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100.悪ゆえに、団結

 記念すべき、100話!

 ユリエルがインボウズを追い詰め、ロドリコを味方にしたことは、どんな結果を招いたのか。


 カリヨンやユノたちは先を見据えて備えているが、その通りになるとは限らない。

 悪徳枢機卿ひしめく伏魔殿、そしてインボウズの陰謀力がなおも火を噴く!

 前回の枢機卿会議で明かされた、クリストファー卿が働ける条件と比べて、今の状況はどうなっていますか?

 ユリエルも、うまくいっていると思っている時が危ない。

 学園都市リストリアの邪気騒動は、教会側が正しく聖呪を行ったことを示したことで一旦下火になった。

 だが、根本的に解決した訳ではない。

 大聖堂の地下には今も邪気が溜まり続けており、このまま解決できなければ早晩また影響が出てくるだろう。

 だがそれを、ユリエルの親しい友たちは好機と考えていた。

「やったわ、これで領主様がインボウズを糾弾する下地ができた!

 後は民衆の支持が高いカリヨンに、領主様に応える形で罪を暴いてもらえば……」

 邪気騒動と枢機卿会議でインボウズの目がそれているうちに、カリヨン、ユノ、ミザトリアは膝を突き合わせて作戦を練っていた。

「インボウズもこれだけやらかせば、他の枢機卿に見放されるんじゃない?

 そこを、クリストファー卿に裁いてもらえば……」

「ユリエルもアノンも、元は何も悪いことなんかしてなかったのに。逆に理事長が破門されればいいのよ!

 そのための民意を盛り上げるなら、あたし、楽聖女として力を貸すわ」

 気がはやっているユノとミザトリアを、しかしカリヨンは冷静に制した。

「お待ちください、急いては事を仕損じます」

「何よ、ユリエルがこれ以上人を殺すのを黙って見てろっていうの!?」

「性急に動いて何事もうまくいくとは、限りません。

 わたくしとお父様が、他の枢機卿からどれほど警戒されているか分かっているのですか?下手に目をつけられて、二度と正せなくなったら意味がありません。

 わたくしを担ぎ上げる前に、それは重々考えていただきたいものです」

 カリヨンの警告に、ユノとミザトリアは悔しそうながらも口をつぐんだ。

 クリストファー卿とカリヨンの立場は、二人も知っている。清廉派だが、実際は他の悪徳枢機卿にそれを許され泳がされているだけ。

 見えるへまをやらかした者のとかげの尻尾切りや、枢機卿相手なら多数の利益になる場合しか、正義の執行はできない。

 たとえ民意が盛り上がっていても、多くの枢機卿を敵に回すのは危険なのだ。

「もちろんお父様も、それを承知の上で何とかなるよう動いてくれてはいますが……成功するかは分かりません。

 せめて、枢機卿会議の結果が出るまで様子を見ましょう」

「歯がゆいわね……でも、あたしにあなたの代わりは務まらないもの」

 カリヨンの慎重な意見に、ミザトリアは歯噛みした。

 だが、カリヨンの言うことは正しい。

 教会の上層部は、伏魔殿だ。クリストファー卿やカリヨンがそこで生き残るために、救える者だけでも救うために、どれだけ手を伸ばせる者を見殺しにしてきたか。

 三人にできることは、うまくいった場合の動きを考えつつも、それができる方向に転がるよう祈ることだった。


 枢機卿会議は、初っ端から荒れに荒れていた。

 ただし、袋叩きになったのはインボウズではない。

 前回欠席していた、ファットバーラ卿である。

「はあああ!?聖騎士を六人も失っただと!?

 しかも、裏切り!?有り得んわああぁ!!」

 通信の魔道具が音割れを起こすほどに、グンバッツ卿が吼える。その剣幕は、前回ブリブリアント卿に対してぶつけたのの比ではなかった。


 今回の枢機卿会議で最重要課題として挙がった問題、それはファットバーラ家における聖騎士の反逆である。

 虫けらのダンジョンに聖王母の桃を取りに行った聖騎士二人が、魔女ユリエルの純潔を知って戻って来た。

 そして、教会の方針に反し、その件でインボウズを断罪するようファットバーラ卿に進言したのだ。

 ……この程度なら、たまにあることだ。

 ファットバーラ卿は二人が教会によく従うよう、神器を使って再教育することにした。

 しかし、それが終わる前に、虫けらのダンジョンで逃げ遅れていたもう一人が戻ってきて牙をむいた。

 そいつは二人を助け出し、ファットバーラ家の年末の宴をめちゃくちゃにし、取り押さえようとした聖騎士たちのうちさらに三人を仲間にして逃走した。

 この騒ぎで、ファットバーラ家は一気に六人の聖騎士を失った。

 これで一時的に自宅から離れていたため、ファットバーラ卿は前回の枢機卿会議に参加できなかった。

 ファットバーラ卿はこの特大の不名誉を黙っているつもりだったのだが……そうはいかない事態になってしまった。

 反旗を翻したロドリコたちが、辺境の修道院と開拓村を乗っ取って、世直しと称して宣戦布告してきたのだ。

 察知した辺境の司祭は慌ててファットバーラ卿に連絡を取ろうとしたが、まだファットバーラ家が混乱していて対処できなかった。

 そのため教会軍の連絡網を通して、グンバッツ卿が察知することになった。

 ファットバーラ卿の面目丸つぶれの、大惨事である。


「貴様、聖騎士というものの価値と意義を知っておるのか!?

 聖騎士とは、教会の正義と秩序の体現者。聖騎士の確固たる信仰と忠誠あってこそ、教会の威信は保たれるのだ。

 それが……何という有様だ!!

 貴様には、飼い犬の管理もまともにできんのか!!」

 寝耳に水の凶報、しかもファットバーラ卿が当初隠そうとしていたことで、グンバッツ卿は怒り心頭だ。

 これには、他の枢機卿たちも厳しい目を向けていた。

「誠に、粗末では済まされませんぞ。

 一体、どういう教育を……ああ、反逆した六人は神学校で学んでもグンバッツ卿に師事してもいませんでしたな。

 そんな輩を聖騎士にするからですぞ!」

 ラ・シュッセ卿が驚き呆れながら、嫌味を言う。

 聖騎士は、必ず教会軍から選ばれる訳ではない。冒険者やハンター、国軍の猛者がスカウトされる場合もある。

 ファットバーラ家は特に、その割合が多い。

 ファットバーラ一族が食にこだわるため、ロドリコたちのような美食ハンター系の登用が多いのだ。

 だが、そういう者は当然ながら、教会への忠誠と信仰を叩きこまれている訳ではない。

 あくまで命じられた仕事をこなし、その代わりに神の恩恵に与るだけの傭兵。

 今回、もろにそれが仇となった。

「貴様はそもそもオトシイレール卿のせいだと言うがな、この程度の不正バレはこれまでも腐るほどあったんだよ。

 だが、聖騎士たちの鉄の忠誠により体制は守り通されてきた。

 それがこのザマ、どう落とし前つけるつもりだ!?

 俺の名誉にまで関わるだろうが!!」

 たとえ反逆した聖騎士がグンバッツ卿と関係なくても、聖騎士の長はグンバッツ卿だ。とんだとばっちりである。

 それに、教会全体の動揺も小さくない。

「見習い聖女ならともかく、現役の聖騎士がこれだけ反逆すると、さすがに穏やかではないな。

 しかも最初に反逆した三人は、そこそこ有名だったはず。

 そのせいで、奴らに味方する者があんなに出たんじゃないのか!?」

 ブリブリアント卿が、忌々し気に指摘した。

 問題は聖騎士だけはない。反逆したロドリコたちに従う、戦い慣れた兵が数十はいるのだ。

 一体どこから出て来たのかと、枢機卿たちは首を傾げた。

 だが、ロドリコたちは美食界隈で熱狂的なファンを持つスターの一面があった。その層の一部が引きずられたと考えれば、説明がつく数ではある。

 元々美食界隈は、より美味しくする技術の継承などで職人ギルドのように上下の結びつきが強い。

 ロドリコたちと対峙して寝返った三人も、同じく元美食やハンター界隈出身だ。

 つまり……ファットバーラ家においては、芋ヅル式にさらなる裏切りの恐れがある。

 そのうえロドリコたちは民に人気があったため、こいつが扇動するとその影響はユリエルの比ではない。

 たとえ破門されても、聖職に就く前から人気者だったのだ。

「全く……だから信仰の足りぬ者を聖騎士にするのは反対だったのだ。

 即戦力とはいえ、即堕ちされたら意味がない!

 せめて聖騎士として働かせる前に、俺んとこに投げて教育させてくれれば良かったものを」

「さよう、これはおまえが招いたこと。

 当たり前の特権を当たり前に振るえる体制に、よくもひびを入れてくれたな!!」

 これを放置したら、自分たちの特権生活が危ない。

 悪徳枢機卿たちの危機感は、これまでになく高まっている。

 責められているファットバーラ卿は、どうしていいか分からなかった。

 美味い餌の情報と分け前を与えておけば、簡単に動いて民の人気取りまでやってくれる優秀な奴らだと思っていたのに、まさかこんな事になるとは。

 今まであぐらをかいてきたファットバーラ家にとっては、足下の地面が抜けたような大惨事だ。

 ……これも、ファットバーラ一族が美食ハンターたちのことを都合のいい使い走りとしか考えず、理解しようとしなかったのが悪いのだが。

 身分の低い聖女たちを好き放題陥れるインボウズと、同じだ。

 悪徳枢機卿たちは皆、同じような火種を抱えているのだ。

 しかしうまくいっているうちは皆それが問題だと思わず、問題を起こした奴を嘲笑い罵倒するのだ。


 ……だが、この件はファットバーラ卿を叩くだけに終わらなかった。

「さてと、ファットバーラ卿にはしっかり償わせるとして……奴らの鎮圧には、教会の力を結集して当たらねばなるまいな。

 奴らを神敵と認定し、公式に討伐の号令をかけねば!」

 グンバッツ卿が、剣呑な目をして提案する。

 それに、クリストファー卿以外の全員がうなずいた。

 ロドリコたちのことは、教会の信用と自分たちの安泰を脅かす。大事なそれらが傷つく前に、力を合わせて退治しなければ。

 特権の危機を前に、悪徳枢機卿たちの心はそれで一つになった。

(くっ……悪い流れになってしまった!

 これでは、抵抗がますます困難になる)

 クリストファー卿は、苦々しい顔でその様を見つめていた。

 強い大駒を動かして抵抗するのは、心強いし意気上がる。しかしそれで、倒すべき敵を結束させてしまっては逆効果だ。

(やれやれ、ユリエルは強い味方を得て大喜びしただろうが、君を救うための私の作戦はひっくり返ってしまった。

 ロドリコの件がなければ、グンバッツ卿は私と組んでインボウズ排除に応じてくれそうだったのだが……。

 話題もあいつの関心も、かっさらわれてしまったよ)

 クリストファー卿は、静かに肩を落とした。

 悪徳枢機卿共は、自分の利益を守るのに執心だ。だから奴ら同士の利害が対立する案件なら、割り込んで一方を成敗することができる。

 だが、身内以外の明確な強敵により全員の権益が脅かされた場合は、そうではない。

 その場合、悪徳枢機卿たちは教会と言う稼ぎ場を守るため団結してしまう。

 魔王軍の脅威などはそのいい例だし、今回はロドリコたちが派手に敵に回ったことでそうなってしまった。

(インボウズの聖呪失敗の件だけであれば、明らかにインボウズが教会を害しているからこうはならなかったんだが。

 これでは、インボウズを切り捨てることができない。

 それどころか、ユリエルも……!)

 クリストファー卿が唇を噛んで見守る中、事態はさらに悪い方へ転がる。


「おお、僕は賛成するぞ!

 ついでにユリエルのことも、神敵認定して皆で討伐してくれるならな」

 インボウズがこれ幸いと、ユリエルのこともねじ込んでくる。

「ロドリコたちが裏切ったのも、ユリエルのせいじゃ。あいつのことがなければ、こんな事は起きなかった。

 ゆえにユリエルは、邪淫で聖騎士を堕とした神敵!

 それなら、堂々と血の供給を絶てるじゃろう?」

「あー……そういうこと」

 ナース卿が、呆れ半分感心半分で呟いた。

 インボウズは、ロドリコたちが寝返ったのを逆手に取って、堂々とユリエル討伐に全力を向ける理由を作ったのだ。

 ユリエルが聖血をばらまいて各地の魔族が強化されることは、他の枢機卿たちも忌々しく思っていた。

 しかしユリエルが原因と認めると、ユリエルの純潔を認めることになるため、討伐に全力を向けられなかったのだ。

 そこに、別の適当な理由ができた。

 聖騎士を惑わして堕とすような大罪なら、公然とユリエルを討伐できる。

 内心ユリエルを消したくて仕方なかった他の悪徳枢機卿たちは、まっしぐらにそれにとびついた。

「フホホホッ!さすがオトシイレール卿、切れていらっしゃる!

 確かに、それなら公式に軍を動かす言い訳が立ちます。

 ファットバーラ卿の失態を利用して、そのように他の害まで片付けて自分の便所紙に変えるとは。

 貴公もなかなかくたばりませんな!」

 ラ・シュッセ卿が痛快そうに笑った。

 実際、これは悪徳枢機卿たちにとって喜劇だ。

 ユリエルが強者に助けを求め、それが成功したことでかえって教会全体を敵に回し討伐理由を作ってしまうとは。

 小生意気に抵抗していた小娘が大成功と信じて墓穴を掘る様は、陥れた側からすれば愉快で仕方ない。

 結局どう足掻いても、自分たちに逆らえば助からないのだと。

「……すると、聖呪はどうするのだ?

 力ずくの討伐では、結局おまえのしたことは無力だったことになる。人々を無駄に困窮させたことは挽回できんよ。

 儂にいくつかの領の収入をよこせば、かばってやらんでもないが?」

 それでも解決しない聖呪のことを、前回やりこめられたブリブリアント卿が嫌味っぽく突っ込む。

 しかしインボウズは、それにもおぞましい妙案で応じた。

「力ずくの討伐ついでに、対象条件を満たさせればいいんじゃ。

 ついでに、その理由付けのためにこれこれこういう免罪符を……力を貸すなら、その儲けくらいはくれてやる!」

 インボウズの顔は、これがこの世の人間かと疑うほどに邪悪に歪んでいた。

 そのあまりなやり方に、他の悪徳枢機卿たちは感嘆の息を漏らし、クリストファー卿は吐き気を催した。

「……どのみち、来年度はブリブリアント卿の娘が最高学年ですな。

 学園の理事長は、ブリブリアント卿となります。

 オトシイレール卿も負け越しにしたくなければ、お二人で憎き小娘を処分できるまで頑張ってくだされよ!」

 ラ・シュッセ卿が面白そうに言い放った。

 インボウズとブリブリアント卿は、鋭い視線を交わした。

 二人はこれまでも政敵として対立し、元々仲は良くないが、今ユリエル憎しという気持ちだけは同じだ。

 二人とも、いつもなら取るに足らない破門聖女のせいで大恥のうえ大損だ。自分たちのような高貴な者をこんな目に遭わせた小娘は、力を合わせて地獄に叩きこんでやる。

 グンバッツ卿とアブラギッタも少なからず同じ気持ちを抱き、ラ・シュッセ卿はこの流れを心底楽しんでいた。

 ……もはや、まともに憂うのはクリストファー卿だけだった。

(しかし、こいつらは表面上の利益で手を取り合っているに過ぎない。

 ユリエルとロドリコが粘ってインボウズの信用が足を引っ張るにつれ、また仲間割れを起こす可能性は高い。

 それに、どうも彼女は……)

 クリストファー卿は希望を失わないよう努めながら、ナース卿の方を見た。

 ナース卿のらんらんと輝く目は、仲間の悪徳枢機卿たちに向けられていた。

「うふふふ……イイもの見たわぁ!

 弱者の悲鳴もいいけど、自分は絶対大丈夫って思ってるヤツほどいい反応するのよね。滅多に見れないし、眼福~!

 魔女とやら、せいぜい足掻いてあたしを楽しませてよ」

 ナース卿は、普段ふんぞり返っている他の枢機卿が弱っている姿に、今までにない愉悦を覚えている。

 悪趣味だが、今手を組めそうなのはこいつくらいか。

(……にしても、しばらく表立って他の枢機卿を排除するのは無理か。

 せめて全面戦争の中で、奴らに従って甘い汁を吸っている者を削る努力をしよう。

 ユリエルにもカリヨンにも、苦しい思いをさせるが……それに耐えられず暴発するようでは、ここでは良心を守れんのだよ!)

 これでユリエルがどれだけ裏切られた気持ちになるかは、分かっているつもりだ。

 場合によってはその怒りで、自分も教会もろとも刈り取られる日が来るかもしれない。

 だが、クリストファー卿の覚悟はとうに決まっている。

 どんな汚濁の中にあっても清き心だけは失わず、枢機卿の地位を維持し続け、救えるところだけでも救う。

(それに、インボウズだけ排除したとて、他が半分以上健在では教会の体質そのものは変わるまい。

 ユリエルよ、その先を望むならば……これは通らねばならない道と理解し、君もまた次の時代の礎たれ)

 上から目線かもしれないが、クリストファー卿はそう戒めた。

 そして、これから起こる戦いの最後までともに立っていようと、心ある同志たちに心で呼びかけた。



 ロドリコたちは、辺境の修道院と開拓村を拠点として戦いに備えていた。

「巻き込んじまってごめんな、みんな。

 けど、必ず俺たちが世の中を良くしてみせるぜ!

 とりあえず、俺たちがいる限りもうひもじい思いはさせねえから!」

 ここは、ロドリコたちが時々食糧を分け与えに来ていた修道院だ。ここに勤める聖職者も村人も孤児院の子供たちも、皆ロドリコの顔見知りだ。

 ロドリコたちが事情を話すと、彼らはすんなり受け入れた。

 いや、一番大きかったのは、ロドリコたちがここを飢えさせないと約束したことだ。

「そうですか……あなた方は本当に、恩を着せるためではなく良心で行動していたのですね。

 そんなあなた方に守ってもらえるなら、歓迎いたします」

「ああ、どうせファットバーラ様に従ったって、暮らしは良くならねえ。

 なら、腹いっぱい食わせてくれたあんたらについていくぜ!」

 痩せこけた人々は、口々にそう言った。

 聞けば、ファットバーラ家はロドリコたちが善意で食材を分け与えたのを教会からの支出と算定し、それを受けた村からその分重税を取り立てていたという。

 結果、ロドリコたちが恵めば恵むほどその村は困窮した。

 しかしファットバーラ家は厳しく口封じをし、もし訴えたら食糧を全て奪うと脅していたため、ロドリコたちは気づかなかった。

 それに村人たちも、事情を知らない子供たちがロドリコたちの恵みを本当に幸せそうに味わうのを見て、言い出せなかったという。

 この事情を知って、ロドリコたちは愕然とした。

「そんな……俺たちは、そんな風に使われてたのか!

 俺たちはただ、いろんな人に幸せになってほしかったのに!」

 もうこんなことは終わらせなくては。それが、ロドリコたちと受け入れた者たちの何よりの願いだ。

 ロドリコたちは美食のことしか考えていなかった己を恥じ、改めてファットバーラ家と決別した。

 そして、今の教会に真正面から果たし状を叩きつけた。

「これから、ちっと騒がしくなるかもしれねえが、勘弁してくれ。

 あと、周りから何言われても、折れるんじゃねえぞ。

 俺たちは、教会と神をブッ壊したい訳じゃねえ。そこがきちんと人の幸せのために働くように、直してえだけなんだ!

 攻めてくる奴らに言ってやれ、本当の教会の敵はどっちだってな!」

 ロドリコたちは、ここから世の中を直すと決めた。

 そして手始めに、森や畑を荒らす魔物を一掃し、それをココスの技術で美味しく処理して、アンサニーとアンリンに保存させて当面の食糧を確保した。

 さらに従っている冒険者たちに手伝わせて、畑やボロボロになった建物を直させた。

 これだけでも、村人たちは大歓喜だ。

 こんなこと、教会はいくら訴えてもやってくれなかったのだから。むしろ、やってほしければもっと食糧を差し出せと鞭打つばかりだった。

「……この違いを広めたら、こっちにつく村はもっと出るだろうぜ」

「ああ、だが勢力を広げすぎても守り切れなくなる。

 ここは小規模な援助と引き換えに、こっちのスパイを増やしてだな……」

 いくら教会上層部が偉ぶって命令を下しても、これまで苦しめられてきた人々の心は変えられない。

 ロドリコたちもまた、確実に悪を削る作戦を始めていた。

 それを目を見開いて眺める、小ぎれいな身なりの少年がいた。

「なるほど、これが本当に人を治めるやり方か」

 今はこの新しい勢力の事務仕事に忙殺されるこの少年こそ、死んだことにして実家から去り身を隠しているプライドンだ。

 プライドンは、新しい世の中を支える統治者となるために、ここで貧民の中で学ぶ事にした。

 そしていつか明るい世の中で一家で笑い合えたらと、これからの戦いに希望を灯した。

 ロドリコたちの派手な離反が、かえって状況を悪化させてしまいました。

 カリヨンとクリストファー卿はどのような局面で悪徳枢機卿がどう動くか分かっていますが、政治に関わったことがないしそんな奴らの思考を考えたこともないユリエルやロドリコには予想は無理だったよ!

 強い味方を得てヤッター!!のつもりが……なんてこった!


 インボウズは、敵失を自分の利益に変える陰謀の天才です。

 これまでユリエルには邪淫で破門されたことへの抵抗以外に大して責められる罪がなかったのに、それ以外の分かりやすい罪にできる状況ができてしまうと……というお話しでした。


 プライドンの隠し場所というのは、ロドリコたちの勢力でした。

 これでセッセイン家は、長男が実家、長女のミエハリスが虫けらのダンジョン、二男のプライドンがロドリコ村となり、どこが勝っても生き延びる体制になりました。

 古来より、賢く立ち回る家は大戦の際にこうして生存を図るものです。

 関ケ原~大阪の陣における真田家スタイルですね。


 連休なので、6日にもう一回投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
う~ん、胸糞だが納得。マジもんの腐敗者トップ達は、こう言うことする。 記念すべき100話目を、この内容にする辺り作者さんの力の入れ具合が知れますな。 プライドンの胸にはミツメルの魔眼が植わってるだろ…
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