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休み時間ーけーとメガネ君中編

夏樹と朝から暴走。朝の込み合う道路を縫うように走り学校まで夕飯を賭けて競う。リッター超えの夏樹に勝ち本日の夕飯を確保。

午前中に二度のケンカ。グループメンバーからの勝負すら本気で殴り倒す。

「うーん、平和だ」

メンバーの屍で椅子を作ってその上に座りながらけーは一般的にはとてもではないが平和とは思えない午前中を振り返りそう呟く。

菓子パンに噛みつき、甘いコーヒー牛乳を飲みながらけーは平和を噛み締める。

「……け、けーさんが、俺の上、に……」

「マゾかよ!?オメェッ!!」

下敷きにした相手の恍惚とした声と表情に、けーはギョッとして立ち上がる。

「毎日毎日ケンカ挑んで来てタフだな、とか思ってたらそういう事かよっ!?ふざけんなよッ!?テメェ殴られんのが目的かよッ!?」

「……あ、あぁ、けーさん、もっと……」

「キメェッ!足掴むな、バカヤロウッ!?」

ゴッ、とブーツの底で思いっきり蹴飛ばすと、恍惚とした表情で意識を失っていった。

「クソがッ、コイツのせいで平和な一日から途端に薄気味悪ィ一日に変わっちまったじゃねェかよ?」

ブルッと身を震わせると、気絶したメンバーを放置して屋上の出口に向かう。階段を降りて教室に戻ると、教室の中では男子が賭けをしていた。

「赤!」

「いや、豹柄!」

「黒だろ!?」

なんだか知らねェけど楽しそうで良いなー、と少しそっちの方に視線が行った時に、一人の男子と目があった。男子は楽しそうに笑う。

「けー、今賭けしてんだよー」

「見りゃ解んよ。ナニ賭けてんだよ?」

「すばり、けー!今日のパンツの色は!?」

「……」

場が、一瞬で氷ついた。賭けをしていたクラスメイトも、そんな直球で聞くとは思っていなかったのか、聞いた本人以外は氷ついてる。数少ない女子のサイテーという声が、小さく音をたてるばかりだ。

「……へっ」

けーが笑った。下を向いて笑って、彼等に背を向けると、静かに掃除用具入れを開ける。けーはその中から適当な木刀を手にする。

「正解は……オメェの脳ミソと同じ色だ、このバカヤロウッ!?ちぃとばかし確認すっかよ!?」

「つまりピンクッ!?」

「バカばっかかこの学校はよッ!?」

頭に木刀をフルスイング。流血した彼は、無言で倒れた。賭けをしてた他の連中に、頭頂部への強烈な一撃を見舞う。

「なんだか、この数分でスゲー疲れた」

「アハハ、大変みたいだね、けー」

メガネが笑っていた。この間またカツアゲにあった時に出来たというアザはまだ顔にくっきり残っていた。

「大変もクソもねェよ。俺も大概バカだけどよ、今日はおかしな奴が多過ぎんぜ?」

机に突っ伏す。チラッと昨日のブッフェに行った時に会った事が気になりメガネを見る。

「……って、オイ、メガネ。ナンだよ?その手や顔面の切り傷ァよ?」

「これ?……うん、ちょっと色々あって」

「切られたにしちゃ不自然だな?……獣かなんかにやられたんかよ?」

「獣って……ネコとか他に言い方ないの?」

「ん?ああ、そうか。ケダモノじゃベッドの中での俺だぜ、ってか?」

けーはゲラゲラと笑いながら言う。メガネは少し退く。

「……彼の事言えないくらいの下ネタだね……」

「俺ァ良いんだよ。オメェだって、昨晩どーせ俺とアイツでヌいたんだろ?」

「それ最悪だよ、けー。今までの君の冗談の中でトップだよ」

けーはメガネと談笑しながら、睡魔に襲われそのまま眠る。メガネはため息一つつく。

「本当、自由だよな、けーは」

会話の途中であっても、こうやって寝るんだから。けーの寝顔を眺めながら、メガネは初めて会った時の事を思い出す。

メガネ、とはもう彼の長いアダ名だ。中学の頃から散々オタクメガネ、と言われ続けイジメ、カツアゲの対象にされていた。

この学校に入ったのも、カツアゲしていたグループのリーダーに、無理矢理ここにさせられたのだ。いつでも金が出せるように、だろう。

入学式も終わって間もなく、クラスも同じで殴られ金を要求された。出す出さないは関係ない。とりあえず、殴るのだ。さも挨拶でもするかのように。

そこに居合わせたけーが、仲裁に入った。このクラス、この学校で好き勝手やらせねェと、カツアゲグループ全員をその場で叩きのめした。

それ以来、けーはメガネ、と一向に名前で呼ぶ事もなく、そんなアダ名をつけた。メガネというアダ名にはいつも馬鹿にしたニュアンスが込められていて嫌だったのだが、けーに呼ばれるメガネというアダ名にはそんな色はなかった。

「困った事があったら俺に言え。俺が解決してやんからよ」

その時、けーはクラスで「食い物」にされていた全員に向かってそう言った。理不尽な同級生、上級生。そういった連中をことごとく殴り倒し、学校の頭の生徒にも打ち勝った。

当然、その頃はケンカが絶えず、ボロボロの状態で学校に来る事も多かった。だが、それでも誰かの為に拳を、暴力を振り続けた。

結果として、一度けーは完全に孤立した。周りには敵と弱者のみだった。

そんな時、特にけーを目の敵にしていた集団のリーダーが他校の生徒数人に囲まれリンチを受けた。

リンチした側の溜まり場にその集団が殴り込みに行った時に、そこにいたのは、全員が病院送り状態にして独り佇むけーだけだった。

その時、真っ先に動いたのはやはりけーだったのだ。けーは単身で特攻し、リンチを行った全員と戦った。

誰しもが何故、と思う中、けーは彼等に言ったらしい。

「よォ。ケンカでもするかよ?」

満身創痍の身体で、さも食事に誘うかのような気軽な口調だったと言う。

そのままけーは彼等とケンカをした。だが、それまでとは違う、仲間と遊んでいるような感覚だったという。

その話が広まり、同じような事があるとやはりけーがいる。それは他校でも同じで、やがて、地域全域にまでけーの話が広まった。その頃から、常勝無敗、と謳われるようになった。

以来、けーは一年近くの間学校の頭として君臨する事になった。三年の頭ですら対等に接する事の出来る人物となった。

「……本当、滅茶苦茶だよなー」

お陰でこの界隈で喧嘩こそあれど、弱者をなぶるような行為は行われなくなった。安全な町とは程遠いが、学生やけーを知る者の中での暗黙の了解は出来上がっている。

午後の授業を夢の世界に逃避してサボったけーは、思いっきり伸びをする。気ィつけて帰れよ!とメガネの背中をバシバシと無遠慮に叩くと、早々に帰路につく。

「……あー、良い天気だなー」

ポカポカした陽気。11月にしては温かい気候。晴れ渡った空。

「おっし」

目的地を家から変更。けーは近くの自然公園に進路を変更する。

喧しい排気音に、公園にいた老若男女が戦く。ヘルメットを外してハンドルに引っかけると、けーはフラフラとベンチに座り込む。背もたれに腕をかけ、足をだらしなく投げ出した、年頃の乙女とは到底思えない格好のまま、けーは日光浴を楽しむ。

「……平和だー。この平和を乱す奴がいたら俺は間違いなくブッ殺す」

その言葉そのものが平和を乱しているとは気付かずに、けーは至福の一時を味わう。やがて睡魔に襲われ、うとうとし始める。

「おうおう、高沢くんじゃねーかよ?」

「ちょっと来いよ?」

「……あん?」

至福の一時というのは、続かないから一時なのか、等と妙な悟りを覚えつつ、けーは身体を起こす。

見れば、メガネがヤンキー5 人に囲まれている。メガネは身体を小さくしているが、そのさまが面白いのか、彼等はメガネの身体を小突いている。

「……ってか、アイツの名字高沢っつったんだ」

まァ、メガネはメガネだけどな?と、けーは改めて高沢の名前をメガネと命名し直す。高沢、もといメガネは大分彼等に怯えているようだ。メガネを囲む連中の服装はこの辺りでは見かけない学校の制服だ。他地区の連中かよ、とけーは判断すると、身体を起こす。未だに市を越えたりすると、けーの常勝無敗伝説は知られていない事もある。そうすると、カツアゲ禁止令も知らない連中がいる。そうした輩から、未だにメガネは度々カツアゲされているのだ。

「……お、お金は、出さない、ぞ……っ!」

「お?」

近寄っていたけーは、メガネの言葉に驚く。メガネは、華奢な身体を恐怖で震わせて拳を握って、彼等を拒む。

「いつも、けーに頼ってちゃいけないんだ……」

「……」

こーゆーの、進歩って言うのかな。けーはメガネのその成長を嬉しく思いながらも、呆れてしまう。

メガネは、どう見たってケンカ慣れなんかしてない。そんなメガネが、どうやってこの人数に勝つというのだ。けーはせっかくの彼の決意を無駄にしてしまう後ろめたさを覚えながらも、彼等を処罰する事にした。

「オイ、テメェ等?人の町でナニしてやがるよ?」

「あん?」

「んだ、テメェ?」

「女が意気がってんじゃねーぞ?」

「けー!?なんでここにいるの!?」

「なんとなく陽気が気持ちいんで、表で昼寝でもしようかと思ったらオメェがいたんだよ。本当にオメェは人気だなァ?」

「テメェ!人ん事無視してんじゃねーぞ!?」

彼等の発言を総無視したけーは、彼等の怒りを買い囲まれる。けーはハン、と鼻で笑う。

「テメェ等、人じゃねェだろ?ハイエナだろ?弱い奴に群れでタカる事しか能がねェんだからよ?人間様舐めんなよ?」

「テメェ!」

本日三度目の喧嘩。それを一瞬で片付けると、けーはお決まりのお仕置きをして公園の入り口に彼等を放置する。

「災難だったなァ、メガネ」

けーは笑いながらお礼として奢って貰った缶コーヒーを飲む。メガネは隣で少し意気消沈している。

「けー、いつからいたの?」

「ただ偶然通りがかっただけだ。声が届く距離になったから声かけた。遠目でもカツアゲって解ったしな」

何も聞いていない風に装う。今の決意表明を聞かれたと知れば、さぞ恥ずかしがるに違いない。そこは聞かなかったフリをするに越した事はないだろう。そのお陰か、少しけーはメガネの背筋が伸びたような気がした。

「アイツ等知り合いかよ?」

「中学の、頃のね……。ぼく、引っ越してきたからさ。けーの事知らないでカツアゲしてくる人も、まだいるんだ」

「活動範囲広げねェとダメかァ?」

今でも広い気はすっけとなァ、とけーはぼやく。

「大丈夫だよ。けー以外にも、けーの事知ってる人達とかも助けてくれるし」

ぼく、用事あるから。と言い残して、メガネは公園の奥の方に消えていく。

「……あ?」

メガネの家って、逆方向だよな?けーはくびを傾げる。腑に落ちない。それとも、公園の奥に用事だと言うのだろうか。

「ま、良いや」

けーは気を取り直してベンチの上でくつろぎ始める。遠くの方で、直管の音がする。それに混ざるパトカーの音。

「カーチェイスかァ?……俺も久々にやってみっかァ……?」

「んなんでパクられたらどーするんですか、けーさん」

「知らねェよ、夏樹ィ」

身体を起こせばそこには缶コーヒーを持った夏樹がいた。けーは夏樹から缶コーヒーを取ると、それを飲み干す。

「……となりに空き缶があるから失敗したかと思ったら他の誰かのだったんですね」

「いや、これもさっき飲んだ奴。なァんか、喉渇いてよォ」

「大口空けて寝てるからじゃないですか?」

「げっ、んなに空いてたかよ?」

慌てて口元を押さえる。夏樹は笑いながら、

「冗談ですよ」

「テメェ、ビビらせんなよ?」

けーがげっそりしながら言う。 夏樹はニッコリと笑う。

「今ので俺が見てない時のけーさんが気をつけてくれれば幸いです」

「けっ、よく言うぜ。……そういえば、よ。ちと相談があんだよ」

けーはメガネの事を話す。どうも自分のカバーしきれない部分がある。夏樹のチームの機敏さはこういう事案にはよく使える。

夏樹は解りました、と頷く。

「放課後の時間帯、とくに真っ直ぐ家に帰るような学生のカバーは俺達に任せて下さい。市内だけで大丈夫ですか?」

「ああ。あんま無理は言えねェ。俺も複数人つくように言っとくからよ」

「解りました。市内の駅、市外から来るバスの行楽地に近いバス停にはチームの連中を配備しときます」

「悪ィな」

「いえ、皆けーさんの事慕ってるんで大丈夫ですよ」

慕ってるか。暴力解決してる俺も、ある意味奴等とは同じだがな。けーは自嘲気味に笑う。

「ああ、そうだ、けーさん。今日行くとこには昨日の可愛らしいワンピースを着て着て下さいね?」

「ぶっ!?」

けーが吹き出す。夏樹は楽しそうに笑いながらベンチから立ち上がって、公園の出口に向かって行く。

「なに、どうせけーさんの事です。洗濯に出さずにその辺に放ってあるんでしょう?アイロンでもかけてファ×リーズでもすれば平気ですよ」

「ウルセー、バカ!洗濯くらいしたわ!っつーか、何で知ってんだよ!?」

夏樹はニヤニヤと、いつもの爽やかさを微塵も感じさせない、楽しそうな笑顔を浮かべている。

「洗濯、今日はよく乾きそうな天気ですねー。俺も溜まってる洗濯全部しちゃいましたよ。もう、乾いてたな」

謀られた。夏樹は紳士だ。洗濯していない服を着ろ、なんて本気で言う訳がない。

「……ッタク、オメェはよ」

けーは夏樹の背を見送りながらぼやく。和乃と付き合ってんだから程々にしろよ、けーは溜め息をこぼしながら再びベンチに身体を預ける。

そして、日が沈む頃までそうやっていると、身体を起こして一度家に帰る。そして、ワンピースの前でしばらく己と戦う。

「いや、夏樹の言う事なんか気にする事ァねェ」

そう、自分に言い聞かせた。言い聞かせたのだが、

「おー、写真で見るより全然良いじゃないですか、けーさん!」

「……」

着てしまった。夏樹はけーの家の前にバイクを止めて、その姿を愛でている。けーの顔は羞恥と怒りで真っ赤だ。

「うるせェぞ?コラ?」

「その服だと、怒った顔も愛らしいなー、可愛いなー」

夏樹は大分骨抜きだった。

かくいう夏樹も、黒のスラックスにジャケット、白いシャツで大分フォーマルだ。ワンピースを着て来いと言ったりなんなんだろう、とけーは首を傾げる。

「乗って下さい、けーさん」

夏樹はバイクに股がると、けーに言う。けーはスカートに気をつけながら乗ると、夏樹の腰に腕を回そうとして、後ろの、荷物を括る時に使うパイプを掴む。

「良いぜ」

「けーさん、そこ掴んでると大分怖いって聞きますけど、大丈夫ですか?」

「うるせェ」

けーの返事に肩を竦めると、夏樹はエンジンをかけて走り始める。

結論、本当に怖かった。

「……テメェ、高速乗んなら先言えよ!?」

「いや、だから怖いって警告したじゃないですか」

「下道だと思ってたわ!なんで高速で前傾姿勢のオメェの後ろで、俺ァ普通に座るんだよ!?つーか高速乗って行くようなとこまで来たんか!?」

「落ち着いて下さい。行ってみたい店があったので、銀座まで来ました」

「……」

銀座?銀座ってなんだ?いや、地名だろーな。銀座ってどこだっけ?

「……。銀座!?」

けーは改めて周囲を見る。高層ビルに華やかな光。社会人の夏樹はともかく、高校生の自分がこんな町に来て良いのだろうか?

いや、良くみれば若い連中もいるな、とけーは頷く。だが、どうしても周りと自分はあまりにも違う気がした。誰も彼もが、すごくお洒落をしているせいかもしれない。

「……これなら、俺ァ普段着のが良かった」

付け焼き刃のようなワンピースでは、かえってうくのではないだろうか。気合いも入るし。髪もいつも通りカチューシャでオールバックのままだし。

「カチューシャ外しましょうか」

「……その方が溶け込むかよ?」

「ええ」

けーはカチューシャを外してバッグの中にしまう。適当なショーケースで髪を確認するが、クセはついていない。

「……」

夏樹は顎に手を当てて、ショーケースで髪のクセを確認するけーの姿を眺める。何かが違う気がした。

「けーさん、ちょっと」

夏樹はけーの肩を引くと、適当なショップに入る。けーが何事かと思うと夏樹はきらびやかなアクセサリーコーナーに向かう。

「……これ、だな」

ショーケースをしばらく眺め、小さくぼやいたかと思うと、けーの方に振り向く。

「けーさん、これ、付けられますか?」

言いながら、夏樹は店員にアクセサリーを取らせる。細いブレスレットだ。キラキラとゴールドが輝いていて、キレイだとけーは素直にそう思えた。

「わかんねェ」

言いながら思わず手が出た。ハッとして引っ込めようとしたが、夏樹がガシッと手を掴む。

「テメ……ッ!」

「暴れてショーケースの中身吹っ飛ばしたら、ただ事じゃないですよ、けーさん。地元じゃないんで」

「グッ」

けーが怯んだ隙に、夏樹は店員にブレスレットを巻かせる。巻かれたのを確認してから夏樹は腕を放す。数歩後ろに下がって、マジマジと眺める。

「似合わねェだろ?外そうぜ」

「悪く、ない。いや、むしろ良い方か。……店員さん、これ会計で」

「お、おい、夏樹!?」

クレジットカードをポンッとマネートレーに放る。店員がけーの手首に巻かれたブレスレットからタグを切る。会計を済ませると、保証書を受け取り、それを財布の中に仕舞わず、けーに渡す。

「これ、ギャランディーです。あ、保証書の事です」

「待てよ!?これ高ェんだろ!?んなもんさすがに」

「けーさんが俺の頼み聞いてくれたからそのお礼ですよ」

頼み?服の事か?けーが自分の服を見下ろすと、そうです、と夏樹は頷く。

「理奈さんの学祭の時とは違う、けーさんが自分の意志で苦手なスカートを履いてくれたのが嬉しいんですよ。よく、似合ってますよ?」

「……うるせェ。誉めても、何も出ねェぞ?」

「足が出てるんで良いです」

「ついでに手もな?」

少し嬉しく思いつつも、照れ隠しでゴッ、とけーは夏樹の脛に蹴りを入れる。夏樹は痛っ!と声を出すと飛び退くが、楽しげだ。ッタク、けーは呆れて溜め息をつく。

「こーゆーもんは和乃に買ってやれよ」

「和乃にはまだ早いですよ。ストレートを出す前にはジャブを出さないと、いけませんからね」

しゃあしゃあと、よく言うぜ。呆れしまう。

「けど、場外にいる奴に殴りかかるのは反則だろ?」

「いいえ。だって、俺達はボクサーでなく喧嘩屋ですから。反則なんて存在しません」

「浮気者め」

「けーさんには一生仕える予定ですから。和乃にも、ね」

本当にしゃあしゃあと良く言う奴だ。

「っつーか、なんで銀座なんだよ。いつも地元の店じゃねェかよ?」

「いや、その、和乃と行く店の下見って言いますか……」

「……はァん、体よく利用されてんな、俺ァよ」

けーは意地悪気に笑うと、夏樹の背中をバシバシと叩く。

「和乃泣かせたら、マジで許さねェぞ?コラ」

「解ってますよ、けーさん」

夏樹は、幸せそうな笑顔を浮かべながらそう言った。

夏樹の店のチョイスは、普段から美味しく、雰囲気も良い。夏樹はよく見付けてくるな、と度々感心させられる。だが、

「……間違っても和乃とは行くなよ?」

「……ええ、解ってます。さすがに、失敗でした」

「……あんなに生きた心地がしねェ店ァ初めてだ」

立地も立地、店も店。満腹に食べたハズなのに、どうも味が思い出せない。さすがに高い店の空気に、けーも気後れして、言葉使いがかなりおかしな事になっていた。

「……おい、夏樹」

「……はい、なんでしょう」

「あれ、食ってかね?」

けーが笑いながら指さしたのは立ち食いソバだった。夏樹はけーのチョイスに笑いながらも、はい、と頷く。

その日の夜、けーはメガネに、今日会った自然公園で話がしたいと呼び出された。わざわざ外に、呼び出すくらいだ。それなりに、厄介な事案なのかもしれないな、とけーは気を引き締めた。

高沢こと、メガネの相談とはなんでしょう

一応ヒントはばら蒔いてはいるのですが、如何せんまだ上手くありません

上手に書けるよう、努めタイトル思います!

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