125.熱狂の出陣
三連休から一週間以内にリカバリーも、為せば為るんだよぉ!
書くことが決まっているので筆が乗るだけでした。
ついに、大討伐の出陣式!
討伐に参加する各勢力と、そして参加せず街で待つ人たちも。
インボウズと教会の、ユリエルを大軍勢で消し去る作戦がついに動き出す!でも、悲劇を防ぎたい人たちも動いている!
ついに、大討伐の出陣の日となった。
教会の正規軍と招集された貴族軍が物々しく戦闘用の装備をまとい、郊外に整然と並んでいる。
その威容は、死肉祭に勝るとも劣らぬものであった。
さらにその周りを、タカネノラ目当ての群衆が厚く取り囲んでいる。
結局タカネノラは、街に来てからこれまで、学園で後輩たち相手にしか歌ってくれなかった。
集まったファンたちは悔しがり、しかしさすがに出陣の式典ならと思って陣地の周りにかじりついているのだ。
タカネノラは仕事と私事の時間をしっかり分ける人で、街を歩いている時や休んでいる時は発声練習一つしない。
それだけに、あの素晴らしい歌声は貴重なのだ。
ファンの一部は自分たちも軽く防具をまとって、ダンジョンまでついて行く気でいる。
あの天から降り立ったような最高に素晴らしいタカネノラのために、自分にできる事を少しでもと思っていた。
そうして、これまで考えたことのない人数が、虫けらのダンジョンへの突入命令を待っていた。
「エイ、エイ、オー!!我らは屈さぬ!!」
陣地においてひときわ大きな声で気合を入れるのは、クッサヌ家だ。
「良いか、戦いとは常に、死ぬ覚悟で挑むもの!
世を乱す悪には、決して屈さず、刺し違えてでも世を守るべし!!」
白髪混じりのイシアタマンが、総大将として声を張り上げる。そのたびに、全軍から雷のような声が返る。
しかし、それに水を差す者がいた。
「何、面会者だと?後にしろ!
……は?フェイクブレイカーを持参しておるだと!?」
出陣前のクッサヌ家の陣地を訪れたのは、フェミニアとともに虫けらのダンジョンに潜っていた荷運び、カサンドラだ。
しかもフェミニアの遺品のフェイクブレイカーを持参しているとあっては、会わぬ訳にいかない。
イシアタマンとガンコナーの姿を見ると、カサンドラはぺこりと頭を下げた。
「法廷では、ありがとうございました。
あの時は気が動転していてお礼も言えず、フェミニア様の遺された品も渡し忘れてしまって……どうも、すみませんでした」
「いや、そんなことは良い。
それより、フェイクブレイカーを」
カサンドラは、素直に二人の前にフェイクブレイカーを差し出した。
それを見た途端、イシアタマンとガンコナーは思わず目をむいた。
「お、叔父上、これは……!」
「ああ、相手の言う事への裁きを二回無駄に使い、さらに己の言う事への裁きに失敗した跡がある。
フェミニアめ……それほど軽率な奴ではないと思ったが、一体何が……!」
同じ道具を持っている二人には、見ただけで分かった。
フェミニアは二度、相手の嘘を裁こうとしたが、相手の言う事が本当と見抜けず失敗してしまっている。
さらに、自分の言う事への裁きも発動し、あろうことか自分の言ったことが偽りであったために失敗し代償を食らってしまった。
「何と……あれほど正邪を間違えるなと教育したのに、この様とは!」
「いや、儂もフェミニアはそんな子ではないと思っていたが、いやはや……。
だが、これを持ち帰って調べれば、フェミニアが最期に何を誤ったかは分かるはずだ。
ともかく、お嬢さんはよくやった。さあ、それを……」
しかし、イシアタマンが手を伸ばすと、カサンドラはさっとフェイクブレイカーを引っ込めてしまった。
「何か、大事なことが分かるんですね?
だったら、今この場では渡せません!
これを受け取るのは、あなた方が虫けらのダンジョンから生きて帰ってからにしてください。でないと、フェミニア様の遺したものが無駄になります!」
その言葉に、イシアタマンとガンコナーは面食らった。
「むむっこの小娘……しかし、筋は通っておるな」
「当たり前ですよ、あなた方はさっきから死ぬ覚悟ばかり叫んでるじゃないですか。
大事なことが分かるならなおさら、これから死にに行く方になんか渡せません!生きて帰って、フェミニア様の遺された真実と向き合ってくださいよ!」
カサンドラに言われて、クッサヌ二人は顔を見合わせた。
遺されたフェイクブレイカーを見るに、フェミニアが何らかの過ちを犯して自滅したのは確かだ。
曲がったことを許さず正義に命を捧げるクッサヌ家にとって、無視できることではない。
しかし自分たちがこれを受け取ってダンジョン内で死ねば、フェミニアの真実もまた闇に葬られてしまう。
それどころか、邪悪な敵の手に落ちてしまう。
それだけは、避けなければならない。
イシアタマンはしばし考え、ガンコナーに言った。
「……そうだな、真実は命あってこそ確実に伝わる。
目の前の悪に屈さぬことも大事だが、負けて何も残らぬでは意味がない。
命を捨てて戦うのは、儂と老兵たちだけで十分だ。ガンコナーと若者たちは、後のために生きて帰ることを優先せよ!」
「そんな、叔父上!私もクッサヌの一員として……」
反発するガンコナーに、カサンドラは訴えた。
「死ぬまで突っ込むばかりが、勇気ではありません。時には生きるために退くことも、後のことを考えた勇気です。
私はフェミニア様を亡くして、それを学びました。
どうか私と、フェミニア様が守ろうとしたもののために、生きてくださいませ!」
「フェミニアが、守ろうとしたもの……?」
思わず耳を傾けたガンコナーに、カサンドラは女々しく怯えたように言った。
「フェミニア様は、理不尽な乱暴から女の子を守ろうとしていました。
しかし、今回の討伐からセクハッラ家は外されてしまった……ということは、セクハッラ家はたくさん生き残るんですよね?
なのにクッサヌ家ばかりが減ってしまっては、誰が国の治安を守るんですか!?
ダンジョンから出てこない敵と戦って死ぬより、白昼堂々と乱暴してくる奴らから国民を守ってくださいよ!!」
その言葉に、クッサヌ二人ははっとした。
「なるほど、お嬢さんの言う通りだ。
そうだな、セクハッラを抑えるためにも、これ以上我が一族が減るのはまずいか」
「うむ、我々は国のことも考えねばならん。
早急に、生かすための部隊を分けるとしよう!」
曲がったことが許せないからこそ、実際にダンジョンでも街でも暴漢の被害に遭いかけた少女の言う事は無視できない。
クッサヌ二人は、死ぬまで退かぬの声を潜め、部隊の再編成を始めた。
話を聞いてくれた二人の様子に安心して、カサンドラは街へ戻る。
(良かった……これでクッサヌのおじさまたちが、真実にたどり着くかもしれない)
ダンジョンから戻って、真実を叫ばないと決めてから、カサンドラはそれでも自分にできることはないかと考えていた。
そして、クッサヌ家の考えを生きる方向に変えることを思いついた。
ユリエルの真実でなくても、クッサヌのおじさんたちを生きる方向に向けるために言える事実はたくさんある。
そうしてクッサヌ家が命を大事にしてくれれば、その目の前で教会の嘘を暴いて広めさせる作戦がうまくいくだろう。
幸か不幸か、カサンドラの手元にはクッサヌ家の気を引くネタがたくさんある。
特に、フェミニアのファイクブレイカーを持ち帰れたのは良かった。
(もしかして、ユリエル様もこのために私にくれたのかな。
あれがクッサヌ家に渡れば、少なくともフェミニア様が何を言ったか……何が嘘なのかが分かるみたい。
最悪、今回の作戦がうまくいかなくても、それだけでも伝われば……!)
どこまでも純粋だったフェミニアを思い出して、カサンドラは思う。
クッサヌ家の皆があんな風にまっすぐならばこそ、これ以上教会の嘘のために殉じさせてはいけない。
フェミニアのように、無駄死にさせられてたまるか。
そしていつかクッサヌ家が自力で答えにたどり着いた時には、自分の知ることを包み隠さず話そう。
どうかその日まであの二人が生きているようにと、少女はどこへともなく祈った。
美しく晴れた空の下、ついに出陣の式典が始まった。
「宣誓!我らは正義のための刃。
淫らな偽りのために世に不幸を広げる魔女を、我らが同僚を魔道に堕とした悪女を、必ずこの世から消し去ります。
神よ、ご照覧あれ!」
若く見目麗しい聖騎士が、インボウズの前で凛々しく宣言する。
白と金の壮麗な鎧が冬の清らかな日差しを浴びて光り、その光景だけで見ている女の子たちから黄色い声が上がった。
今回の討伐には、若い聖騎士が十人ほど参加している。
タカネノラが顔で選んだのだが、他ならぬタカネノラの支援があればいけるだろうと通ってしまった。
なのでこの聖騎士たちは、皆タカネノラのおもちゃだ。
そんなことも知らず、邪悪な魔女に汚されないでと目を潤ませて祈る女の子たちの、何と哀れな事か。
だが、そんなことは誰も考えていない。
とにかく魔女を倒しさえすれば全ては解決すると、皆それで頭が一杯なのだから。
「うむ、その言に恥じぬ働きを期待しておるぞ!
分かっておる、おまえたちは惑わされた未熟な奴らとは違う。聖歌手の守りもある、己をしっかり持って挑めば恐れることなどない!」
インボウズはこう言うが、当たり前だ。
インボウズは、ユリエルに男を堕とす魅力などないことを知っている。ロドリコたちが裏切った理由もだ。
それを考えると、今回の聖騎士たちは大丈夫だろう。皆、ユリエルとは比べ物にならないくらい魅力的なタカネノラに夢中なのだ。
そうして人心を惹きつけてくれるタカネノラに、インボウズは深い感謝を述べた。
「タカネノラよ、よく学園の危機に駆けつけてくれた。
おまえのようなこの世の光を育てられたこと、僕は理事長として誇りに思う!」
本当は学園にいた頃のタカネノラにはほぼ何もしていないのに、このマウントの取りようである。
群衆はそんなことにも気付かず、なぜもっと前にファンになっておかなかったのかと後悔しながら拍手した。
そんな群衆を内心見下しながら、タカネノラはそれに応える。
「当然のことよ、みんなが困っていたら助けるのが私の役目だもの。
それに、こんないい所にいながら道を踏み外した後輩には、きちんと世の中ってものを思い知らせてやらなくちゃ!
愛は卑怯じゃなくて、正しく頑張った結果与えられるものだって!
そうよね、みんなー!」
タカネノラが自信たっぷりに呼びかけると、会場が割れるような拍手と歓声が起こった。
そうだ、タカネノラこそ世の正しき希望なのだ。
これほどの歌声と舞いを両立し、それに驕ることなく人々のために使い続ける気高いタカネノラ。
これこそ、聖女のあるべき姿だ。
ちょっとモテないからって、キモいところを直さず外道に走った魔女とは大違いだ。
だからタカネノラが魔女を打ちのめすのは、もうこの世の理と言っていい。所詮悪で塗りたくった偽物は、本物に敵いやしないのだ。
インボウズもそれを信じ、これまでになく自信を持っていた。
「これまで飲まされた苦汁を、ついに魔女に返す時が来た!
タカネノラの正しく聖なる力の前に、魔女の詐術はさんざんに打ち破られ、奴は平伏し許しを乞うであろう。
その時こそ、魔女を分からせるときじゃ!
皆の者、タカネノラの下、あるべき勝利をその手にぃ!!」
インボウズの演説にも、久しぶりに大きな拍手が巻き起こった。
最近リストリアでは支持が落ち気味のインボウズだが、今回は外から来た人間が多いため悪評があまり届いていない。
それに何より、タカネノラ効果がすごい。
誰もが一度は会って生歌を聞きたいタカネノラをここに招いたのは、間違いなくインボウズなのだ。
借り物の人気とはいえ人々にもてはやされて、インボウズは久々にいい気分だった。
しかし、それに水を差すことが起こった。
「それでは、戦いの前に、街で人々を守った方の領主表彰を行います。
聖女シノア、前へ!」
「ひょ?」
インボウズは、思わず耳を疑った。
シノアは破門する予定なのに、一体どうして領主の表彰を受けるのか。そんな事をされたら、破門したら余計な反発が来るじゃないか。
あれよあれよという間に、シノアが驚いた表情でやって来て領主の前に立つ。
「聖女シノア殿、あなたは自らの財を投げうち身を捧げて炊き出しを行い、多くの貧しい人たちに生きる糧を与えた。
その献身に感謝し、ここに賞する。領主、ミザール・メクラリオン」
「あ、ありがとうございます」
シノアが目を白黒させながら表彰状を受け取り、軍と群衆から大きな拍手を受ける。
「おい領主、何をしているのだ!
そいつは、邪悪な魔女を赦せとか世迷言を抜かしおった奴だぞ。そいつに必要なのは、表彰ではなく教育と戒めじゃろう!」
慌てて口を挟むインボウズに、領主ミザールはすまして言い返した。
「ああ、その件は聞いております。しかし炊き出しに来る多くの人々の苦しみを聞き、最近は口にしなくなったと聞いておりますが?
何より、そうして貧しい人たちに耳を傾けること自体が大きな成長の機会ではありませんか。
社会への貢献や慈善活動も、金だけ出してかえって物価を高騰させるばかりの令嬢が多い中、シノア様は本当に直接人を救っていらっしゃる。
こんなに困窮者がいるのに教会ではやっていないと思っておりましたが、聖女様の自主性を試しておられましたかな?」
「……ぬっ……ぐ、うぐうぅ……!」
ミザールの言い方に、インボウズは返答に窮した。
シノアのやっていることなど誰にでもできると思っていたのに、こんな見方をされるとは。
はっと群衆の方を見れば、心からの感謝感激に目を潤ませている者が多くいる。シノアの人望は、思った以上に高まっている。
インボウズとしては、炊き出しなどして人々を怠けさせるのではなく、働かざるを得なくして自分の儲けの足しにしようと思っていた。
だが、満足に働けない者もいるし、働いたって物資の高騰で食べていけない者もいる。
そんな人々にとってシノアのやることが、実際に命の糧を届けてくれることがどんなに尊いか、インボウズには想像もつかなかったのだ。
あっけに取られているインボウズに、ミザールはさらに追い打ち。
「分かっております、教会は今、悪を倒すのに全力を注いでいらっしゃる。
ならば今こそ、領主の私めが後方の街を守る時です。
これからは私めも、シノア様が始めた炊き出しを領の事業に組み込み、支援いたしましょう。そしてわずかでも、我が兵で守りましょう。
これから戦いの間は飲食店も娼館も閑古鳥が鳴くでしょうし、その間を生き延びねばならぬ者が多いでしょうから」
ミザールの慈悲に満ちた発表に、群衆からまた大きな拍手が沸き起こった。
さすがにこれを否定する訳にはいかず、インボウズはすごすごと席に戻った。
これでは、戦いの後にシノアを破門するのが大変だ。かといってミザトリアを破門した時の損失を考えると、頭が痛いインボウズであった。
そうして一通り式典が終わると、ついにタカネノラがステージに立った。
「みんなー、今日はありがとう!
世の中をきれいにするために、こんなにたくさんの人に集まっていただいて、私とっても嬉しいな!」
この甘い言葉と軽く手を振られただけで、人々の興奮がどんどん高まっていく。
人々が拳を握って固唾を飲んで見守っていると、タカネノラがマイクをとった。そして、楽士の子も竪琴を構えた。
「これから戦う皆様のために、私、一生懸命歌います!
聞きにきただけって人も、元気が出たら少しでも手伝ってね!」
愛らしく宣言して、タカネノラは大きく息を吸った。
「ラ~~~ア~~~♪」
その口から歌声が流れ出した途端、会場はそのためだけの空間と化した。
誰もが一言もしゃべらず、うっとりと酔いしれたように歌に聞きほれる。もはや誰の目にも、タカネノラ以外は映っていない。
歌い踊るタカネノラは、もはやさっきとは別人だ。
さっきしゃべっていたのからは想像もつかぬ、人の心を揺らし体に染みわたる魅惑の声。まさに、神が与えたものとしか思えない。
「ラ~~~私の歌と人の力は~♪いかなる悪をも~打ち砕く~♪
美しく~正しき世に~敵う者などどこにもいないの~♪」
これから戦う者たちに、勝利を確信させる歌。
聞いているだけで、これまでの負けへの恐怖と屈辱など吹き飛んでしまう。この先の道が栄光しかない予感に囚われる。
「私に勝てる悪なんていない!だって私にはみんながいるから!
私を邪魔するお馬鹿さんには 私のファンが黙ってないよ♪」
タカネノラが自分たちをあてにしていると、胸が高鳴る。タカネノラのために、何でもしなければと思えてくる。
そのための力が、体の底からわいてくる。
今ならどんな敵も怖くない。タカネノラのためなら、どんな敵も打ち砕ける。
そんなとてつもない高揚が、軍と群衆を支配した。
熱狂して自分の歌に合わせて体を揺らしている人々を見て、タカネノラはひらりと聖騎士が担ぐ神輿に飛び乗った。
「いざ行かん正義の戦いへ~♪私の歌で~闇を開いて~♪
さあみんな!私について来て~!!」
タカネノラの呼びかけとともに、タカネノラの神輿と楽士の子を乗せた小さい輿が動き出す。
「ウオオオォ!!続けええぇ!!」
それに続いて、教会軍と貴族軍が動き出した。
勇ましい雄たけびを上げて、フル装備にも関わらず聖騎士に劣らぬ全力疾走で虫けらのダンジョンに向かっていく。
さらに群衆も、それに続いた。
だが軍が通過したタイミングで教会軍がダンジョンにつながる道に素早く関門を設け、通ろうとする者に荷物を渡す。
「さあ、少しでもタカネノラ様のお役に立つのだ!
戦えない者でも、これを運んで徳を積むのだ!」
タカネノラのことしか考えられなくなっている群衆は、言われるがままにたくさんの物資を背負ってダンジョンへと駆けだした。
ダンジョンが深くなってたため余計に運ばなければならなかった荷物の山は、あっという間に消え去った。
戦える者はどうぞと用意されていた武器も、すぐになくなった。
「グフフ……さすがタカネノラ、これでセクハッラ家の穴埋めはできたわい!」
ガランとした会場で、インボウズは笑う。
タカネノラの歌に魅了された群衆は、命令しなくてもタカネノラが歌う限り働き、己を省みず戦うだろう。
そして、そうすることを選んだのは群衆自身である。
いくら使い潰そうが、教会には痛くもかゆくもない。それでも強化すれば、侮れぬ力になる。
これなら勝てる……インボウズは、これまでにない勝利の予感に酔いしれていた。
他のあらゆる心配も、今だけはインボウズの頭から吹っ飛んでいた。
泣いて真実を叫ぶから、ちゃんと成長したカサンドラちゃん。
それでこそ、持ち帰ったフェミニアのフェイクブレイカーがキーアイテムとして真価を発揮します。
何よりカサンドラには予想がつきました。何かで生きて帰る動機を与えないと、クッサヌ親父二人もフェミニアと同じように「屈さぬ!!」で無駄死にするであろうことが。
キーマンにちゃんと生きててもらう、これ大事。
そしていつも目立たない領主さんが、シノアを守りにきました。
これでインボウズがシノアを破門するハードルが上がり、領主配下のハゲツルヌスが公式にシノアを護衛できるようになります。
何も知らないし、知ったらカサンドラちゃんと同じような行動が目に見えているシノアを守るには、これが最善手であった。




