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冷徹皇太子の唯一の公女  作者: はるさんた


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第23話 嫉妬と独占――離れたいのに離れられない


仕事場での出来事から少し経った夕方。

アメリアはまだ少し頬を膨らませていた。


「……殿下、あんなふうに人前で抱き寄せるなんて。恥ずかしかったです」

椅子に腰を下ろしながら、リュシアンから少し距離を取る。

紅茶の香りが漂うが、彼女の表情はまだ拗ねたままだ。


リュシアンは机の上に腕を置き、静かにアメリアを見つめた。

その青い瞳の奥には、深く熱い想いが宿っている。

「……俺は、ただ……君を見せつけたかったんだ」

「見せつける必要なんて、ありません!」

アメリアは振り返り、少し声を上げる。

「私が殿下の婚約者だって、誰もが知っています。それなのに――」


「それでも足りない」

リュシアンの声は低く、鋭く響いた。

「彼らはまだ、君の魅力を知らない。俺以外が……君を見て心を奪われるかもしれない」


「そんな……私、そんなに自信なんて……」

アメリアは視線を落とした。けれど、その頬が少し赤く染まっていく。

リュシアンはゆっくり立ち上がり、アメリアの椅子の背後に立つと、両肩にそっと手を置いた。

「……アメリア、君が他の誰かに笑いかけるのを見ると……胸がざわつくんだ」


「殿下……?」

その囁きにアメリアの心臓が跳ねた。

リュシアンは彼女の肩越しに顔を寄せ、耳元に唇が触れる距離で静かに続ける。

「俺は皇太子として冷静でいなければならない。でも君のことになると、理性なんて簡単に壊れる」


アメリアは思わず立ち上がり、距離を取ろうとした。

けれど、背後からリュシアンの腕が回り、腰をそっと抱き寄せられる。

「……殿下、やめてください……誰か来てしまいます……!」

「誰も来ないようにしてある」

「そんなことまで……!」

アメリアの頬はますます熱を帯び、言葉が途切れた。


リュシアンはそのまま彼女の肩に顔を埋め、低く囁く。

「アメリア……君が俺のそばから離れていくかと思うと、息が苦しくなる」

「そんな、離れるなんて言ってません……」

「それでも……怖いんだ。君が、俺を見てくれなくなる日が来るんじゃないかと」


リュシアンの声には、普段見せない弱さが混ざっていた。

アメリアは胸が締めつけられ、彼の腕を掴む。

「……殿下は、本当に……私のことをそんなに……」

「そんなに、なんて言葉じゃ足りない」


リュシアンはアメリアの顔を覗き込み、真っ直ぐに見つめる。

「俺の心も時間も、全部君で埋まってる。もう、手放せない」

「……殿下……」

その瞳の真剣さに、アメリアの怒りはすっと消えていく。


リュシアンは静かに彼女の頬を包み、額を合わせた。

「まだ怒ってる?」

「……まだ、少し」

「じゃあ……こうすれば、許してくれるか?」


唇が触れる。

最初は軽く、確かめるようなキス。けれど、アメリアが逃げずに目を閉じたのを確認すると、リュシアンは少し深く、甘く唇を重ねた。

手のひらがアメリアの背を滑り、彼女の指先が無意識に彼の服を掴む。


「殿下……もう、怒れなくなってしまいます……」

「それでいい。君が笑ってくれるなら、それでいい」


二人の間を包むのは、淡い夕暮れの光と静かな息づかいだけ。

アメリアは小さくため息をつき、胸の奥に溶けていくようなぬくもりを感じていた。

(もう……この人には敵わない)


彼の抱擁の中で、アメリアはそっと目を閉じた。

冷徹だと噂される皇太子の腕の中は、驚くほど温かかった。


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