表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/35

朝食室にて

ダヴィネス領主夫妻の、何気ない日常のひとコマです。

執事のモリス目線入ります。

お楽しみいただけますように……

「ジェラルド様、おぐしが…」


「ん?…ああ」


 執事のモリスは顔をしかめた。


 ある日のゆったりとした朝食の時。

 早めにテーブルに着いたジェラルドは、カレンを待つ間、ティーカップを片手に新聞に目を通していた。


 王都で発行された新聞は、1週間分まとめてダヴィネス城へ到着する。

 とびきり生きの良い情報という訳ではないが、王都の様子を知るには十分だ。


 新聞を読むことに集中するジェラルドは、伸びた前髪の先がティーカップに浸かりそうなことに気づかない。


 モリスは思わず声を掛けたが、ジェラルドはほぼ無視だ。

 ジェラルドの身の回りの世話を担うモリスは、主の伸びた髪が気になって仕方ない。


 今朝の身支度の折りにも、「おぐしを少し整えましょうか」と提案したが、「今はいい」とすげなく断られた。

 幼い頃から身を整えることに関しては、余程忙しい時を除けば、モリスの言うことを素直に受け入れるジェラルドだ。


 モリスははて、と考えを巡らせるが心当たりがない。


 と、カレンが侍女のニコルを伴って朝食室に現れた。

 ジェラルドはすかさず新聞を置き、いつものようにエスコートに立つ。


「お早うございます。お待たせしてごめんなさい、ジェラルド」

「いや…お早う、カレン」


 二人は軽めのキスを交わす。

 唇を離すと、微笑みながら互いに見つめ合う。

 ジェラルドはカレンの腰に両手を回し、カレンはその腕の中にすっぽりと収まっている。


 互いに忙しい二人は、1日のうち、主に朝食とディナー、夜の寝室で共に時を過ごす。

 それすら互いのスケジュールによってはままならないことも多々ある。

 ゆえに、顔を合わせれば常に互いの様子から目を離さない。


「あら?」

 カレンは顔を少し傾け、目線をジェラルドの髪へ移した。


「…ジェラルド、今気づきましたが…おぐしが伸びましたね」

 言いながら、片手でジェラルドの伸びた前髪に指を通して後ろへと流し、そのまま頭を撫でた。


「そうか…?」


「ええ。お時間があるならば、少しお手入れをされては?」


 カレンは少しクセのあるジェラルドの髪を触るのを好む。

 言葉とはうらはらに、その細い指はジェラルドのダークブロンドを愛おしそうに何度も撫でた。

 ジェラルドはと言えば、カレンのもたらす心地よい感触にうっとりと目を細めてる。


 この、一見いつもと変わらない領主夫妻の仲睦まじい光景を目にして、モリスはお茶の準備をしながら、あっと声を上げそうになった。


 我が主にも困ったものだ…


 モリスは人知れず笑みを浮かべた。


 鬼神と恐れられるダヴィネス領主も、愛しい妻からの愛撫には従順だ。


 恐らくジェラルドは、明るい朝食室で自身の伸びた髪にカレンが気づき、加えてカレンに撫でられることを予想…いや、期待していたのだ。


 しかし、それを見込んで今朝のモリスの提案を断ったのであれば、やはりジェラルドは油断ならない策士と言える。


 まあ、しかし…


 モリスは気を取り直して、ティーポットを手にした。


 このように他愛ない出来事も、二人を頂点とするダヴィネスの平安を保つ要素のひとつと思えば…


「モリス、今夜入浴の際に髪を切ってくれ」


 ジェラルドは席につくと、まるで当たり前のようにモリスに告げた。


「はっ、かしこまりました」


 モリスは笑顔で答えると、いつもの通り、カレンとジェラルドのカップに熱いお茶を注いだのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ