが貞操帯のようにユリエルを邪な男から守っていた。
今のダンジョンマスターの力ほどでなくても、ユリエルの働きぶりを見れば、将来それなりに影響力のある聖女になることは予測できる。
そうなったときのことを考えると、好色でたくさんの女を食いたい男ほど、危険を感じて手を出したがらない。
Gショックインパクト以外にも、これがユリエルの非モテの一因であった。
だが、ユリエルは分かっていてもやめられない。
だってハーレムに入って何人もいるうちの一人になってしまったら、飽きたら捨てられるかもしれないから。
今非モテゆえに、幸せになった後でそうなる恐怖に耐えられなかった。
「ひぐっ……簡単に捨てられる、たくさんの中の一人になんて……ならないからぁ!」
捨て台詞を吐いて、半泣きでオークのテーブルを離れるユリエル。
その背中に何度も手を伸ばしかけて、それでも声が出ず板挟みに悶えるオデン。
非モテゆえに強く惹かれ合い、しかし相容れなかった二人の結末は、もはや魔族たちのいい見世物だ。
だが、そんなユリエルを感心して見守る者もいた。
「一途だねえ……可愛くて、うぶで、情熱的じゃないか!ああいう子は汚されたくないね」
「あれほど貞淑な娘を、無下に拒むとは。世の男どもは分からぬのう」
復讐の巫女カルメーラ、そして魔王に近い上座に座る厚化粧の女。ユリエルを理解する者はいたが、残念なことにその中に男はいなかった。
麦のふすま桶一杯~の元ネタ:小糠三合あるならば入り婿すな
昔から、入り婿はいろんな意味でできるだけ避けるべきと言われていたらしい。
みじめな非モテ同士の喧嘩別れ。
お見合いパーティーで出会った男に、一生懸命外堀を埋めたり将来の不安を突くような言い方をして、引かれて相手を恨んだことがありました。
職場関係の男と二人で山登りにこぎつけたら、そいつに彼女がいることが分かって、彼女爆発しろと恨んだことがありました。普通に考えたら、彼女がいるのにそんなことをする男など信用できないはずなのに……20代後半まで処女でいるとここまでおかしくなるものです。
今の旦那?
結婚前からの難病が悪化し、物理的(免疫、心臓、股関節等)に浮気できません。難病でも万が一に対応できる、医療関係者かつ自分を見捨てないたった一人を求めてくれていました。
学歴と職業と資格で必要とされるのが一番裏切られないかもしれない。
恋愛を求めて空回りしていたかつての自分がアホガキのようだ。




