第9話 宮廷の視線
午後の宮廷は、陽光が柔らかく差し込み、静かなざわめきが響いていた。
アメリアはリュシアンとともに廊下を歩いていると、遠くから小さな声が聞こえてきた。
「殿下、アメリアにだけ優しい……普段の冷徹さが信じられない」
「そうなのよね……他の方には冷たいのに」
「本当に特別扱いされてる……羨ましいわ」
アメリアは足を止め、言葉を胸に抱きしめる。
(私だけ……特別なの……?)
胸の奥で小さな鼓動が早まり、嬉しさと戸惑いが入り混じる。
庭園に出ると、他の貴族が遠くから二人を見つめ、小声で噂を交わしている。
「殿下の笑み……あれはアメリアだけのもの」
「公女様、さすがに特別扱いされるわけね」
アメリアは顔を赤くし、少し戸惑いながらも心が温かくなるのを感じた。
(やっぱり……私だけ、リュシアン様に甘やかされてる……)
リュシアンはその様子を察し、さりげなくアメリアの手を握る。
「噂は気にするな、アメリア。君だけが知ればいい」
その手の温もりに、アメリアの胸はさらに高鳴る。
しばらく歩くと、庭園の静かな一角に辿り着いた。
二人きりになると、リュシアンはアメリアの腕を軽く抱き、微笑む。
「誰も君を私の側から引き離すことはできない。アメリアは、私のものだ」
その言葉に、アメリアの心は甘く揺れた。
噂を通して知った特別扱いの事実に戸惑いながらも、
今はただ、リュシアンの優しさに包まれて幸福を感じる。
まだ知らない――リュシアンが普段どれほど冷徹で、誰にも心を許さないかを。
今は甘く、優しい午後の時間に身を委ねるしかなかった。




