休み時間ー理奈とクリスマス
本当は、25日には投稿する予定でしたが、書き始めたのが、24日の朝で、間に合いませんでした。
遅めのクリスマス企画って事で(笑)
その日は、理奈、華波、櫻子、和乃、けー、夏樹、早川、花梨の全員で、理奈いきつけの喫茶店にいた。表に止まっている見慣れぬバイク二台を、何事かと、通行人が眺めている。かたや日章旗カラー、かたやフレアライン、という、決して穏やかではない組み合わせでは、なおさらであった。
会話に花が咲き、みんな楽しく話していた。理奈の機嫌が少し悪そうなのを、最初は全員心配していたが、次第に意識の片隅に追いやられて、会話が乱れる。
「今年のクリスマスは、夏樹さんと食事に行くんだ」
和乃が楽しそうに、予定を言う。その時、理奈の片眉がピクッ、と動く。
「あ、私も、早川くんがお食事に連れて行ってくれるそうで~。ねぇ?早川くん?」
「あ、ああ」
いきなり会話を振られた早川は、驚いてしどろもどろだ。少しずつ慣れて来たとはいえ、けーと夏樹を前に、最初は顔を上げることすらできない程に緊張していたのだ。二人は、あまりにも有名人すぎた。
「……まったく、解せないわね」
ボソリッ、と呟いた理奈の一言は、恐ろしく小さかった。にも関わらず、いつもの理奈とは違う雰囲気をまといながら放たれたそれは、全員の耳に届き、笑顔を浮かべていた全員がピキッ、とメドゥーサに睨まれたように固まった。唯一華波だけが、ケロッとしている。
「……えっと、そんなに変な味してますか?このコーヒー」
夏樹が素っ頓狂な事を言う。場を和ませる、というより、かなり混乱しているようだ。だが、理奈はかぶりを振る。
「いいえ。ここのコーヒーはいつだって最高よ。……私が言ったのは、クリスマスの事」
理奈の放つ不機嫌オーラ。普段ない事に、皆戦き言葉をうまく発せないでいる。それどころか、後半の言葉に、和乃に夏樹、早川は思わず視線をそらす。花梨がきょとんと首をかしげる。
「理奈ちゃんは、クリスマスの事が、解らないんですか~?」
「クリスマスとは、家族と一緒に過ごして、プレゼントを木の下に置くの。そして、聖書を読んで、心の内面の幸福を、喜ぶものよ」
理奈の恐ろしい視線から目をそらしてしまった三人は、理奈を直視する事も出来ず、視線を下に預けたまま、理奈の話を聞く。
「けどよー、理奈ァ?」
けーがガトーショコラを食べながら口をはさむ。頼む、けーさん!と、三人は心のそこで、けーが理奈を言いくるめてくれるのを待つ。
「クリスマスっていやー、オメェよ?」
「クリスマスは、家族で過ごす日よ」
ぴしゃり、と理奈がけーの言葉をさえぎりながら言う。さすがのけーも驚いたようで面くらっている。
「いやいや、頭ごなしに否定すんなって。けどよ、俺みてェな家族と不仲な奴だっているんだぜ? 特に不良なんかやってっとよォ、親とは意見が合わねェ事だって多々ある。
けど、よ? 金髪にするって事ァそんなに悪ィ事かよ? カツアゲの撲滅ってのァしない方が良いんかよ?
けどな、親ってェのはそーゆーとこは見ねェんだ。
バイクに乗ってる。喧嘩してる。煙草に酒はする。これだけで、充分なんだ。こっちの意見なんざ聞きゃしねェ。
だから、俺たちは家を空けて皆で楽しく話すんだぜ?」
「……けーの予定は、グループの人たちと?」
「おう。朝まで多分走ってる。んで、適当なファミレスかなんかに行くと思うな」
「その集会をどうとるかは人それぞれだわ。私だって、それくらいなら良いと思うわ。けど……」
理奈の目が、一瞬けーから外れて、視線をそらしている三人を睨む。
「不純な目的とか、ね?」
「「「ッッ!!」」」
若干の冷や汗を流しながら、彼らは黙って聞きに入る。攻めてはならない。攻めてもロクな事にならないのはおろか、かなりの大打撃を受けて返り討ちにあうのは違いない。
「けー、そっとしといてあげて。お姉ぇちゃんこの時期は決まって機嫌が悪くなるの」
けーが反撃してくれる事を期待していた三人は華波の制止で両手をあげて降参のポーズをとったけーを見て、がっくりと肩を落とす。妬みか何かは解らないが、理奈のこの攻撃はしばらく続くのだろう、と覚悟を決める。
「クリスマスケーキにプレゼント、経済が回る事は凄く素晴らしいわ。けれど、人はあまりにも本質を忘れている。そうは思わないかしら、和乃?」
「え!? う、うん。……そ、そう、だ、ね?」
しどろもどろ。青ざめてひきつった顔で首を何度も縦に振る。
「クリスマスとは生誕祭よ? キリストミサ、それが変化してクリスマスと呼ぶようになった。キリストの誕生を祝うためのお祭りであって、カップルの為の日じゃないわ。……まったく」
理奈は、実に面白くなさそうだ。そうとう機嫌が悪いようで、ただでさえ大量に入れた砂糖をさらに入れる。
「どうしたら良いかしらね、夏樹さん?」
「え!? 俺!? ……えっと、そうですね。クリスマスには教会にでも行ってみましょうかね……」
「あら、和乃を連れてクリスチャンの真似事ですか? そうですね。私も罪でも懺悔してこようかしら。……ああ、やましい事なんて、一つもなかったわ。今のクリスマスについて嘆いてこようかしら?」
「……」
夏樹は思いもしなかった攻撃にひっそりと涙を流す。
「経済が回る事は良い事、といったけれど、時に行き過ぎたこのありようも考えものよね。いつかの教皇も言ってたわ。ねぇ、早川くん? クリスマスって経済が回って凄く良い事ね。だけど、クリスマスでなくても良いんじゃないかしら? 何故人は天皇誕生日には祝わないのかしら?」
「……」
早川は下を向いて黙りこむ。答えられっこない。ロマンチックだから、なんて。
「ロマンに現でもぬかしているのかしらね?」
「ッッ!!?」
攻撃を受けた早川は、夏樹にならってこっそり涙を流す。きっと今の理奈はやさぐれてるんだ、と決めつけて、いつも負担をかけている分、これで負担が軽くなるのなら、と受け止める。
「あのなー、理奈よォ。確かにオマエの言う事はいちいち正論だけどよ、正論だけ振りかざしたって人はついて来ねェぞ? 時に間違ってても、見逃してやれよ」
キンッ、ボッ。煙草に火をつけながらけーが理奈に言う。夏樹はその仕草に危機感を覚える。たばこを吸いながらの会話は、けーの機嫌が悪く成った時の癖だ。特に、ライターを弄び始めたら、最高潮に機嫌が悪い時だ。
「けー、あなたは弱い者を虐げられているのを見て見ぬふり出来ないから、ネズミ小僧をやっているんじゃないのかしら?」
「ネズミ小僧って言うんじゃねェよ。俺は弱い奴に威張り腐ってるクソ共がむかつくからやってるだけだ。善悪とかカンケーねェよ?」
けーがライターを弄び始めて、夏樹は頭を抱える。このままでは不味い、と思い、勇気を振り絞る。
「そ、そーいやー、けーさん!」
「黙ってろ」
「黙っていて下さい」
「……」
撃沈した夏樹を労わる視線が向けられる。だが、二人はそんな事を気にも留めずヒートアップして行く。
「善悪じゃないっていうなら、さっきの正論がどうの、っていう話と矛盾しないかしら?」
「しねェよ。俺ァ正論をあんまりかざすんじゃねェっつってんだよ。俺のしてる事ァ善でも悪でもねェよ」
「結果として、あなたはネズミ小僧と呼ばれる程の存在になったじゃない。言っている事はいつだって『間違っていない正論』よ」
「なら俺の『正論だけ言ってても人はついて来ねェ』ってのも正論だな?」
「あら、それは間違いよ。あなたの口から出て来た数少ない、ね。あなたは『普段』『いつも』『間違っていない正論』を使っている、私と同じよ」
「そんなつもりはさらっさらねェよ」
「奇遇ね。私もいつだって正論をかざしてるつもりはないわ」
チッ、と舌打ちすると、けーは大分吸ってしまった煙草の火を消して、次の煙草に火をつける。そのまま理奈を視界から外しながらコーヒーを飲む。
「って甘ァッッ!!」
「……けー、それ私の」
「甘ッッ! あんまッ!! コーヒー! コーヒー!! 苦い奴!!」
けーは慌ててカップをとりなおして一気に飲み干す。甘党のけーが叫ぶほどに、理奈のコーヒーは甘かった。
「……バケモンだ」
「なにがよ」
理奈とけーの軋轢は今ので解消されたようだった。クリスマス以外の話で談笑にふける。
そのまま解散の流れになり、華波と理奈は歩いて家に向かう。
「今年は一段とやさぐれてたね、お姉ぇちゃん」
「何が?」
「12月25日だから、忘れがちだもんねぇ」
「……」
そう、毎年隣に居てくれるのは華波だった。
「大丈夫。あたしがずっといるからさ」
「何がよ」
理奈はやっぱり機嫌が悪そうだった。だが、華波には機嫌が悪いだけではない事は筒抜けであった。
「照れちゃってさ~」
華波が抱きつく。理奈は止めなさい、としかるが、華波はまったく聞いていないようだ。
仕方ない。この時期は、いつだって理奈が寂しそうなんだから。機嫌が悪いだけじゃない事を、華波はよく知っている。
そして、12月24日の夜。華波は例年通りに理奈の部屋に居て、楽しそうにしている。
「今年も来たぜ、お姉ぇちゃん!!」
「本当、飽きないわね。お父さんは良いの?」
「パパはお仕事だよ~」
事前に今日はお姉ぇちゃんのとこに行ってるから、というのが効いたのかもしれない。なら仕事をしている、と義光は言っていた。華波は時計を確認する。23時55分。そろそろだな、と用意していたものを取り出す。
「はい、ケーキ」
華波はやや小ぶりのホールケーキをパカッと開けて見せる。生クリームの上にイチゴを乗っけたスタンダードなイチゴのショートケーキだ。理奈はそれを見るとうんうん、と頷く。
「綺麗に出来たのね。去年よりもさらに形が綺麗になったね」
「うん、この時期どこ行ってもクリスマスケーキしか販売してくれないから、頑張ってるんだよ、毎年。一応、お店の食べさせてあげたいな、って思ってるから何件かは見て来るんだけどね。断られちゃうんだよねー。五年連続手作りケーキで我慢して?」
「良いよ。華波のケーキ美味しいから」
華波は持参のローソクを17本ケーキにさして、手際良く火をつけて行く。そして、それを写真に収める。
そして、24時。12月25日になると同時に、華波がクラッカーを炸裂させる。
「お姉ぇちゃん、誕生日おめでとう!!」
「ありがとう、毎年華波だけは祝ってくれるね」
フッと息を吹きかけてローソクの火を消す。華波がケーキの周りに垂れた糸を手にすると、糸はケーキを切り、綺麗に四等分する。
家族以外誰も祝ってくれない誕生日。それに嫌気がさしたのはいつごろだっただろう。そんな気持ちを察した華波が、毎年来てくれるようになった。その頃から少し緩和されたが、どうもクリスマスの話題になると寂しさが強くなって機嫌が悪くなってしまう。
「世話をかけるね、華波」
「お姉ぇちゃん、それは言わない約束でしょう」
華波が皿にケーキを乗っける。それを理奈は受け取ると、華波の横に座り直す。ローテーブルの上にはシャンパン代わりの炭酸の葡萄ジュース。それにコーヒーサーバーにミルクと砂糖。とりあえず二人は葡萄ジュースをグラスに注ぐ事にした。
「今年一年も、お姉ぇちゃんにとっていい年でありますように」
二人はグラスを持つと、ふと笑う。
「「乾杯」」
キンッ、と聖夜に二人のグラスが軽くぶつかる。
はい、理奈の誕生日がここで暴露されましたね。
なんと、クリスマスですよ、生誕祭ですよ(笑)
自分は、働いてました
ケーキを買っていくカップルを眺めては爆発しろ、と呪いを込めながら




