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6F:彼の迷い-3

 おうまなみの競馬ブログ!~10月号~



 菊花賞プレイバック

 週中から雪のちらついた京都市内。波乱の予感もひしひしと、クラシック最終戦がやってきた。

 うへ~雪かよ~雨かよ~出遅れかよ~ルーデスかよ~と事前の予想を散々裏切ってくれた菊花賞だったわけだけど、終わってみれば1-2-8番人気の堅い決着だった。いややっぱ3着ヤッティヤルーデスはちょっと意外だったわ。

 もちろん、現地で見ていた人は誰一人として堅く終わったなんて印象を抱きはしなかっただろうけどね! ひやひやさせやがって!


 レースはスタートから大波乱。なんと一番人気のサタンマルッコがスタートで躓き大きく出遅れてしまったのだ。ゲート内で立ち上がって出遅れたフリートの宝塚が頭を過ぎった人は多いんじゃなかろうか。

 皆さんご存知のように、京都競馬場は3コーナーから4コーナーにかけてが下り坂になっていて、向こう正面で長く坂を上るコースだよ。

 坂の下りをトップスピードで下ると外に膨れてロスになるからゆっくり下るのが定石。ゆっくりとはいっても下り坂だからタイム自体は速いんだけどね。

 菊花賞はこの3コーナーから始まる長距離のレース。だから多少の出遅れなんかは道中で幾らでも取り返せるんだけど(この辺が強い馬が勝つなんて言われてた理由の一つかな)今回みたいな10馬身以上の遅れは流石にきついよ!


 正面スタンド前~2コーナーまでは淡々と流れて、向こう正面に入ったところでレースが動いた。

 最後尾のサタンマルッコが外へ出して集団に大きく並びかけた。横田騎手が追い始めた時は場内騒然。おいおい大丈夫か、よしよしいったれ、言ってる事はバラバラだったけど皆がサタンマルッコに注目していたね。


 それまで緩い流れだったんだけど(1000m63秒、1400m89秒)そこから一気にペースが加速。坂の上りにかけて各馬一気に足を使ったんだけど、動き出しの差でサタンマルッコが前に付けたね。

 一方で万事上手く事を運んでいたスティールソード、後ろのペースアップもなんのその、淡々とペースを刻む。ストームライダーは坂の上りの時点でどこかぎこちなかったね。馬混みに飲まれてそのままって感じだった。


 さて、前に付けて坂の頂上まで来たサタンマルッコ。レースを見ているとここでも横田騎手が追い通しているように見えるよね。実はこれ、坂の頂上ではそれほど足を使ってないんだ。そこまで2Fを(11.7-11.7)できているのに、ここだけ1F12.4だ。つまり息を入れていたって訳だ。横田騎手渾身の追ってるフリ。

 そうとも知らず、上りの途中からスパートをかけた他馬たちはここでも力を使っていた。恐らく坂の下りである程度ペースを落とすことを織り込んでいたんだと思うけど、少し遅れてスパートをかけたサタンマルッコにスタミナの差ですり潰されてしまったね。

 そして4コーナー。先頭を走っていたスティールソード細原騎手。並びかけてくるサタンマルッコに併せて一気に加速。足りぬと見るや鞭が入ってたね。いやーあそこは痺れた。あのまま行かせると前に出られると思ったんだろうね。内に体を残して外を回らせた。

 4コーナーの途中からは殆どマッチレースみたいだった。大外に身体が振られても内の馬との速度差は歴然だったね。

 サタンマルッコがスタミナお化けだって事はもう分かってたけれど、スティールソードがここまで自在に動き回れる馬だとは思ってなかった人も多いんじゃないかな?

 最後はハナ差でサタンマルッコが勝利。正直どっちが勝ってもおかしくなかった。


 出遅れさえなければ~って意見も多いけど、出たら出たでまた違った展開でスティールソードとマッチレースになったんじゃないかなって、おうまなみは思うよ。

 個人的に今回一番株が上がったのはスティールソードかな!

 うーん、3歳世代は先月も秋初戦スプリンターズステークスをダイランドウが勝利しているし、レベルが高い!

 主な各陣営の動きとしては、サタンマルッコがJC参戦。スティールソードは年明けまで休養。ストームライダーは年末の香港カップへ照準を合わせるぞ! 今後も注目だね!




 来月の見どころ


 来月はなんといってもジャパンカップ!

 凱旋門賞を惜しくも二着に敗れたクエスフォールヴの帰国後第一戦だよ!

 下の世代の代表格サタンマルッコと激突する!

 今月末の天皇賞(秋)からもジャパンカップへの出走を予定している馬も多い。

 激熱な対戦カードが見れそうで、今から待ち遠しい!




-----




 ぶっほぶっほ。

 うーん朝のトラックは気持ちがいいぜ。砂がひんやり湿ってるのがいいね。

 どうかねジョッキーくん。君もそう思わないかね? んー?


 いやーレースも無事勝利に終わり、俺の人生も安泰かな?

 何せGⅠを二勝! しかもたぶんクラシックっぽいレースを二勝!

 いやはやもう世代の中心って感じだぜ。


 おっと慢心はいけない。そのせいで酷い目に遭ったばかりだからな。舐めた真似した所為であのザマだ。これからはレースにも身を入れていかねばな、うん。

 まったくあのちゃいろ野郎。スティールなんとかだっけか? 生意気にも俺と好勝負を演じやがって。1回マグレで俺に勝ったくらいで調子に乗られては困る。

 今度あったら徹底的に序列を叩き込んでやらねば……ん? んん?


 あいつやんけー! おいてめー何してやがんだここは俺のトラックだぞこらー!

 だいたいてめーこっちの馬じゃねーだろ! こっちで走ってるとこ見たことねーぞ!


 んだぁ? スカしやがっておらぁぁん? びびってんのかあぁぁん?


 ぬわー! 何をするジョッキーくん! まだやつとは話が…………




-----



「先程はナンカすみません。細原サン」

「お、おう。馬のことだし気にしてないんで」


 場所は変わって栗東トレーニングセンター食堂。

 おかしな日本語に微妙な顔をしながら、スティールソード主戦騎手、細原はクリスの謝罪を受け入れた。朝の軽い運動をしていたところ、栗毛の(アイツ)が思わぬ剣幕で喧嘩を売りに来たのだ。

 ライバル馬の調教助手。距離感のつかめない相手だが、態々席を外すほどの相手でもない。二人はそのまま相席した。


「いやしかし、まさか朝一からEコースを走ってるとは思わなくて」

「マルッコは坂路が嫌いなのデ、いつもダートコースを走っています」

「ああ、それであの馬の調教映像、いつもダートコースなのか」

「スゴイ顔します。いやそうな」

「変な馬ですもんね、あの馬。なんか競馬場で顔合わせるたびテツゾーに突っかかってくるし……」

「テツゾー? それはスティールソードのことですか?」

「ああはい。そうそう。テツゾーもサタンのこと見かけると意識してるみたいでね」

「馬同士でも、そういうことはあるんでしょうネ」


 実際にあれだけ露骨に絡まれれば嫌でもあるのだとわからされるが。


「なんていうか、こんなことアンタにいっても仕方ないんですけど……」


 細原は一度言葉を切ってから、言おうか言うまいかの逡巡の後


「確かジャパンカップに出るんだろ? 上の世代相手でも負けないでくれよ。俺達は春まで別路線だからな。負かされた相手が負かされたら、勝たなきゃいけない相手が増えちまう」

「言葉が難しいですけど、なんとなくわかりました。ワタシに出来る限りを尽くしマス」


 ダービー三着、菊花賞二着。立派な戦績ではあるが、華々しい戦績ではない。スティールソードが存在証明するためには、ストームライダーを、サタンマルッコを、上回らねばならない。今のままでは勝てないと考えたスティールソード陣営は雌伏の時を選んだ。

 そこで会話は途切れた。何をするでもなく二人はサーバーから汲んだカップの水を傾ける。


「そういえば、栗東(こっち)にはいつまでいるんでスカ?」


 出し抜けにクリスが訊ねた。

 スティールソードは菊花賞後、疲れを取ってから美浦へ帰る予定となっていた。そのため出会わなくていい二頭が出会い起こさなくていい問題が起きたりしたのだが、それはさておき


「親父は水曜には輸送って言ってたな。正直負けたショックでロクに聞いてなかった」


 細原は答えた。


「それは、ナンカすみません」


 言葉を教えた奴は悪意があったんだろうか。微妙な言葉選びに細原は堪らず笑った。


「いいって。勝負だろ。それに乗ってたの横田さんだし」

「それもそうですね。スティールソード、いい馬です。けどマルッコは負けませんヨ」

「ああ。次は負かしてやるから覚悟しとけよって、そうだな……あの馬にでも伝えておいて下さいよ。それじゃ」


 眩しい若さを持つ人物だった。細原の背中を見送りながら、クリスはそんな事を思った。



に、日刊ジャンルにのった!(感無量

ありがとうございます。大変励みになります。

もう2話で6F完結です

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 正直そんなに出遅れて勝てるわけないだろと読みながら思ってたんですが、不利を背負って勝った馬なんて沢山いるし、そのぐらいはありえるかとこの話を読み終わった後思い直しました すごい今更で…
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