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それからほどなくして2人は新居に移った。


しばらくは、ラウルは毎日ブラウン家の屋敷に細々した仕事をしに行くことになったが、そのうち向こうの家に通わなくて済むように、重要ではない仕事はこの家で出来るように少しずつ機能をこの新居に移すつもりらしい。いずれアンドレイが家督を嗣ぐことになることはアンドレイ本人含め、内々に合意したものの、それまではラウルも最低限の執務は手伝うことを条件に出されたからである。


エラはブラウン家の屋敷を出ると、やっと楽に息ができるようになった自分に気づいた。ずっと息を潜めて無理をしていたのだ。そうしてエラに少しずつ自然な笑顔が増え、そんな彼女を眺めてラウルは愛しくてたまらない、という顔をする。


ラウルは毎日一輪ずつ花をプレゼントし続けてくれている。色とりどりの花が花瓶を飾り、それを眺めるのはエラにとって心落ち着く大好きな時間だ。


あれからいくつかの社交の場には夫婦揃って顔を出し、いつでも夫がエラから離れずに彼女だけを愛しげに見つめる様子に、いつしか街の人々はブラウン家長男夫妻が不仲であったことを本気で忘れている。


ルーリアは街から消えた。


慈善事業のパーティで街の人々に後ろ指をさされて彼女が立ち去ったあの日以来、エラもラウルも彼女には会っていない。噂で聞いた話だが、彼女はやはりジェームズの代わりとして付き合っていた富豪には既に捨てられていて、普段の贅沢な生活ぶりのせいで、どうやら元老将軍の財産も食いつぶしていたようだ。あてにしていたであろうブラウン家の財産も取りそこねて、違う街で心機一転ーーまた男を騙すのだろうか。おそらく、だがあの生き方ではそんなに長生きは出来ないだろう、とエラは思う。






太陽の光が差し込んできて、エラは目を覚ました。

後ろからラウルの重い腕がエラの腰に絡みついていて、彼女は身動きがとれなくて思わず苦笑した。2人の左手の薬指には今日もお揃いの銀の指輪が嵌っている。


この家に引っ越してきてしばらくして2人は夫婦として真の意味で結ばれた。


ラウルが悲壮な面持ちで、自分は初めてだからうまく出来ないかも知れないのでリードをしてくれないか、と言うのでエラはびっくりして彼の顔を見つめてしまった。こんなに美しい男がずっと一人でいただなんて彼女には俄には信じられなかったのである。しかしすぐに彼女の心は喜びで花咲いた。


彼が自分のことを幼い頃から好きでいてくれたというのは本当だったのだ、ということを実感したから。


彼女は彼にそっと抱きついて、自分とジェームズの間には何もなかったことを告白した。ジェームズの日記にエラのことを抱く気にはなれない、とは散々書かれていたのだが、実際の夜の関係については何一つ明確に書かれていなくて、ジェームズの女癖の悪さを知っていたラウルは当然2人は少なくとも初夜は迎えたものだと思っていたらしい。まさか白い結婚だとは思ってもいなかったのだろう、その時彼女を抱きしめてくれていた彼の腕が歓喜に震えた。


その夜の記憶は2人の永遠の宝物となった。





エラは至極穏やかな気持ちで瞳を閉じた。まだ朝早いからもう少しだけ彼の腕の中で微睡んでいたい。


今日はラウルは仕事を休むつもりにしていて、2人であの孤児院に視察に行き、それから薔薇園にも足を伸ばすつもりだ。ラウルは子供がとても好きで、いつかエラは彼の子供を産むことが出来たらどれだけ幸せだろうと思っている。



彼女は自分で選んで檻の中に入ることを決めたがーーこれだけ甘美な檻であれば一生ここから出るつもりはない。






<とまどいの花嫁は、夫から逃げられない 終わり>


読んでくださってありがとうございました!

評価・ブクマ・誤字報告、頂きまして心から感謝しています


ここで本編は完結となります。


エラとラウルの、なろうさん限定の番外編を

今夜21時から順次更新致します

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