第7話 宮廷の視線と特別な存在
春の柔らかな光が差し込む午後、アメリアは宮廷の大広間で用意された訪問者との謁見に臨んでいた。
今日の装いは薄いピーチ色のロングドレス。
胸元には細やかなゴールドの刺繍が施され、袖はふんわりと膨らんで優雅さを強調している。
髪は後ろで大きく結い上げ、淡いリボンでまとめられた。その金糸のような髪は光を受けて柔らかく輝いた。
足元は控えめな白い靴、手首には小さな真珠のブレスレットを一つだけ。
「公女様、本日も麗しい」
侍女が小声で囁く。
アメリアは微笑みながらも、少し緊張していた。
(リュシアン様は今日も側に……でも、皆に見られると恥ずかしい……)
黒い影が広間の入口に現れる。リュシアンだ。
「君が不安なら、私が隣にいる」
その一言で、アメリアの肩の力がすっと抜ける。
周囲の貴族や家臣たちは、普段冷たいと噂の皇太子がここまで甘く微笑む様子に息を呑む。
「リュシアン様……」
アメリアの声は小さく震える。
リュシアンは静かに彼女の手を取り、軽く握る。
「君が特別だからだ。誰も君に近づかせない」
その言葉に、アメリアの胸は高鳴る。
彼の甘い瞳と温かい手に包まれ、周囲のざわめきさえ遠く感じられた。
宮廷の人々は噂する――
「皇太子殿下は、公女様にだけ特別に優しい」
「他の貴族には決して見せない笑み……」
アメリアはその事実にまだ気づかない。
ただ、隣にいる彼の温かさに安心し、微笑みを返す。
そして心の奥で、今日もまた思う――
(リュシアン様は、私だけを見てくれている……)
謁見が終わると、リュシアンは廊下でアメリアの腕を軽く抱き、静かに宮殿内を歩く。
「君が疲れないように」と、無理に動かすこともないよう細やかに距離を調整する彼の姿に、侍女たちはまた驚いた。
その夜、アメリアは寝室で小さな日記を開き、今日の出来事を書き留める。
庭園での散歩、廊下での腕の温もり、広間での視線――
すべてが優しく、甘く、そして特別なものとして心に刻まれていた。
まだ知らない、彼の冷徹さも、独占の深さも。
ただ、今は――甘く優しい日々の中で、誰にも触れられない幸福を感じるだけだった。




