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第三十限ー理奈と早川

予感。理奈はオカルトの類いなんて信じないが、そう呼ばざるを得ない、何かを感じとった。

光差すところには影が出来る。ただ、それだけの事かもしれない。それでも、理奈はそこに影を感じ取った。

「残念、華波。そんなに私に取り入っても、ヤマは教えてあげないわ」

「ッ!……な、んの事ー?」

今日は肌の艶がいつも以上に良いねー、だのなんだの。華波は露骨に理奈の機嫌取りをして来た。華波の考えを直感的に見抜いた理奈は、冷たくそう言い放つ。

「あたしはー、別に?お姉ぇちゃんとラブラブしようと思っただけだけどー?」

白々しい。もはや視線が泳いでいるどころか、明後日の方角を向いている。

「馬鹿言ってないで、時間ないんだから勉強しなさい」

「ううー」

華波は国語の小テストの勉強を始める。頭を抱えている姿は悲壮感にも似た絶望感が漂っている。

「さてと」

理奈も自分の勉強を始める。といっても、確認程度にもう一度教科書を見直すだけだ。その最中、で理奈のスマートフォンがメールの着信を告げる。チラリと見れば、けーからだった。

「後で良いわね」

理奈は先にテキストを見直して、まだ時間があると判断してからメールを見る。

『ネコ可愛いだろ?光希ってんだ。見に来ねェ?』

そしてネコの写真。食事をとって、口元を拭っている、またなんとも愛らしい写真だった。理奈の頬が自然に緩み、『凄く可愛いね。行かせてもらうね』と簡潔なメールを打つ。

ふと、けーは学校はどうしたんだろうと思ってその事を追記してから送る。すると、開校記念日との旨が書かれていた。

そのメールを読み、バッグの中にスマートフォンを仕舞おうとした時、もう一度メールが来た。

『ネコカフェなう。あん時のカフェ、ネコカフェになったんだぜ』とネコに、囲まれてご満悦なけーの写真が送られて来た。

理奈はクスッ、と笑うと、『ネコもけーも可愛いね』と、本人が絶句しそうなメールを送って、改めてバッグの中に仕舞う。その時ちょうど、開始のチャイムが鳴り、テストが間もなく開始された。理奈は自らのヤマ通りの問題をサラサラと解いて行き、ヤマ以外の問も、少しだけ考えるところもあったが、難なく解いた。

華波は小テストが終わると燃え尽きたようで、机に倒れ込んでしまう。櫻子と理奈は互いに笑い合う。櫻子もヤマ通りだったようで、華波を見て肩をすくめる。

そのまま夢の世界に逃避していた華波は途中で教員に起こされ立たされながら授業を受ける羽目になった。

そして、放課後。

「疲れたー!!お姉ぇちゃん!カフェ行こ!カフェ!コーヒー飲み行こーよー!」

「ごめんね。このあとけーと約束あるから、無理なの」

「……そっかー。けど、けーならあたしの分も迎え用意してくれそうだよね?」

「そう、ね」

二人は昇降口を出て、中庭を歩く。色鮮やかな花壇が目につく。

「良いわね、本当に」

「出た、乙女モード」

華波がケラケラと笑う。嫌がるわりには、やはり理奈は足を止めてしまう。良いでしょ、と理奈は少し華波を睨む。

「けど、確かにキレーだよねー、この花壇」

「ありがとーございますー」

おっとりとした、舌ったらずな声がした。振り返ると、鮎川がいた。実際に見ると、小さい。けーも小さいが、けーよりも小さいかもしれない。

「あ、鮎川さんだー。お花綺麗だねー!」

華波が鮎川に寄ると、二人の対称的なルックスが際立つ。身長は頭一つ分くらい違うのではなかろうか。

「あはっ、本当に小さいんだねー、鮎川さん!」

「家系でしてー……。小井戸さんは、大きいですねー」

「うん!あたし、パパ似でさ。パパの家系は皆デカイんだー。パパとパパのお兄さんは、百八十センチ越えてるってさ!」

「ふわー、大きいですねー」

会話が一段落したところで理奈が一歩前に出る。

「こんにちは、鮎川さん。いつも綺麗な花壇をありがとう」

「はーわー」

鮎川は理奈を見て、息を漏らす。どうしたのかと、華波と一度顔を見合わせる。

「名前は存じ上げませんが、ありがとーございますー、窓辺の麗人」

「ぶっ!」

華波が吹き出し、理奈が固まる。名前を知られていなかったのは良い。なんだ、そのあだ名は。腹を押さえてしゃがみ込んでいる華波を無視して、理奈が聞き返す。

「……窓辺の、何?」

「はふー、気分を害してしまったならー、ごめんなさいー。いつも家庭科室の窓辺で見てくれていらっしゃる様子がー、まさに窓辺の麗人と言わんばかりのもの悲しげな雰囲気を纏っていたものですからー」

「いい!最高にいい!乙女なお姉ぇちゃんにぴったりなあだ名をありがとう、鮎川さん!!」

華波が笑いながら鮎川の手を取る。理奈の冷たい視線を無視して是非ともその名前で呼ぶよう求める。

「華波、静かにして。……鮎川さん、私は森下理奈です。これからもこの花壇が綺麗である事を願ってます」

「ご丁寧にありがとーございますー、窓辺の理奈さんー。私は鮎川花梨ですー」

「……そのあだ名は、勘弁して下さい」

またしても華波のツボにどストライク。理奈はもう華波を意識の外においやる。

「おい、サボってんだよ、鮎川」

苛立たしい声が背後からする。理奈が振り返ると、そこには早川がいた。

「んなダベってる暇あったらさっさと終わらせろよ。テメェトロいんだからよ。んなぴーちくぱーちく話す口だけはひょいひょいと言葉が出てくんだな、トロいクセに」

バッグをその辺に放りなげて、ゴミを拾う。ツンケンしてても、真面目なのね、と思いながらも、理奈はその言い方に少しムッとする。早川の言葉には、悪意しかないように感じられる。

面倒事に首を突っ込むのはただの野次馬、ましてや勝手に突っ込むのは、お節介以外のなんでもない。

「ごめんねー、早川くん」

「うるせー、仕事しろ。俺がサボりゃオメェあーだこーだ言うクセに、何サボってんだよ。人の揚げ足とるばっかりかよ、オメェは」

理奈は、無遠慮な友人を思い出す。口調は彼のものとそう変わらないが、そこに込められたものは、あまりにも彼とかけ離れ過ぎている。理奈は、この手の、弱者に威張り散らす輩が大嫌いでだ。

「あら、もう少し紳士的な方かと思ったら、粗暴なのね」

理奈が早川に向けてそう言い放つ。同じ粗暴な不良でも、彼とけーは違う。理奈は冷たい目で睨むと、早川は少し怯んだようだ。華波はその脇で花梨を避難させて、一緒にゴミ拾いをしている。

「あ?なんだよ、テメェ。部外者は」

「引っ込んでろ?レパートリーが少ないのね。……あなたからしたら部外者かもしれない。けれど、私はね、友達が理不尽な目に遇ってるのに放っておける程他人に無関心という訳でもないのよ」

華波に避難させられた鮎川は、首を傾げて、

「お二人はー、何を話してるんですかー?」

華波はこの子は人当たりがいいんじゃない。ただのど天然で、人の悪意に気付かないだけだ、と判断した。全く、平和なものだ。

「二人は今ね、お互いの譲れないものについて話してるから、聞かなくていいんだよ、花梨」

華波はオブラートに包みまくり、最早説明になっていない説明をするが、花梨は納得したようだ。

「あらー、でしたらー、私もお花についてで参加してみても良いですかねー?」

納得するのと、理解するのって、てんで違うんだなー、華波は、行ける!と思った説明に、少し後悔する。そして、取り敢えず近付けないという結論に達する。

「止めとこ。そんな平和な話じゃ、ないから」

その間にも、二人はヒートアップしていく。

「ハッ、あのトロいのと友達かよ?」

「トロいというけれど、それはあなたと比較してでしょう?私と比較すれば、あなただって充分過ぎるくらいトロいわ」

「んだ」

と、そこまで言おうとした早川の言葉は校門の方から轟く爆音でかき消される。音の正体なんて、振り返るまでもない。

「あれ、は?」

早川が愕然としながら口にした言葉は、未だ鳴り響く爆音で、理奈には聞き取れなかった。

「相変わらず五月蝿いわね、けー」

小さな身体に、長い金髪。右耳に七個のピアスという、いつも通りの出で立ちのけーがそこにいた。

「悪ィ、悪ィ。けど良いだろ?直管ってなァよォ」

「ロマンを吐き出してる?そんなロマンの押し売りは傍迷惑よ」

「け、けーさん!?」

早川が、愕然としながらそう彼女の名前を口にした。けーはあん?と首を傾げる。

「理奈、友達かよ?」

身に覚えはないようだ。理奈はいいえ、と首を横に振る。

「私の友達に酷い事言っただけ。気にしなくて良いわ」

ピクッ、とけーの眉が動くが、理奈がはいはい、とけーの肩を掴み、制止する。

「わーってるっての。手ェ出しゃしねェよ」

けーがピラピラと手を振って理奈の拘束から外れる。そこでけーはあれ、っと言う顔をする。

「櫻子はどーしたよ?」

「バイトよ」

「マジかよ?なーんだ、来るかと思ったのによ?華波はどーせ来んだろ?」

「行くよー、行く行く!」

そこでけーの視線が花梨に移る。けーの鋭い眼光に捉えられながらも、彼女は動じず、笑顔のままだ。

「へェ、肝っ玉すわってんじゃんよ?俺は柏崎けー。今から地元の方のネコカフェ行くんだけどよ?オメェも来るかよ?」

「あらあらー?お邪魔しても良いんですかー?あ、申し遅れましたー、私、美化委員の鮎川花梨と申しますー。……あ」

そこで花梨は視線を落とす。困ったように笑いながら手元のゴミ袋とトングを持ち上げる。

「けど、私美化委員の仕事があってー」

「だとよ?理奈?俺はどーするか決めちまったぜ?」

理奈の方を見ながら、けーはニヤリと笑う。理奈は肩をすくめてみせる。

「おしっ、決まりだな。……オイ、テメェ等!」

けーはバイクに股がってる二人に声をかける。

「ゴミ拾うぞ!」

「「うっす!」」

二人はエンジンを止めると、けーに倣って校内に入って来て、ゴミを拾い始める。花梨があたふたとし始める。

「そ、そんな、悪いですー」

「知らねェよ?人数多い方が早ェだろ?」

言うより早くしゃがみ、ゴミを拾い出す。オロオロとしている花梨の肩に理奈が手をおく。

「こうなったら、けーは聞かないわよ。皆でやっちゃいましょ?」

にっこりと笑うと、理奈も華波も、ゴミを拾い始める。花梨は嬉しそうに笑って拾い始める。

「けーさん!」

早川が、けーの前に立つ。けーがジロッと睨むと、早川は圧されてたじろぐ。

「なんだよ?」

「俺、けーさんに憧れて」

「知らねェよ?オメェなんか知らねェし、俺はオメェみてェな奴が大嫌いなんだよ?花梨を、テメェより弱いって判断しといて何イビってやがるよ?あ?いつ俺がそんな事したよ?笑わせんな?」

けーが下から早川を睨むと、早川は言葉を失う。そして、その絵をみて、けーがつれて来た二人が笑う。

「そうそう。けーさん俺等使ったり殴ったりすっけど、信頼があってこそだもんな」

「俺に憧れた?笑わせんな?オメェは俺の暴力に魅せられただけだ。俺が殴り倒して来た奴等と同じだ。そんな奴、記憶に残んねェよ?」

「……」

絶句する早川に、唯一の部外者、華波は同情する。何せあの二人は理不尽を嫌う。早川の言動は、あまりにも二人の怒りを買うには充分だった。

ゴミを拾い、捨てに行くと花梨を含む六人はバイクに股がる。理奈はけーにヘルメットをつけるように促す。この間のノーヘルでの事を散々注意して、ようやくハーフメットをつけるようになった。

「なーんでこんな学生みてェなもんをよ」

「学生でしょ」

理奈がヘルメットの上からけーの頭を叩く。痛くねェよ、と負け惜しみのような事を言って、けーは走らせる。

「はわー!?」

花梨の絶叫が聞こえたところで、全員が思い出す。バイク二人乗り初体験の花梨に、スピード超過の直管バイクは、あまりにも荷が重すぎた。

グルグルと目を回しながら、フラフラとした足取りの花梨を、けーと華波の二人で支える。

「お、オイ?大丈夫かよ?」

「ご心配はー、ご無用ですー」

顔色も正直言って優れない。途中の三人の蛇行運転大会のせいだろう。華波は大喜びで理奈は激怒、花梨は絶叫という、三者三様のリアクションを満喫した三人は笑っていたが、その対価で、花梨をグロッキーにした。

けーのツレの二人は四人から仕切りで外れた席に座る。密室と化しているその部屋は主にけー達喫煙者達の為の喫煙部屋だ。中での喫煙は勿論、ちゃんと椅子もあるが、オーダーする時はこちらのマスターのいる部屋にまで来なくてはならないという少し面倒なもの。

「マスター、ファミレスみてーな呼び出しボタン設置してくれよー。ブレンド2つ」

「……馬鹿言うなよ。お前らがウチをたまり場にして評判が悪化して客足が遠退いていったんだろ?」

「良いだろ?俺のお陰でネコカフェが出来たんだかんなァ?」

けーが笑いながら言う。メニューを花梨に渡すと、ネコを一匹抱えてから椅子に座る。顎下を撫でたりされて、ネコはご満悦なようだ。花梨がメニューを開くよりも先に、花梨はネコに目を奪われる。

「ふわー、可愛いですねー」

「だろ?うちのもんが拾って来たんだ。ここにいるネコァ、全部捨てネコだったんだ」

「そうなんですかー。優しいんですねー、けーちゃん」

「ハハ、照れるじゃねェ……あん?けーちゃん?」

けーが思いっきり顔をしかめる。けーちゃんって、俺ん事だよな?

非喫煙区画にいたけーの知り合いの面々が青ざめる。最近のワンピース事件だのなんだの、女扱いされる事が増えてきて、それで女扱いしたら殴られた、という事件は後を絶たない。

殴るのか、とヒヤヒヤしているとけーはため息をつくだけだった。さすがに、手をあげるような真似はしない。

「いや、ちゃん付けは止めてくれ。薄気味悪ィ」

「そーかなー?けーちゃん可愛いし良いんじゃないかなー?」

「……かわっ……」

けーは絶句すると、頭を抱える。このまま定着するのだろうか。

「……ちゃん?ちゃんだと?」

自らの頭を砕く勢いで頭を圧迫すると、花梨がけーの手に手を添える。

「どーしたのー?けーちゃんー?」

「……なんだか、もう、どうでも良いわ」

けーは諦めて、猫に向かってなー?と同意を求めると、ネコがニャアーと鳴く。そうかそうかと、けーは猫を撫で回し始めた。どうやら、現実逃避を始めたようだった。理奈と華波の足元にも猫が拠って来る。二人も猫を抱えるが、花梨のところには一向に近寄って来ない。

「おいでー、おいでー、ニャーニャー」

花梨が手を伸ばすが、猫は花梨に見向きもしない。ガックリと肩を落としてメニューに向き直る。だが、急に困ったような顔をする。

「……私、コーヒーはよく解りませんー」

「理奈達はなんでも良いんか?」

けーが聞くと、二人は猫に招き猫のポーズをとらせて、上げさせた手を下げる。そして、

「「にゃー」」

と言った。けーは鼻で笑ってから、ブレンドを四つ頼む。そして、隣に座る花梨に向き直ると、猫をホイっと膝の上に乗せる。

「猫さーん」

顔を輝かせ、撫でるが、猫は直ぐに逃げ出してしまう。花梨は肩を落とし、泣きそうな顔でけーを見ると、けーに抱きつく。

「けーちゃーん」

「俺は猫の代わりかよ?」

ベシッ、と頭に平手をして引き剥がす。けーはマスターに向き直る。

「マスター、エサー」

「お前の分か?」

「店潰してやろうか、この野郎?」

「冗談だよ、四人分な」

言いながらマスターはけーの目の前にキャットフードをおく。それを見た華波は迷わず、

「頂きまーす」

「アホか。猫のメシだ」

「猫まんま?」

「懐かしいな、おい。……ほれ、花梨」

けーはキャットフードの入った皿を花梨の目の前におく。花梨は首を傾げて、

「猫まんまってー、なんですかー?」

「あれだよ、飯に味噌汁ぶっかけたり、鰹節混ぜたりした奴とか」

「ならこれは後者をー、固めたものですかー?」

「は?」

何を言われたのか理解出来ていないけーの目の前で、花梨はそれを手にとり、

「頂きますー」

バッ!けーは花梨の手を掴んで、空いた手で口を押さえる。

「アホかよ!?オメェは華波か!?ボケをさらに被せんなよ!?」

「もがががが?」

「何言ってるか解んねェよ!?そしてオメェは何言ってたか解ってねェな!?これァキャットフードだ!猫のエサだ!解ったら二回頷け!解んなかったら一回頷け!解ったら口から手ェ放してやるよ!?」

そして花梨は、三回頷いた。

「なんだよ!?三回ってよ!?」

突っ込んでけーは手を放してしまう。花梨は困惑しきった表情をする。

「だって、けーちゃん、華波ちゃんがさっきこれを猫まんまって言って、けーちゃんに聞いたら説明してくれましたよねー?」

「だから三回か!もはや話が良く解んねェから三回か!?」

「はいー。お恥ずかしながらー」

「ホントに恥ずかしい頭だな!?馬鹿は華波で間に合ってんよ!?」

バンッ、とテーブルを叩き、

「良いか!?これはキャットフードだ!猫のエサだ!華波が言った猫まんまってのァキャットフードってのと、俺が説明してやったもんの二つの意味があんだよ!解ったか!?猫まんまってのと、キャットフードってのは解ったな!?なら頷け!」

コクッ、と花梨が頷く。花梨が口を開いた瞬間に、

「まだ喋んなよ!?華波はそれを解ってて、マスターのボケに便乗したんだよ!?んで俺が猫のメシっつったから猫まんまってさらに重ねてきたんだよ!

んで猫まんまが解んねェオメェに猫まんまを説明したんだよ!?解ったか!?」

「ああ、ボケだったんですねー?」

「……」

げんなり。けーはまた変なのが増えた、とため息をつく。理奈はそのさまを、始終笑って見ていた。

「おー、そうだ、花梨。あの野郎になんか言われたら俺に言えよ?説教しに行ってやるからよ」

けーが思い出したようにいう。花梨はあの野郎って誰だろうって顔をしてからけーに尋ねる。

「早川くんの事ですかー?」

けーは理奈達二人にアイツって早川って言うのか?と問いかける。二人が頷いて確認をとる。

「そうだ。それ以外の奴でも良い。俺ァああやって威張る奴が大嫌いなんだよ?」

「大丈夫ですよー。早川くんは素直じゃないだけでー、とても優しい子ですからー」

三人はため息をつく。けーはあのなー、と花梨に向き直る。

「その根拠は何よ?どっから来んだよ?」

「お花が好きな人に悪人はいないんですー」

ガクッ、全員が姿勢を崩す中、花梨は語る。

「早川くんはですねー、休んでる時に美化委員を押し付けられたんですー。誰もゴミ拾いなんて、したくないじゃないですかー?それで委員会も休んでたんですけどー、私が働いて下さいって言ったら、ちゃんと働いてくれるようになったんですよー」

「……へー。押しに弱いんかな?」

「皆さん、美化委員の仕事ってなんだと思いますー?」

そこで、花梨が三人に尋ねる。華波がハイハイ!と勢い良く手をあげる。

「ゴミ拾いとかの清掃と、花壇のお世話!」

まぁ、そうだろう。華波の答えに、理奈とは異論はなかった。

「残念ですー。正解は清掃だけなんですー」

「え?」

理奈と華波は驚き一度顔を見合わせる。

「なんでオメェ等、花の世話なんかするんだよ?どう考えたってんなの職員の仕事だろ?」

「え、いや、だって」

華波が花梨を指さす。理奈がはしたないわよ、と注意して指をたたむ。

「私もなんで勘違いしてたのかしらね。言われてみれば、美化委員の仕事に、花壇の世話なんてものはなかったわ」

「はいー。あれは私が勝手にやっている事なんですー」

花梨の言葉に、華波がギョッとする。あの花壇を一人で?

「委員会に入ってから、学校に申請して費用をもらって、それでしてるんですー。美化委員の、誰一人として、花壇の世話なんかしてないんですー」

「待って待って!」

華波が立ち上がり声を張り上げる。

「朝、早川くん水やり手伝ってたじゃん!?」

「はいー」

ニッコリと笑う花梨。そして、誰も気付かなかった真実を告げる。

「早川くんは、ただたんに、私のお手伝いをしてくれてるだけなんですー。仕事でもなんでもないのに」

理奈は頭を押さえる。なんであんな攻撃的に言っちゃったのかなーと、すこしばかり悔やむ。

「俺にゃ大した奴には見えなかったがな」

頭をかきながらけーがぼやく。少しきつく言い過ぎたと、反省しているのだろう。

理奈とけーは後味の悪さを噛み締めた。

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