第5のカレンとレディ“D”(2)
「レディ、速く動く対象を確実に射ることができれば、相当“デキる”射手と言えます」
「はい」
「今日は野ウサギを射てもらいます」
「野ウサギ?!」
秋晴れの空のもと、カレンとラックは野外訓練の真っ最中だった。
ダヴィネス城から少し離れた、所々岩のある秋色の野原にいる。
いかにも野ウサギの巣がありそうなのどかな風景だ。
今日は護衛は付けず、カレンとラックの二人きりだった。
~
当然ネイサンは渋ったが、「ラックは元騎士でしょ?問題ないわ」とさっさと城を出た。
ネイサンはカレンの言葉に呆気に取られた。
過去の全てのことをカレンが知っていると察したネイサンは、自らのロングソードを鞘ごと剣帯から引き抜くと、馬に鞍を着けているラックに押し付けた。
「レディを頼みます」
押し付けられたロングソード、次いでネイサンの顔をジロリと見たラックは、黙ってロングソードをネイサンの手からぶっきらぼうに受け取った。
そしてボソリと「…言われなくとも」と呟いた。
~
「あ!」
早速茶色の太った野ウサギが目の前を横切る。
「まずは俺が仕留めます」
ラックは言うなり弓を構えると、素早く矢をつがえて放った。
野ウサギは見事に討ち取られた。
すごい!
「捕った野ウサギはどうするの?」
「…今夜のウチの晩メシに」
「だったらたくさん捕らなきゃねっ」
カレンも勇んで弓幹に矢をつがえる。
? …気のせいだろうか、今、ラックがふっと笑った気がした。
「レディ、野ウサギは急に方向転換します。先を読んで」
って、難しいことを言うわね…!
「あ、出てきましたよ!」
「! はいっ」
カレンは急いで弦を引き、狙いを定めた。
・
「ふぅ…」
カレンはグローブを着けた手で、額を拭った。
野ウサギを弓で射ることは、思いのほか難しく、カレンはコツを掴むまで難儀したが、ラックの厳しくも的確な指導のお陰で予想以上の手応えを得ることができた。
「…お見事です、レディ」
いつも通り素っ気なくはあるが、目の前に討ち取った野ウサギがズラリと並ぶ様を見て、ラックはカレンを誉めた。
「今夜のディナーに足りるかしら?」
カレンは弓幹を背負いながら冗談めかす。
「十分ですよ、というか…あれは冗談です」
ラックは野ウサギを縄で縛りながら応えた。
「え?」
「城に持って帰りますよ。兵舎の食堂にでもやります。賄いの材料くらいにはなるでしょう…おっと、雨か」
ポツリ、ポツリと雨粒が落ちてきた。
カレンの頭や顔にも雨が当たる。
「レディ、急ぎましょう」
カレンとラックが小走りで馬まで行く間にも、雨はあっという間に本降りになった。
ひとまず大きな木の下で雨宿りをすることにした。
「……」
「……」
2人は無言で佇む。
カレンはすでにずぶ濡れで、ひとつくくりにした髪の後れ毛から、ポタポタと雫が垂れる。
秋雨が野原を霞ませ、ヒヤリとした空気にカレンはぶるり、と肩を震わせた。
「…レディ、俺の家が近いんです。少し休憩してから城へ戻りませんか」
カレンの様子を見たのかそうでないのか、ふいにラックが声を掛けた。
カレンはビックリしたが、このままだと風邪を引くかもしれない。
ここは、ラックの気遣いに甘えることした。
「これ、かぶってください」
ラックは上着を脱いでカレンの頭を覆った。
雨足が少しだけ弱まった時を見計らって、2頭の馬は野原へ駆け出した。
・
野原から馬で少し離れた所に、10件ほどの似たような家の建つこじんまりとした集落がある。
先を行くラックは、集落の少し手前で下馬すると、そのまま馬を引いて歩き始めた。
カレンもそれに倣う。
あるひとつの家…石作りの壁の、よくある田舎風の家の前まで来ると、中から勢いよく扉を開けて、ひとりの女性が現れた。
「ラック、どうしたの? 城で何かあったの?ずぶ濡れだし……あら? そちらの方は?」
馬の足音を聞きつけたのだろう。ラックへと矢継ぎ早に質問する。
…妹さん?…ではなさそうね…奥様かしら…?
「ヒルダ、こちらは領主夫人だ」
「え!?」
ヒルダと呼ばれる女性は、ラックと同じくらいの年齢だろうか。シンプルな普段着のドレスに前掛けをし、ホワイトブリムを被っている。
カレンは頭にかぶったラックの上着を取った。
「突然ごめんなさい。カレン・ダヴィネスです」
「……!」
ヒルダは口をあんぐりと開けたままだ。
「…ヒルダ、雨に濡れる。中に入らせてくれ」
「あ! あら!あたしったら、すみませんっ さあどうぞ、レディ」
「レディ、何もないあばら家ですが、暖は取れます。中で待っていてください」
ラックは家には入らず取って帰ろうとする。
「え? ラックは?」
「俺はひとまず城に帰ってレディのことを報告します」
そうなの?この雨の中を?
でも…確かに私が帰城しないと皆が心配するわよね…
カレンは「わかったわ、手間を掛けます」と言うと、手に持ったラックの上着を返した。次いでラックの馬の鞍にくくりつけてある野ウサギを数羽、手早く取り外した。
「レディ?」
ラックは不思議そうな顔だ。
「…だって、“今夜の晩メシ”なんでしょ?」
カレンはラックに微笑んだ。
「…ああ、まぁ…」
「待ってラック! コレ、着て」
先ほどのヒルダと呼ばれた女性が、ラックの雨避けのマントを持ってきた。
ついでに手拭きでラックの頭を拭いている。
拭かれるラックは抵抗しない。
「じゃ、レディのこと頼んだぜ」
そう言うと、ラックは雨の中馬を走らせ、あっという間に消えた。
「…城務めは大変だ」
ヒルダは雨に消えるラックの背中を見送りながらボソリと呟いた。
「さ、レディ、確かに『あばら家』だけど、暖炉くらいはありますから、どうぞ中へ。あ、ウサギはこちらへ」
「はい、お世話になります」
カレンは野ウサギをヒルダに渡すと、年季の入った木製の扉から中へ入った。
・
…わ、いい香り…
通されたキッチン兼ダイニングは、暖炉で暖められた空間だ。
よく片付いており、その心地よい雰囲気にカレンはホッとする。
何より、ハーブの乾いたような花屋のような芳しい香りに満たされている。
と、カレンは天井を見て驚いた。
天井の剥き出しの梁には、所狭しとハーブや薬草が吊り下げられている。
香りの正体だ。
「お掛けくださいな、レディ。暖炉の側へどうぞ」
ヒルダに促されてカレンはひとつの椅子に腰掛けた。
渡された手拭きで髪を拭きながら、天井を眺める。
カレンは目を閉じて、そのまま大きく深呼吸した。
「…いい香り…」
知らず呟いていた。
「…これ、どうぞ。お口に合うかどうかわかりませんが…体が温まります」
ヒルダは目の前に湯気のたつカップを置いた。
「ありがとう。いただきます」
…!
ハーブティだ。
爽やかな香りと甘味…少しハチミツが入っていて飲みやすい。
城でも飲んだことのあるブレンドの味わいだが、こちらの方が抜群に美味しい。
「とても美味しいです」
カレンは素直な感想を述べた。
カレンの様子をじっと見ていたヒルダは、ふふっと笑みを漏らした。
…何か、変なことを言ったかしら??
カレンは不思議に思う。
「いえ、すみません。まさか領主夫人が私の淹れたお茶を飲まれるなんて…しかも美味しそうに召し上がって。なんだか嘘みたいで」
「? そうですか? でもこのお茶、本当に美味しくて…城でもこれとよく似たものを飲んだことがありますが、これはずっと味わい深いです」
カレンの言葉に、ヒルダは少し考えた後、「ああ!」と合点がいったように言った。
「それね、ジョイスが作ったものなんです。だから…」
ジョイス…?
それってもしかして…
「ラックの妹さん…?」
「はい」
そうか…確か元は城の薬房で働いていたとジェラルドから聞いた。ハーブティは、城の薬房のものと同じブレンドなのかも知れない。
「あの…」
「はい?」
「ジョイスは、今は…」
カレンは遠慮がちに聞く。
カレンの表情と遠慮がちな聞き方に、ヒルダはハッとした後、穏やかに微笑み、次いで人差し指を上に向けた。
「もっぱら2階の部屋にこもってます」
やはり、事件以降引きこもっているのだろうか……
カレンは黙ってお茶を飲んだ。
「この薬草、」
言いながら、ヒルダは天井に吊るされた薬草やハーブを見上げる。
「全部ジョイスが裏の畑で育てたものなんです。なんたって元薬師の卵ですから…」
カレンも連られて天井のハーブを眺める。
乾いたハーブは、カレンのよく知るものもあれば、初めて目にするものもある。どれもきっちりとまとめられ、枯れたものはない。行き届いた管理をしていることは一目瞭然だ。
「…………」
ん?
背後で気配を感じて、カレンは振り向いた。
2階へ通じるであろうキッチンの出入口に、ササッと人影が見えた気がした。
「?」
カレンはヒルダと目が合う。
ヒルダはやれやれ…といった様子で、「ジョイス、気になるんなら出ておいで」と言った。
少し経ってから、壁際から一人の女性がソロリ…と現れた。
ヒルダと同様にホワイトブリムを被り、前掛けをしている。
その整った顔立ちは、驚くほどラックにソックリだ。
「ジョイス、出てきたならレディにご挨拶を」
ヒルダに言われ、ジョイスは恥ずかしそうにカレンに向き合った。
「…あの、ラックの妹のジョイスです…兄が、お世話になっておりまして…」
終始うつむきがちでたどたどしくはあるが、ジョイスはハッキリとカレンに挨拶を述べた。
「初めまして。カレン・ダヴィネスです。こちらこそ、ラックにはお世話になっています」
…話に聞いたとおり、ジョイスはとてもキレイな女性だ。
ラックと同じアッシュブロンドの腰まである長い髪に、今はうつむきがちの濃いブルーの瞳、涼やかな顔立ち…カレンより年上だろうが、少し儚げな印象を受ける。
カレンがあまりにもジョイスをまじまじと見つめたせいか、ジョイスは頬を染め、居心地が悪そうにソワソワとした。
カレンはハッとする。
「あ、ごめんなさい。とてもお美しくて…というか、ラックによく似てらして…」
カレンの言葉に、ヒルダとジョイスは顔を見合わせた後、クスクスと笑い出した。
ジョイスは「双子ですから」と言いながら、口許を手で覆った。
微笑むジョイスは、ジェラルドから聞いた「心を病んでいる」とはとても思えない。
しかし心の病はおいそれとは治らないことは、カレンもよくわかっている。
それにしても…
「“ラックとジョイス”…素敵なお名前のお二人なのですね」
幸運と喜び…二人の幸せを願うような名前だ。
「確かにそうですが…実際は…名前負けしています」
ジョイスは、寂しそうに笑った。
その後、3人は同じテーブルに着いた。
ヒルダとジョイスは最初、領主夫人と同じテーブルに着くことに抵抗があったようだが、カレンが是非にと請い、思いがけず会話は弾んだ。
話す中でわかったことは、ヒルダは意外にもラックの妻ではなく、幼馴染みからの流れでラックと外出のままならないジョイスの日常の世話をしているということ。ラックとジョイスの弟は城の庭師の元で修行中で、妹は城塞街の商家に奉公に上がっているとのことだ。
ヒルダの生業はお針子で、城塞街のドレスメーカーの下請けをしており、なんとカレンのウエディングドレスの縫製も手伝ったという。
一方ジョイスは、最初こそ少しぎこちなかったが、カレンの気さくな物言いに安心したのか、段々と会話が弾みだした。
特に薬草やハーブの話になると、少し早口で楽しそうに話し、それにはカレンも驚いた。
「レディは…薬草にご興味がおありですか?」
香しいハーブティのお代わりをカップに注ぎながら、ジョイスがカレンに尋ねた。
「はい。薬房とのやり取りに役立ちますし、いざという時のために知識として必要だと思っています。辺境はいつ何が起こるかわかりませんから。…でもそれ以前に薬草やハーブのことを知るのは楽しいですし、好きです」
カレンの言葉に、ジョイスはぱぁっと花のような笑顔になった。
「あの…薬房は…今はどんな様子なのでしょう?」
ジョイスは少し遠慮がちに聞いた。
元職場のことだ。やむを得ず職を辞することになったにしろ気になるだろう。
「変わらず、薬師長と数名の薬師達が忙しく働いています。新しい飲み薬や軟膏の開発にも熱心で。私もいつも助けられています」
ジョイスは、そうですか…と静かに言った。
「ねえジョイス、レディに二階をお見せしたら…?」
「え…?」
カレンとジョイスの様子を見ていたヒルダが提案してきた。
ジョイスは少し考えた後、「レディ、あの、良かったらどうぞ」と、2階へとカレンを案内した。
ヒルダは「私はウサギのシチューを作るから」と、カレンとジョイスを二人きりにした。
「頭にお気をつけてください」
キッチンを出た場所にある、梁の飛び出した狭い階段を上ると、両脇に二つの部屋への扉があった。
「そちらはラックの部屋です。こちらは…」
言いながらジョイスが扉を開けた部屋は…まさに“薬房”そのものだった。
細かく仕切られた棚には所狭しと薬草の入った瓶や缶が並び、作業机には秤やすり鉢が置いてある。
ジョイスは戸棚から、ひとつの薬缶を手に取った。
「実は…あのことがあって、城の薬房を辞してしばらく後、薬師長自らがここへお越しになられました」
「まあ…!」
ジョイスは頷く。
「はい。その頃の私は廃人のように臥せったまま、何にも気力はなく…ただただ世を儚んでおりました」
それは…察して余りある。耐え難い出来事だったのだ。
「ありがたいことに、薬師長は私の調剤の腕を買ってくださっていて、薬房への復帰が難しいなら、いつからでもいいから、とここでの調剤の研究を勧めてくださいました」
カレンは黙って話を聞く。
「ダヴィネス城での薬師の道は閉ざされましたが、私にはこの手があり、知識もある。何より薬草やハーブに触れている時が最も心休まります。なので、少しずつですが、ここで調剤の研究をはじめました」
ジョイスは話しながら、いくつかの薬缶から匙で薬草をすくうと、油紙へと移す。
「薬房から依頼があったり、独自で調べた結果や新しい処方を薬房へ知らせたり…」
「薬房とのやり取りはラックが?」
「はい」
ジョイスは油紙ごと秤にかけ、慎重に計測する。
「今となっては、ラックが第5部隊に残ってくれて良かったと思っています…庭師に弟子入りした弟もそうですが、やはり私達はダヴィネス城ありきの生活なのです…あのことがあってから、逃れられない身の上を呪いましたが、今は…ありがたいことだと思っています。…領主夫人ともお話できましたし」
ジョイスは美しい微笑みをカレンに向けた。
カレンは、その微笑みを眩しく見つめる。
「先ほどは、私達の名前のことで…名前負けなんて申しましたが、でも私は穏やかで心安らぐ生活を送っております。…それもラックやヒルダのお陰ではありますが…」
・
雨が上がり、ダヴィネス城からカレンの迎えの馬車が来た。
ジョイスは事件以降、騎士や兵士の制服を怖がるので、護衛のネイサンはかなり後方で待っていた。
カレンは、ヒルダとジョイス、戻って来たラックに見送られる形だ。
「またお越しくださいな、レディ…今度はぜひウサギのシチューを召し上がってください」
「ふふ、そうね! ありがとうヒルダ」
「…あの、レディ、これを」
ジョイスは油紙と麻紐で縛った包みをカレンに差し出した。
「レディが召し上がったハーブティです。お好みでハチミツを少し加えてください」
「まあ…ジョイス…楽しい時間をありがとう。…ラック、また城で会いましょう」
「はっ」
ラックはいつもの落ち着いた表情でカレンに返した。
カレンは3人に微笑むと馬車に乗り込んだ。
・
カレンは、透明なティーポッドにふわふわと浮かぶハーブを、ぼーっと眺めていた。
薄いガラスはまだまだ希少品だが、隣国の姉が置き土産で残してくれたものを愛用している。
細長かったハーブが、お湯に煽られて本来の葉の形を取り、同時に少しだけ黄緑の水色となる。
そっと…しておく方がいいのよね…。
カレンはジョイスがブレンドしてくれたハーブティを前に、作り手のジョイスのことを考える。
ティーポッドを見据えて物思いに耽る主を前に、侍女のニコルもハーブティをカップへ注いだらいいものかどうか思案する。
と、居間の扉が静かに開く気配に、ニコルがハッとした。
カレンは気づかない。
扉からそっと現れたのは…執務の合間にカレンの顔を見に来た、ジェラルドだった。
ジェラルドは微動だにせずティーポッドを見つめるカレンを見て、次いでニコルへ目を移す。
ニコルは眉を下げ「どうしたものか」とでも言う風にジェラルドへ目配せした。
ジェラルドは頷くと、気配を消してカレンに近づき、ソファのカレンの隣へ静かに座った。
「……」
「……」
「…………!? ジェラルド?」
ジェラルドが座ってから数秒後に、カレンはやっとジェラルドに気づいた。
「やあ。そんなに真剣に、何を考えていたんだ?」
ジェラルドは微笑みながらカレンの額へキスを落とした。
ジェラルドの言葉を皮切りに、ニコルはようやくティーポッドから2つのカップへお茶を注いだ。
「…」
「ん?」
「…ラックと…ジョイスのことを、考えていました」
昨日、カレンがラックの家で雨宿りしたことは、ジェラルドも知るところだった。
そして、そこでジョイスと会ったことも。
「ジョイスは、それなりに穏やかに暮らしていましたが…」
ジェラルドは頷く。
「彼等の暮らしぶりのことは、たまにザックがラックから聞いている…何か困ったことがあれば、支援は惜しまない。しかしラックはあの通りの男だ。我らを頼ることはしないだろうな…」
ジェラルドはカップのハーブティを飲んだ。
カレンもハチミツを垂らしたハーブティを飲む。
「…これ、ジョイスがブレンドしたお茶です。美味しいですよね」
「そうだな、気分が落ち着く」
「…ジェラルド、私」
「何か力になりたい?」
まるでカレンの心うちを見透かすように、ジェラルドの深緑の瞳がカレンの薄碧の瞳を覗く。
「…はい。でも、彼等の暮らしが穏やかならば、今のままの方が…下手な手出しはしない方がいいかなと思ったり…」
「あなたにしては消極的だな」
カレンはため息をつく。
「彼等にしてみれば、私は新参者です。信用を得られるとは、とても思えなくて…」
カレンの言葉に、ジェラルドは「そうかな」と言うと、ティーカップをソーサーに戻した。
「あなたがラックの家で雨宿りをしたと聞いた時は、正直驚いた」
「え?」
「あの警戒心の強いラックが…あなたには警戒を解いた。だから家にも…妹にも会わせたと私は思っている。十分、信用に値すると言える」
ジェラルドは魅力的な笑みをカレンに向けた。
「……」
そうなのだろうか…
カレンは甚だ疑問だ。
「“新参者”だから…軍のしがらみのないあなただから、とは思えない?」
「そうでしょうか…?」
ジェラルドは、カレンの頬を片手で優しく包む。
「どこまでもあなたらしく、彼等に接したらいい」
カレンは頬にあるジェラルドの大きな手を両手で包んだ。
「…はい…!」
ジェラルドに背中を押され、カレンは準備を始めた。
明日も続きます。
お楽しみいただけますように……




