第三十四限ー華波と離別
三十三限と大分間が開いてしまいました
決して読み切りではありません(笑)
読み切り三連ではありません(笑)
三十三限が思い出せない方は一度そこを読み返して下さい
家に帰ると、パソコンもつけっぱなしで義光は寝ていた。ソファーの上で、大の字になってる。
「……もう、本当にパパはさ」
華波がそっと毛布をかけてやる。あたしってば優しい!と華波は独りでにやっとする。
「自画自賛。ふふ、お姉ぇちゃんに勉強させられたおかげで、大分頭よくなったぞ、あたし」
独りでふんぞりかえる。……まぁ、当然なんだけど、空しさがより一層際立つだけなんだよね……。 華波は気を取り直して夕飯の支度を始めるが、静まりかえった家で、料理をしてると、ちょっと泣けてくる。
「……寂しいよ、お姉ぇちゃん」
玉ねぎも切ってないのに、勝手に涙が出てくる。寂しい。その感情を再認識すると、寂しさは一気に襲ってきた。
「お姉ぇちゃんと、離ればなれなんて、嫌だよぅ~」
今まで我慢していた涙が、堰を切って溢れ出す。グスグスと独りで台所で泣く。
「華波?」
義光が台所に顔を出す。華波は驚いて身を一瞬だけ強ばらさせる。
「な、なに?パパ、どーしたの?」
「泣いているのか?」
「うん、玉ねぎ切ってたら止まらなくてね。擦ってる内に痛くなって、ちょっと」
無論玉ねぎなんか切っていないのは台所を見れば一目瞭然だ。だが、自分の娘が泣いていたのを誤魔化しているのを暴くような事を義光はしない。言及したとしても、自分の手に負えない事を、彼はよく解っていた。華波の事を一番よく解っていて、そしてその力になれるのは、あの娘だけだろう、と義光は察していた。
そこに、場違いな嫉妬等といった感情はない。あるのは純粋な感謝と羨望、そして後悔。自分の娘の事も理解してやれない駄目な父親に、一体いつなったのだろうか。
それは、生まれて来る前からだろう。義光は自分の行いを悔やむばかりだ。そして、他力本願に、理奈にそっと心の中で頼むばかりだ。
そして義光は、また後悔と無力さを噛みしめながら、リビングに戻って仕事を再開する。華波はそれを見て、胸が痛んだ。
義光の、仕事の電話を聞いてしまったのはいつ頃だっただろうか。京都に行く、と電話をしているのを聞いてしまった。
転勤。そうなったら義光は間違いなく自分を連れて行くだろう。華波はそう判断した。以前は母親に任せっきりだったが、かなり娘を溺愛している事を華波だって理解している。
最初料理をすると言った時だって、救急箱を持って近くで控えてたくらいだし、夜、日が暮れても帰らない時は車で迎えに行くか、と電話でしつこいくらい、尋ねて来る。
その父が、自分の独り暮らしを、許すとは思えない。
そう、だからあたしは京都の学校に、転校する事になるんだろう、と華波は独り沈んでいた。
「はい、パパ。ご飯だよー」
片付けてー、とリビングの上に料理を置いていく。玉ねぎサラダと、コンソメスープにペペロンチーノ。手間の少ない料理が、理奈に教わった通りに作っているので、味は確かだ。
それを二人で食べると、華波は片付けをして早々にベッドに向かおうとする。
「華波」
洗い物をしている最中の華波に義光が話かける。
「なに~?」
「最近元気がない。悩み事か?」
「……」
リビングとはカウンターのように繋がっているが、義光は背を向けてパソコンと向き合い目を合わせないでいる。
「……ううん。大丈夫だよ。なんでもない。あたし、そんなに元気なかった?」
まるで書でも読み上げるかのように淡々とした口調。義光はそうか、とだけ返して、仕事を再開する。
華波は片付けを済ませると、逃げ出すように自分の部屋に行く。ベッドに倒れ込み、布団を抱き締める。この寂しさに、蓋をしめるように。
翌朝も起床すると、いつも通りの支度を開始する。きっと、この支度は向こうにいっても変わらないんだろうな……。
「……」
胸の中にぽっかりと穴が空いてしまったようだ。いつまでも、理奈と一緒だと信じて疑わなかった。いつまでも、一緒にいたいと、願っていた。
「マンガとかに出て来る、殺して永遠にわたしのものって感じでもないしね」
ああいう歪んだ愛ってどうなんだろう。華波は少し想像したが、気分が悪くなった。嫌だ。あたしは、お姉ぇちゃんと触れ会っていたい。痛がるとことか、傷つくとことか、見たく、ない。
「……お姉ぇちゃん」
スマートフォンの待ち受けを見る。二人でとったプリクラの画像だ。少し照れながらも、楽しそうに笑っている。そこに書かれた、『いつまでも一緒』の文字が酷く胸にささる。
ふと思い返すと、理奈はいつだって自分のワガママに付き合ってくれた。
ふと、自分は理奈のワガママに付き合った事はあっただろうか、と華波は思い返すが、まったく見当たらない。
「依存、しすぎだなー」
笑ってみるものの、全然面白くない。空虚なだけだ。
気が乗らないままに学校に向かう。家に引きこもっていたいくらいだが、後少しの時間を、無駄にはしたくない。
駅の改札のところに早めにつくと、そっと物陰に隠れて理奈を待つ。偶然を装って一緒に登校するつもりである。
待つこと数分で、理奈が現れる。華波はパッと飛び出してダッシュする。
「お姉ぇーちゃーん!!!おっはようーー!!」
「おはよう」
理奈はヒラリと避けてしまう。だが、華波もそこは、いや、そこだけは成長している。まるでラリアットでもするかのように腕を横に伸ばして、アウトサイドの肩を掴むと、そのまま振り抜くように引き寄せる。そうして、朝っぱらからハグをする。
「……またそんなとこだけ成長してる……」
「アハハー!あたしのお姉ぇちゃん捕獲すきるは日夜進化しているのだ!!」
「そろそろ、投げ技使わないとダメかな?」
「……えっ」
理奈の白い視線を受けて、華波の顔がひきつる。拘束が弱まった瞬間に、理奈は素早く抜け出す。
「……いや、お姉ぇちゃん、それは……」
「華波も知っているわよね?私の資格のこと」
「……」
柔道四段、合気道三段。おまけに護身術もマスターしている。痴漢を迎撃して警察に突き出した回数は数知れず。
文武両道。体育の成績も、櫻子や華波の影に隠れてしまっているが、かなり優秀だ。短距離走でも二人と近い成績を出してクラスのトップスリーの座に輝いている程だ。
少しばかり不貞腐れた華波は頬を膨らませて、唇を尖らす。そして、声を張り上げる。
「もうっ!もうっ!!お姉ぇちゃん、昨日はあんなに熱いハグをしてくれたのにっ!!」
その言葉には堪らず理奈は吹き出す。行き交う人の視線が痛かった。
「っっ!?こんな朝早く往来の激しいとこでそういう事言わないのっ!!」
「昨日のお姉ぇちゃんのハグの方が激しかったもんっ!」
「本当に何を言っているのかしら、この娘はっ!?」
顔を真っ赤にさせた理奈は、早足でホームに向かう。華波は、その理奈を追いながらあれやこれやと言葉を投げる。
そうやって、時間を浪費して行くうちに、学校につく。櫻子も合流して、会話が咲き乱れる。
学校で、皆で話している時は、寂しさはびっくりするくらいに息を潜める。そして、それは突然に頭をもたげるのだ。
「……」
授業中に、それはよくある。一人で机に向かっていたりすると、寂しくなってしまう。華波にとって、勉強とは、あくまで理奈と同じ学校に通うための手段でしかない。だから、その勉強をしていても、空虚な想いをするばかりだ。
「……いどさん」
なんで、京都に行かなくてはならないのだろう。転勤はしかたないとは思うけど、そんな
「華波」
バシッ!と頭を後ろから叩かれる。びっくりして振り返ると、理奈がノートを突き出していた。そして、教室の前方をさす。
改めて前を見ると、数学の教師が笑顔を向けている。無論、それは友好的なものではない。
「小井土さん、物憂げな美女みたいだったけど、さらに男子のハートを掴む気かな?」
「いえ、あたしお姉ぇちゃん以外キョーミないんで」
「数学は?」
「キョーミないです」
「けど、真面目にやろうか?……この問題解いて」
「おー、昨日予習した問題だー」
華波の口から出た予習という言葉に教室がざわめく。華波はうーんとー、と唸りながらも着々と問題を解いていく。
「はい、これがこーたーえっ!」
「……正解、です」
教師どころかクラスの全員が信じられないものを見る目だ。華波は優越感に浸りながら席にまで戻る。
「やったよー!!お姉ぇちゃん!!」
戻って席に着かず理奈にとりあえず一度抱き付く。そして、教師と理奈に怒られながら席につく。
放課後、二人で帰宅して行く。華波は理奈との時間を、ほんの些細な事まで堪能して行く。
「華波」
駅で別れようとした時に、理奈が華波の袖を掴む。華波は理奈が引き留めた事に嬉しさと、一緒に寂しさを覚える。京都に行く時は、引き留めてはもらえないハズだからだ。
だが、理奈はそんな事は知らない。袖を握りしめながら、ひどく真剣な表情で、恐ろしく普段通りの口調で、一言尋ねる。
「何か、私に隠し事しているわね?」
否、それは質問なんてものではない。すでに断定している。華波の隠し事を、見抜きその覆いを暴く。
華波には、返す言葉が見つからない。黙るし、出来ないでいた。
なんて、言えばいいの?
京都に転勤?
言えないでいた華波に、疑問が波となって襲いかかる。
喋れないでいる華波を見た理奈はグイッと腕を引いて、自宅にまで連行する。そのまま自室の鍵をかけると、華波をベッドの上に座らせる。
そのまま、理奈も横に腰かける。
理奈が無言のままに華波を見つめる。華波はなんと言おうかと言葉を探す。
「……パパが、京都に行くんだって」
「うん」
考えても、馬鹿な自分には言葉なんて出て来ない。華波は、正直に話す事にした。
「……パパ、過保護だから、多分、あたしの一人暮らしなんて認めないと思うから……だから……」
「……」
理奈は、黙って喋らない。
「あたしも、京都に転校するのかなって……」
「……ククク」
笑い声がした。華波が見れば、理奈は口とお腹を押さえていた。笑ってしまうのを堪えるように。
「お姉ぇ、ちゃん?」
華波は不審そうに見る。理奈は涙さえ浮かべている。理奈には、華波の告白が、可笑しすぎた。
「あたし、京都に行くんだよ?」
「……ハハ、アハハ!止めて!華波、もう止めて!!アハハ!お腹痛い~!!」
理奈が笑い転げる。華波には理解出来ない。自分が悩んでいた事に、何故理奈がここまで笑うのか。
「……知ってるよ、華波。義光さんが
京都に、“出張”する話はさ」のも
理奈は、涙を拭きながら言う。華波は、理奈の言った事が理解出来ないでいる。それから少し考えてから、
「ええぇぇえぇぇぇっ!?出張なのっ!?」
叫んだ。理奈は頷く。
「ちょっと前にいらっしゃってね。少し出張で京都に行くから華波をよろしくお願いします、って。だから、義光さんから一切話なかったんじゃない?」
「……」
言われてみれば、そうだ。自分は、あくまでも、立ち聞きしただけだ。
「大体、華波が転校するならそれ相応の手続きしなくちゃダメでしょう?そんなの、頼まれなかったでしょ?」
「……うう、ごもっとも~」
顔を真っ赤にして頷く。義光は、そんな事を一個でも頼まなかった。
「……じゃぁ……」
「うん。全部華波の勘違い」
「うぐぐぐぁ」
華波は頭を抱えて悶絶する。恥ずかしい。なんて間違いだろう。
理奈が、そっとその背中を抱き締める。優しく、温かな、抱擁。
「……なんで、私に最初に相談しなかったのかしら?」
「……ううっ、話し辛かったんだもん~」
「言ったわよね?勝手にどっか行ったら、許さないって」
「……うん」
華波はシュン、としている。隠し事をして、後ろめたさに、自責の念にかられているのだろう。
「お仕置きが、必要かしら?」
「んあっ。それは……」
予習復習増量とか、しばらくハグ禁止とかだったら、しんどいなー、と華波は不安になる。
「……どーしよーかしらねー?」
「ううっ、お姉ぇちゃんが楽しそうだよー。ドSだよー。女王様だよー」
「あら、私、結構Sなのよ?知らなかったかしら?」
「こんな楽しそうにしてるのは初めてだよー!!」
「華波、五月蝿い」
理奈は華波を抱き締めたまま、ベッドに横になる。
「しばらく、そのまま。良いって、言うまで」
「……お姉ぇちゃん、これじゃお仕置きに」
「うるさい」
そのまま、理奈は華波を抱き締め続けて離さなかった。
「……」
「……」
「……」
「……お姉ぇちゃん、いつまで」
「うるさい」
すでに二時間以上このままだ。成程、確かに違った辛さが……。
「……勝手にどこか行ったり、隠し事したら……許さないんだから。華波が独りで悩んで、苦しんでいるのなんて、嫌なのよ」
「……ごめんね、お姉ぇちゃん……」
「……嫌。許してあげない」
背中に感じる水っ気は、気のせいじゃないはずだ。
自分が大事に思われているのも、気のせいじゃないはずだ。
だから、華波は、理奈の言い付けを破る事にした。
「ッ!こら、華波!動かないで!」
「それに関してはあたしもヤだ」
理奈を引き剥がす。目が真っ赤になっている。
顔を、見られたくなかったから、背中から抱きついたのだろうか。
華波は、そんな理奈に、一層の愛しさを感じた。そして、その思いを、行動に起こす。
腕に強く、強く力を込めて抱き締める。壊れてしまうのではないかと、思う程に抱き締める。腕引き剥がされた時とはうってかわり、理奈は静かに受け入れた。
「あたし、いっくら勉強したって馬鹿だから。お姉ぇちゃんの気持ちとか、どうやって伝えたら良いかとか、解らなくて」
「……うん」
「無い知恵絞ったって、わかるわけないし、言葉だって出て来ないし、どうすれば良いかだって解らないんだ」
「……」
「だからさ、お姉ぇちゃん」
華波は抱き締めてた手を放して、理奈の頬に手を添えて、その顔を、真っ赤に晴れ上がった目を見つめる。
「鬱陶しいくらい、頼ってもいい?あたしじゃわからない事とか、言葉に出来ない事とか、色々いっぱいあるけど、すぐ聞いていい?」
「……馬鹿」
理奈は笑顔を浮かべて罵る。
「私は、あなたの、華波のお姉ぇちゃんなんだから、いくらでも、頼って良いのよ?」
「ありがと、お姉ぇちゃん……。大好きだよ」
華波は、もう一度理奈を抱き締める。理奈も、華波の背に、腕を回す。
「私も、華波の事、大好きだよ」
その三日後の夜、義光は華波に京都に出張する事を告げ、翌日の朝発った。華波は三日間、理奈の家で世話になる事になった。
「お姉ぇちゃん!帰ろ、帰ろ!授業終わったしさー!!帰ろーよっ!!あたし、コーヒーが飲みたくってしょーがないんだっ!!」
いつも以上に喧しく、しつこく理奈は華波に催促される。
「待ってよ、華波。今日誌書いているんだから」
華波に片手を引かれながら、理奈は空いた手で頭をおさえる。まさか、こんなになるとは……。
「後でいーじゃんっ」
「駄目に決まってるでしょ!?明日の朝出せって言うのっ!?」
「もうっ!あたしと日誌どっちがだいじなのっ!?」
「日誌」
「うわっ!即答だよ、即答!!あまりのドライさに思わず即倒しそうだよ!」
「うるさい。つまらない」
「ぶー」
華波が口を尖らせて櫻子に抱き付く。
「櫻子ー、お姉ぇちゃんが冷たいよー」
「あー、ごめん。あたしこれからデートだから放して」
「ダブルパンチッ!!」
「はいはい、もう終わったから」
ビッシリみっちり書いた日誌を見せながら、理奈は身支度を整える。華波はそれを見て嬉々揚々とする。
「さすがお姉ぇちゃん!あたしと早く帰りたいがために、急いだんだね!」
「これが私の普通。どっかの誰かさんみたいに白紙で出したりしません」
「誰の事かなー?」
「あなたよ、あなた。華波、あなた。もう一度言うわ。私は華波みたいに白紙で出したり」
「あー、あー!聞こえないー!!」
女三人寄ればかしましいというが、華波一人いれば、充分に喧しい。
「今日はさっぱり、ちょっと酸味が聞いたのがいいなっ!そこにお砂糖いれて、甘酸っぱい、あたし達みたいに」
「腐れ縁だし、納豆でも入れる?」
「止めて!?何その罰ゲーム!?ロシアンティーはロシアンティーでも、それはやっちゃいけないロシアンじゃない!?」
「大丈夫、ハズレは華波の一杯だけだから、ロシアンじゃないわ」
「自分の保身はばっちり、さすがお姉ぇちゃん!……じゃないってぇっ!!」
さらっと華波を回避。理奈は上機嫌だ。
「何かあったの?あの二人」
和乃が教室の表の方で櫻子に問う。櫻子はニヤニヤしたままさぁ?と笑う。
「所謂友達以上恋人未満からのランクアップ、じゃない?」
「いやー、理奈の性格からしてそれは……」
「ないって?解ってなあなー、和乃ん~」
「和乃んって何よ」
「世の中何があるか解らないってね」
「まぁ、それはそうだけど……」
自分も、まさか夏樹と付き合う事になるとは思わなかった。だが、この二人というのは、予想しなかった。なんだか、いつも一緒にいるこそすれど、あくまで家族だと思っていた。
「あ、あたしの新しい恋人見せたっけ?」
「見てないよ。櫻子変わり過ぎだもの」
唐突な話題変更に、和乃は辟易とする。また櫻子の彼氏自慢かと、ため息をつく。
「まぁ、まぁ、そんな溜め息つかずに見て下さいな、姐さん」
「誰が姐さんよ……。って、えぇ!?」
つき出されたスマートフォンに映るのは、有名な女子高の制服を着た、やや小柄な女の子ではないか。和乃が櫻子を見ると、ニヤニヤと笑ったままだ。
「世の中何が起こるか解んないねー」
「……」
「これからデートだから、じゃねー」
果たして、自分がおかしいのだろうか。
「いや、そんな事ないはず。世間一般では、わたしが普通、普通。わたしがノーマル。わたしが、正常……」
かいた汗を慌てて拭う。
「……バイト、行こう……」
和乃は、華波の笑い声を背中で受けながらトボトボと、バイトに向かう事にした。
「お姉ぇちゃん、お姉ぇちゃん!はやく、はやくぅ!遅いよぉー!」
そんな和乃の事など露程も知らず、華波は理奈の手をグイグイと引いていく。理奈は疲れきった顔をしている。
「華波、そんなに手を引かないで。痛いわ」
「お姉ぇちゃんが遅いんだよぅ」
プゥ、と華波は頬を膨らます。やれやれ、と理奈は肩を竦める。そのまま何かを思いついたようでニヤリと笑う。
「じゃぁ、華波が私にペース合わせられるようおまじないでもしましょうか」
「おまじない?」
「屈んで、目、閉じて」
ほんのりと上気した顔を見て、華波のテンションは、ゲージを振り抜く。言われるがままに、少し屈んで目を閉じて、待つ。
待つ。
待つ。
待つ。
だが、待てども待てども、期待した瞬間は訪れない。
「ハッ!?」
目をあければ、理奈は遥か遠く。笑いながら華波を眺めている。
「酷い、酷い!!お姉ぇちゃん、酷いよぅっ!!」
「ホラ、こうすればペース合うんじゃない?せっかちな華波は待つくらいがちょうど良いよ。ウサギとカメみたいに、寝ちゃうくらいにに」
「ウサギは寂しいと死んじゃうんだよぅっ!?」
「私がいるんだから、ここのウサギが寂しくて死ぬわけないじゃない」
華波の言葉を回避しながら、二人で家に向かう。
「ただいま~!」
華波が、元気よく、理奈の家の玄関をくぐった。
まるで最終回のようなお話てすね(笑)
ですが、まだ、書きます。
このままでは終わりません!




