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エピローグ:誰かの畜生道

 人類が宇宙と呼ぶ空間。その天頂にその存在は眠っていた。

 "それ"は魂の輪廻と浄罪を監視する存在であった。


 ふいに、穢れた魂の気配を察知した。

 宇宙を顕微し、小宇宙の辺境銀河、第三惑星の青い星を映し出した。

 なるほど。確かに多くの魂に穢れを感じる。しかし何故だろうか。

 疑問を抱いた"それ"は、経験測からこういった問題の解決には、無作為に魂を選び出し、聞き取りを行う事が最適であると知っていた。無用な殺生を避けるため、選出した魂を複写し、複写した魂を目の前につれて来た。

 そして問うのだ。


「何を望む?」


 複写された魂は思うが侭の色欲を望んだ。

 "それ"は嘆いた。なんと穢れた魂かと。このような穢れが青い星には蔓延しているのかと思うと、いっそ彼らの救いの無さには哀れみすら覚えた。

 こうした魂に人間道は必要ない。四足の姿こそが相応しい。

 穢れた魂を畜生道に加え、疲れから"それ"は再び眠りに付いた。




 試練の気配に目を覚ました。

 何某かの魂が、厳しい試練に挑もうとしている。

 気配を辿れば、いつかの青い星だ。


 魂は、修羅道に堕ちた人の魂であった。戦いを称賛し、快楽の糧とする穢れた魂。

 修羅道の人間らしい、自己矛盾と厳しい選択の間に煩悶していた。

 驚くべき事に、その傍らにはかつて色欲の権化とすら感じられた、畜生道に生きるあの穢れた魂も居るではないか。浄罪が進んでおり、健全な輝きを放ち始めていた。


 そして"それ"は全てを見届けた。


 修羅は試練に打ち勝った。

 畜生は人の輝きをその身に宿した。


 戦いを称賛し、快楽を見出す修羅の救済は成った。

 色欲を憧憬し、溺れる畜生の救済も成った。


 解脱である。


 美しい魂が二つ、出来上がった。

 輪廻の暁には、修羅道に拠らず。畜生道にも拠らず。人として生を迎える事であろう。

 "それ"は満足して頷いた。澱んだ魂の巣窟であった青い星が、僅かに涼やかな状態を取り戻したのだから。

 しかし、こうも思ったのだ。


 欲もまた、輝きであった。

 天道に非ず。

 人間道こそが相応しい。



以上を持ちまして本編完結です。

活動報告の方に完走した感想とこの後の更新についてまとめてあります。

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