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131.ひっそりと……開眼

 スライディング休日セーフ!


 これまでとは違う足場の悪い開けたフィールドで、ダンジョンの大駒を放出してバトル!

 スケジュールに焦る討伐隊は、湿地で水を得たワニを突破できるのか!?そして、いきなり現れた謎の魔物は何なのか!?


 見えてる部分だけで判断すると、お互い痛い目を見るというお話。

「私たちは~止まらない~♪

 私の歌で~闇を開いて~♪」

 今日も今日とて、タカネノラの歌が4階層に響く。

 昨日滝を上れなかったため一日遅れてしまったが、進軍はだいたい討伐軍の計画通りに進んでいる。

 洞窟の川を制圧し、鉄砲水の勢いを避けられるところに強力な結界でつなぎの拠点を作ったことで、峡谷から5階層の入口まで兵站がつながった。

 鉄砲水は時々来るが、一発来てから次まで二時間は空くので、その間に人や物資をそれなりに上げることができる。

 タカネノラが、上層から来る者と下層へ向かう者両方に歌を響かせることができる。

 これで、さらに下を攻略する準備が整った。

「よーし、これで今日からは一気に進むわよ!

 ったく、鉄砲水もっと来るかと思ったのに……昨日のあれは何だったのかしら?」

「何としてもあそこで阻止しようとして、無理して力を使っていたのかもしれません。

 しかし、こうなって我々が結界を張ってしまったら、もう意味がないでしょうから。つまり、我々の勝利です!」

「ふーん、なら今日は遅れを取り戻せるくらい頑張ってよ!」

 聖騎士たちはタカネノラをおだてているが、タカネノラはやや不機嫌だ。

 まだ任務を果たしきってもいないのに、この後の聖楽大会や自分の評判のことばかり考えている。

 消費が増える食糧や物資の事は、これっぽっちも考えていない。

 代わりに、そちらはワイロンが考えて指揮している。

「今日はこれからすぐ5階層、そして午後には7階層に拠点を作る予定だ。

 タカネノラ様が先に進めば、戻って来て上層の人足を強化するのが難しくなるだろう。食糧は、持てるだけ持って先に進むぞ」

 さすがにワイロンは、多少考えている。

 タカネノラの歌の効果を良く知っていて、それが届かなくなった時のことを考えて物資の流れを決めている。

「しかし、5階層6階層は足場が悪いし、次の森の階層は四方八方から多様な敵が襲ってくると聞く。

 調査隊の報告を聞くに、一息つけそうなのは9階層か。できれば今日中にそこまで行って、食糧をたっぷり運び込みたいところだな」

 ワイロンと聖騎士たちが打ち合わせをしている側で、タカネノラは元気がなさそうにしている楽士の子を引っ立てた。

「ほら、今日もしっかり奏でるのよ!

 私に恥をかかせたら、許さないから!!」

 楽士の子はうなずいたが、少しだけためらうような間があった。

 それにタカネノラは大きく舌打ちし、楽士の子のベールの奥を皿のような目で覗き込んで言った。

「昨日の聖騎士さんが、かわいそうだった?

 ……そんなん、私の仕事の邪魔をする理由にならないから!

 あのねえ、あれはあいつが余計なこと言うから悪いの。あんたは、そんなこといちいち気にしなくていいの。

 それとも……あんたももう一回しつけないとダメ?」

 その言葉に、楽士の子の喉からか細い悲鳴が漏れた。

 と、その喉をタカネノラが乱暴に掴む。

「声出すなっつってんだろ!!

 ねえ、あんたはいい子になったんだからさ……赦されたんだから、さあ?」

 タカネノラの張り付けたような笑顔に、楽士の子はガクガク震えながら必死にうなずいた。

 タカネノラは満足そうに鼻息をたてて、恩着せがましく言った。

「そう、あんたは私の言うことだけ聞いてればいいの!

 誰があんたを聖女にしてあげた?誰があんたをここまで引き上げてあげた?

 あんたは天と私に感謝して、私のために働きゃいいのよ!」

 移動のために輿に乗るタカネノラに、楽士の子は人形のように付き従う。一応小さい輿には乗せてもらえるが、それこそが彼女を縛り付ける牢獄だった。


 5階層の湿地には、既にわずかな固い地面に拠点が築かれていた。

 タカネノラの力で強化されたファンや兵士たちが、土魔法使いが地面を盛り上げたところにどんどん物資を運び込んでいる。

 そこからさらに土魔法で道を作り、兵站を確保しつつ進むのだ。

 それができるほどの人数を揃えられる、大討伐ならではだ。

 だが、敵は大人しく見ていてくれる訳ではない。

 ちょっと行ったところで、いきなり周りの水面が盛り上がり、屈強そうなワークロコダイルが十数体も現れたのだ。

「慌てるな、迎撃準備!」

「おい、タフクロコダイルガイがいるぞ!聖騎士様に応援を頼め!」

「あの恰好は……シャーマンか?

 妖精を連れている、早いとこ撃ち落とせ!」

 ただの本能で襲ってくる獣ではない。シャーマンに率いられて統率のとれた、ワニと妖精の混成部隊だ。

 しかもその中に、見たこともない異様な奴がいた。

 頭に極彩色の大きな仮面をかぶり、色とりどりの羽やビーズで飾られたみのをまとった人型の何か。

「バロバロバローン!バーベロローン!」

 訳の分からない言葉を発しながら、動物の頭蓋骨のついた杖を振って踊っている。

 討伐軍が顔を見合わせている間に、そいつは杖を高く掲げた。

「バロベロベーン!」

 次の瞬間、そいつの側にいたワークロコダイルたちを強化魔法の光が包んだ。

「なっ……支援系か!来るぞ!!」

 それを合図に、ワークロコダイルたちの突撃が始まり、あちこちで討伐軍の兵士たちとぶつかり合った。

 元が屈強なワニの魔物と人間、しかしどちらも強化されている。

 そして強化の強さでは、タカネノラが上回った。

 一体のワークロコダイルに数人で挑む人間の、たった一人の力でワークロコダイルの腕力に対抗できる。

「ぬおおお屈さぬぞ!!」

「聖歌手様の加護があれば、力だけの貴様らには負けん!」

 タカネノラに強化されたクッサヌ家の老兵が正面からパンチを受け止め、その隙に他家の兵が四方八方から襲い掛かる。

「ヒャッハー!ワニ狩りだ、生皮はいじまえ!」

「今は俺たちが最強なんだよ!」

 戦いが人間が押している間にも、道の工事と物資の運搬は続く。

「さあさあ、恐れずに進むんだ。敵は俺たちに手出しできない」

 本来なら安全を考えて戦いが終わってから進ませるものだが、この討伐軍はタカネノラが急げと言ったら急ぐのだ。

 すると当然、そこを狙われる。

「バーンロローン!」

 謎の仮面の魔物が、杖から目もくらむような光を放った。

 人々はそれに思わず目を覆って足を止め……再び視界が戻った時、物資を運ぶ道はイビルフェイスに囲まれていた。

「さあ、やるんだよ!」

 頭骨の冠を被ったシャーマンの合図で、イビルフェイスたちが一斉に風雨を起こした。

 叩きつける雨に急造の道はゆるみ、人々はあっという間に視界を奪われ、足を滑らせて落水する者が続出した。

「わぶっ!なにくそ……うっぎゃあああ!!」

 無論落ちただけでは大したダメージにならず、人々はすぐ起き上がるも……水中の魔物は待ってくれない。

 あっという間にザリガニやタガメ、ミズカマキリの化け物が荷運びの足を切りにかかる。

 慌てて修道女たちが助けに入るも、道の周囲は既に血の海だ。

「オラアア!!……ダメだ、一撃じゃ潰れねえ」

「水中の虫共も、あの変な奴が強化してるのか!」

 力自慢のクラリッサが強化された腕で大鎌を振り下ろしても、大ザリガニは水と体の曲線で衝撃をそらして逃げてしまう。

 謎の仮面はさっきからシャーマンに守られながら時々目くらましや強化魔法を放っているが、強化の範囲には水中も含まれているのだ。

 それでも、ワークロコダイルの戦士は順調に数を減らしている。

 さらにそこに、タカネノラ自身が活を入れに来た。

「ラ~~~ア~~~♪私の歌と人の力は~♪いかなる悪をも~打ち砕く~♪」

 タカネノラのすぐ側で歌を聞きながら駆け付ける後続は、圧倒的に強化された力で敵を退けていく。

 ザリガニやタガメに挟まれながらも逆に持ち上げ、痛みを知らぬ体でもろともに他の兵士に攻撃させて強引に叩き潰す。

 ヒルに吸い付かれても、動かないのをいいことに力で切り裂く。

 あれよあれよという間に、道の周囲の魔物は掃討された。

「くっ……これほど強いとは!」

「バロバローン!」

 大した被害もなく返り討ちにされて、シャーマンは歯噛みし、謎の仮面は地団駄を踏んでいる。

 もはや残るは、二体のタフクロコダイルガイと後方の二体だけだ。

 人間は、ここでも聖なる強化に任せて押し通った。


 だが、もはや敵が勝つ見込みを失ったところで、タカネノラが取り巻きの聖騎士たちに命じた。

「あのタフクロコダイルガイを、倒してみせなさい!

 あれの皮のバッグとかいい……じゃなくてー、あれの肉でさらにみんなが強くなれちゃう~!」

 タフクロコダイルガイの肉に強壮効果があるのは、多くの者が知るところだ。

 あれを倒して食べれば、討伐軍はさらに強くなる。

 今手の届くところにいるのだから、狩って利用しない理由はない。鴨がネギを背負って現れたようなものだ。

 すぐに、タカネノラの取り巻きの聖騎士がタフクロコダイルガイに躍りかかった。

 その中の一人は、昨夜タカネノラにさんざんいびられた一番若い聖騎士だ。これでどうにかタカネノラの機嫌を直そうと、勇んで剣を振るう。

 相手は、タフクロコダイルガイの中でもどうも腰が引けて弱い方だ。

 さっきから見ていると、力はあるのだがどうも動きが臆病で、そのくせ周りに気を取られて力を出し切れていない。

 こいつなら勝てると踏んで、一番若い聖騎士は派手な剣技で斬りかかった。

「ハァッ!タァッ!これでどうだ!

 ご照覧あれ、タカネノラ様!!」

「ゴハッ!い、痛えよ……グガッ!」

 思った通り、タフクロコダイルガイは防戦一方になっている。

 しかしここで、謎の仮面がタフクロコダイルガイに声をかけた。水の中に放り出されている小さな荷物に駆け寄り、何やら手早くほどき始める。

「バロン!バロバローン!」

「何、そこにあれがあるってのか!?」

 タフクロコダイルガイは聖剣を腕にめり込ませ、深く切られながらも渾身の力で押し返し、聖騎士と距離を取った。

 そして一目散に荷物に駆け寄り、謎の仮面が出した瓶の中身を一気にあおった。

「うおおおい!若様のウイスキー!!」

 たちまち、モラハッラ家の兵から悲鳴が上がった。

 そんな確定した悲劇をよそに、タフクロコダイルガイはカァーッと酒臭い息を吐いた。これまで怯えが宿っていた目が、据わる。

「アァ……!?聖騎士が、何でぇ!歌が、何でぇ!

 俺ぁ暴れてえように暴れんだよ、ガアア!!」

 タフクロコダイルガイは、酒乱親父のようなことを言ってでたらめな動きで聖騎士に襲い掛かった。

「は、酔っ払いなんか敵じゃな……うわぁ!」

 聖騎士が迎え撃とうとすると、タフクロコダイルガイはいきなり直前で倒れ込んだ。聖騎士の剣は空振りし、ドバーンと大きく上がった水しぶきに突っ込んでしまう。

 だが次の瞬間、タフクロコダイルガイは素早く起き上がった。タフクロコダイルガイの長い顎が、聖騎士の顎を下から打ち付ける。

「むぶっ!?」

 思わぬ衝撃に目の前に火花が散り、ふらつく聖騎士。

 その一瞬で、聖騎士の頭は恐るべきワニの口にくわえられていた。

「むうん!」

 タフクロコダイルガイは間髪を入れずに、その首をねじ切るべく体を回転させ始めた。

「うぐううぅ……わぶぶぶっぶほっ!」

 聖騎士はとっさに自分も同じ方向に回転して首を守るが、もう反撃どころではない。顔が回転するたびに泥水に浸かり、呼吸もままならない有様だ。

「まずいぞ、助けろ!!」

 さすがに他の聖騎士が助けに入るも、タフクロコダイルガイは一番若い聖騎士をくわえたまま暴れ回る。

 酔っ払いが肉をくわえたまま暴れるように、一番若い聖騎士をぶんぶん振り回して予測不能な動きで聖騎士たちを翻弄する。

 聖騎士の一人が神の力を発動させて広範囲の技を出してようやく止めた時、一番若い聖騎士は泥まみれで虫の息だった。

「ちょっと、何やってんのよ!

 罰として、あんたはこいつの肉なし!」

 タカネノラはそう言ったが……タフクロコダイルガイの肉は食べられなかった。

 死んだタフクロコダイルガイの肉はさばく間にも溶け始め、鑑定の魔道具で調べてみると猛毒に侵されていたのだ。

 ユリエルは、自分が使った強化を敵に使わせない対策をきちんとしていた。

 タフクロコダイルガイの口の中に、倒されそうになったら砕いて飲めと、速やかに血肉を破壊してその効果を失わせる猛毒を仕込んでおいたのだ。

 もちろん、これで皮もボロボロ汚染済だ。

 おまけに、頭をくわえられた聖騎士と傷ついた手で解体しようとした兵士も猛毒に侵され、神の力で解毒しなければならなかった。

「もー、何なのよ!!」

 タカネノラは地団駄を踏んで悔しがったが、もうどうにもならない。

 討伐軍は、傷を癒して先に進むしかなかった。


「……それにしても、さっきの仮面は何だったんスかね?」

 少し気にかかったのは、ワークロコダイルたちを支援していた謎の仮面の魔物だ。あんなのは、これまでの報告になかった。

 強敵の可能性も考えて鑑定の魔道具も使ってみたが、名前と体力しか分からなかった。


 名前:魔人バロロン 体力:370


「何だ、鑑定阻害がかかってるのか?」

「でも、攻撃方法と体力見る限りそんなに強そうじゃないですけどね。支援は強いけど、本人のレベルは40前後じゃないか」

「時々杖から光線撃ってたけど、俺らには大した威力じゃなかったし」

 タフクロコダイルガイと戦っている間にシャーマンとともに逃げてしまったため、詳細な能力は分からない。

 ただ次に出てきたら支援される前に優先的に撃破しようと、それだけ決めて、聖騎士たちはタカネノラの機嫌直しに戻った。


 今の戦いが、この任務の最も重要な戦いだったことなど、露ほども気づかなかった。

 仮面の奥から、自分たちの生命線である何を見られたかなど……。


「帰ったぞ、これはいいものが見られた」

 帰還した謎の魔物が仮面を脱ぐと、ユリエルたちになじみのそっけない声が放たれた。エキゾチックな衣装に似合わぬ、まっすぐな金髪がさらりと流れる。

「それは良かったわ。

 ね、進化して良かったでしょ、ミツメル」

 謎の仮面とみのの中にいたのは、ミツメルだった。

 しかし、これまでのミツメルではない。

 ミツメルの背中には、鏡のようにキラキラと輝く羽でできた翼がある。さらにミツメルがユリエルの方を向くと、頬や首の何もないところにパチッと目が開いてユリエルを見た。

「これで、もっと見えるようになったでしょ。

 せっかく見に行くんだから、確実に見れるようにしとかなきゃ」

 ユリエルは、満足そうにミツメルの新しい姿を眺めた。


 名前:ミツメル 種族:ゴッドアイジャッジメンター 

職業:監視員(虫けらのダンジョン)

レベル:64 体力:370 魔力:1050

状態:強化(純潔なる神器の血)


 ミツメルは、ユリエルの血を与えられ進化していた。

 タカネノラを守る結界が元からの力で見通せるか確信が持てないと聞いて、ユリエルは迷わずミツメルに血を与えた。

 結果、新しい力を得たミツメルは見事、タカネノラの秘密を暴いてきた。

 もっとも、後のことを考えると喜んでばかりもいられないが。

「……本当に良かったのか、ユリエル?

 もし次の死肉祭までに教会との決着がつかず……いや、美王派閥が本気で君を狙ったままだったら……君は、この力を手にした僕を敵に回すことになるが」

 ミツメルが気にしているのは、魔族内部の対立のことだ。

 ミツメルは現状、ダラクからユリエルに貸し出されている状態だ。そしてダラクは、ユリエルを逆恨みして狙う美王派閥にいる。

 今はユリエルのダンジョンに所属しているが、次の死肉祭にはダラクの下に返さなくてはならない。

 そういう契約が、結ばれているのだ。

 つまりここでミツメルを強くしてしまったということは、将来ダラクとの戦いでユリエルの命取りになる可能性がある。

 だがユリエルは、吹っ切れたように首を横に振った。

「いいよ、どうせ教会に負けてもここにいられなくなるんだし。

 それに、ミツメルとは腹を割って手を取り合うって言ったじゃん。

 その時からうちのダンジョンのことは隅から隅まで見てもらってるんだから、もう今さらじゃないかな」

「そうか……しかし、そうして割り切るには、今の僕の力は強すぎないかね?」

 ミツメルは、ユリエルの未来を気遣うように言った。

 実際、ミツメルの得た力は驚異的なものだ。

 これまでは目に見える範囲しか鑑定できなかったが、今は隠されたものでも透視して鑑定できるようになった。

 だから、荷物の中身が酒だと開ける前に分かったのだ。

 もちろん、タカネノラを守る結界も貫通して実にいろいろなことが読み取れた。これほどの力なら、四天王にも通るかもしれない。

 そしてその力をダラクを通して美王が使ったら、魃姫の下とて安全ではなくなるかもしれない。

 ミツメル自身をして、とんでもない力を得てしまったと思った。

 もっとも、相変わらずそこに極振りしているせいで、戦闘力はあまり伸びなかったのだが。

「大丈夫、強くても気づかれないうちは気にしなくていい。

 あいつら、ミツメルのことをだいぶ弱い、全く違うタイプだって思ってるわね。

 魃姫様から借りた鑑定阻害アイテムがあったにしても、あなただって可能性を全っ然考えてないみたいよ!」

「フフ……それは君の仕掛けのせいも大きいな。

 敵に脅威を悟らせない、見事な策士ぶりだ」

 ミツメルは、そこは素直にユリエルに感謝して嬉しそうに笑った。

 ユリエルはミツメルを強化したが、同時に敵にそれを悟らせないことにも気を遣った。

 魃姫に相談して鑑定阻害装備を借り、さらにミツメルの能力ではない支援を使えると見せかけて敵を欺いた。

 ミツメルが支援したように見えたのは、マスターの魔法を送る罠でユリエルの補助魔法を送っただけだ。

 ミツメルが本当にやっていたのは光による目くらましと、手に発生させた目玉から杖の頭骨の穴を通して光線(本当に弱い)を撃つだけである。

 だがこうするだけで、敵はきれいに中身がミツメルという可能性を捨てた。

「ふふふ……見えるものだけで判断するって、難しいよね!

 それにしても、あんたも結構ノリノリで踊ったり跳ねたりしてたじゃん」

「あ、あれは、そいつを着たら妙に体を動かしたくなってだな……その方が敵の気をそらせると思って従っただけだ。

 べ、別に衝動に抗えなかった訳じゃないぞ!」

「いいよー、結果が良ければどっちでも!」

 ユリエルは、晴れやかながら悪どい笑顔で言った。

 ユリエルの冤罪もタカネノラの秘密も、教会はきれいに守り切って人々から見えないようにしている。

 だが、それを人々に降りかかる形で暴いてやったらどうなるか。

 見えなくても実在することは変えられないのだから、それを人々に身に染みて分からせてやるまでだ。

「さーて、忙しくなるぞ!

 どんな風に暴いてやろうか!」

 欲しかったものは、手に入った。

 これをどんな風に人々に思い知らせる形で暴いてやろうかと、ユリエルは手をワキワキさせて考えていた。


 だが、そこに一言だけミツメルから助言が入った。

「僕と共に戦った……途中で酒を飲ませたタフクロコダイルガイだが、あいつ妙な職業に目覚めているぞ。

 もうあいつは、戦う時は飲ませた方が良くないか?」

 ユリエルがダンジョンの機能で確認してみると、そのタフクロコダイルガイの職業は『酔拳士』となっていた。

「うへえ……何これ?」

「僕もよく知らないな。

 ダンジョンを25階層以上にすれば辞典機能を解放できるから、それだけでも取っておいたらどうだ?

 見ても意味が分からなければ、話にならんぞ」

 ユリエルが見ていないところで、こっそり独自の成長を遂げる仲間もいる。

 それをこぼさず見つけられることもまた、この難局を跳ね返す大きな力であった。

 通らなきゃ、通るように強化しろホトトギス。

 ミツメルはまだ、ユリエルの血による強化を受けていなかった……ということは、すぐに一段階強化が可能という意味です。

 もっとも、ミツメルの立場上安易にやるとまずい事情はあったのだが……。


 ダンジョンマスターの魔法を届ける罠は、ユリエルが最初のワークロコダイル戦から使っていたものです。

 見えてる場所で使うと発生点が動かないので割とバレるが、泥水の下で見えないところを発生点にすれば偽装にお役立ち。

 ミツメルには泥水の下にいる味方の姿が見えているので、発動タイミングの指示も問題ない。


 酒好きの元ワークロコダイルは……ついに、運命まで酒に引きずられてしまった。


 そしてバレてしまったタカネノラの秘密!

 次回以降、どう攻略して破滅へと堕としこんでいくのか!

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