番外編:そして魔王は西より来る-4
ポエム難しい
【熱闘! 宝塚記念直前SP各陣営直撃インタビュー!】
『と、いうことで本日は宝塚記念に出走予定のダイランドウが所属している須田厩舎にやってまいりました。須田調教師、今日はよろしくお願いします!』
『はい、よろしくね』
『いやーダイランドウ、国内古馬短距離GⅠ完全制覇ということで、おめでとうございます!』
『ありがとうございます。去年の今頃は世代の中では面白馬の一頭だったダイスケが、あーこのような偉業を達成出来るとは、まあ恐らく私含めて誰も考えては居なかったと思うのでね。そういう予想を裏切る活躍をした本人を褒めてやってほしいですね。
あとそんなわけの分からん馬に乗ってくれる国分寺騎手にはいつも頭が下がります。同一馬、同一騎手による完全制覇なんて恐らく二度と無いと思うんでね、この栄誉に与れた事を調教師として誇りに思います。えー、メディアの方々にはもっと称えていただきたいと思っております』
『あはは。最後、実に須田調教師らしいコメントをいただけました。
さて、話は変わりまして宝塚記念についてお伺いいたします。
ダイランドウは安田記念から宝塚記念への出走と、ローテーション的にはそれなりに短い間隔での出走となりますが、その辺りの調整は順調に進んでおりますでしょうか』
『確かに安田からの間隔は短いけど、今年は春全体の出走レースが控えめだったのでね。前走後も疲れは見られなかったので予定通り春シーズンの祭典に出走する運びとなりました。
調子そのものはね、やっぱり大目標にしていた安田記念のお釣りで走る部分があるんでね。前走程の仕上がりとは行かないけど、十分力を発揮できる程度には調子を維持してますよ。なんかねぇ、こういうコメントするとパドック解説みたいだねぇ』
『究極的には馬を見るのですから、似た部分はあるのかもしれませんね。
それでは本番、注目している他馬はどの馬になりますでしょうか』
『ダイスケが出る以上はレースがハイペースになるわけだけど、そういう適性で見るとキャリオンナイトなんかが怖いね。JC、有馬、大阪杯ととんでもないペースの中上位に食い込んできてる訳だし。
とはいえ出走する馬はどれもチェックするよ。やっぱ今年の宝塚はレベルが高い。本当に久しぶりなんじゃない? こんだけメンツが揃ったの。
まあそんな中でこっちはスプリント、マイル王者だしね。王者の走りで迎え撃ちますよ』
『頼もしいお言葉をいただきました。以上、須田厩舎からお送りいたしました』
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開催最終週の阪神競馬場は、どこか「やれやれこれで一区切りか」といったウィークエンドのような雰囲気に包まれる。長らく続いた春競馬。その締めくくりとなる宝塚記念をその日に迎え、残す所は出走のみ。気が抜けるのかもしれない。
騎手待機所にもそのような雰囲気は漂っていた。ただし、それはこの後の宝塚に騎乗しない人間の話で、親友との絆が懸かっている文昭にとってその空気は気に障る物だった。
虚空を睨み足先をゆする文昭は見て取れるほど神経質になっていた。そんな文昭に近づく人間が一人。
「やっほーフミっち。なんか元気ないね?」
競馬学校の同期、同い年の八源太はそんな文昭の様子をまるで気にした様子もなく、気の抜けた声をかけた。
「源太か。そりゃレース前だからな」
「そんなんじゃ硬くなって動けないんじゃない?」
「うるせーいろいろあんだよ」
「ふーん」
それでどこかに行くのかと思いきや、八は文昭の隣に腰を降ろした。遠巻きに様子を伺っていた人間も、当の文昭もこれには面食らった。
「スティールソード、なんか調子悪いの?」
「いや、んなことないけど」
「じゃあなんでそんな暗い顔してるの?」
「俺、そんな顔してた?」
「フミっちが昔好きだったアイドルが熱愛発覚したときくらいには」
「嘘吐け俺はアイドルなんか興味ねえよ」
「ふーん。爆乳Jカップアイドル篠崎くらま、だったかなー?」
文昭は己が膝に突っ伏した。そして搾り出すように、
「なぜ、それを……」
「フミっちムッツリすぎるんだよ。この話、同期じゃ結構有名だったよ」
「知りたくもない事実を知らされたわ」
「元気出てきた?」
「いや全然。むしろお前はヨユーそうだな」
「僕はほら、荒らす側だから気楽っていうか? その様子じゃフミっちはオーナーさんサイドから突っつかれたって感じかな。フミっちあの馬に入れ込んでたもんねぇ、大変だ」
「うるせーな、お前何しに来たんだよ。あっちいけあっち」
「邪魔しにきたんだよ。ライバルは少ないほうがいいからね! じゃ、本番までその調子でよろしくー」
現れた時同様、飄々と八は立ち去った。
文昭はその背中を睨みつけ、やがて大きく溜息を吐いた。
気を遣われた、そう感じたからだ。
「いつもそうだなあいつは。余計な気を回しやがって」
それでいていい所だけは絶対に譲らない。腹が立つ野郎。でも憎めない奴で、そこがまた一段と腹が立つ。
八は文昭たち同期の中では最も騎乗技術を評価されていた。18で卒業、今年で5年目。昨年のJCでGⅠ初騎乗してからメキメキと頭角を現しつつある。同期の中では最も早くGⅠジョッキーとなった文昭だが、八との間に騎乗技術とレースの流れを読む才覚について差があることは認めていた。それがそのまま騎乗回数という数字で現れている事も。
(見られているんだ。評価されているんだ。いつだって、どこだって、誰かから)
八だってそのはずだ。キャリオンナイトは元から派手な戦績を持つ馬ではなかった。今年は6歳のシーズン。長くともあと一年、恐らくは年内で引退だろう。そうなれば是が非でもGⅠが欲しかろう。八に乗り変わってから全走複勝圏内であり、どれも相手が強かったとしか言いようの無い惜しい内容の負け。だからこそ騎手にかかる期待は増す。
文昭は知っていた。八は緊張している時、周囲の人間と会話して気を紛らわせることを。
そんな事情は誰にだってある。ストームライダーの竹田ほどのベテランでさえ負けた後散々叩かれていたし、距離延長に懐疑的なダイランドウの国分寺にだって爆発炎上がある以上重圧がかかっている。他の馬だって、騎手だって、みんなそうだ。
(誰だってそうだ。勝ちたいんだ。それを俺は何様だ、負けられないだなんて)
走る以上、勝つのは一頭と一人。二着三着は好走であっても勝利ではない。
そうであるならば。勝つのは一番純粋な奴であるべきだ。
そうであればいいと文昭は思う。
細く、長く息を吐く。
開いた膝に肘を乗せる。前かがみになれば、自分の身体でやや陰る床だけが映る。
余分を削ぎ落とす。
負けられないだとかいう傲慢な雑念。
負けた後の処遇。
勝った後の事。
勝ちたい理由。
削って叩いて。
そうして残った馬と騎手。
そうだ。俺はスティールソードの細原文昭だ。二分間だけ切れればいい。
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《雨には至らぬ曇り空、さりとて晴れるは人の心。
春の仕事を一つ終え、やってきたるは夢舞台。
今年もこの日がやってまいりました。第NN回宝塚記念でございます。
なんと、と言うべきなのでしょうか。今年の宝塚記念は海外遠征中の2頭を除けば人気投票の上位10頭が全頭出馬という、創設の理念からすれば望ましく、さりとて宝塚記念としては異例の事態となりました。
GⅠ勝利馬が5頭。そして長距離路線からはスティールソードが、短距離路線からはダイランドウが、中距離路線からはストームライダーが、それぞれを代表するエキスパート達までもが集っております。
それを迎え撃つ前年度覇者モデラート。強力牡馬勢力にどう立ち向かうか牝馬代表コトブキツカサ。
それぞれの王者が鎬を競います。勝つのは一頭。ここ、阪神競馬場2200mにてまもなく決戦の火蓋が切って落とされようとしています。
実況は私、塩沢浩二がお送りいたします。
まさにドリームレース。国内の優駿が集う超一流のレースとなった第NN回宝塚記念。
古馬牝馬マイル戦を征し、スピードの絶対値を示した3歳女王コトブキツカサ。
年末、香港の舞台で世界を相手に圧倒し、大阪杯にて王者サタンマルッコと激闘を繰り広げた中距離の猛者ストームライダー。
そしてそれらと歩みを共にし、何度も追い詰めた歴戦の古馬キャリオンナイト。
史上初となる古馬短距離戦線完全制覇を成し遂げた韋駄天の申し子ダイランドウ。
世代戦で鎬を削り着実なる成長を積み重ね、ついに戴冠した春の長距離覇者スティールソード。
迎え撃つは前年度覇者、昨年の天皇賞秋をも征した中距離の王者モデラート。
他にも虎視眈々とそれらを狙ういずれ劣らぬライバル達。
これほどの名馬達の中から勝者を決めてしまってよいものなのでしょうか。
レースへの出走を決断した各陣営に、私は一競馬ファンとして敬意を表したい。
そして、これほどのレースを観戦できる喜びを噛み締めたいと思います。
海外遠征中の2頭が加われば最強決定戦と謳ってよいでしょう。しかし欠けた夢だからこそ、その先を見たいと追い求めるのかも知れません。
春から秋へ。ドリームカムオータム。まずは春の夢を共に見守りましょう。
正面スタンドから右手側奥、2200mコースの発走地点にてゲート入りが順調に進んでおります。宝塚記念は直線奥の発走地点よりスタートし、内回りを一周するコース。
果たして二度目の直線を先頭で駆け抜けるのはどの馬なのか。
現在偶数番号の馬がゲートに収まっているところです。
最後、⑯番スティールソードが収まって体勢完了。
第NN回宝塚記念。
…………。
スタートしました!
⑬番ダイランドウが勢い良く飛び出していきます。
まずは阪神競馬場第一コーナーまでの直線500mのポジション争いですが、内の方スーッとストームライダー今日は前目の競馬を選択した様子、先頭のダイランドウが猛然と駆けていきます1馬身2馬身差が開いてグングン加速。
⑩番ハルランマンが内へ寄せて二番手、その横内ラチ沿い⑤番ストームライダーがつけて②番コトブキツカサ前目のやや珍しい位置取り、切れて馬群が固まり①番グリムガムジョー、⑨番オリジナルランク、④番グレーターミューズ、そして昨年王者③番モデラートは馬群の中! このあたりぞろぞろっと固まっています。
そんな中、外! 直線大外を直進するのは⑯番スティールソード、ゲートを出たまま真っ直ぐ進んでいった感じでしょうか、横に8馬身程あけて、どのあたりでしょう中団かそのあたりを走っているようです。
先頭ダイランドウが早くもコーナーを曲がり向こう正面へ差し掛かります。あれよあれよと10馬身以上、いやこれはもう15馬身近く差が開いているのでしょうか。猛烈な、というよりこれは大丈夫なんでしょうかダイランドウ。1000m通過が57秒0と尋常ではないスピード!
間を10馬身程あけて追走するのは⑤番ストームライダー。1000m通過からじわじわと先頭との差が詰まって……いや、ダイランドウが再び差を開きます。
うん? 一体どうなっているんでしょうダイランドウ。大丈夫でしょうか今日は2200mあるぞ? ゴールまではまだ結構ある。ダイランドウはかなり張り切っている、鞍上国分寺騎手これで大丈夫なのでしょうか。
後ろに戻りまして二番手ストームライダー追走、こちらもハイペース、その後ろ3馬身程切れて隊列が形成されています。⑩番ハルランマン、②番ヴィクトリアマイル覇者コトブキツカサ、①番グリムガムジョー、有馬と違って今回はかからずに上手く行っている感じの本田騎手。
やや間が空いて内ラチ沿い④番グレーターミューズ。追走③番モデラート。
おっとどよめき、大歓声、後方スタートだった⑪番キャリオンナイトが今日も上がっていった。3コーナーの手前、今回も残り1000mの地点からのスパート、大阪杯のような動きを見せている!
これを見て各馬手が動いていく!
後ろからは⑥番ラストラプソディーが⑯番スティールソードを引き連れて外を上がっていく、ペースが上がり前との差が全体的に詰まってきた!
3コーナーに差し掛かります。
見えない勝負所の3コーナー、ポジショニングが激しくなっていきます。
グレーターミューズやモデラートはどうだ、包まれてやや進路が苦しく見える!
先頭ダイランドウはどうだ、どうにも脚が上がっているように見える。心なしか馬も「あれ?」といった顔! ずるずる後退して二番手ストームライダーに交わされるか、間もなく4コーナーというところで交わした先頭が入れ替わります。
ダイランドウ、これはどうやらペース配分を間違えたか!
内ラチ沿い位置を下げるダイランドウを交わす形で外に膨れる後続各馬。
早くもストームライダーが先頭、追走するコトブキツカサ、グリムガムジョーはその差3馬身!
後ろの方ではキャリオンナイトが一足速く外を回って馬込みを突き抜けてきた、そしてその後ろを通って⑥番ラストラプソディーと⑯番スティールソードも追い込み体制!
二頭は外に回した形!
さあ混戦状態のまま阪神競馬場の直線を向いた!
先頭はストームライダーリードいまだ3馬身!
懸命に追うコトブキツカサ海老名外志男!
GⅠが欲しいグリムガムジョー本田義弘必死に追いすがる!
しかし先頭はストームライダーリード保ったまま!
残り200m!
馬場の真ん中を一気にキャリオンナイト、キャリオンナイト!
突っ込んできた凄い脚!
大阪杯とは立場が逆になったかストームライダー、キャリオンナイト!
差が詰まる! キャリオンナイトッ!
1馬身!
並んだ!
ラスト阪神の坂!
抜いたか!? 身体半分キャリオンナイト! キャリオンナイト先頭!
ここで大外一気にラストラプソディー!
ラストラプソディー!
坂ののぼりで凄い脚! もう一頭⑯番! ⑯番スティールソードも居る!
外の脚色がいい!
交わした! 先頭ラストラプソディー! ラストラプソディーッ!
先頭ラストラプソディー川澄翼1馬身抜けたッ!
だが更に外にはスティールソードがぴったり付いている!
坂の頂上もう残り50mもない!
ラストラプソディー! スティールソード!
ラストラプソディーか! スティールソードか!
外の二頭! 外の二頭の勝負になった!
内ストームライダーが再び伸びるが外の二頭!
どっちだ!
どっちだ!
外の二頭が並んでゴールインッ!
最後は外の二頭の追い比べ!
⑥番ラストラプソディー、⑯番スティールソードこの二頭!
内では最後⑤番ストームライダーがもう一度差し返したか!
しかし、しかし手を上げている!
左鞭で大きなガッツポーズ! 手応えあったかッ!?
――――…………》
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『放送席放送席。勝利ジョッキーのインタビューです。
スティールソード鞍上、細原文昭ジョッキーです。
どうでしたか。細原さん。最後のゴールした瞬間、やはり差しきった確信がお有りでしたか』
『はい。あの、はい。最後首の上げ下げになったんですが、一完歩前からタイミングが完璧だったので、後は脚を伸ばすだけでした。テツゾ、あいやスティールソードも頑張ってくれたおかげで差しきる事ができました』
『今日はいつものスティールソードのレース展開らしからぬ位置取りでしたが、そうした指示が事前に出ていたのでしょうか』
『いくつかあるパターンの一つではありました。そもそもスティールソードは位置取りに拘りのあるタイプの馬ではないんで、今日はまぁ、ダイランドウがいたので絶対ペースが速くなるとは思っていたので、後ろから差しに行こう、と考えていました』
『なるほど。最後は首の差でしっかり差しきりましたが、デビュー以来のタッグということで、末脚に至るまで完全に把握していたという事でしょうか』
『そうですね。あの位置からなら届くと信じて騎乗していました。けど最後は馬場の差だったと思います。スタート直後、真っ直ぐ走ってみて改めて感じたんですが、やはり開催最終週で内の方は結構荒れてたんで。正直ラストラプソディーが外に出すとは思っていなかったので、その分外を回らされてそこは計算違いで焦りました。
けど最後の最後は馬が勝たせてくれたと思っています』
『奇策に思われたスタート直後の横独走にそんな意味があったんですね』
『や、そんなに考えてないですよ。必死だったんで』
『と、照れ隠しの細原文昭騎手。見事な差しきり勝利、おめでとうございます』
『ありがとうございます。関係者の皆様、ファンの皆様のおかげを持ちまして勝つことが出来ました。これからも応援よろしくお願いします』
『最後に何か一言を』
『……これで挑む資格を得たかな、と思います。秋には海外遠征勢が帰って来ます。
サタンマルッコにはやられっぱなしなんで、中長距離の国内覇者としてそれらを迎え撃ちます。引き続きのご声援、どうぞよろしくお願いします』
『ありがとうございました。第NN回宝塚記念、勝ち馬のスティールソード鞍上、細原文昭ジョッキーにお話を伺いました』
古戦場が終わったのでちょっとずつ書き溜めていきます。
更新日についてはちょっとまだわからんです。




