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休み時間ー遊園地で幽宴

謎解きというほどのものはありません

というよりも、著者が謎解きとして認めていないので、謎解きではありません

これを謎解きにすると、なんでもありの反則になってしまうので、ジョークだと思って気軽に読んで下さい

 遊園地、それは誰しもに幸福と夢を与える空間。雑然とした人波の奔流に、流されながらも固まる、それもまた人波の一端である五人組。理奈に華波、けー、和乃、櫻子だ。彼女達ははぐれないように互いに注意しながら歩く。もっとも、そんな集団行動なんか一切気にしないのも一人混ざってる訳だが。

「お姉ぇちゃん、お姉ぇちゃん! 次あそこ! あそこ行こ!!」

「ま、待ちなさい、華波!」

 必死に華波をホールドする理奈だが、遊園地という場所での華波のパワーはもの凄いもので、もはや理奈をぶら下げながらズンズンと前に進んでいこうとする程だった。周りの人がクスクスと笑ってる様に、理奈も思わず赤面してしまう。端から見れば、自分も興奮して華波にぶら下がってるようにしか見えない事は重々承知していたが、それでも華波の暴走を防がなくては、という責任感が先攻してしまう。そんな様に、露骨なため息をつくのはけーだ。トラブルはごめんなんだがな、とぼやくと、人ごみで身動きすらも取り辛い状況で、器用に踏み込み、跳躍する。

「華波、悪く思うんじゃねェ!」

「ちょっ!? けー!?」

 けーが華波の後頭部に手刀を入れる。それはもう見事に乱暴な一撃で、華波の意識を奪う。結果、何事かと騒がれ、警備員すら呼ばれる始末になってしまった。けーは厳重注意を食らってしょぼくれる。いくら状況が状況だったとはいえ、この遊園地という空間では、暴力なんて御法度中の御法度だ。最初は警備員が三人、けーの事を押さえつけていた。敏感すぎねェ? と少し不審に思う程だ。

「けどよー、ああでもして一度落ち着かせねェと、アイツ迷子だったぜ? あの年で」

「君の言い分は解るけどね、暴力はいけない事だ。もし取り返しのつかない後遺症なんかが残ったら、どう責任とるつもりなんだい? 迷惑するのは、君だけじゃないだろう?」

「そんくれェの加減くらい解ってんよ? 悪かったのは認めるからよ、あんま口うるさく言わねェでくれよ?」

「けー、悪いのはあなた。言い訳はしない」

「うげー、理奈までかよー?」

「当たり前でしょ」

 しょぼくれるけーに節度を持って、あまりはしゃぎすぎないように、と釘をさして警備員は立ち去る。一方の華波は、頭を押さえている。その様に少しバツが悪くなったけーは、やりすぎたか、と頭をかいて華波の顔を覗き込む。

「おーい、華波ィー? 大丈夫かよー? 悪かったなー、ブン殴ってよー」

「……」

 華波は静かに首を横に振るだけだ。機嫌が悪いというより、どこか上の空だ。記憶障害でも起こしているのかもしれない、と理奈は本気で心配する。

「けーが強く叩くからー」

 深いため息をつく。こんな事なら、初めから華波にGPSでもつけて野放しにしとけば良かったのだ。

「華波、大丈夫? なんでここにいるか覚えているかしら?」

「……」

 フルフルとやはり横に首を振るばかりだ。理奈がジトッとけーを睨む。櫻子と和乃は苦笑しか出来ない。

「けーがメンバーからチケット貰って来たのは覚えているかしら?」

「……」

 静かに縦に首を振る。

「けーが遅刻して来た事は?」

 首肯。

「あなたがはしゃぎまくってけーがそれを止める為に首を叩いたのは?」

 首肯。

「で、今起きた。大丈夫?」

「……うん、大丈夫だよ」

「華ー波ー、まーだ痛いのー? いつもならお姉ぇちゃん痛いよーとかって抱きつくのにさー」

「そうよね。意外と重症なの? 大丈夫? 帰る?」

 櫻子と和乃まで心配そうに覗き込む。けーはバツが悪すぎて少し離れた所でしゃがみ込んでいる。華波はボーッ、とその光景を眺めていたが、やがてニッコリと穏やかな笑顔を浮かべる。いつものひまわりのような天真爛漫な笑顔ではなく、日だまりにいるような笑顔だ。もっとも、その違いに気付いたのは、理奈くらいで、和乃と櫻子はホッと胸を撫で下ろしている。

「大丈夫だよ。皆、ごめんね?」

「……華波、あなた本当に大丈夫かしら?」

「大丈夫だよ、『お姉ぇちゃん』」

 その呼び方に違和感を覚えたのも、理奈だけだった。だが、殴られてまだ完璧に本調子ではないだけだろう、と片付ける。

「けー、ほら、謝って」

「悪ィな、華波」

 突然水を向けられたけーも、苦い顔をするばかりだ。華波はニコッと微笑む。

「……ん?」

 けーも、そこで違和感を覚える。

「待たせちゃってごめんね。時間ももったいないし、行こうよ」

 そう言って華波が立ち上がる。櫻子と和乃が両側からはさみ込み、これ以上はないだろうが、念の為に暴走に備える。

「……理奈ァ、殴った俺が言うのもなんだけどよ……」

「……なにか、違和感を覚えるわね」

「……ああ」

「やり過ぎなのよ、けーは。殴られて、元気がなくなっちゃったんでしょう」

 理奈にそう言われて、けーは何も返せなかった。

 もちろん、理奈もそれだけが理由だとは考えていない。いくらけーとはいえ、全力で殴る様な事はしなかっただろうし、むしろ加減に関しては充分に配慮が足りていたはずだ。華波の体力を考慮しなくても、ここまで元気がないのには違和感を覚える。もとより体力が取り柄みたいなところがあったのだ。それなのに、ここまで引きずるだろうか。まるで、別人のように静かだ。

「……反省、したのかしら?」

 けーが殴らなければ、確かに事態は解決しなかっただろう。自分と華波の二人で迷子になって、三人にさらに迷惑をかける事になっていたに違いない。だが、遊園地という場所を考えるならばある程度の、迷子等と言ったトラブルは仕方ないと理奈は思っていた。そこに、華波が反省する要素は、あまりないとすら思う。

 あちらこちらのアトラクションを遊んで回りながら、理奈はずっと華波の観察をしていた。華波は、特に自分には寄って来ず、けーの側にいる。それも、違和感を助長する。華波ならば、自分に鬱陶しいくらいつきまとうはずだ。それこそ、けーが殴る直前のように、自分の制止も聞かずに。

「……どうしたものかしらね」

 華波が構って来ない事に、少しの寂しさを覚えてしまうのは。いつも隣にいるのが当たり前だったからか。それを違和感と呼んで、自分を誤摩化しているだけなのかもしれない。

「楽しもう。普通に」

 理奈は少し顔をほころばせて櫻子に抱きつく事にした。

「櫻子、最近どうなのかしら? 彼女が出来たんでしょ?」

「おお、お姉ぇちゃんからその話を振って来てくれるとはねー。もう順調だよ。女同士、気兼ねないしー?」

「そういえば、私も詳しい事聞いてないか。ねぇ、櫻子? 可愛らしい娘だったよね、どこで知り合ったの?」

「おうおう、和乃んまで乗ってくるなーんてねー。電車内でー、痴漢を撃退してあげたんだよー」

 きゃっきゃっと三人は楽しそうに櫻子の彼女に付いてで盛り上がる。けーは華波が自分にべったりなのを、殴った事を気にしないアピールだと捉えて接する。最近はもっぱら、理奈とばっかり自分が接していた事を思い出して、華波と遊ぶ事を選択する。元々幼馴染みで、理奈と同じくらいずっと一緒にいた、昔を思い出す。

「懐かしいなー、華波ィー? 昔、理奈ん親に連れられて、三人で遊んだよなー、孝之も一緒によー?」

「そう、だったね。懐かしい」

「オメー、あん頃からジェットコースターとか好きだったよな。理奈は苦手だったけど。アイツァお化け屋敷とかそーいうんには滅法強かったけどな」

「けーは?」

「あ? 俺ァ、特に苦手なもんねェなー……。強いて言えば、メリーゴーランドとか、ゆっくり回ってる奴とか、何が楽しいのかさっぱり解らねェ上に恥ずかしいから嫌だけどな」

「じゃぁさ、二人であれ、行かない?」

 言って華波が指差すのは『ハンティングホラー』という、最近出来たばかりのお化け屋敷だ。けーの額に、冷や汗が流れるのを、華波は気付かない。

「……お化け、屋敷か? オメェ、苦手だったくせに、ナマ言ってくれんよなァー?」

 ハハハ、と笑いながらけーが華波の事を小突く。けーは少し視線を泳がせてから、前方を歩く三人に声をかける。

「おうっ、理奈ァ? 華波がお化け屋敷入りてェってよ?」

「……華波、けーに対する仕返し?」

「え、けーってお化け屋敷とか、ダメなの?」

「いっがーい」

「昔ん話だッ!? お化け屋敷くれェどうって事ねェってんだよ!? 上等よ、上等!!」

 ギュッと拳を握りながら怒鳴る様を見た三人が笑う。けーは自分の弱点を知られた恥ずかしさで赤くなると、その笑いから逃れるように華波の手を取る。

「おうっ、俺等ァ行くかんなッ!?」

「いってらっしゃい、私たちは三人で行かせてもらうわ」

「……チッ」

 理奈の言葉に悔しそうに舌打ちしながら、華波の手を引いて中に入っていく。

 無論、中は薄暗い。入り口の光が見えなくなってから、けーはため息をつく。どーしてこうなっちまった、と後悔の念でいっぱいだ。

「華波、手ェ放すんじゃねェぞ?」

「本当に、苦手だったの?」

「昔ん話だっつってんだろッ!? テメェだって苦手だったクセにナマ言ってんじゃねェよ!? はぐれたら困っから言ってんだ!?」

 そんなけーに笑いながら、華波は指まで絡めた、カップル繋ぎをして来る。けーは馬鹿にされてる、と思い、ワナワナと震える。

「オラァッ! 行くぞ、おう! 『ハンティングホラー』上等!」

 ズカズカと華波の手を引いて歩き出す。身を屈めて、周囲を睨みつけながら歩く。だが、

 バンバンッ!

「うおっ!?」

 すぐ横からした叩くような音に、驚き後ずさる。一歩後ろを歩いていた華波がクスクスと笑っている。

「ンだよ!? 来んなら正面から来やがれッ!?」

 壁を殴ろうとするが、自粛する。ここで殴っても意味がない事は、よく解っている。クソッ、と華波に笑われた事、驚いてしまった自分に悪態をつきながら、角を曲がる。

「ンバァアァァッッ!」

「うおぉぉぉぉおおぉぉぉッッ!?」

「うわっ!?」

 今度は、けーの言ったとおりに正面からミイラ男が脅かしにかかる。けーの驚きよう、そして睨む目に、逆にミイラ男が驚いて後ずさってしまう程だった。

「ハァッ、ハァッ! アブねぇ、殴っちまうとこだった」

 ふぅっ、と余裕そうにため息をつく。奇襲なんて日常茶飯事であったが、驚かされる、という行為に変わるだけで、それがこんなに心臓に悪いものだとは、思いもしなかった。

「アハハ、けー、いつまでくっついてるの?」

「あん?」

 華波の声で初めて気付いた。自分が、華波に抱きついていた事に。

「ああ、悪ィ悪ィ、驚いちまって、ついな」

「可愛い」

 そう言って笑う華波。なんでオメェは余裕そうなんだよ!? けーは心底理解できず、心の中で叫ぶ。昔は、二人で驚いては理奈に抱きついていたというのに、華波はまったく動じていなかった。

 その後も、けーは驚かされる度に大きな声で驚き、制覇するまでには、かなりの時間を必要とした。脅かし甲斐のある、小さなヤンキーが来たと、スタッフ内での伝達があり、後半の脅かしは、熾烈を極めたのだが、それは二人の知らない所であった。

「……」

 ベンチで意気消沈とするけー。三人はその様をみて笑う。

「アッハッハ! けー、大丈ー夫なんじゃなかったっけー?」

「お化け屋敷ってそんなに疲れるかしら?」

「けーって、意外と可愛いんだね」

「う、うるせ、えェ」

 けーはスタンド灰皿にもたれるように、タバコを吸う。今日は吸わないと決めていたのだが、限界だった。タバコで、気分転換でもしないと、やっていられない。

「けー、ごめんね?」

 華波が、缶コーヒーを差し出す。けーはそれを無言で受け取って、プルタブを引こうとして、気付く。

「あん? 華波、これ」

「なに?」

 いつも、飲んでいる銘柄と違うものだった。たまに華波とでかける事もあった。理奈も居ない事だし、近くに喫茶店のない時は、いつも缶コーヒーで二人はすませていた。だが、その時けーはいつも一貫して同じ缶コーヒーで、華波もそれを覚えて買って来てくれたりもした。なかったんかな? けーはその結論に達して、なんでもねェと言っていつもとは違う缶コーヒーを飲む。

 いつもと違うコーヒーは、奇妙な味がした。

「けー、次、あれ乗ろうよ」

「ああ~? ……って、観覧車だァ~?」

 華波の指差したのは、観覧車だった。確かに、調べたらここの目玉だった。だが、華波は観覧車とかよりも、ジェットコースターとかに乗ると思ってたけーは、呆気に取られる。すると、華波が悪戯した子供のように笑う。

「まさか、高所恐怖症とか?」

「んなわけねェだろ。理奈ァ、華波と観覧車乗ってくっけど、どーするよ?」

「じゃぁ、私たちも乗りましょうか」

 観覧車のピーク時間よりも少し早かった為に、観覧車にはすぐに乗れた。だが上限四人のそれに、五人一緒には乗れない。今までの流れに従って、けーと華波、理奈と和乃、櫻子の二組に別れる事となった。

 次第に上がっていく景色。けーはこんなんのどこが面白いんだ? と景色を眺めながら思う。それこそ、高い建物にでも登れば、もっとゆっくり見てられる。ロマンを味わう、というのが、どうもけーには理解出来ないでいた。

「けー、景色、綺麗だね」

「ああ、そうだな」

「楽しかったね、お化け屋敷」

「……もう、ごめんだ」

「上等なんじゃなかったの?」

「……うるせェよ?」

「けー」

「んだよ」

 不意に、華波が隣に腰掛けて来た。そのまま、身体を預けられる。

「私、けーの事好きだよ?」

「んだよ、殴られた事、根に持ってんかよ?」

「ううん、違うよ。殴られたのは、私じゃないから」

「…………。……は?」

 ヤバい、どうしよう。今日はおかしいと思ってたが、ひょっとしたら、取り返しのつかない一撃を与えてしまったのでは? けーは一気に血の気が引くのが解る。

「私は、華波さんじゃないの」

「おい、華波。しっかりしろ。打ち所悪かったか? 病院に行く様な事態はごめんだぜ?」

「けー、私の話、聞いて?」

 ……私? 些細な違いだろう。だが、けーは華波の口から、そんな言葉、聞いた覚えがない。悪戯かと、ため息をつく。

「へーへー。なんだよ?」

「昔、ここで事故あったの、知っている?」

「……ああ」

 確か、事前に色々調べていくうちに、そういうのも見つけた。確か、デート中の女子高生が、アトラクションで事故死した、という話だった。けーは華波の魂胆を見抜いてははん、と内心で笑う。それで俺を怖がらせようってっか? と話のオチに期待する。

「私ね、ずっと夢だったの。遊園地で、誰かと遊ぶ事。ずっと、病院にいたから。それで、無理を言って、友達と来たんだけど、事故で死んじゃったの。神様って、不平等だと思わない? やっと夢が叶ったと思ったのに、来てすぐに事故で死んじゃったの」

 ほーら、来た、とけーは外を見ながら笑う。馬鹿のオメェの考えなんて、見え見えだとせせら笑う。

「だから、今日、この娘の身体借りて遊べて、凄く満足出来たの。この娘に謝っておいて欲しいの。この娘の楽しみ取っちゃって、ごめんねって」

「あーそー。んで? 話のオチは?」

 ニヤッと笑いながら、振り返ってみせる。話のオチは見え見えだ、と言おうとした矢先、

「……んっ」

「……へ?」

 キスをされた。この間、夏樹にキスはした。だが、あれは頬に軽くだった。だが、今、華波のしているキスは、唇と、唇。あれ? 俺、なにされてんの? けーの思考は完全に停止していた。その疑問だけが、頭の中でぐるぐると回っている。

 目紛しい疑問で頭の中がいっぱいになる。

「私、けーの事好き。男らしいところとか、お化け屋敷で怖がったりして、可愛らしいところとか。もっともっと、けーの事知りたい。だけど、ダメなの。もう、帰らないとね。この娘に、悪いし。だから、さよなら」

 そう言って、華波が目を閉じると、再びけーに身体を預ける。いや、倒れる。けーは慌てて口許を押さえるが、キスをされる気配はなく、華波は静かに眠っている。

「へ? は?」

 独り状況が解らないまま、けーは観覧車を一周した。けーは華波を担いで観覧車から降りる。係員の不思議そうな顔を無視して、さっさと華波をベンチに横にすると、ペシペシと顔をひっぱたく。

「おい、起きろ、馬鹿野郎?」

 すると、続いて理奈達が降りて来て、その様を見るなり呆れる。

「また、ひっぱたいたの?」

「違ェよ! いきなり寝やがったんだよ! おい、マジで起きろ!」

「……う、ううぅ?」

 華波がうなる。そのまま何度か強めに頬を張ると華波が頬をガードする。

「いったいな~、なに~?」

 そう言って身を起こす。うーん、と伸びをして、辺りを見回す。

「ハッ!? ここはどこ!? あたしは誰!?」

「ふざけた事言ってんじゃねェよ」

「あー! けー! よくも人の事殴ったなー!」

「やっぱり殴ったんじゃない」

 理奈が冷たい視線を浴びせる。けーはだから違ェって、と頭を振る。

「おい、華波。殴った事は謝る。けどよ、テメェ、今日、何した?」

「ほえ? 何したって、けーが入るなり殴ってまだ何もしてないじゃん!」

「観覧車に入るなり殴ったの?」

「うん? お姉ぇちゃん? 観覧車って何?」

「あなたが乗りたいって言ったんでしょ』

「ええー? あたし言ってないし、まだ最初のジェットコースターしか乗ってないよー? その後、すぐにけーに殴られたじゃん」

「……」

 理奈達三人は困惑するが、事情に心あたりのあるけーが青ざめる。とてもではないが、演技には見えない。では、あれは本物だというのだろうか?

「……お、おい、華波? オメェ、俺とお化け屋敷入ったよな?」

「入ってないってー。入るならお姉ぇちゃんとがいいもんー」

「……お、おい!? 俺に缶コーヒー買って来たよな!?」

「買ってないってー」

「……」

 けーは無言で立ち上がる。疑う余地は、ない。だが、その事実がどれだけ疑わしいかも、充分に理解している。

「……理奈」

「なによ?」

「お化けって、信じるか?」

「……何を薮から棒に……。そんなもの、居ないわ」

「俺は、見たぜ」

 ダラダラと、冷や汗を滝のようにかきながら、けーは青ざめた顔をしている。

 華波は、憑かれていたのだろう。けーに手刀を食らったあの時から、さっきの観覧車までずっと。そして、自分は幽霊とずっと居た事になる。けーは自分のして来た事が、今更になって怖くなり始めた。

 幽霊とお化け屋敷、観覧車。

「ふ、ふはは、はははは!」

 笑うしかない。笑うしかなかった。これを笑わずに、何を笑えというのだろうか。お化けが苦手な自分が、ずっとお化けと一緒にいたのだ。おまけに、さっきまでは密室で二人っきりで。滑稽だ、傑作だ。

「あはははははは!」

 ただひたすらに笑うけーを、四人は不思議そうに眺めるばかりであった。


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