解決は思い出の中に
櫻子の話を聞き終えると、理奈は唸る。
櫻子の話だけでは真意を読み解くのは苦しいというのが理奈の正直な意見だった。結局は「一見浮気にも見える現場」を見かけたという事に過ぎない。そもそもにして、理奈はその彼女の事を知らない。人間性から判断する事さえ叶わないのだ。
「その子って、飽きっぽい性格かしら?」
「ううん、広く、深くかな。ピアノなんてプロ並みだし。親に言われてあれこれ習い事やってるみたいだけど、真剣に取り組んでるみたいだよ?」
「……なるほど、ね……」
飽きてすぐ捨てるタイプではなさそうではある。そういうタイプというのは、恋愛、対人関係でも得てしてそうである。櫻子からの意見でしかないが、ないよりマシだった。少なくとも、例え浮気だったとしても何かしらの理由があるのだろう。
「一言で言うと、良い子だよ。優等生って言うのかな、人を大事にして大事にされるタイプ。困ってる人が居たらつい助けに行っちゃうね」
「アハハ、なんだか、お姉ぇちゃんみたい」
華波が笑いながら言う。結局厄介事に首を突っ込みまくってる分、あまり否定はできない。しかし、自分に似ているというのならば、自分を尺度に測れないだろうか。
「……」
仮に、自分が華波に嘘をついてまで隠して誰かと会うのはどんなケースだろうか。後ろめたい事は、多分しない。それは必ず華波のために起因するもののハズだ。
「って、別に付き合ってないし」
根本的な部分に行きあたるが、それは仮説として流す事にしよう。華波は理解していないようで、首を傾げている。
「……少なくとも、やっぱり私なら浮気という事はないわ。それは筋が通っていないもの。……そう、たとえば、幼馴染とか、親友と呼べるような相手となら、恋人と同じくらい親密でもおかしくないんじゃないかしら。
けれど、ショッピングモールで、何をしていたのかしらね。デートを断る程の何かがあるとは思えないわ。普通に友達優先したならそういえば良いし……」
「っていうか、櫻子が溺愛、過保護過ぎるんじゃない? 結構ストーカー気質っていうか、束縛家だよね」
「そ、そんな事ないでしょ!? 普通でしょ!?」
「えー? そーかなー?」
櫻子の過去の行動の数々を思いだすだけでも、華波はやや抵抗を示している。理奈はそこに、若干の興味を覚える。
「そうなのかしら? 私、あまりそのあたりの話聞いた事ないのだけれど」
「結構重症だよー?」
「そんな事ないって! メールとか、着信履歴とかSNSを確認したりとか、スケジュール確認とか! ペアのストラップとか、アクセとか普通だって! おはようからおやすみまで連絡するのも!」
「……」
「あれ?」
理奈のやや引き気味の顔を見て櫻子は少し自信を無くす。
「あたし、昔彼氏と同じ靴下とかってのも聞いた事あるけど?」
「……櫻子」
「え、ええぇっ!? お姉ぇちゃん!? 何かな!? その白い、汚物を見る目は!?」
「あなた異常よ?」
「異常じゃないって! これ正常だよッ!」
「今まで彼女に何を要求してきたのかしら?」
「や、要求っていうか? どこかでかける時は無事着いた事を写メつきで送付してもらったりとかそれくらいだよ。それ以外は特に……」
「返信5分以内とかって頼んでないの?」
「や、そこはね。授業もあるし10分以内だよ」
「「それがおかしい」」
理奈と華波が口をそろえて言うと、さすがの櫻子もショックを受けたようだった。肩を落としてうなだれる姿は、泥試合最中のボクサーのようだ。
「それは確かに、習い事と嘘をつきたくなる理由もちょっと解るわ」
「お姉ぇちゃん!?」
「私だって華波にそこまで要求されたら嫌よ。私がその立場なら、習い事中で返信できませんって言うわよ」
櫻子に同情の余地なし、と判断した理奈が手を振る。華波もあまりにもバッサリ切り捨てるものだから苦笑いだ。
「……あら?」
そういえば、前に似たようなシチュエーションがあったような気がする。いつだったか。わりと、最近、ここ半年くらいの。
「ああ、そういう事ね」
理奈は独りで合点がいった。なんだ、そういう事か。肩透かしというか、本当にそれだけか。
「え、どういう事?」
「二人とも、相思相愛のバカップルって事」
理奈がボソボソと華波に耳打ちをすると、華波は眉をしかめる。
「え~? けど、別に」
「シーッ、多分間違いないわ。……ねぇ、櫻子、あなた、結構その子に贈り物してるのよね?」
「え、してるけど……そんなにしてないよ? ……ハッ!? それがなにか不味かったのかな!?」
「不味くはないわ。……けど、それが今回の事に繋がったとも言うわね~
「あー、なるほど。確かに、話聞いてたらぴったりかも」
「でしょ?」
「な、なになに!? 二人ばっかり合点いかないで!? 教えてヘルプ!!」
置いてきぼりを食らった櫻子が、食いついて来るが、二人はニヤニヤと笑うばかり。
「さぁ? とりあえず浮気じゃないと思うから、ゆっくり待ってたら?」
「お、お姉ぇちゃんーー!!」
見捨てられたような形になり、櫻子が絶叫を上げた。




